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『愛のメモリー』 Obsession (1976)

愛のメモリー デラックス版 [DVD]  

作品メモ

ニューオーリンズの実業家マイケルは、結婚記念日の幸せな夜に愛する妻と娘を誘拐されてしまいます。
犯人の要求通りに金を渡したものの、警察の追跡劇の果てに2人を事故で亡くしてしまうという最悪の結果に。
失意の彼は16年後、亡き妻と出会った想い出のフィレンツェでそっくりの女性と出会います。
たちまち夢中になった彼ですが、今度は彼女が誘拐されてしまい金を要求する脅迫状が……

……といったミステリアスなお話です。

少し前のエントリー『フューリー』同様、ブライアン・デ・パルマ監督のなつかしい映画。

デ・パルマ監督は特に初期の作品でヒッチコックの影響が見られますが、この『愛のメモリー』はとりわけヒッチコック度数の高い内容となっています。
原題の「Obsession(妄念・強迫観念)」からして「Vertigo(めまい)」を連想させますが、実際『めまい』に魅せられたデ・パルマ監督とポール・シュレイダーが構想を練ってオリジナル・ストーリーを作りました。
当初のタイトルは「デジャ・ヴ」だったのがフランス映画と間違えられそうなので「オブセッション」となったとか。

スタッフは他に、撮影監督ヴィルモス・ジグモンド、音楽バーナード・ハーマンとそうそうたる面々ですが、当時これといったヒット作がないデ・パルマ監督にとっては作品を世に送り出すだけでもたいへんだったようで、製作のジョージ・リットーは、製作費100万ドルを自宅に担保を入れるなどしてかき集めています。

映像面では全編にわたりソフトフォーカスがかかっているのが特徴ですが、年齢の問題をカバーすると同時に、夢のような効果ももたらしています。
さらに、ぐるぐる回るカメラ、スローモーション、セリフを排除した流麗な語り口など、デ・パルマお得意の映像表現がたっぷり盛り込まれています。
反面ストーリーに関しては、2時間サスペンスを見慣れた目には犯人バレバレですし、いろいろツッコミどころがありそうですが、ストーリー部分の脆弱性はデ・パルマ監督ならむしろお約束の範疇と言えるかもしれません。

全体として、映画にかける手作りの情熱のようなものがたっぷり感じられて、個人的にはデ・パルマ監督作の中ではかなり好感度が高い作品です。
昔の名画座で何度か観たあとはしばらく接する機会にめぐまれませんでしたが、今ならDVDでいつでも鑑賞することができるのがありがたいところ。

DVDには特典映像としてメイキングが収録されていて、主だったスタッフ、俳優が当時をふり返ってコメントしています。
とってつけたようなオマケの映像ではなく、作品に対する誇りとリスペクトがたっぷり感じられて、映画の好感度がさらに増すような内容となっています。
(この文章も、このドキュメンタリーが大いに参考になっています)

出演はマイケル役にクリフ・ロバートソン、エリザベスとサンドラの二役にジュヌヴィエーヴ・ビジョルド、マイケルの親友で共同経営者ロバート役にジョン・リスゴー。
クリフ・ロバートソンもはまり役でしたが、やはりジュヌヴィエーヴ・ビジョルドの存在抜きにはこの映画はあり得なかったことでしょう。

音楽

バーナード・ハーマンの最晩年の作品で、このあと『タクシー・ドライバー』を手がけてその年(1975年)の暮れに急死しています。
DVDにミュージック・チャプターも付いているのは、敬意の表れでしょうか。

どしゃ~んというテーマ曲はパイプオルガンまで使った重厚なものですが、当時せっかくサントラLP買ったのに、安物のステレオでは音が完全に割れてしまって聴けたものではありませんでした。
そういった分厚いスコアから、繊細で美しいワルツまで粒ぞろいの仕上がりとなっていて、映画を見事に盛り上げています。

作品メモ(ネタばれ)

(※13/1/31 折りたたみ処理追加)

ネタばれ的内容につき折りたたんでいます。クリックすると開きます。

オリジナルのシナリオ

ポール・シュレイダーのシナリオではさらに続きがあったそうです。

刑期を終えたマイケルはあの教会を再び訪れます。
そこで目にしたのは精神分裂状態に陥っていた娘。
教会の司祭が「病を治すには誘拐の再現しかない」と助言し、マイケルは本物の金を用意します。
彼女は正常な精神状態に回復し、父親と抱擁して結末に。

う~む……
これでは誘拐劇が3回くりかえされるわけでして、珍プレーじゃないのですからさすがにしつこいでしょう。

結局バーナード・ハーマンの助言によって、この部分はカットしたとのこと。
それで正解ですね。

ラスト

抱き合う2人の周囲をカメラがぐるぐる回って、ストップモーションでエンドクレジット無しに終わる……
『男と女』を連想しますが、もちろん直接的な影響は『めまい』でしょう。
いずれにせよ見事なカメラワークでした。

