記事内の商品画像には広告リンクが含まれています

『別れの曲』 Abschiedswalzer / La chanson de l’adieu (1934)

別れの曲 [DVD]

革命や人殺しは君の使命ではない

作品メモ

ひとつ前のエントリー『恋人たちの曲 悲愴』は、とらえどころのない原題”The Music Lovers”に無理矢理チャイコフスキーの楽曲名をつけた苦心の邦題でしたが、古今東西クラシックの作曲家にスポットを当てた映画でこれほど見事にはまったタイトルはないと思えるのがこの『別れの曲』。
ショパンの「練習曲作品10第3番ホ長調」Wが日本では「別れの曲」と呼ばれるのは、この映画の邦題が曲の愛称として定着したため。

では原題は?と見てみますと……
この映画、『わが青春のマリアンヌ』のように、独仏でキャストを入れ替えて撮影され、IMDbなどでは別の映画としてそれぞれ登録されています。
なので原題は2通り。

  • ドイツ語原題 “Abschiedswalzer” 直訳すれば「別れのワルツ」 ……ワルツじゃないですけど……
  • フランス語原題 “La chanson de l’adieu” 直訳すれば「別れの歌」 ……劇中で歌にもなっていますからむしろこちらが正解なのでしょうけど……

やはり邦題「別れの曲」が曲のイメージともどんぴしゃり、一番しっくりきますね♪

日本では1935年にフランス語版が公開。
この時原題「別れの歌」を「別れの曲」としたのは配給会社の東和商事(現・東宝東和)によるものかと思いますが、まことにグッジョブ。
そういえば『巴里祭』も東和配給で独自の邦題がそのまま日本語として定着してしまったわけで、同社由来の言葉は探せばまだあるかもしれませんね。

ドイツ語版はだいぶ後になり、1986年にNHKで放映されたのが最初の模様。
自分が見たことがあるのはこちらのはず。
このドイツ語版は近年DVDになりましたのでさらに親しみやすくなっていますが、逆にフランス語版は見る機会が失われています。

以下ドイツ語版の感想となりますが、何よりキャラクター配置が良く出来ていて、可憐なコンスタンティア、ユーモラスなエルスナー先生、そしてショパンといえばジョルジュ・サンドと、バランスよく描かれているのが良いですね。
特に個人的にツボに来たのは、フランツ・リスト。
ピアノを弾きながらショパンと握手するところなど、ピアノを扱った映画の中でも名場面中の名場面と言えるのではないでしょうか。
ルックスといい天才肌むき出しの自信と男気にあふれた態度といい、手塚治虫さんで似たキャラいませんでしたっけ??

ストーリーも、ショパンが認められていくプロセスの中に、ロマンスや祖国の独立運動がしっかり織り込まれて劇的要素に事欠かず、今の目線でも十分堪能できる内容ではないかと思われます。

監督ゲツァ・フォン・ボルヴァリー(フランス語版ではアルベール・ヴァランタンとの連名)、撮影ヴェルナー・ブランデス、製作会社Boston-Films-Co. GmbH(フランス語版はFilms Sonores Tobisとの連名)。

出演は(ドイツ語版/フランス語版)
フレデリック・ショパン:ヴォルフガング・リーベンアイナー/ジャン・セルヴェ
コンスタンティア:ハンナ・ヴァーグ/ジャニーヌ・クリスパン
ジョルジュ・サンド:ジビレ・シュミッツ/リュシエンヌ・ル・マルシャ
フランツ・リスト:ハンス・シュレンク/ダニエル・ルクールトア
エルスナー先生:リヒャルト・ロマノフスキー/マルセル・ヴァレ。

こちら↓は、ショパン生誕200年記念で2010年に上映された際の予告編。

 

配給T&Kテレフィルムのサイトでの案内↓
http://www.tk-telefilm.co.jp/TK/chopin/index.html

細かいツッコミですが、「劇中で使われるショパンの作品」のリストに「24の前奏曲作品28第4番ホ短調」が抜けていますね(コンスタンティアがひとりパリへ向かう場面)。

練習曲作品10-3ホ長調(別れの曲)

先日亡くなられた大林宣彦監督の『さびしんぼう』でもテーマ曲的に流れていたこの曲。
ショパンエチュードは練習曲と言うだけあってどれも難易度高いですが、この曲に関しては、真ん中はともかく前後のパートは初級者でも頑張れば指を動かしてなぞることができます。
あの美しい旋律は、右手の中指、薬指、小指で奏でることになり、親指と人差し指は内声を担当。
指がつりそうになりますが、左手はオクターブを押さえていれば良いので、とにかく右手に集中♪

『別れの曲』ではこの美しいメロディに歌詞が付き歌曲ともなっていますが、これまた『さびしんぼう』的ですね。
ドイツ語の歌はDVDで見ることができますし、ネットで済ますなら”In mir klingt ein Lied”で検索するとぞろぞろ動画が出てきます。

