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作品メモ
ひとつ前のエントリー『ダーケストアワー 消失』と似た雰囲気のジャケットを持つ(汗)ロシア映画。
以前はソ連・ロシア映画と言えば、国を挙げて作ったような大作か、あるいは単館でかかるアート系のような印象がありましたが、今ではいわゆる「ジャンル映画」がビデオ市場や衛星放送などでお目にかかれるようになってきました。
多くはマーケット受けしやすいアクションもので、出来映えも玉石混淆。
「こういうのやりたかったんだろうな~」的なハリウッドの劣化コピーもありますが、中にはこの映画のように劇場公開されるレベルのものもあったりします。
この映画、DVDのジャケットやうたい文句などを見ると、まるでロシア版『トランスフォーマー』的巨大ロボット戦闘もののような印象を受けるかもしれません。
私も最初はそう思ってしまいましたが、ジャケ借り(?)してびっくり。
ネタばれ気味かもしれませんが、開巻すぐに意味がわかりますし、ロボットものと勘違いしてレンタルする方がいらっしゃらないように書いてしまいますと、ヒロインの息子がゲーム好きで、その中で登場するのがこうしたロボット。
少年はふだんから現実世界にもゲームを重ね合わせてしまい、想像の中でロボットを登場させてはあれこれ楽しんでいるのです。
日本盤DVDのジャケットに登場するのは、悪のロボット。
ジャケットのビジュアルは日本独自のもので、本国ではたとえばこういった感じ →
ヒロインたちを爆発から守る穏やかな顔のロボットが、良いロボットです。
ロボットが少年の妄想なら、この爆発は何事かと言いますと……
ロシア語原題は«Август. Восьмого»(アーヴグスト・ヴァシモーヴァ)で、英語なら”August Eighth”。(8thは日付ではなく年代の方)
南オセチア紛争(ロシア・グルジア紛争)Wが起きた2008年8月のことで、紛争地帯にたったひとり取り残されてしまった幼い息子を救出すべく戦地で奮闘する若い母親を描いたのがこの映画。
ジャンル分けするなら戦争映画で、ロボットSFものではありません。
母子の姿を描きながら、あわせて紛争地帯に軍隊を出動するかどうかギリギリの選択を迫られるクレムリンの鳩首会議や、激烈な戦闘の中で避難民を救出する勇敢なるロシア兵の姿などが、大がかりなサスペンスとスペクタクルで描かれます。
さらには巨大ロボットまで登場させているわけで、「こういうのをやりたかったんだろうな~」の(良い意味での)極みでしょうか 🙄
ロシア映画ですから映画で描かれているのはもちろんロシア側の論理と都合となりますが、それを差し引いても、こうした現実に起きた紛争を母子の目を通して、しかもロボットものと重ねて描くというのは、映画の視点としてなかなかうまいひねり方だと思います。
危険な状況で少年が現実の戦争とゲームの世界とごっちゃに認識する様子は、人によっては『パンズラビリンス』あたりを連想するかもしれませんね。
対するグルジア(ジョージア)軍兵士は戦闘中顔をはっきりと写しませんし、悪者とひとくくりにしないエピソードもあり、一定の配慮もうかがえます。
元気が出てきたロシア映画が、2010年代に入ってさらに洗練されてきたのかも? と思わせる一本。
反面、古き良き時代の武骨な作りが影を潜めてきているとも言えますが、お金が回るようになればいろいろ興味深い映画が登場することも確かで、このあたりの映画はこれからも目が離せません。
キャスト&スタッフ
モスクワを歩くようなワンピース姿で戦地を駆け抜け息子を守ろうとするシングルマザー、クセーニア(Ксения)にスヴェトラーナ・イワノーワ(Светлана Иванова)W。
南オセチアで平和維持軍に従軍している元夫ザウール(=良いロボット)にイゴール・ベロエフ(Егор Бероев)。
母親思いの頼れる隊長リョーハ(Лёха)にマクシム・マトヴェーエフ(Максим Матвеев)。
クセーニアの恋人で投資銀行勤務のエゴール(Егору)にアレクサンドル・オレシコ(Александр Олешко)。
ロシアの大統領は史実でも見た目でもメドヴェージェフですが、名前は出ていなかったと思います。 演じていたのは、ウラジーミル・ウドヴィチェンコフ(Владимир Вдовиченков)Wという俳優さん。
監督ジャニック・フェイジエフ(Джаник Файзиев)、撮影セルゲイ・トロフィモフ(Сергей Трофимов)、音楽ルスラン・ムラトフ(Руслан Муратов)。
製作の1人フョードル・ボンダルチューク(Фёдор Бондарчук)は、セルゲイ・ボンダルチューク監督の息子(ナターリヤ・ボンダルチュークの弟)。
ロボットの造形やアクションなどビジュアル上はやはり『トランスフォーマー』の影響がたっぷり伺えます。
質量ともにかなり頑張っていたVFXは、Main Road Postと言うロシアの会社が担当。
最近では『スターリングラード 史上最大の市街戦』(Сталинград、2013 ビデオスルー)、『メトロ42』(Метро、2013)という大作を手がけている他、ソチオリンピックのオープニングムービーも担当。
