記事内の商品画像には広告リンクが含まれています

『ライアンの娘』 Ryan’s Daughter (1970)

ライアンの娘 特別版 (2枚組) [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [DVD]

作品メモ

ジャンヌ・モローものを続けてきましたが、ちょっと寄り道。
最近『プリンセス・ブライド・ストーリー』の崖の画像を提供いただき記事を更新させていただきましたが、それがちょうど『ライアンの娘』のOPのアングルだったので、こちらもチェックしてみます。

イースター蜂起(1916年)直後のアイルランドの小さな村を舞台に、不倫を巡る人間模様を描いたデヴィッド・リーン監督作。
拙サイトですでにとりあげ済みの『アラビアのロレンス』(62)『ドクトル・ジバゴ』(65)に続く作品で、この後間をおいて『インドへの道』(84)が遺作となります。

お話の骨格は、夫に不満を抱いた妻がよろめいちゃうという、それ以上でも以下でもないものに思えますが、それを予算をかけ3時間以上に及ぶ70mm大作映画として制作してしまうところが真骨頂。
できあがったものは、前2作同様歴史のうねりを背景にした堂々たる人間ドラマとなっていて、美しい映像とあわせて見応えがたっぷりあります。
個人的には、『逢びき』の壮大なセルフリメイクのようにも感じられる一本。

ヒロインである<ライアンの娘>、ロージー・ライアンにサラ・マイルズ。
その夫となる教師チャールズ・ショーネシーにロバート・ミッチャム。
ロージーがよろめいてしまうイギリス軍人ランドルフ・ドリアン少佐にクリストファー・ジョーンズ。
村の良心にして人間味たっぷりのコリンズ神父に、『逢びき』のお相手トレヴァー・ハワード。
ハンディキャップを持ち村人の笑いものになりながら、ロージーに純粋な気持ちを寄せるマイケルにジョン・ミルズ。セリフなしの名演で、見事米アカデミー助演男優賞受賞。
ロージーの父でパブの主人トム・ライアンにレオ・マッカーン。
独立運動の闘士ティム・オリアリーにバリー・フォスター。個人的には『フレンジー』(72)の人。

脚本ロバート・ボルト、撮影フレデリック(フレディ)・A・ヤング、音楽モーリス・ジャール。
このあたりは、『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』と同じ。
特にフレディ・ヤングは、3本すべてで米アカデミー撮影賞を受賞しています。

 
 
 

ロケ地

IMDbでは、

Cliffs of Moher, County Clare, Ireland (Rosy loses her parasol, opening scene)
Inch Strand, Dingle, County Kerry, Ireland (beach)
Coumeenoole Strand, Dunquin, County Kerry, Ireland (beach)
Dingle Peninsula, County Kerry, Ireland
Noordhoek Beach, Cape Town, Western Cape, South Africa
Bridges of Ross, County Clare, Ireland (Storm scenes)
Maoilinn na Ceathrun, Carhoo, Dunquin, County Kerry, Ireland (studio) (Kirrary – temporary studio set)

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

設定では舞台となるのはアイルランド、ダブリン近くの海辺の町キラリー(Kirrary)。
実際の撮影は、主にディングル半島Wの西。
浜辺の場面は南アフリカでも撮影されています。

断崖

OP近く、逆光の中に連なる断崖。
絶景ですね。

Cliffs of Moher, County Clare, Ireland (Rosy loses her parasol, opening scene)

こちら↓はBill McCrearyさんからご提供いただいた画像。
『プリンセス・ブライド・ストーリー』でも使わせていただいています。
他にもご自身のブログに多くの画像をアップされていますので、ぜひご訪問ください。

ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
アイルランド・英国紀行(2015年9月)(51)

この御写真のカメラ位置はおそらく断崖の先端のあたり。

『ライアンの娘』のカメラ位置は、もう少し崖のふもと?の方で、左右はだいたいこの↓SVのあたり。

前後はもう少し前方、崖っぷち寄りでしょうか(SVで平らになっているあたり?)
このエントリーの最後に載せたロケ地マップに、おおよそのカメラアングルを描いておきました。

Bill McCrearyさんのブログ記事によれば、この断崖には円筒形の砦があり、近くに駐車場や施設があるようで、このあたりの観光の拠点となる場所のようです。
『ライアンの娘』撮影時にはどうだったのでしょうね 🙂

小舟が戻ってきた浜

神父とマイケルの小舟が上がってくるところ。
IMDbのリストには浜辺は3箇所書かれていますが、この場面はこちら。つまりアイルランドではなく南アフリカ。

Noordhoek Beach, Cape Town, Western Cape, South Africa

Noordhoek, Cape TownW

浜の北端、岩がごろごろしているところですね。

 
 
