男たちの美学
目次
作品メモ
『雨の訪問者』に続き、NHK BS2の深夜枠で放送された懐かしいフランス製サスペンス映画。
『雨の~』同様大きなレンタル屋さんに行かないとなかなか見る機会がありませんでしたが(しかもVHS……)、昨年一気にDVDがリリース。そしてこんなふうにBSで放送と、幸せな状況になりました。
その昔ロバート・ライアンもジャン=ルイ・トランティニャンも知らなかった頃にテレビで見て、わけがわからなかった覚えがあります。
記憶に残るのは、映像の美しさとビー玉、そして個性的な男たちときれいな女優さんたち。
その後何度か観て筋立てはかろうじて把握できましたが、やはりこの映画、ストーリーよりは雰囲気を、リアリティよりはファンタジーを楽しむ映画なのでしょう。
この映画で抽出された男たちの美学は、後年の香港ノワールものに着実に受け継がれていると思います。
監督ルネ・クレマン、製作セルジュ・シルベルマン。
デイヴィッド・グーディスの原作”Black Friday”をセバスチャン・ジャプリゾが脚色。
フランス語原題は「ウサギは野を駆ける」の意。
英題”…and Hope to Die”
“Black Friday”は後年早川書房より邦題と同タイトルで翻訳出版。
ややこしいですが、脚本のセバスチャン・ジャプリゾがノベライズした作品も原題「ウサギは野を駆ける」のタイトルで翻訳されています。
キャスト(ちょっとネタばれ入り)
主人公のトニーがジャン=ルイ・トランティニャン。
わけありの過去を持ちロマの男たちに追われていましたが、ひょんなことからギャング一味のアジトに身を寄せることとなり彼らの計画に加わっていく……そんな展開です。
一味のボスのチャーリーがロバート・ライアン。
いぶし銀といいますか渋さたっぷりの好演ですが、翌年惜しくも亡くなっていてこれは最晩年の代表作。
仲間は……
元ボクサーで腕っ節は強いがオツムの方は今ひとつのマットーネがアルド・レイ。
両腕に時計をつけてしまうリッツィオがジャン・ガヴァン Jean Gaven。
『雨の訪問者』ではヒロインの知人のトゥーサン警視役でした。
余談ですが、IMDbのトリビアに日本の『宇宙刑事ギャバン』が彼の名からとられているように書かれていますが、ジャン・ギャバン(Jean Gabin)の間違いではないでしょうか??
他に、すぐに死んじゃうレナーはLouis Aubertという俳優さんですが、他に出演作はほとんどありません。
しばらく生きてるポールは、Daniel Breton。
IMDbを見る限りこれが映画デビューで、むしろスタントマンとして活躍している様子。今でも現役というのが凄いです。
『狼は~』のあの場面も、きっと本人が演じていたことでしょう。
女性陣は、チャーリーのお相手シュガーがレア・マッサリ。
ポールの妹ペッパーが、ティサ・ファロー。私生活ではミア・ファローの妹です。
その後の出演作は『サンゲリア』とか『戦場の謝肉祭』とかそんなんばっかりですが、本作はこれ1本で十分おつりが出る良い役柄。
女優業は1980年で引退、その後は看護師として活躍しているそうです。
マーチング・バンドの彼女はナディヌ・ナボコフ Nadine Navokovという女優さん。
IMDbによれば映画はこれ1本、あとはTV出演が数本だけ。
冒頭のママンは、エレン・バール Ellen Bahl。
『さらば友よ』では最初の方に出てくるセレブな家の妻役。『雨の訪問者』ではとある被害者の恋人役。
ジャン=ルイ・トランティニャンがフランス、ロバート・ライアンやアルド・レイ、ティサ・ファローはアメリカ、レア・マッサリはイタリアと、俳優さんのお国は様々。
NHK BS放送版では皆フランス語をしゃべっていました。
ネタばれメモ
ビーン・ボール
リッツィオが見事なコントロールでマストラゴスを倒す場面。
じ~っと見ていて気づきましたが、実はボールは投げたふりして手に持っています。
命中したボールは、リッツィオの背後の建物から飛び出してきているのでした。
でもこのくらいの距離なら『エイリアン4』のシガニー・ウィーバーのように(バスケットボール)、細工無しで勝負して欲しかったかも。
ロケ地
IMDbでは
Montréal, Québec, Canada
Paris Studios Cinéma, Billancourt, Hauts-de-Seine, France
というわけで、主なロケ地はカナダのモントリオールです。
以下例によって順に見ていきますが、モントリオールの建物といってもピンとくるものがあまりなく、各種画像検索やGoogle MapsのSV(ストリートビュー)などを利用して少しずつ調べていきました。
階段
書店のある街並み。
その前から登っていく狭い階段。
登った先のちょっとした広場。背後には崩れかけた古い建物。
このあたりどー見てもパリ市内のように思えるのですが、やっぱりモントリオールなのでしょうか??