ロケ地

IMDbでは

Basilica di San Miniato al Monte, Florence, Tuscany, Italy
Florence, Tuscany, Italy
New Orleans, Louisiana, USA

という具合に、主な舞台はルイジアナ州ニューオーリンズとイタリアのフィレンツェ。
設定上はこの2箇所ですが、撮影は他にロサンゼルスでも行われています。
(橋、ニューオーリンズ空港等)

屋敷

個人宅を撮影に借りたようです。
撮影途中で(家が傷むことを恐れた)家主の要請で内部の撮影ができなくなり、パサデナにある旧家の2階を屋敷と同じ内装に替えて撮影を続けたとのこと。 [1]DVD収録のドキュメンタリーから

そういった事情もありますし、個人宅ということですので、場所の特定は避けることにします。

ちなみに、屋敷にある肖像画はデ・パルマ監督の兄バートン・デ・パルマが描いたもの。

※15/8/15追記
中盤サンドラを連れてやってきたとき彼女はトウモロコシ型の門柱をなでなでしますが、そういえばフェンス全体が『狼の挽歌』で登場したThe Cornstalk Hotel(コーンストーク・ホテル)と同じようなトウモロコシのデザインとなっています。彼の地ではポピュラーな仕様なのでしょうか。あるいはこちらがオリジナルとか??

このエントリーを最初に書いたときお屋敷の周辺ではストリートビューが使えませんでした。現在は利用できるため場所はピンポイントで特定できますが、やはりプライベートな物件かと思いますので、それは避けることに(雰囲気でお判りの通り、お屋敷は豪邸が並ぶGarden DistrictWにあります)。
今年(2015年)のストリートビューでは”FOR SALE”となっていました。
宝くじが当たったとしても買えないかもしれませんが、おひとついかがでしょう??

ボート

3143020944_7dd099b1b3_b.jpg 身代金を持って乗り込んだボート。
“COTTON BLOSSOM”と書かれてありますが、実際に当時ミシシッピ川を走っていたボートです。

身代金を受け渡した桟橋

背景等からこのあたりと思われますが、桟橋そのものは既に無くなっています。

墓地

エリザベスとエミーのお墓(記念碑)。
もちろんセットですし、周囲も墓地のようには見えませんが……

PONTCHARTRAIN MEMORIAL PARK
NEW ORLEANS, 1975

とテロップが出ますが、調べたらニューオーリンズにはPontchartrain Parkという公園とゴルフコースがありました。  → Wikipedia(英語) Pontchartrain Park, New Orleans
撮影場所としてはおそらくそこで、お墓のセットが建てられたのはピンポイント的にはこのあたりでしょう。

電信柱の並び方や地形などから判断しました。
間違っていたらすみません。

航空写真ではコースが荒れ果ててしまっているように見えますが、これはハリケーン・カトリーナの被害にあったためです。
今年(2009年)ようやく市の予算がついて、復旧作業に入るとのこと。 [2]http://www.wwltv.com/topstories/stories/wwl070409mgentilly.9b34dc7.html

高層ビル

マイケルとロバートの会社のオフィスが入っている(という想定の)高層ビル。

One Shell Square
701 Poydras Street, New Orleans, LA 70139-6001, USA
http://www.oneshellsquare.com/

※15/8/15 Picasaウェブアルバムに切替

窓の外に見えるドーム状のものは……

ルイジアナ・スーパードーム Louisiana Superdome

※13/1/31 追記

milouさんから画像を追加提供していただきました。
(いつもありがとうございます♪)
撮影は1994年とのことです。

商談相手と歩いてくる場所

ここからフィレンツェ編。

ウフィツィ美術館W

カメラがぐるっと廻って映る川は、フィレンツェの街を東西に流れるアルノ川。

※12/7/12 追記
milouさんから画像を提供していただきました。
(いつもありがとうございます♪)
撮影は2010年とのことです。

わざわざ映画と似たアングルのものをセレクトしてくださったとのことで、お手数おかけしました。

カフェ

※15/8/15項目追加
翌日2人で話をしていたところ。

窓の外はシニョーリア広場で、こういったアングル。

以前『眺めのいい部屋』『ハンニバル』で使わせていただいたmilouさんご提供による画像です。

なので、カフェは上のSVをくるりと振り向いたところにあるこちら。

RivoireW

『ハンニバル』ではこの表でレクター博士がワインを味わっていました。

想い出の教会(外観)