 

Maoilinn na Ceathrun, Carhoo, Dunquin, County Kerry, Ireland (studio) (Kirrary – temporary studio set)

監督お得意の大がかりなセット。
背景の山や地形などから、おおよそこの位置にあったと思われます。

道は南北に伸びていて、教会が南端。
最後に掲載したロケ地マップで、地形等から判定される村の範囲をマークしておきました。

ひとりで歩く浜

0:09頃
ロージーをロングショットで捉える、大きな浜。
途中で本を投げ捨てます。
これもおそらく上記小舟が上がってきた浜と同じ。つまり南アフリカ。

ロージーを前から捉えたショットの背景↓

バス停

チャールズがクルマから降りたところ。その後も何度か登場します。
背景からみてここ↓で、カメラ南南西向き。

十字の石碑は見当たりませんね……

船の残骸

ロージーが上着を脱いだところ。映画終盤でもランドルフ少佐とマイケルのくだりで登場します。
やはり南アフリカでの撮影。

残骸は映画のセットや小道具ではなく、1900年5月に座礁したKakapo号。
今でも残っているようです。

ロージーを正面から捉えたショットの背景はこういったアングル(北向き)。

デイヴィッド・リーンの絵作りもさることながら、ストリートビューをカメラかついで延々歩いて撮影したGoogle先生のスタッフも凄いと思います 🙂

チャールズと出会う浜

ここは背景の山並みが違うので、これまでの南アフリカの浜とは別のようです。
IMDbのリストにはありませんが、ぴょんとワープしてアイルランドのこちらでしょうか。

Google Mapsでは付近に”Barrow Beach”とマークが付けられています。

この↓SVで、海上に浮かぶ三角形(左辺が長い)の岩は、立話や並んで歩く時にチャールズの背景に見える岩に似ています。なのでここで正解であろうかと。

この岩は映画の中程、校外授業の場面やロージーが崖の上で花を摘む場面でも写っています。

二人で歩く浜

その後オーバーラップして広大な浜のロングショットとなりますが、背景の山並みからみて、IMDbのリストにあるこちら↓と思われます。

Inch Strand, Dingle, County Kerry, Ireland (beach)

前項目の浜からは、南南西へ20kmほどの小ワープ。

先に行ったロージーを見るチャールズのバストショットの背景。

学校

0:21
ここは地形や背景などから絞っていくことが出来ました。 建物は今でも確認できます。

小舟を出す海岸

0:31
マイケルが船を出すところ。

Coumeenoole Strand, Dunquin, County Kerry, Ireland (beach)

トラックがバックで降りてくる道。

後半嵐の中、村人たちが駆け下りてくるのもここ。

何度か登場する場所ですが、この浜を見渡せる場所に映画撮影を記念したパネルがありました。

そのアップ。
巷間言われるように«『ボヴァリー夫人』をベースにした»とありますね。

バス停(ドリアン少佐)

1:02
迎えの車がやってくるのは、この小径。

駐屯地

1:04

背景の岩山や道路構成がマップで確認できるので、ピンポイントで特定できます。

逢い引きの塔

1:28
遠乗りでの逢い引きで、待ち合わせた海辺の塔。

Minard Castle

校外授業の海岸

1:41
校外授業で子供たちと歩いているうちに、密会現場に気づく場面。
2つの撮影場所を組み合わせているように見えます。

まず波打ち際を走る三人の子供たちを後ろから捉えるショットで始まりますが、ここは「二人で歩く浜」で使われた浜。

Inch Strand, Dingle, County Kerry, Ireland (beach)

続いて子供たちを連れて歩いてくるチャールズを正面から捉えたショットも同じ。
さらに子供たちが甲イカ採取のため海に向かって走って行くショットも同じ場所↓

ところが、チャールズが足跡をたどって歩き始めるショット(背景が絶壁)は、別の場所ですね。
こちらは、序盤でロージーがチャールズを出迎えた浜のように見えます。

Barrow Beach

決め手は背景の海上に頭をのぞかせているこれらの岩↓ 

左辺が長い三角形の岩は、序盤で二人が立話ししたり並んで歩く時にチャールズの背景に見えていますので、同じ浜とわかります。

さらにHD画像でよく見ると、三角の岩の手前に、もうひとつ岩が重なっています(三角の岩より低く、山が2つ)。
これは、上のSVで三角の岩の右側に見えているもので、マップ上では三角の岩よりは手前にあります。
本編では三角の岩と2連の岩がぴったり重なっているので、カメラ位置は2つを結ぶ直線上にあるはず。
最後に揚げたロケ地マップで、その直線を示しておきました。

