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『ローマに散る』 Cadaveri eccellenti (1976)

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作品メモ

『シシリーの黒い霧』(62)『パレルモ』(90)とフランチェスコ・ロージ監督作を続けてきましたが、もう一本。
年代的にはちょうど真ん中、1976年の作品で、法曹界トップを狙った連続暗殺事件と、その謎に立ち向かう刑事を描くという、やはり監督お得意の社会派サスペンスものとなっています。
『黒い砂漠』(72)、『コーザ・ノストラ』(73)に続く作品で、社会派監督というくくりでは、このあたりでひとつのピークを迎えているような印象でしょうか。
ここらへんはその昔、コスタ・ガヴラス等とともに名画座で好んで見て回ったような記憶があります。

主演のロガス警部にリノ・ヴァンチュラ。どちらかといえば暗黒街的ルックスの彼が、刑事役をつとめているのが面白いところ。
脇役は フェルナンド・レイ(大臣)、マックス・フォン・シドー(最高裁長官)、シャルル・ヴァネル(検事)、アラン・キュニー(判事)と渋目がそろっていますが、特に分厚いメガネをかけたマックス・フォン・シドーは、もはや怪演に近いレベルで見ものです。

撮影パスカリーノ・デ・サンティス、音楽ピエロ・ピッチオーニはフランチェスコ・ロージ監督の常連。

予告編の動画を埋め込みたいところですが、なにせいきなりミイラがどーんとアップで登場したりするので、自粛 😇

こちら↓はご参考までに英語字幕付き。
https://www.youtube.com/watch?v=Q4lQhEZmpp8

原作、タイトル

原作は、シチリアの作家レオナルド・シャーシャ(Leonardo Sciascia)Wによる『権力の朝』Il contesto (1971)W
翻訳本は1976年に新潮社から刊行。

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長めの中編小説といっていいぐらいのボリュームで、舞台はローマはおろかイタリアともつかぬどこかの国。
映画化となると実際の映像からどうしてもイタリア国内であることが見て取れてしまいますが、それを除けば、映画はほぼ同じ内容になっていて、原作を大幅に割愛した『パレルモ』とはだいぶアプローチが違っています。
原作の原題«Il contesto»は、「コンテキスト(文脈、脈略)」。
翻訳タイトル『権力の朝』は原題とは無関係に、よりわかりやすくキャッチーなものになっています。

映画原題«Cadaveri eccellenti»は「高官たちの死体」[1]『権力の朝』訳者(千種堅氏)後書きから。
邦題『ローマに散る』はこれまた原題とは全然関係ありませんし、『ベニスに死す』(71)がちらついてしまって少々損をしているかもしれませんが、短い中に「黒々とした闇の力に立ち向かう孤高の刑事」的な雰囲気まで(なぜか)感じることができ、なかなか印象的。
おそらく「散る」という言葉のイメージと、用言止めの効果もあるのかと。
実際には特にローマが前面に出てくるわけでもなく、撮影の多くはナポリやシチリア。
パリでめぐり逢わない『パリのめぐり逢い』みたいなものでしょうか。

というわけで、映画の原題と邦題、原作の原題と邦題、4つすべてがてんでバラバラで無関係な作品となっているのでありました。

ロケ地

IMDbでは、

Agrigento, Sicily, Italy
Palermo, Sicily, Italy
Cinecittà Studios, Cinecittà, Rome, Lazio, Italy
Museo Napoleonico, Rome, Lazio, Italy
Naples, Campania, Italy
Palazzo Spada, Rome, Lazio, Italy

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

カタコンベ

冒頭ヴァルガ検事が物思いに耽りながら過ごすところ。
俳優はCharles Vanel。 ⇒ IMDb Photo

ずらり並んだミイラがインパクトありすぎ。
これはパレルモのこちら↓

Catacombe dei Cappuccini di Palermo(パレルモ、カプチン派のカタコンベ)