これらの作品のメイキング映像はオフィシャルサイトやYouTubeのチャンネルで見ることができます
ロケ地
IMDbでは、
Moscow, Russia
Mosfilm Studios, Moscow, Russia (studio)
Russia
でほとんど役に立ちません。
ロシア語版Wikipediaによると、2011年3月から8月にかけてモスクワ、アブハジア、南オセチアで撮影。
ロケ地についても具体的な地名が挙げられていましたので、今回はそちらを参考にしています。
例によってウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
なお当サイトの「ロケ地」カテゴリーは、国名だけではなく地域名も含み、その区別は曖昧です。その点ご了承の上ご覧ください。
車とロボット
モスクワ市街地で「トランスフォーマー」してしまう場面。
背景はЖилой дом на Котельнической набережной(Kotelnicheskaya Embankment Building)W
これまでモスクワでロケした映画を何本かチェックしてきましたが、本当に良く登場する物件ですね。
村
ザウールの実家がある村。
字幕ではシダモンタ。
キリル文字では«Сидамонта»ですが、現在の地名では見つかりませんでした。
イゴールと別れたオフィスビル
0:20
丸い吹き抜けのモダンなビル。
調査中
到着した空港
0:23
空港の建物に、«ВЛАДИКАВКАЗ»(VLADIKAVKAZ, ウラジカフカス/ヴラジカフカス)とあります。
バスの行き先表示はキリル文字。
ツヒンヴァリへは直線なら100数十kmですが、実際には映画で描かれた様にひと山越えなくてはならならず、大変な行程であることが判ります。
ロキトンネル
0:27
コーカサス山脈を貫くトンネル。
Wikipediaによると、製作時には実際のトンネルは修復中で使えず、別の場所で撮影したとのこと。
参考までにリアルの位置。
バスの故障
Wikipediaによると、バスが故障したのは、Балта(バルタ)とЧми(チミ)の間。
このあたりとなるはずですが、これ以上はさすがにわかりませんでした。
バラバラになりかけたバスがかろうじて引っ張られていくショットは、上掲VFX動画に見られるようにもちろん合成です。
議会
爆撃を受ける議会の建物。
画像をチェックする限り、外観は後の方の市街戦の場面で撮影に使われた、トゥクヴァルチェリ(ロシア語Ткуарчал)Wのこちらの建物のように見えます。
- Google Maps
- WikiMapia
- http://www.panoramio.com/photo/112083244
- http://sputnik-abkhazia.ru/Abkhazia/20150320/1014196970.html
Wikipediaによると、辛くも脱出する場面などはモスフィルムのセット。
前線基地
記者証を盗んだあとイリヤのいる部隊と合流したところ。
Wikipediaにはこちらの地名(川の名前)が挙げられています。
クセーニアが駈けていた橋はおそらくこちらで、カメラ南向き。前線基地は左岸。
待ち伏せ
部隊が待ち伏せに遭うところ。近くに大きな煙突がそびえています。
Wikipediaによると、建物が爆撃されるような市街戦の場面は、1992年のアブハジア紛争Wで破壊され放棄された街で撮影されたとのこと。
ヘリが登場する空撮ショットで地形や線路構成が把握できますので、もう少しマップで絞り込み、画像をチェックしてみたところ、こちらではないかとわかりました。
- Google Maps
- WikiMapia
- https://ssl.panoramio.com/photo/107837107 ……煙突からの俯瞰(滝汗)
- https://ssl.panoramio.com/photo/74623070 ……進んできた道
- https://ssl.panoramio.com/photo/122810363
逃げ込んだ建物は駅舎。
その後ヒロインがスローで飛び出していく幻想シーンは、反対側(ホーム側)から線路に向ってのジャンプ。
ジャンプした後の俯瞰ショットは駅舎の表側を見ていますので、細かいことを言いますと、位置関係がgoofとなります。
廃墟は発電所のようです。
こちらの動画に、映画で登場した場所が何ヶ所か収録されています。
映画本編もちょっと登場。
村まで
親切な村の女性が教えてくれた地図に、吊り橋や、犬がいた建物が描かれています。
撮影場所は不明。
ラスト
背景にコーカサス地方に点在する特徴的な塔が見えます。
Panoramioのまさにこの↓画像のもの。
マップではこちら。
ヘリが飛び立った(=部隊がいた)のはその東側。
ロケ地マップ
資料
更新履歴
- 2015/11/08 新規アップ
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