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『流転の地球』 流浪地球 (2019)

流浪地球(经典短篇选) (Chinese Edition)

今日は中国の旧正月
家族で集まる日だ

作品メモ

『メッセージ』『CHILDHOOD’S END -幼年期の終わり-』と、欧米の名作SFを原作とした映像化作品を見てきましたが、こちらは中国の短編SFを原作とした、ちょっと珍しい中国製大作SF映画。
かの国では今年(2019年)のお正月映画として大ヒットとなりました。
その後数ヶ国で劇場公開されてから、Netflixで先月(19年7月)リリース。おかげでいつでも簡単に見ることができます。英題”The Wandering Earth”

https://www.netflix.com/title/81067760

太陽が膨張をはじめ、わずか300年で地球を呑み込むことが明らかになった近未来。
人類は英知を結集し、生き残りをかけて恒星間宇宙船を建設……とかいう細かい話ではなく、なんと地球丸ごと太陽系を脱出しようというトンデモない計画をぶち上げます。
そのため世界各地に「地球エンジン」なる高さ1万メートルの巨大なロケットを建設、その数実に1万基。
この推力をもって2500年かけて4.2光年彼方の星系へ移動するという、気が短いんだか長いんだかよくわからない、でもとにかくのるかそるか大勝負の計画となっております。
その間10万km離れた国際宇宙ステーションが露払い的にナビゲートし、人々は地下都市でできるだけ従来通りの生活を続ける、そんな日常が何世代も続くはずでしたが……

物語は、スタート部分はすっとばしてすでに17年経過。木星に接近したあたりでトラブル発生し、推力がみるみる低下していきます。
巨大な惑星の重力を加速に利用しようとしていたつもりが、今度はそれと闘わなくてはならないという皮肉な展開。
果たして地球は木星の重力を振り切り、長い旅路に乗り出していくことができるでしょうか?! ……といったお話です。

家族を残し、人類のため20年近く国際宇宙ステーションに勤務しているリウ・ペイチアン(刘培强 劉培強)にウー・ジン(呉京)。妻は病死していて、愛する子供たちとも離れていなくてはならないというつらい立場でしたが、勤続期間がまもなく終了、ようやく地球に戻れる予定です。
刘培强の息子で北京3号地下城(都市)に住む若者リウ・チー(刘启)に、チュ・チュウシャオ(屈楚萧)。
亡き妻の父、ハン・ズーアン(韩子昂)に香港映画でおなじみン・マンタ(吴孟达 呉孟達)。
ハンの養女(孫)で中学生[1]1:35頃の通信で、”是一个初中学生”のハン・ドゥオドゥオ(韩朵朵)にチャオ・ジンマイ(赵今麦)。移動のため地球の自転を止めた際に起きた水害で孤児となりましたが、ハンが救助したのが縁となり孫娘となりました。

全体が彼らの家族愛がたっぷりのコテコテ家族ものとなっていて、物語を推進する大いなる力ともなっています。
そういうところも家族揃って楽しむお正月映画としてヒットの原因となっていたのかもしれませんね。
代わりに、ハリウッドのディザスターものでありがちな恋愛要素は、いさぎよく無し。

ビジュアル(VFX)は特別優れている……というわけではありませんが、まずは十分の出来映え。
エンドクレジットを見ると、完全純国産ではなく、国外、特に韓国のスタジオ名がいくつか見受けられます。
とにかく予算をつぎ込んで、重厚なVFX画像を2時間、最後まで作りきった力業はなかなかのものですね。
エンドクレジットも小洒落ていて良かったかも。

残念ながら、我が国でこれだけのボリュームのVFX大作を製作するのは、もはや無理。今後も難しいのではないでしょうか。
離れていく地球を、ただ悲しげに見つめる他ありません……

監督グオ・ファン(郭帆)。

こちら↓は予告篇ですが、ピチピチの制服着てビシッと敬礼したりすると、アンディ・ラウ(劉德華)の『未来警察 Future X-cops』とかを連想します。
あれはあれで楽しかったので、いつか取上げようかと思案中 🙂

 
 
 

予告編だけでも結構お腹いっぱい♪
そういえばこれはコメディではありませんが、こういうのも賀歳片(贺岁片)といって良いのでしょうかね??