SVや画像はこのカタコンベの名称で検索すればわんさか出てきますが、こういうのダメな方もいらっしゃると思いますので、どうぞご注意を。

なおGoogle Mapsでは南側の向かいの建物にカタコンベのマーカーが付けられていますが、上掲の位置の方が正解のような……

第1の暗殺

カタコンベを出たヴァルガ検事が、車には乗らず、少し歩いた後に撃たれます。
カタコンベの外は上記撮影場所とは別の場所で、おそらくシチリアではなさそう。
気になるので調査中。

ジャスミンの花を摘もうとした時に撃たれるというのは原作通り。
それを受けて葬儀では司祭がジャスミンについて触れています(これも原作通り)。
『パレルモ』でも映画原作ともにジャスミンが登場していました。
何か特別な意味がある花なのでしょうか?
ご存じの方教えてください。

修道士への聴き取り

なかなか強烈なキャラの修道士。
役名はCapuchin Monk、俳優はEnrico Ragusa。 ⇒ IMDb Photo

ベルナルド・ダ・コルレオーネの柩と言っていますが、ホンモノではなさそう。

設定としてはカタコンベのある寺院ということだと思われますが、撮影場所は不明。
ヴァルガ検事がミイラ好きという設定は映画オリジナル。

葬儀

ヴァルガ検事の葬儀が行われたのは、ナポリのこちら↓

San Domenico Maggiore(サン・ドミニコ・マッジョーレ)W

要人が次々参列しますが、最後にマの人とおぼしき、杖をついた男が現れます。
演じたのは Corrado Gaipa。後ほど刑務所で再登場。
このキャラ、見た目や杖をついているところなど、『ゴッドファーザー』のドン・トマシーノを連想します。

教会の外の広場

市長でしょうか、検事はマフィアに殺されたと声を上げますが、若者たちからはブーイング。
その後葬列が広場をぐるりと巡ります。
ここは前項目の教会が面するこちら↓

Piazza San Domenico MaggioreW

オベリスクは↓

Obelisco di San DomenicoW

見下ろす広場

市長?が窓を開けて見せるところ。
先の広場と似ていますが、やはりナポリの別の場所。

こちら↓のオベリスクがある広場。

Obelisco di San Gennaro(サン・ジェンナロ方尖塔)W

第2の暗殺

0:13
サンツァ判事(Judge Sanza)が高速道路で発見されます。
俳優は、Francesco Callari。 ⇒ IMDb Photo

列車からの眺め

0:15
急遽第2の暗殺現場へ向かうロガス。
列車の車窓から、高速道路の高架の向こうに高層住宅が林立している様を眺めます。

これはシチリア南西部のこちら↓

Agrigento, Sicily, Italy

アグリジェントの街を、移動する列車からカメラ北向きで撮っています。

ここでは列車は西に向かって進んでいますが、次のショットは、アグリジェントの街の中を東に向かって進んでいます(IMDb Photo)。

到着した駅

0:16
到着したのはおそらくこちら↓

アグリジェント中央駅

事件現場

アグリジェントの街が背景に見えますので、位置をピンポイントで特定できます。
近所の人が街を指差すショットは、だいたいこの位置↓

映画では家が建っていましたが、今ではこの↓あたりに基礎の跡が見られますので、こちらではないでしょうか?

拘置所

0:20
葬儀に参列したマの筋っぽい男と(おそらく)その一味を船で連れてきたところ。 ⇒ IMDb Photo

撮影場所は不明。

ヴァルガ検事の葬儀に来ていたので、まずマフィアとのつながりを疑ったという設定でしょうか。
この場面や人物は映画オリジナルかと思います。
マの線をいったんなくすことで、対マフィア戦争を描いた映画ではないことを、作り手が早々に示したかったのかもしれません。

第3の暗殺

0:21
判事カラーモは、BANCA NAZIONALE(国立銀行)に寄ったところを狙撃されます。

建物の標示は↓

Camera di Commercio Industria Artigianato e Agricoltura di Napoli(ナポリ商工会議所)

宮殿

0:23
大きな階段を、早足で降りてくる一団。
警視総監(Tino Carraro)が公安大臣(フェルナンド・レイ)に犯人逮捕を厳しく命じられます。

ナポリの王宮、パラッツォ・レアーレ・ディ・ナーポリ↓

Palazzo Reale di NapoliW

通過した部屋↓

大階段ホール↓

空港

0:24
現在のファルコーネ・ボルセリーノ国際空港(パレルモ空港)。

おしゃれな管制塔と背景の山で、パレルモであることがわかります。
IMDb Photo

ここは大臣にカツを入れられた警視総監が飛んできた、という設定でしょうか。

警察署?

