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『大列車作戦』 The Train (1964)

大列車作戦 [DVD]

作品メモ

『恋人たち』『鬼火』とルイ・マル監督作を続けてきましたが、どちらにも登場していたのがジャンヌ・モロー。
『大列車作戦』は『鬼火』の翌年の作品です。
この時期ヌーヴェル・ヴァーグだけでなくこういったアメリカ製の戦争映画にも登場していたわけで、出演作は多数。フランスを代表する女優さんとして大車輪の活躍ですね。

この映画は、ドイツ軍がパリ解放間際のフランスから名画を持ち出そうとするのを阻止する鉄道員たちの話で、いくつか前にチェックした『鉄路の闘い』と時代もテーマも近いものがあります。

フランスの鉄道員たちの命を賭した闘いに敬意を表しつつ、『鉄路の闘い』と比べれば骨太アクション映画として娯楽度数もぐっとアップ。
美術品なので列車の爆破はできないという制約のもと、いかに同乗するドイツ軍をだますかというコンゲームの要素も織り交ぜながら、ハラハラどきどきの展開。
さらには、名画は大勢の命と引換にしてまで守る価値はあるのかというディープなテーマまでもしっかりと描かれ、見応えのある一本となっています。

キャスト&スタッフ

フランス国有鉄道の操車係長ラビッシュ(Labiche)にバート・ランカスター。
機関車に飛び乗る場面や修理する場面など、ワンカットで見せて本人であることを強くアピールしています。

対するフォン・ヴァルトハイム大佐(Von Waldheim)にポール・スコフィールド。西部戦線を支援することより、絵画を持ち帰ることに血道をあげるという屈折したアート至上のドイツ軍人を、イギリスの俳優が好演しています。

レジスタンスと占領軍というだけでなく、美術品に対する立ち位置も交錯している2人のキャラですが、その対立をアメリカ人の監督が戦争アクション映画として描くという、映画作りの構造も興味深いものがあります。

フランスの俳優さんも、前述ジャンヌ・モローの他いろいろ登場しますが、特に印象に残るのは、やはりパパ・ブル(Papa Boule)役のミッシェル・シモン。この俳優さんはホントに周囲を食っちゃいますね。

Rose Valland - Le Front De L'art 他にジュ・ド・ポーム美術館のビラー(Mlle Villard)にシュザンヌ・フロン。
役名も近いことですし、実際に同美術館でナチスドイツから絵画を守り、原作(映画のヒントとなるノンフィクション)を書いたローズ・ヴァラン(Rose Valland)Wがモデルでしょうか。
来月(15年11月)公開予定の『ミケランジェロ・プロジェクト』ではケイト・ブランシェットが、同じくローズ・ヴァランをモデルにした人物を演じているようですね。

基本アメリカ映画ということで、フランス人もドイツ人も英語をしゃべります。
ドイツ軍将校がドイツ兵になりすましたフランス人レジスタンスに話しかける場面などは、言葉は英語ですが、見ている方はドイツ軍将校がドイツ語で話しかけ、それを相手が理解できないというサスペンスを脳内変換して見守ることになります。
けっこうアクロバティックなやりとりですが、流れと編集から状況は理解できてしまうのが映画の不思議。

監督ジョン・フランケンハイマー、撮影ジャン・トゥルニエ、音楽モーリス・ジャール。
原題は”The Train”。
『離愁』(73)の英題と同じですが、蒸気機関車が出ずっぱりで、もう1人の主役と言えるかもしれません。

オマージュ?

1:12頃、爆走する列車が通過する際に扉(踏み切り)を閉め、間際で見守る女性が写りますが、『鉄路の闘い』でも似たような場面がありました。意識しているような……

また狂言で縛られる駅長さんも『鉄路の闘い』でもありましたが、体型も似ているような(汗)。
こちらの方はこういった映画のお約束かもしれませんが……

少しネタばれにつき折りたたんでいます。クリックで開閉します。
駅長さんは結局残念なことになりますが、そうした理由が監督コメンタリーでは「撮影が長引いて他の撮影とぶつかったから」と言っちゃっています。でもお話の流れとしてはこれが自然でしたね。

メイキング動画

由来はわかりませんが、YouTubeにメイキング動画が2本アップされていて、参考になりました。

その1↓

 

その2↓

 

ロケ地

IMDbでは、これだけ。

Acquigny, Calvados, France
Saint-Ouen, Seine-Saint-Denis, France
Vaires, Seine-et-Marne, France

フランス語版Wikipediaに詳細が記されていましたので助かりました。
また上掲動画の他、DVDにはフランケンハイマー監督によるコメンタリーがついていて、参考になりました。
あとは例によって、ウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

美術館

1944年8月2日とテロップが出ます。パリ解放は8月25日……と未来人ならこの先の出来事が読めるのですが、きっと当時の人たちもその日が間近であることを感じていた頃かと思います。

