作品メモ
ひとつ前のエントリー『サウンド・オブ・ミュージック』の音楽祭の項目で『カサブランカ』のことに触れたので、勢いでアップ。
ヴィシー政権時代、フランス領モロッコのカサブランカでナイトクラブを経営するリック・ブレインにハンフリー・ボガート。すでにエントリー済みの『東京ジョー』は、どうしてもこの映画とかぶるところがありますが、比べてみると面白いかも。
かつての恋人イルザ・ラントにイングリッド・バーグマン。
イルザの夫でレジスタンスの指導者ヴィクトル・ラズロにポール・ヘンリード。
食えない男ルノー署長にクロード・レインズ。
ドイツ軍のシュトラッサー少佐にコンラート・ファイト。
盗んだ通行証をリックに預けたウーガーテにペーター(ピーター)・ローレ。
通行証で一儲けをたくらむフェラーリにシドニー・グリーンストリート。
ピアノ弾きサムにドゥーリー・ウィルソン(Dooley Wilson)。
リックと何やらあった風の女イヴォンヌにマデリーン・ルボー。
ルーレットを回していたのはマルセル・ダリオで(クレジットなし)、実生活ではマデリーン・ルボーと夫婦……でした、1942年まで。別れたのは映画撮影後でしょうかね。大きなお世話ですが。
この他、ラッキーーナンバー22のナイスカップル、店のスタッフなど印象的なキャラが次々登場。主役たちのメロより、脇役の人生が気になったりします。
監督マイケル・カーティス、撮影アーサー・エディソン、音楽マックス・スタイナー。
アカデミー賞は作品賞、監督賞、脚色賞を受賞。
お役に立つ
確か白井佳夫さんが日本映画名作劇場(東京12チャンネル)でこちらの映画を紹介した際、「換骨奪胎」という便利な言葉を使われていました。
以前のエントリーで「モチーフにする」というこれまた便利な表現があることを発見?しましたが、「お役に立つ」がやっぱりポジティブな語感があって使いやすいかも。
通行証
ウーガーテがリックにブツを預ける場面。
私が見たDVDの日本語字幕では「ドイツ軍発行の通行証だ」ですが、英語字幕では”Letters of transit signed by General DeGaulle.”で、実際そう言っているように聞えます。
ド・ゴール将軍の署名入りといってもここでは意味無いような気もしますが、どうなんでしょう??
IMDbのGoofsにもピックアップされていますが(→ IMDbのGoofs)、史実としてこれでOKなのか、シナリオがそうなっていて深い意味があるのか、それとも単なるセリフの言い違えなのか、不明。
きっとどこかに正解が書かれているかと思いますが、とりあえずメモ書き。
音楽
“Play it, Sam”とせがまれてサムが歌った「アズ・タイム・ゴーズ・バイ(As Time Goes By)」Wは、この映画のオリジナルではなく、ミュージカル”Everybody’s Welcome”から。
これを「時の過ぎ行くままに」と書くと沢田研二さんとごっちゃになるので、カタカナ表記の方が良いかもしれませんね。
Youなんとかにいくつもアップされていますが、こちらは途中からバーグマン萌えとなる編集。
こちらは歌合戦。これまたYouなんとかにいろいろアップされています。
まあこれは盛り上がりますわね。
最初にドイツ軍人たちがご機嫌で歌っていたのは、「ラインの守り(Die Wacht am Rhein)」W
対するは「ラ・マルセイエーズ」でどちらも勇ましい歌詞。
こういうとき日本人は何を歌えば良いのでしょう??
ロケ地
一目瞭然、大半がスタジオでの撮影。
IMDbでもこの通り。
それでもごく数ヶ所、スタジオ以外の場所も見受けられます。
空港
シュトラッサー少佐が到着したところ。
Metropolitan Airport – 6590 Hayvenhurst Avenue, Van Nuys, Los Angeles, California, USA (Strasser’s arrival)
周囲はマットペインティングでしょうか。
回想のパリ
スクリーンプロセスによる、セーヌ川の遊覧船の場面(上掲バーグマン萌え編集版「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」の1:50頃)。
背景に見えるのは、ルーエレ橋(Pont Rouelle)W
鉄道橋で、橋桁部分の鉄骨が今とは多少違って見えますが、橋脚部分は同じデザインのように見えます。
Rick’s Cafe
リックの店は映画の中のもの。
現実に存在したとしたら「なんちゃって」なわけですが、こちらはカサブランカで2004年にオープンしたというお店。
お店のサイトは開くと音楽が流れるのでご注意を。
- http://www.rickscafe.ma/about.htm
資料
更新履歴
- 2014-11-16 新規アップ
コメント
裕次郎の「夜霧よ今夜も有難う」が「カサブランカ」からの露骨なパクリだということはよく知られています。
ただし、これほど完璧に「換骨奪胎」した映画は他にあるでしょうか。
「カサブランカ」の世界を日本的土壌の中に見事に取り入れたシナリオは芸術的でさえあります。
「カサブランカ」ファンの皆さん、日本版「カサブランカ」の「夜霧よ今夜も有難う」を一度見てみてください。その「換骨奪胎」ぶりに驚嘆しますよ。
裕次郎後期の傑作です。
赤松さん、「オマージュ」という便利な表現もありました♪
通行証に関して
カサブランカは10回以上観ていますが、このセリフの矛盾に全く気付きませんでした。お恥ずかしい限りです。そこで色々と調べてみました。手持ちの書物3冊とネット検索もしてみました。
書物
1 Casablanca The Film Classics Library edited by Richard J Anobile, Darein House Book, New York, 1974年 すべてのシーンの写真とセリフが掲載された本です。その40ページに Ugarte: Letters of Transit signed by General de Gaulle. とあります。