はっきりとは示されませんが、吹き抜け天井近くまで埋め尽くされたファイルや、張り出された3人の被害者、そしてシチリア島の地図ということで、地元警察署でロガス警部が率いる捜査本部という設定でしょうか?

IMDb Photo

空港ビル

警視総監が戻るのを見送るという設定でしょうか。
場所はおそらくパレルモ空港のターミナルビル。
暗殺された判事たちが関わった裁判から、3人の容疑者が浮かび上がっていることが示されます。

容疑者1

0:27

最初の容疑者が広場の記念碑に寄りかかっています。
場所はこちら↓

シクリアーナW

背景の教会は↓

Il Santuario del Santissimo Crocifisso di siculiana

男が寄りかかっていたのは、戦争記念碑。

原作ではカルコという将軍の像という設定。
この男、原作でも映画でも住所不定無職でただブラブラしているだけの怠け者。IMDbの役名も”The lazy”ってそのまんま。 ⇒ IMDb Photo
早々に容疑者リストからはずれます。

容疑者2

0:31
どこぞやの建設現場。 ⇒ IMDb Photo

場所不明。

容疑者3

0:32
3人目は薬剤師のクレス。

住まいの外観が写りますが、これだけでは判明は難しいかも。

はじめに、ただひとりの友人というマクシア医師を訪れます。
続いてクレスの部屋に入りますが、もぬけの空。

灯りが付くなり流れてくるタンゴは、アストル・ピアソラ。
こちら↓のアルバムに2曲収録されています。

«ピアソラ オリジナルサントラ集»

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収録映画は、『エンリコ四世』『ローマに散る』『サンチャゴに雨が降る』。
そういえば『サンチャゴに雨が降る』も『ローマに散る』と同時期の用言止め社会派映画ですね。こちらもそのうち取り上げたいと思います。

この後語られるクレスの妻(IMDb Photo)のエピソードは、猫好きの方は閲覧注意。
見ようによってはマタタビ与えただけかもしれませんが……

引き出しからは顔がくりぬかれた写真が見つかります。
気がつけば、クレスの顔写真が一枚も見当たらないのでした。

室内も外観の場所と同じと思われますが、場所不明。調査中。

IMDb Photo

一緒にいた男性は地元の刑事でしょうか。
ロガスのことを「ドットーレ」と呼ぶので、『モンタルバーノ』のカタレッラを思い出します。

第4の暗殺

前夜(0:41)ロガスが訪れたばかりのラスト判事が、次の標的となってしまいます。

Judge Rasto(Alain Cuny) ⇒ IMDb Photo

0:47, 0:48に外観が写りますが、場所不明。

クーサンとの会食

現場の外で話しかけてきた友人クーサンと食事。 ⇒ IMDb Photo

クーサンは同窓生で、コミュニスト寄りの作家。
場所はありがちなベイサイドですが、粘ればわかるかも。

第5の暗殺

0:52
ペッロ判事(GIUDICE PERRO)が射殺されたとテレタイプで入電。
2人の若者が現場から逃げていったという目撃証言から、容疑が若者たちの過激派グループに向けられ、ロガス警部はブロマ警部に協力することを指示されます。
このブロマ警部、盗聴を駆使しているようで、どうやら公安ですね。 ⇒ IMDDb Photo

過激派は«グループZ»。

1:02頃、目撃証言がモノクロ映像で再現されますが、設定では司法省の前。
撮影場所は不明。

警察署前

1:03
ブロマと別れるところ。
昭和のSF映画に出てきそうなレトロモダンなビルの谷間。
調査中。

リケス最高裁長官の住まい

1:04
いったん明日来るようにと追い返されますが、外のバス停で待っていると、三軍のトップや警視総監など要人が次々出てきます。
かなり立派なお屋敷ですが、場所不明。
調査中。