„In mir klingt ein Lied“(私の中で歌が響く)は歌詞の最初の部分。

フランス語版にはフランス語の歌が登場したはずですが、うまく見つからず。
PDFファイルですが、歌詞はこんな感じ↓

http://collections.banq.qc.ca/bitstream/52327/2427272/1/273958.pdf

ワルツ第9番変イ長調作品69-1(別れのワルツ)

余談ですが、Youなんとかで„Abschiedswalzer“を探すと「ワルツ第9番変イ長調作品69-1」Wが出てきてしまいます。
これはショパンにとってリアル別れの曲ですね。
ドイツ語版の原題はこちらからとられたのでは?と思ったりします。
映画の中でも、コンスタンティアがエルスナー先生の手紙を受け取って喜ぶ場面で、オーケストラバージョンが流れますね。

1928年のフランス映画“La valse de l’adieu”(別れのワルツ)Wはやはりショパンを主人公にしたサイレント映画ですが、そのドイツ語タイトルが„Abschiedswalzer“ ↓

https://en.wikipedia.org/wiki/File:The_Farewell_Waltz_(1928_film).jpg

なので、ドイツ語圏ではショパンのお話として„Abschiedswalzer“(別れのワルツ)というタイトルがそれなりに定着していたかもしれませんね。
ここらへん詳しい方ぜひ教えてください。

で、「ワルツ第9番変イ長調」に戻りますと、個人的には昔3Dポリゴンゲームの黎明期に「アローン・イン・ザ・ダーク」Wというのがありまして、ゲームオーバーになるとやられちゃった主人公が床をずるずる引きずられて退場、その時にこの曲が流れるので、その印象が強いのでした。
それまでゲームに費やした時間が無になって、う~~む、もう一回やるか、それとも寝るか、決断にうだうだする時の心象風景とマッチした音楽となっています。
(結局続けるんですけどね……)

  
  
  
こんな素朴な映像でも、当時は夢中になりました……
このゲームは後年映画化されましたが、結構しょうもない出来だったような……

ロケ地

IMDbには記載がありません。
意気込んで書き始めたものの、実は全然ネタがありません……orz

慈善コンサートの庭園

0:16

♪「ワルツ第7番嬰ハ短調 作品64-2」

……にのってバレエが展開する庭園。
スタジオ収録がメインのこの映画で、おそらくただ一箇所、ロケ地チェックできそうなのがこの場面。
パンフレットには„Großer Wohltätigkeits Tee im Schloßpark“とありますので、どこぞやの立派なお屋敷の庭園でしょうか。
設定ではポーランドでしょうけど、撮影はドイツでしょうか、はたまたフランス?
製作会社のクレジット的にはドイツ側で製作され、そこにフランス側が加わっている印象がありますが、詳細不明。

池とそのまわりの彫像や四阿など、いくつか手がかりがありますが、判明には至らず。
じーっと見ているうちに、なんだかだんだんオープンセットのようにも思えてきました。
気になるので、ここはギブアップではなく調査中とさせてください。

出発

事情を知らぬままに先生と馬車でウィーンへ旅立つ街角。
背景に東方教会風の建物が見えますが、それをふくめて、全部オープンセットでしょうか。

川喜多映画記念館(参考)

あまりにネタがないので、恐縮ですがこちらをご紹介。

川喜多映画記念館
〒248-0005 神奈川県鎌倉市雪ノ下2丁目2-12
http://www.kamakura-kawakita.org/

鎌倉のいつも賑わう小町通りからちょっと入ったところにあります。
東宝東和(旧東和商事)の川喜多長政氏、川喜多かしこ氏ご夫妻の邸宅があったところで、没後鎌倉市に寄贈され、2010年に鎌倉市川喜多映画記念館として開館。
館内は懐かしい映画のポスターや資料が常設、あるいは企画展示されている他、映写室もあり連日いろいろな映画が上映されています。
庭に面した日当たりの良いロビーには、両氏が内外の著名映画人と交流しているパネルが数多く展示され、長年にわたり映画を配給・紹介し続けた業績を垣間見ることができます。
かつての邸宅も、きっと多くの映画人が招かれて交流の場となっていたことでしょうね。
庭には夫妻が移築したという旧和辻哲郎氏邸が建ち、また道路を挟んだ斜め向かいには、瀟洒なたたずまいの別宅が現存(見学は不可)と、物件マニアにもおすすめの場所となっています。

記念館は、執筆現在(20/5/11)昨今の情勢により休館中ですが、事態が収束したら鎌倉のお散歩がてらぜひまた訪れてみたいですね。

資料

フランス語版

ドイツ語版

更新履歴

  • 2020/05/11 新規アップ

コメント

タイトルとURLをコピーしました