標識は«MUSEE DU JEU DE PAUME(ジュ・ド・ポーム美術館)»。
中はセットでしょうけど、フォン・ヴァルトハイム大佐がやってくる場面はホンモノの同美術館前。

絵画を積もうとしたところ

続いて大佐がやってきて、荷物が積まれていないことに気づいたのはパリ13区にあったこちらの駅。

Gare de la Glacière-GentillyW

駅はすでに無くなっていますが(跨線橋の西側は1990年、東側は2005年にそれぞれ解体)、Google Earthの時間スライダーで、昔の様子を見ることができます。
周辺の建物は今でも確認できるものがあります。

跨線橋もロケ地マップに描いておきました。

ドイツ軍司令部

0:09から。
これは監督のコメンタリーによるとセットとのこと。
とても良くできていますし、自在に動くカメラも見事でした。

レジスタンスの会合

0:13
ラビッシュが線路を横切りながら画面左手に歩いて行く場面。
最後は運河のようなところに停泊している船に乗ります。
ドイツ軍がうようよいる中で、大胆な会合場所です。

上掲メイキング動画その2で、40秒頃から別のアングルからの映像がありました。 機関車から降りて歩き始めるというテイクのようです。
こういう撮影風景、楽しいですね 🙂

撮影場所ですが、上掲メイキング動画その1で30秒頃にサクレ・クール寺院からズームアウトするショットがあり、寺院の見え方で場所が推定できました。
フランス語版Wikipediaのロケ地の羅列の中で«Saint-Ouen – Les docks»とあるのがこちらを指しているものと思われます。運河ではなくドックのようですね。

ズームアウトが終ったときに右手に見えている建物は、おそらくこちら↓を反対側からみたところ。

昔の空撮画像[1]https://rhcf.revues.org/584 > Figure 7. Les docks de Saint-Ouen (1926).で線路の構成などと照合すると、この建物は現存する位置とどんぴしゃりです。
大佐の背後に見えるM状の屋根の建物(横向きの屋根が南側に付いている)も現存するものに似て見えます。

ここで正解だとすると、カメラはほぼ南向きで、

ドックは現在は埋め立てられて施設が建っています。
最後に掲載したロケ地マップに、水際や船、ラビッシュの歩いたコースを描いておきました。もちろんすべて推定ですからご参考程度にとどめてください。

西部戦線へ向う列車

0:24
先に出発した軍用列車の様子。
俯瞰ショットの場所が気になりましたので、判明したら追記していきます。

美術品を積んで

0:26
ようやく美術品を積んで出発。
場所は前述のGare de la Glacière-GentillyW
カメラ位置は東に移動していて、前日頭上にあった跨線橋はだいぶ後ろの方へ下がっています。

列車を動かした時の背景

この画像は1985年のものとのことです。

VAIRES(ベア操車場)

大がかりな空爆シーンと、その間を爆走する機関車が見どころ。
初めに大きく«VAIRES»と見せますが、実際のVaires操車場はこちら。

ところが空爆シーンはGargenvilleの操車場で同じ施設をセットで作り撮影されたようです。

フランス当局は、線路を爆破して作り替えたいが資金がないというので、代わりに爆破してあげることにしたんだ

との監督コメンタリーですが、再開発に乗じての撮影ということで、なんだか『レマゲン鉄橋』の市街戦みたいですね。
特撮のリー・ザビッツ(Lee Zavitz)のもと50人以上が6週間かけて準備したのに、爆発シーンは1分たらず。

肝心の撮影場所ですが、Gargenvilleの操車場が具体的にどこだか特定できませんでした。

GargenvilleW

映像のヒントとしては、0:36頃の俯瞰が全体が把握できます。
右手に«VAIRES»と書かれた車庫。
その奥に3つの屋根の車庫。
その間に、ラビッシュがいた高い監視所。
日差しから見て、線路は東西に走り、カメラは東向き。
遠くに大きな煙突が見えます。

場所は引き続き調査中。

ただ操作場内の施設を照合するとホンモノのVaires操車場でも撮影されているように見えます。
編集で組み合わせているのかもしれません。
また爆破場面の一部では模型も使われているように見えます。

RIVE-REINE(リヴレーン)駅

0:37
やってきた駅はRIVE-REINE(リヴレーン)とありますが、架空の駅名。

監督コメンタリーで「廃線になったノルマンディーの線路だ」と言っています。
具体的には、Ligne de Saint-Georges-Motel à Grand-QuevillyWのGare d’Acquigny。

ウェブマップで見ると、すでに線路は撤去されているようですが、駅舎はそのまま残っていました。

     

上のストリートビューを振り返ると、クリスティーヌ(ジャンヌ・モロー)のホテル(という設定の建物)が映画そのままに建っています。
これを見つけたときは、涙がちょちょぎれました。  

スピットファイアの攻撃

0:48の空撮はここ。

«RIVE-REINE»駅から直線で20数km北西のところ。

カーブしている左側の橋も(道路ではなく)線路で、映画でも写されたようにその先(北側)のトンネル手前で合流し、トンネル内は併走します。

こちらはおそらくそのトンネルの画像で、しかも列車が逃げ込んだ側(南西側)のように見えます。
このあたりのトンネルは皆似たような施工でしょうから断言はできませんが。