エリザベスと出逢った想い出の教会。
お墓のデザインはこれを模しています。
外観の撮影はこちら。

サン・ミニアート・アルモンテ教会
Basilica di San Miniato al Monte
Florence, Tuscany, Italy

マップ↓

※12/7/12 追記
こちらもmilouさんから画像を提供していただきました。

タイトルバックとほぼ同じアングル。

入口。

ここから先は内部(参考画像)。

階段右横から見た市街。

想い出の教会(内部)

ロケ場所を選んだ後、一般の映画会社を装った何者かがとある教会でポルノ映画を撮ってしまったため、すべての映画会社が閉め出されてしまいました。 [3]DVD収録のドキュメンタリー、及びIMDbのtriviaから
そのため内部の場面は、フィレンツェの南西40kmほどのところのサン・ジミニャーノ San Gimignano で撮られています。

2461845016_c2a2f27739_800pxs.jpg Collegiata di San Gimignano

マップ↓

2241957275_27728be23b_o.jpg マイケルの歩みにあわせてゆっくりと映されていたのは、右側の壁にあるバルナ・ダ・シエナ (Barna da Siena) のフレスコ画。

なおDVD収録のドキュメンタリーでデ・パルマ監督の話が「ようやく中を撮れたのがサンミニアートだ」と訳されていますが、音声では「サン・ジミニャーノ」と言っているので誤訳です。

修復中の絵

164336400_19d87cc648.jpg サンドラが修復していたのは、ベルナルド・ダッディ(Bernardo Daddi)のmadonna delle grazie のフレスコ画。
もちろん映画に登場していたのはコピーで、ホンモノが上記の場所にあるわけではありません。

164336674_2e65282157_b.jpg 実物はこちらにあります。

フィレンツェでサンドラの後をつけている時に渡る橋。

Ponte_Santa_Trinita_a_Firenze.jpg Ponte Santa Trinita

画像はWikipediaから(パブリックドメイン)。

背景に見える橋は……

41685365_cda4e4acae_o.jpg Ponte alla Carraia

416345755_32d12cfdd0_b.jpg Ponte Vecchio

→ 『眺めのいい部屋』

※12/7/12 追記

こちらもmilouさんから画像を提供していただきました。
映画とは反対側、1つ東のPonte alle Grazie からのPonte Vecchio。

サンドラが立ち寄ったところ

※15/8/15 項目追加
0:33頃、サンドラを尾行してやってきたところ。
あとで病院とわかります。

調査中

サンドラの住まい

※15/8/15 項目追加
0:34頃、サンドラを尾行してやってきたところ。
やや曲がった路地にあります。

調査中

ロバートと別れたところ

※15/8/15 項目追加
0:36頃ホテルの前という設定でしょうか、先に帰るロバートと別れたところ。

Ospedale degli InnocentiWの前

この広場はこれまでとりあげてきたフィレンツェを舞台にした映画で言えば、『ハンニバル』のレクター博士の住まい、『イタリア式バス旅行』の警察署前、『眺めのいい部屋』の「ボンジョールノ・フェルディナンド」とほとんどで登場。
狭い街なので、どうしても撮影可能な場所が限られてしまうのかもしれませんね。

ランチ

眺めからみて、ミケランジェロ広場に面するこちらでしょうか?(未確認)

La Loggia
http://www.ristorantelaloggia.it/

ブリン・マー・ウォーク

ヴェッキオ宮殿(Palazzo Vecchio)W

ダンテとベアトリーチェ

※15/8/15項目追加
0:48頃、高い塔からカメラが降りてきて回廊部分にいるふたりを捉えるところ。

想い出の教会の内部を撮影したサン・ジミニャーノ(San Gimignano)Wにある一番高い塔。
ウェブマップではTorre Grossaとあります。
その南側の中庭から撮られています。

結婚式を挙げる(予定の)教会

St. Louis Cathedral, New Orleans
http://stlouiscathedral.org/

※13/1/31 追記

milouさんから画像を提供していただきました。
(いつもありがとうございます♪)
撮影は1994年とのことです。

銀行

※15/8/15項目追加
身代金を調達したところ。

Hibernia Bank BuildingW

再び身代金の受け渡しをする桟橋

もちろん過去の時と同じ桟橋です。
それならわざわざ別に項目を立てる必要はないわけですが、夕焼けの中でマイケルが茫然とするカットでちょっと興味深いことが。

背景の向こう岸のやや左側にシルエットとして見える高層ビルは、上記オフィスのあるOne Shell Square。
右側に見える小さい尖塔は上記St. Louis Cathedral。
つまり、物語上のポイントとなる建物がちゃんとおさまっているという、(意図的であるとすれば)実によくできた構図となっています。