ネタばれにつき折りたたんでいます。クリックで開閉します。
あ、でも結局は爆竹に火をつける話ですから、実にめでたいお正月映画かも 🙂
なんですかね~ 着火石って[2]中国語では「火石」 🙂 🙂

それに、まさかこんな立派なSF大作で、コテコテ香港映画みたいなゲ○ネタが登場するとは思わなかったので、やっぱコメディですね♪

興行成績

大ヒットと言われましても、白髪三千丈の世界ですからちょっと眉にツバつけたくなりますが、Box Office Mojoで見てみますと(19/8/8現在)、

https://www.boxofficemojo.com/movies/?page=intl&id=thewanderingearth.htm

Domestic: $5,875,487
Foreign:  $693,885,286

Domesticは米国内の数字。
Foreignの中身はほぼ中国(大陸)で、$690,994,017。つまり700億円ちょい。
凄いっす。

これで中国歴代2位とのことですが、1位はおそらく『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(战狼2)で、ウー・ジン(吴京)が監督主演(Boxoffice Mojo)。
『流転の地球』では特別出演という扱いですから、もう堂々たるものですね。

原作と原作者

原作は刘慈欣(劉慈欣 りゅう・じきん リウ・ツーシン Liu Cixin )Wの短編《流浪地球》W
日本語訳は、「さまよえる地球」の邦題で『SFマガジン』2008年9月号掲載。
地球を移動させるというアイデアは同じですが、映画とは異なり大分落ち着いた内容で、描写も淡々としています。

流浪地球: 劉慈欣中短篇科幻小說選 (Traditional Chinese Edition) こちらは繁体字版。

The Wandering Earth: Classic Science Fiction Collection by Liu Cixin (Short Stories by Liu Cixin Book 1) (English Edition) こちらは英訳版。今のところKindle Unlimitedで読むことができます。英文は平易。

刘慈欣は今話題の『三体』の著者。
なにせ中国本土だけで2100万部売り上げたというのですから、こちらもスケールが違います。 三体

以前ケン・リュウ原作の『Beautiful Dreamer』を取上げましたが、そのケン・リュウが英訳し、アジア人初のヒューゴー賞受賞となった作品です。
邦訳は、発表から10年以上経ってようやく先月(19年7月)早川書房から出ました[3]SF専門誌《科幻世界》2006年に連載、2008年に単行本化、2014年英訳版
ハードSFというよりは、(良い意味で)トンデモ系あるいは奇想系の香りが漂いますが、アイデアを惜しみなくつぎ込んで、これでもかとぐいぐい引っ張っていくあたりは、映画版『流転の地球』っぽいかも。
冒頭の苛烈な文革の描写が脳裏に焼き付けられますが、それがSFという枠組みの中できちんと伏線となっていて、中盤明らかになっていくあたりはかなりゾクゾクしました。

それにしても、文革がこんなふうに使われる時代が来るなんて……

お役に立つ

地球全体をロケットで移動させるというのはどこかで見たことのあるアイデアですし……

妖星ゴラス  [東宝DVD名作セレクション]

木星の近くであれこれというのも、『2010年』や『さよならジュピター』を連想させます。

その他、随所に過去のSF映画のもじりや本歌取りが見られます。
人工知能MOSSなんてまるきりHALですし、宇宙ステーションでの船外活動は『ゼロ・グラビティ』。車の屋根がパコっと開いてドローンみたいな探査機が浮かんでくるのは『ブレードランナー2049』。
あげくのはてに、『ターミネーター2』みたいにマシンガン?を小脇に抱えてダダダダと連射するかと思えば、『アルマゲドン』のブシェミの「未成年?」(に近いセリフ)も再現したりと、もはや満漢全席状態。

こういうのに対してすぐ「パ○リやん」と言いたくなる人もいるやもしれませんが、自分には先達への愛やリスペクトがしっかり感じられ、全然OKでした。
「こういうのやりたかったんだろうなー」とニヤニヤしながら見守るのもまた一興です。

車載メッセージ

この時代、車を動かそうとすると、交通委員会からのメッセージが流れます。

道路千万条,安全第一条  行车不规范,亲人两行泪
(字幕)どの道でも安全第一、交通違反は愛する人が悲しみます

中国語版Wikipediaによると、春節の公開時、全国の警察の標語となったとのことです。

ロケ地

IMDbでは、

Iceland
Beijing, China
Qingdao, China

VFXづくしのこの映画、大半はスタジオ撮影と思われます。
IMDbのリストの北京や青島も、やはり映画スタジオのことでしょうか。
ロケ地的なネタはほとんどありません。