左側の線路はすでに撤去されていますね。

出口を内部から写したショットで、左手奥に見える家はこちら。

なので出口がこのトンネルの北東側であることは確か。
ただその直後の、トンネル出口から機関車が顔を覗かせているショットは、日差しを考えるともしかすると入口側かもしれません。

ホテル

0:52
前述の通り、設定では«RIVE-REINE»駅、リアルでは«Acquigny»駅だった駅舎の側に今でもそのまま建っています。

その後のレジスタンスたちの活動も、駅の周辺。

途中の駅

途中の駅はこういったところ。
偽装にしろ偽装元にしろ、実際にその駅で撮影しているわけではないと思いますが、参考までにロケ地マップにマークしておきました。
あらためてマップで見ると、マークが東西に長く延びていて、長い距離を走り抜けた(という設定である)ことがわかります。

()内は字幕ママ。

  • MONTMIRAIL(モンミレール)
  • CHALONS/S-MARNE (シャロン)
  • MENEHOULD
  • VERDUN
  • METZ (メス)

この先国境近くのサンタボールへ向うはずですが、その前に進路をこっそり変更。右回りで戻っていきいます。
ぐるりと回っていくイメージを、ポイント切替やカーブで巧みに表現。

  • REMILLY(レミリー) 偽装が剥がれると PONT A MOUSSON ポン・ア・ムソン
  • St.AVOLD(サンタボール) 実際にはCOMMERCY(コマシー)を偽装
  • Zweibrücken(ツヴァイブリュッケン) ここからドイツに入ったという設定 実際にはVITRY(ヴィーシリ Vitry le François)を偽装

このZweibrücken駅に見せかけたVITRY駅は、実際にはProvins駅で撮影されています(ややこしい……)

Gare de ProvinsW

逃げた橋

1:21

機関車から降りて走ったところ。
まったくの推測ですが、地形から見るとたとえばこういったあたりが候補。
«RIVE-REINE»から3kmほど南で、すでに線路は撤去されています。

この場面で足を撃たれますが、実際にバート・ランカスターがオフの日にゴルフで膝を痛めてしまったため、こういう描写を入れたとのこと。
必死の形相で走っていますが、撃たれるまではちゃんと走らなくてはならないので、ホントに必死だったのかもしれません。

鉄橋

その直後、機関車と貨車が分離しながら通過する鉄橋は、その北側のこちらのように思えます。

わずか2km先には«RIVE-REINE»駅があります。

突っ込む機関車

1:22
サボタージュによって線路をふさいだ機関車へ、機関車、貨車、機関車が次々突っ込んでくる凄まじい場面。
«RIVE-REINE»駅(リアルではAcquigny駅)の北側。
以下の画像はWikimedia Commonにアップされていたもので、1986年11月撮影の貴重なものです。

機関車が脱線して斜めになっていたのはこの踏切の少し駅寄り。
右手奥に駅が見えます。

そこへ絵画を運んでいた機関車(単体)が突っ込んできて2両とも踏切までずれてきます。
(上掲動画その2の4分30秒頃)

南西側から踏切を見たところ。

怒れる大佐を乗せてサイドカーが突っ走ったのは、こういったアングル。

ペンキ

ロンドンの指示を伝えに再登場した背広姿の偉い人。
監督のオーディオコメンタリー曰く、

この人物はプロデューサーに似ていると思う 時折様子を見に来る

ここで若者が屋根から落ちる場面がありますが、うまく演技できなかったのでバート・ランカスターがスタントを演じたとのこと。
時折様子を見に来るプロデューサーが聞いたら失神しかねないことをやっています。

ラスト

地形から見ると、おそらくこのあたり。«RIVE-REINE»駅の南、3-4kmです。

ロケ地マップ

 

資料

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更新履歴

  • 2018/03/11 タグ「ジャンヌ・モロー」追加
  • 2015/10/18 新規アップ

References

References
1 https://rhcf.revues.org/584 > Figure 7. Les docks de Saint-Ouen (1926).

コメント

  1. たかマックィーン より:

    居ながら様、この映画は、ロケルポするのが本当にたいへんだったと思いますが、詳しく解説してくださり、素晴らしいと思います。
    大好きな映画なので、私も、読ませていただき、涙がちょちょ切れました(笑)
    ありがとうございました☺

  2. 居ながらシネマ より:

    たかマックィーンさん、映画と現在とでだいぶ様子が変わっているので大変でしたが、こういう映画の方がやりがいがありとても楽しいです。
    «RIVE-REINE»駅(Acquigny駅)はWikimedia Commonsに1986年の画像(まだ線路がある頃)がいくつかアップされていて、きっと撮影したのは熱心なファンの方だったのでは、と思うと余計うれしくなりました。

    https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Gare_d%27Acquigny

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