空港

ニューオーリンズという設定でしょうけど、実際の撮影は外観も内部もロサンゼルス空港です。

ロケ地マップ

フィレンツェを中心に(他の映画とあわせて)。


より大きな地図で フィレンツェが舞台の映画 を表示

※2014/06/22追記。
ニューオーリンズを中心に(他の映画とあわせて)。


より大きな地図で ニューオーリンズのロケ地 を表示

資料

更新履歴

  • 2015/08/15 「屋敷」追記。「商談相手と歩いてくる場所」「ブリン・マー・ウォーク」「結婚式を挙げる(予定の)教会」ストリートビューに切替。「カフェ」「サンドラが立ち寄ったところ」「ロバートと別れたところ」「ランチ」「ダンテとベアトリーチェ」「銀行」項目追加
  • 2014/11/28 milouさんの画像の残りをPicasaウェブアルバムへ切り替え
  • 2014/06/22 「ロケ地マップ」にニューオーリンズを追加
  • 2013/11/30 milouさんの画像をPicasaウェブアルバムへ切り替え

References

References
1 DVD収録のドキュメンタリーから
2 http://www.wwltv.com/topstories/stories/wwl070409mgentilly.9b34dc7.html
3 DVD収録のドキュメンタリー、及びIMDbのtriviaから

コメント

  1. milou より:

    フィレンツェの分かりやすい部分から。
    商談の翌日クロワッサンを食べるカフェは
    ウフィツ広場の奥に見えた時計塔の向かい
    Piazza della Signoria 広場の老舗 Rivoire。

    ランチを食べるレストランは位置的に
    Ristorante La Loggia (Piazzale Michelangelo,1)
    だと思われる。
    遠くにドゥオモーの鐘楼、やや右手に見える塔は
    パッツィ礼拝堂(Piazza Santa Croce,16)だろう。

    (誰の?)母親が入院しているのは San Giovanni 病院というが
    Via Torregalli, 3 にOspedale San Giovanni di Dio
    というのは見つかったが別物だった。

    次にニューオーリンズ。
    まず PONTCHARTRAIN MEMORIAL PARK というのは
    (CS放送の字幕も墓地だが)少なくとも元々ある墓地ではなく、
    彼個人が所有している土地だと思います。
    だから周囲が墓地のように見えなくて正解。

    ちなみにポンチャートレイン湖も94年に行きましたが
    昨年まで世界最長(38.41キロ)の水上の橋があります。
    もちろん向こう岸は見えず海のようにしか思えなかった。

    サンドラがアメリカにやってきて家に行くとき車で
    Cresent City Connection の鉄橋を渡る。
    当然75年当時に比べ高層ビルが増えているが窓の外、
    左に一番高いOne Shell Square その右にLYKESと書かれたビルが見え
    その右がMarriott、さらに右に少し変わった形(十字)の
    International Trade Center ビルが見える。

    現在のGoogle Earth ではLYKES のビルが見当たらない。
    ところが僕が94年に多分International Trade Center の展望台から
    撮った写真の目の前にLYKES があり奥にOne Shell Square が映っている。
    位置関係から調べるとLoewes のビルだが文字がLOEWS に変わっただけでなく
    改築したのかビルの形も少し変わっている。
    Wikiによると、まさに94年まで本社がニューオーリンズにあった船会社だった。
    http://en.wikipedia.org/wiki/Lykes_Brothers_Steamship_Company

    そして船のCotton Blossom だが脅迫状にあるように遊覧ツアー船で
    ミュージカルの「Show Boat」から取られた名前。
    現在も運行しているが場所が変わりポンチャートレイン湖の北、Madisonville。
    映画の場所の現在はNatchez 号です。
    http://www.steamboats.org/traveller/lower-mississippi-river/nola.html

    あと金の受け渡し場所はOld Bermuda Warf で実在しないようだが
    ラストの桟橋だとすれば、本当は理屈に合わない。
    なぜなら観光船は現在の航空写真でも停泊しているように
    教会のあるジャクソン広場近くのWoldenberg Park の桟橋から出る。
    船は南に向かい鉄橋を通ったかは分からないが10分ぐらい(?)は
    動いているはず。

    しかしラストの桟橋があるのは対岸のアルジェならぬAlgiers で
    目の前。対岸へは無料のフェリーがあり僕も渡ったが5分ぐらい。
    ちなみに対岸の住民は黒人ばかりだった。

  2. inagara より:

    milouさん、いつもコメントありがとうございます。レス遅れてすみません。
    送っていただいた写真、何枚かアップさせていただきました。
    本当はドーム内のずらり並んだテーブルの画像がインパクトあったのですが、エントリーの内容と直接は関係ないので涙を呑んで割愛。
    他のロケ地情報も多謝です。本当にあちこちいらしてるんですね~。
    3年前のエントリーとなると自分でもほとんど内容を覚えていませんでしたが、久々に読んでみるとなんだかえらくマニアックなサイトだと改めて自覚してしまいました。

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