よく見ると少年たちの背後の壁に”RUE ……”なんとかと通りの名前が見えますが、おそらく小道具でヒントにはならないでしょう。
▼23/7/30 追記
コメント欄(2023年1月19日 23:55)でほりやんさんから情報を寄せていただきました。
「RUE…」は「RUE PETITE ROQUEBARBE」。
撮影地(と設定)はマルセイユでした。
階段を登ったあたりは再開発されていて確認が難しいですが、少年が門を通り抜けるショットの背景が今でも同じ建物を確認できますし、地形や日差しとも矛盾しませんので、こちらで正解と思われます。
- Google Maps(SV) ……« PALACE ROQUEBARBE »
- Google Maps(SV) ……門を通るときの背景
- 43.2999903, 5.37409394 ……門の位置?
こちらは参考空撮画像↓
- ttps://multimedia.inrap.fr/userdata/atlas_chantier_photo/5/5378/5378_photo_027-carmes-2.jpg
- Google Maps ……Google Mapsでの同アングル
画像の右端、下から1/3ぐらいのところに門があり、左に向かって登っていったと思われます。
駅
英語・フランス語併記の標識が「アメリカ国境まで5マイル」とあり、Canadian Pacificの貨車が映ります。
そこがカナダであることがわかりやすく示されているわけですが、場所は不明。
Canadian Pacificの駅であることは間違いないと思いますが、具体的には特定できていません。
“BEAVER CROSSING”という駅名も映っていますが、おそらく撮影用の小道具でしょう。
ヒントとしては……
- 単線
- ただし貨車はホームの手前で車止めに停止しているので、少なくともその部分は分岐線あり
- 太陽光から考えて、どちらかと言えば南北方向に走っている
- 駅舎はクラシックな外観
- 信号が駅舎のひさしを突き抜けている
- 線路に添って電信柱
たとえばこういった↓サイトも見てみましたが、駅舎が一致するものはありませんでした。
http://yourrailwaypictures.com/TrainStations/
回想
トニーが刺される回想シーン。
モノクロの静止画で描かれます。
裁判所の外という設定でしょうか?
場所は調査中。
ヒントは、6本の柱(1列)、広い階段、両側に街灯。
候補としては、裁判所、博物館、教会、大学等。
これかと思ったら違っていたところ。
橋
ヒッチハイクしようとしたトニーが追っ手の車に追いつかれるところ。
行く手に見える立派な橋はセントローレンス川にかかるこちら↓
ジャック・カルティエ橋
マップ↓
この時追っ手が乗っていたのは、ヴァンデン・プラ・プリンセス(1961)。
- Wikipedia(日本語) バンデン・プラ
- http://www.imcdb.org/vehicle_187620-Vanden-Plas-Princess-4-litre-Limousine-1961.html
巨大な丸い建築物
車に追われてトニーが逃げ込んだところ。
巨大な蜂の巣のような形をしていますが、そこは上記の橋のすぐ真下、セントローレンス川に浮かぶサン・テレーヌ島で、万博会場だったところ(後の方のニュースでも明らかになります)。
もともとはアメリカ館だったようです。
Photo from Wikimedia Commons (public domain).
マップ↓
設計は「宇宙船地球号」のバックミンスター・フラー (Buckminster Fuller)。
1976年に火災発生。
- http://www.flickr.com/photos/ouno/3719777684/
周囲のアクリル素材の部分が焼失したとのこと。
っつーかアクリル使いますかね、こういうのに。
映画に登場しているのはもちろん火災の前のオリジナル。
現在は素通しのようになってすっきりしています。
一味のアジト
川沿いのコテージをしらみつぶしに探せば見つかるかもしれませんが、さすがにその気力はありませんでした。
映画の時点でかなり痛んでいますので、もうなくなっている可能性も高いですし。
「スタート地点」
Place des Arts
http://www.laplacedesarts.com
マップ↓
- Google Maps(SV)
「ゴール」
警察本部という設定。
スタート地点のすぐそばにあるはずですが、実際には何ブロックもはなれたこちらで、警察とも全然関係のないビルです。
Tour TELUS (Telus Tower)
630 Boulevard René-Lévesque Ouest, Montreal, QC
映画で”UNIVERSITY”という道路標識が一部見えますが、こちら。
拘置所
Saint-Vincent-de-Paul Penitentiary サンヴァンサン・ド・ポール刑務所
計画の目的
回想で、ホテルから出てきたマッカーシーとトボガンがマスコミに囲まれながら車にのるところ。
車の背後に一瞬映る広場はヴァンドーム広場のようです。
ホテルには”RITZ”の表示。
というわけで、リッツ・パリ(Hôtel Ritz Paris)の前となり、 この場面に関してはモントリオールではありません。
Photo from Wikipedia (public domain).