リケスの書斎

1:14
翌日ようやく面会がかなったロガス警部が書斎に入っていくと、分厚いメガネをかけた最高裁長官が迎えます。

リケス(Riches)[2]翻訳本では、スペイン語風に「リチェス」と表記役はマックス・フォン・シドー。 ⇒ IMDb Photo

彼の動きに合わせてカメラがぐるりと回ったとき、一角にこちら↓の絵(いわゆる「裸のモナ・リザ」)が見えます。(⇒ IMDb Photoでは、ちょうどリケスの体に隠れています)

多くの模写といいますかバージョンがありますが↓

映画で掛かっていたのは、こちら↓のように見えます。

“Primoli Version,Rome”とある通り、これはローマのこちら↓にあるもの。

Palazzo Primoli(プリモリ宮)W

画像を探ってみますと、同じような部屋に同じような額縁で飾られているものが見つかりました。
なのでおそらくこちらで正解。

一枚の絵をヒントに答えを導き出すことができ、この場所についての探索はかなり満足 😀 [3]IMDbのリストの”Museo Napoleonico, Rome, Lazio, Italy”が同じ建物内のようなので、この部屋のことを示しているのかもしれません。

ちなみにこの場面、リケスが椅子に腰掛けると2人の間にこの絵が見え続けるようになりますので、明らかに絵を意識しています。
リケスが立ち上がってから警部の周りを回って本を手に取り腰掛けるまで2分半近くがワンカット。セリフも演技もカメラの動きも緊張感たっぷりで、これはお見事でした。

部屋を出てから玄関までは、Palazzo Primoliではなくどこかのお屋敷と思われますが、場所不明。

パーティー

1:21
下に降りると、玄関前に97から始まるナンバーの白いベンツが停まっています(=第5の暗殺現場で走り去るのを目撃されていた車)。
長官の部屋の下に住んでいるのは海運王パトスという人物で(IMDb Photo)、そこでパーティーが開かれている模様。
客の中にはなんと公安がマークしている過激派«グループZ»のリーダー、ガラーノ(Galano)もいたりします。

フェルナンド・レイ演じる治安大臣がロガスにいろいろ話を聞かせますが、これでだいぶ話の構造が見えてきます。

動物園

1:41
クーサンと密かに会ったところ。
盲導犬に仕掛けられたマイクがその内容を録音し、リケスがそれを聞いているという驚きの展開。

美術館

1:45

IMDB Photo

アマールと会おうとしたところ。
アマールの肩書きは、原作では国際革命党書記長。
撮影はこちら↓

国立考古学博物館(ナポリ)W

階段までの廊下↓

階段↓

警部が通り過ぎる図版前↓

2人が会ったところ↓

映画では突き当たりの部屋でしたが、現在はもうひとつ奥に部屋が続いているようです。

ラスト

クーサンがやってきたところ。
赤旗が並んだ壁一面の絵画が目を惹きます。

Renato Guttuso(レナート・グットゥーゾ)W
«I funerali di Togliatti(トリアッティの葬儀)»W

なので、そこはおそらく党本部という設定。
クーサンの相手は原作では副書記長。

絵画は実際にはボローニャ現代美術館所蔵。

なぜかレーニンが2人いますね……

グットゥーゾは、これまでのエントリーで言えば『シチリア!シチリア!』の祝賀パーティー場面で(俳優が)登場済み。
パルミーロ・トリアッティW『明日を夢見て』で名前が登場しています。

ロケ地マップ

資料

更新履歴

  • 2022/10/06 新規アップ

References

References
1 『権力の朝』訳者(千種堅氏)後書きから。
2 翻訳本では、スペイン語風に「リチェス」と表記
3 IMDbのリストの”Museo Napoleonico, Rome, Lazio, Italy”が同じ建物内のようなので、この部屋のことを示しているのかもしれません。

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