例によって、画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

地球連合政府

冒頭。
未曾有の危機に世界各国が寄り集まり、地球連合政府(United Earth Government)を作ります。
原作では the Unity Government。
ワシントンからの生中継として映像に登場したのは、ジュネーブやニューヨークの国連ビル。
こういう映像をつぎはぎしてそれっぽくするノリは、我が国の特撮映画でもおなじみでしょうか。

国旗が並んだ建物

国際連合ジュネーブ事務局

  • Google Maps(SV)
  • 46.224251, 6.139677 ……建物
  • 46.222975, 6.139024 ……カメラ位置(北向き)
ねじれた銃

ニューヨーク国連ビル北側。

続いておなじみ国連ビルのショットとなります。

上海

あまりにネタがないので、VFXの映像をチェック。
0:36あたりから入った上海市。
高層ビルが分厚い氷でカチンコチンに固められているのは、『デイ・アフター・トゥモロー』+『A.I.』といったところ。

0:46あたり、高層ビルを利用して、運んでいたブツを表層まで上げようとします。
もちろんVFXの産物ですが、モデルになっているのはこちら↓

上海中心(上海タワー)W

0:54頃の崩壊していく俯瞰などでそれとわかります。
犠牲を払いながらも、なんとか表層まで上がりきった一行の背景に見えているのは、こちら↓のてっぺん。

上海環球金融中心(上海ワールド・フィナンシャル・センター)W

どちらも、0:36あたりの上海市が登場するショットで、とりあえず右手に写っていますね。

3つ並んでいるビルのうち、右が上海中心、左が上海環球金融中心。

面白かったのは、途中”Shanghai 2044″というオリンピックマークの建物があったこと(0:38:50)。
2044年の夏のオリンピックは上海みたいです。

※19/8/13追記
Bill McCrearyさんから、上海環球金融中心の画像を提供していただきました。
ご自身のブログに多くの画像をアップされていますので、ぜひご訪問ください。

ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
https://blog.goo.ne.jp/mccreary/

撮影は2012年1月とのことです。
東側から撮られたものと思われますが、左手の建築中の建物(画像中程までの高さ、クレーンが出ている)が建築中の上海中心でしょうか?

テレビ塔(東方明珠電視塔)も、0:36あたりの上海市が登場するショットで左側に写っていました。
外灘(バンド)から見ているという設定ですね。

資料

更新履歴

  • 2019/08/13 「上海」にBill McCrearyさんの画像をアップ
  • 2019/08/08 新規アップ

References

References
1 1:35頃の通信で、”是一个初中学生”
2 中国語では「火石」
3 SF専門誌《科幻世界》2006年に連載、2008年に単行本化、2014年英訳版

コメント

  1. Bill McCreary より:

    こんにちは。

    >上海環球金融中心(上海ワールド・フィナンシャル・センター)

    で協力ができます。

    https://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/1c79996ce271ce8ae8802e51495b45e1

    https://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/d981fd13102e6d12764ce7ca0361c4ca

    撮影は、2012年1月です。

    上海には、この後にも訪れていますので、上海中心も撮影可能だったのですが、そっちの方には行っていないので、ご協力できません。今後行くこともあると思いますので、その際はまたご連絡します。

    ところで上海ですが、かつて東京はニューヨークを追い越したなんて言われたように記憶しますが、実際に追い越したかはともかく、上海は完全に東京を追い越しましたね。東京は、上海などと比較してもだいぶ落ち着いた街になってきたなと感じます。このあたり中国経済と日本経済の差だと思います。

  2. 居ながらシネマ より:

    Bill McCrearyさん、画像拝借しました。いつもありがとうございます。
    この時は上海中心はまだ建設中のようですね。
    Google Earthの3Dモデルもまだ上の方ができあがっていなくて、クレーンが飛び出しています(笑)

    上海環球金融中心の方は以前からどこかで見たことのある形だと思っていましたが、我が家のケルヒャーでした。
    https://www.kaercher.com/jp/home-garden/pressure-washers/k-2-16022180.html

    日本も大都市では近年にょきにょき高層ビルが生えていますが、やはり大陸の大都市にはかないませんね……

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