その後チャールズは岩場を左回りして、今度は水たまりのある大きめの岩へやってきますが、このとき彼を正面から捉えたショットは、ふたたび甲イカの海岸です。
その後足跡が崖の下へ続いていることを目線で追ったり、実際にたどっていったりするショットは、崖のある浜。
想像した密会場面に自分も参加してしまうという斬新な表現は、甲イカの浜。

……といった具合。
2つの浜はマップ上では20kmほど離れていますが、ショットによっていそがしくワープしていることになります。

この場面、以前よりショットによって日差しの向きがちぐはぐなのが気になっていました。
こんなこと気にしているのは自分だけかもしれませんが、別々の場所で撮られていたためと判明してこれでスッキリ♪

わざわざ2箇所で撮影したのは、足跡の先に崖をつなげなくてはならなかったからとか、背景に良い絵が欲しかったからとか、あれこれ理由が想像できます。
気になるのは、左折した岩場や水たまりのある大きめの岩。
2つの浜のどちらにも登場しますので、どちらかか、あるいは両方の浜でわざわざ撮影用にあつらえたことになります。

ロージーがいた崖の上

くつろぐ少佐の近くで、花を摘もうとするロージー。
設定では足跡をたどっていったチャールズが崖の裏で発見した洞窟の上となりますが、撮影場所としてもそのあたりと思われます。

ここは実際にはゴルフ場。

Tralee Golf ClubW

ゴルフ場のサイトでコースマップを確認すると、ローズがいた崖のあたりは、17番ホールのグリーン近く。
同ホールには”Ryan’s Daughter”という名前が付けられていました(笑)。

http://traleegolfclub.com/the-course/course-map.html#course-map

この↑ページにある同ホールの空撮は、マップで再現するならこんな↓感じ。

こちら↓は同ホールの紹介動画ですが、25秒目あたりからの空撮は、花を摘むために歩いて行くショットの背景と一致しています。

 
 
 
17秒目あたりの左辺が長めの三角形の岩が、前項目で触れた岩。
望遠レンズの圧縮効果でとても大きく、間近に見えますが、実際には崖から1kmは離れています。

同じ岩が25秒目からの空撮で右端に見えますが、前項目で書いたその手前にある2連の岩も一緒に写っています。

というわけで思いがけずゴルフコースの案内動画から、撮影場所の位置関係を確認することができました 🙂

ど迫力の嵐のシーン。
IMDbのリストにはこう↓ありますが、嵐の演出が凄すぎて何が何だか、誰が誰だか、どこがどうだか判りません。

Bridges of Ross, County Clare, Ireland (Storm scenes)

傷心の海岸

チャールズがパジャマ姿でとぼとぼ歩く海岸。

おそらく映画冒頭で二人が出会った浜(=密会現場に気づいた崖の下の浜)のもう少し北の方と思われます。
Wikimapiaでは“Banna Strand”Wとマークされているあたりでしょうか?

捜索の海岸

2:36 2:39
これは調査中。

チャールズがいた岩場

パジャマ姿でぽつんといたところ。
これも調査中。

ランドルフとマイケル

2:52
海を見つめるランドルフと、背後から声をかけようとするマイケル。
背景の山並みからみて、南アフリカの浜の中程でしょうか。

その後マイケルが爆弾を見せたり、少佐が夕陽を見つめるのは、初めの方でロージーが身なりを整えた「船の残骸」のところ。

夕陽を見つめる少佐之図↓

 
 

わざわざ南アフリカで撮影したのは、おそらくスケジュールと天候の関係であったかと思いますが、行った先でリアルにある難破船の残骸が、そのまま美しくも哀しい見事な夕景ショットとしてフィルムに収められたわけですから、映画の神様がうまく采配してくださったのかもしれません。

本編上では、南アフリカで撮影された場面はここまで。  
こうして見ると、南アフリカでの撮影に参加した主要キャストは、サラ・マイルズ、トレヴァー・ハワード、ジョン・ミルズ。
ロバート・ミッチャムはアイルランドのみと思われます。  

ロケ地マップ

 
 
 

資料

更新履歴

  • 2018/05/08 新規アップ

コメント

  1. Bill McCreary より:

    どうも記事にしてくださってありがとうございます。私が事実上リクエストしたような気がして大変恐縮です。でも「なるほど!」と実に大きな発見と喜びがあります。本当にありがとうございます。私も、ランドルフとマイケルの海岸のシーンが南アフリカの撮影であることは気づいていましたが、冒頭のほうのシーンもそうだったとは考えませんでした。

    >『ライアンの娘』撮影時にはどうだったのでしょうね

    施設は21世紀になってから整備されたものと思われます。映画の撮影時は、まだ当時は観光客が押し寄せる時代でもないでしょうから、ほとんど満足なものではなかったのでは・・・と考えます。撮影した時代も、アイルランドの田舎はきわめて貧しかったはずです。