2 カサブランカ ハワード・コック著 隅田たけ子訳 新書館 1975年 原本は Casablanca 1973 by Howard Koch あとがきにカサブランカ上映30周年を祝って出版された「カサブランカ・物語と伝説」の主要部分の翻訳とあります。
その20ページに ウガーテ(声を小さくして):ウェイガン将軍の署名した転出許可書さ。 とあります。
3 カサブランカ マガジンハウス cine-script book 第3弾 1994年 これは、すべての英語のセリフとその日本語訳と主なシーンの写真を掲載したものです。その34ページに Ugarte: (Lowers his voice) Letters of transit signed by General De Gaulle.とあります。その日本語訳は、ウガーテ(声を落とす):ドゴール将軍のサインした通行証だ。となっています。
ネットですが、Casablanca, letters of transitでググると、著名な映画評論家Roger Ebertのブログにたどり着きました。
彼のMovie Answer Man(https://www.rogerebert.com/answer-man)に、通行証に関して3人から質問(Q)があり、Ebertが答えています(A)。
1人目は1996年6月23日の日付で、
Q:UgarteがLetters of Transit signed by General DeGaulle. と言っているが、自由フランス軍のリーダーの手紙?ドゴールはナチスとビシー政権の敵だから、こんな書類をもっていることは自殺行為だろう。
A:出版されている脚本には、”General DeGaulle [Marshal Weygand]”とある。レーザーディスク(時代を感じますね)でチェックしたら、”jenna-rye dee-go”と”jenna-rye wee-gond”の中間に聞こえる。おそらくWeygandだろう。なぜ、脚本に両者が書いてあるのかは謎だ。
2人目は2000年4月23日付で、
Q:自由フランス軍のリーダーのサインなど、ナチ占領下のモロッコで意味ないだろう?
A:ちょうどコロラド大学での 10-hour stop-action film analysis at the conference on World Affairsで分析したところだった。我々はDVDのその部分を繰り返し再生した。私の耳には”DeGaulle”と聞こえたが、他の人々は”Weygand”と聞こえたと言う。そこで、字幕をチェックしたところ、英語字幕は”DeGaulle”、フランス語字幕は”Weygand”だった!
3人目は2003年9月7日付で
Q:あなたの解説付きのカサブランカのDVDを見ました。その部分は”General Weygand”(pronounced VAY-gauh)と発音しているように思える。
A:”Weygand”より”DeGaulle”と聞こえる。
あのEbertさえも手に余るようです。
ちなみに、General Weygand はwikipediaによると、1940年にペタン対独協力政府の国防相を経て、1941年7月16日にフランス軍北アフリカ駐留軍総司令官になっていますから、彼のサインした文書というのが時代考証的には正しいことになります。
さて最後に、手持ちのブルーレイ(制作70周年記念アルティメット・コレクターズ・エディション)でチェックしました。“ジェネラル・デ・ゴーン”と発音しているように、私には聞こえました。英語字幕はLetters of Transit signed by General de Gaulle.でした。日本語字幕の方はあっさりと「ドイツ軍の通行証」でした。
いすれにせよ、Ebertへの3人目の質問者が述べているように、この通行証はいわゆるマクガフィンなので、誰がサインした文書なのかは重要ではないのかもしれません。
Stanfordさん、コメントありがとうございます。
詳しいレポートにびっくりです。書籍だけでもいろいろ収集していらっしゃるのですね。
こちらこそ、適当にメモしただけでしたので、たくさん情報をいただけてお恥ずかしいです。
おっしゃるとおり、この箇所は署名自体は重要ではないので、かえってツッコンで楽しめますね。
肝心のセリフを無念無想で聞くと「じぇねら?でごー?」(?は日本人が苦手な子音止め)みたいな感じですが、
“General Weygand”(pronounced VAY-gauh)だと史実的にOKなのですね。(誰それ?とWikipedia見てしまいました)
“VAY-gauh”はないだろう、と思って見返すと、これは不思議、なんだかそう聞えなくもないですね(笑)
何度も聞いていると、そのうち一種のゲシュタルト崩壊で最後はなんだかわからなくなるという……
うちの猫様にたまに上等のごはんをあげると、「うまい~」と言うのですが、気のせいなのか本当にそう言っているのかわからない時があります(オイ)。ことばの聞え方って、受け取る側の意識次第なのかもしれませんね。
これ、ウガーテがなまっているから余計ややこしくなるのでしょうか。シンクロっぽいので、コマ送りで口の動きを確認しようとしましたが、DVDの解像度ではわかりませんでした。
出版されている脚本が両者併記というのがさらに謎ですが、オリジナルの台本が併記のわけないですから、映画から起こしたのでしょうか? オリジナルの台本がどこかに残っていたら見てみたいところですが。
脚本家が間違えるとは思えませんが、うっかりドゴールと書いていて、現場で勝手に直せないので、俳優がわざとあいまいに発音したとか(笑)、あれこれ妄想しても面白いかもしれませんね。