マップ↓
計画実行
はしご車を使ったスペクタクルな場面はスクリーンプロセスでしょうか。
同年の『リスボン特急』などもこのぐらいの仕上がりでしたので、当時のクオリティとしては標準なのかもしれませんが、今見返すとどうしてもゆるいといいますか、大ざっぱな映像に見えてしまいます。
その前に計画そのものもだいぶ大ざっぱな気がしてしまうわけですが。
銃撃戦
川縁の広い空き地での銃撃戦。
ロングショットでバイオスフィアが映っていますので、その近くだとわかりました。
カメラアングルから逆算して、バイオスフィアの南側4kmほどのところのこのあたりです。
現在はMontreal Technoparcという名前でいくつかの施設があります。
Wikipediaの記事によると、長らくゴミ処理場として使われていて万博の際に駐車場として使われたそうです。
確かに画面をよく見ると”Autobus”などの標識が映っていて、駐車場であったことがうかがえます。
おそらく万博の後そのまま放置されていたのを撮影に使ったのではないでしょうか?
ロケ地マップ
資料
- IMDb
- allcinema Movie & DVD Database
- キネマ旬報データベース
- Wikipedia(フランス語) La Course du lièvre à travers les champs
- IMCDb
更新履歴
- 2023/01/30 「階段」追記
- 2010/07/24 新規アップ
コメント
私も昔テレビで観たきりだったので、今回クレマン・ジャプリソつながりで手持ちの録画をじっくり鑑賞しました。
少年たちの背後の壁の「RUE PETITE ROQUEBARBE」を実際のプレートだと信じてマップで検索すると、マルセイユに連れて行かれましたが、そのRUEが全く見つかりません。やっとこさ見つけたのが「PLACE ROQUEBARBE」のプレートでした。
12 Rue du Vieux Palais, Marseille
やっぱりマルセイユではないのかと思いましたが、Google Playに
Des enfants jouent dans une rue de Marseille,…と書いてあり、やっぱりマルセイユ?
https://play.google.com/store/movies/details/La_course_du_li%C3%A8vre_%C3%A0_travers_les_champs?id=vDGGWBV_5TI&hl=ja&gl=US
リッツィオはマストラゴスを倒した時も眉毛の刑事を倒した時も実際にボールを投げてなかったですね。
むかし観た時はロバート・ライアンはえらい年寄りだと思いましたが、自分がいまライアンより年上になってみると、ライアン渋くてかっこいいと思えます。
ほりやんさん、コメントありがとうございます。
今確認しましたが、マルセイユですね。おみごとでした 😀
少年が登っていった階段と登り切った先は再開発が進んでもはや確認できませんが、その前に門を通り抜けるところの背景は今でも同じ建物を確認できました。
https://goo.gl/maps/H7AzK1ZZXqRXfM5P7
地形や日差しも矛盾しないので、ここで正解と思われます。
となると階段はおそらくこのあたり↓
https://goo.gl/maps/GJpbg3dQDXeqwmuh9
階段の両側に高い塀がそそり立っていますが、こういった↓状況の前後だったのかも。
ttps://multimedia.inrap.fr/userdata/atlas_chantier_photo/5/5378/5378_photo_027-carmes-2.jpg
この空撮はほぼ上が北で、Google Mapsなら↓
https://goo.gl/maps/NuLSsZuXSCeJ67vy5
画像の右端、下から1/3ぐらいのところに門があり、左に向かって登っていた感じでしょうか。
おかげさまでスッキリできました。ありがとうございます♪
ボール投げないとボークですよね。
そういえば『雨の訪問者』でマルレーヌ・ジョベールが最初にガラスを割ったときは、ホントに投げて当てたのでしょうか? どーでもいいことが気になる今日この頃……
「門を通り抜けるところの背景は今でも同じ建物を確認できました」、
たしかに同じのが見えますね。流石キャプテン、これで確信できました。
今回ばかりは、日頃のキャプテンの奮闘努力を身を持って体験できました。ここかな、ここかなとSVでうろうろし続け、もうあかんと諦めかけたときに、名称こそ違えど「PLACE ROQUEBARBE」のプレートを見つけたときは、思わず声が出ました。
ジョベールはほんとに投げ当てていますが、ドブスのクルミは桟に当たってはじかれています。桟に当てよとの指示だったのでしょうか、ドブスの視線は桟に向かっているように見えます。
ほりやんさん、ご確認ありがとうございました。
右往左往したあげく目的のものを見つけられたときの「おおっ」は私もちょくちょく経験しますが、たまらんですよね。
映画論とかは十人十色、人によって考え方が違っているのは当たり前で、いくら侃々諤々やったところで下手すりゃ荒れるだけですが、撮影ポイントは真実はひとつですから、みんなが参加できてみんなでスッキリできるというのがまた良いかなと思っています。
ジョベールはホントに投げていましたか。Blu-ray盤なら綺麗に見えるのでしょうね。手持ちがあまり解像度感がなくコマ送りにしてもよく見えなかったもので、こちらもスッキリできて嬉しいです♪
興味があるかもしれないと思いました
https://movie-tourist.blogspot.com/2024/05/and-hope-to-die-1972.html