    それにしてもこの映画は、70㎜フィルムでの撮影や、嵐のシーンなど、その後では難しくなる贅沢さを具現した最後くらいの作品かなと思います。考えてみれば、『ロレンス』『ジバゴ』とこの映画の3部作で、映画の実際の舞台でほぼ完全にロケーションできたのは、この作品くらいですか。南アフリカでのロケはあったとはいえ、『ジバゴ』はソ連でロケできるわけもなく、『ロレンス』もスペインでのロケが多いわけですから。すでにお調べでしょうが、こちらの動画もすばらしいと思います。

    ttps://www.youtube.com/watch?v=imRQvF-9Ciw

    それですみません、この記事をぜひ拙ブログで紹介させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。また、貴サイトを拙ブログにブックマークさせていただいてよろしいでしょうか。来週くらいには記事にさせていただければ・・・と思います。それからこの記事を読ませていただいて、この本注文してしまいました。

    ttps://www.amazon.co.jp/dp/1848891458/

  2. 居ながらシネマ より:

    Bill McCrearyさん、コメントありがとうございます。
    お写真もありがとうございました。
    映画撮影時の現地の状況は仰る通りなのでしょうね。

    ご紹介の動画は力作ですね~
    有名作品はこういう現地訪問ものがあれこれ作られることがあるかと思いますが、先に見てしまうとその後の作業がつまらなくなるので、最近はマイルールで、IMDbのリストとWikipediaだけ参考にして、あとはウェブマップでチェック、みたいにしています。
    映像から位置を特定してマップにピンを立てていくのが、頭の体操といいますか、老化防止の一環になっているんですよね(笑)

    それにしても、学校はもうボロボロですね……
    もともとはどういう建物だったのか、セットが残ったものなのか気になりますが、その洋書でわかるかもしれませんね。

    拙記事をご紹介いただけるとのことで恐縮です。
    もちろん全然問題ありませんのでよろしくお願い致します。

  3. Bill McCreary より:

    拙ブログで、貴記事の紹介をさせていただきました。あらためて御礼を申し上げます。

    ttps://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/f91959cc361e7c18aefd0a029bc89f95

    それであらためてこの映画を観まして、ファーストシーン、なるほど、サラ・マイルズ(あるいはスタンドイン)は、拙写真に写っているところを走っていますね。それでその次に、傘を取りにマイルズが浜辺(モハーの断崖の辺りには、あのような浜辺はないと思います)に降りると、影が海から浜にわりと直線に来ているので、夕方の撮影ではありませんから、アイルランド西部でロケーションしたと考えると、たしかに矛盾しますね。そうなるとなるほど、このシーンは南アフリカで撮影されたのだなと理解しました。「肉弾」でもおっしゃっていましたが、まさに太陽の方向は貴重です。

    また公開当時のパンフレットを入手しまして確認したところ、やはり予想通り南アフリカでのロケーションについては何も触れられていませんでした。当時はたぶんアイルランドでのオールロケーションという建前か、そうでなくても積極的には南アフリカでのロケは公表されていなかったのでしょう。

    それにしてもゴルフ場の動画は感動しちゃいました(笑)。アイルランドで何回か「『ライアンの娘』は観ましたか」という質問をしました。内容が微妙なので、現地ではものすごく嫌われている映画なのかもですが、聞いた限りでは(私に対するサービスなのかもですが)「観たよ、いい映画だ」という答えをいただきました。ご紹介いただいたパネルなどを見ても、この映画がアイルランドでそれなりのインパクトがあったのは確かだと思います。

    南アフリカへは、行くとしてもずいぶん先かもですが、ディングル半島や学校の跡はぜひ行きたいと思っています。

  4. 居ながらシネマ より:

    Bill McCrearyさん、ブログでのご紹介ありがとうございます。たいへんご丁寧にご紹介いただき、恐縮かつ汗顔の至りです。
    お写真の横から見た断崖の景色は、結局OPに使われただけかもしれませんが、監督もロケハンしていて、この場所はつかみとして絶対はずせないと思ったことでしょうね。

    南アフリカでも撮影されたということは、当時はなかなか言えない事情だったのでしょうね。予算、スケジュール、天候などいろいろ理由はあったのでしょうけど、これ以上は資料をあたらないとわからないので、その本は貴重な資料となりそうですね。

    あとは学校がもともとあったのか、ロケのセットなのかも気になりました。
    ここらへん、DVDのコメンタリーも(しゃべっている人にもよりますが)役立ちそうですね。手持ちはBSの録画だけだったので今回は画面とにらめっこで済ませましたが、内容は気になります。

タイトルとURLをコピーしました