どうしてそれを一馬さんに忠告してあげなかったんですか?
作品メモ
ふたつ前のエントリー『青春の蹉跌』(74)、ひとつ前のエントリー『遠雷』(81)と、日活ロマンポルノ出身監督が最初に撮った一般映画を取上げてきましたが、こちらも同様。
曽根中生監督にとって最初の一般映画ではありませんが、日活の『嗚呼!!花の応援団』(76)でスマッシュヒットを飛ばした翌年の作品。
坂口安吾による著名ミステリーの映画化です。製作タツミキカク、ATG。配給ATG。
前年(1976年)に『犬神家の一族』が公開されていますが、公開日が近すぎるので便乗企画というわけではなさそう(『犬神家』は10月、『不連続』は翌3月)。むしろATG的には「本陣殺人事件」(75)で横溝正史ものに先鞭を付けています。
その『本陣殺人事件』で重要な役割を演じた田村高廣さんが、今度は「私」役で事件の行く末を見届けるというのもまた面白いですね。
本格ミステリーの映像化ですから何を書いてもネタバレになりそうなので、ざっくりと。
原作は一般庶民から見れば眉をひそめるような濃いめのキャラが一堂に会し、ドタバタしながらいくつもの殺人事件が「不連続」に起きるというまことに忙しい内容。登場人物だけでも相当な数です。
それをかなり忠実に映像化した手腕はなかなかのもので、作り物としてのミステリーの魅力を十分にたたえている映画ではないかと思います。
個人的には今回見返して、曽根監督つながりでしょうか、当時の日活の女優さんが大挙出演しているのがとても懐かしく感じました。
監督曽根中生、脚本大和屋竺、田中陽造、曽根中生、荒井晴彦と何気に凄い面々。
撮影森勝。
登場人物
久々に映画本編を見ましたが、よくもまあ大勢登場するものですね。あっというまに記憶容量をオーバーしてしまったので、メモしながら鑑賞。
後で見直すときに役立つかもしれませんので、以下自分のためにも登場人物のまとめをアップしておきます。
(※お断り:映画や原作では、現在では不適切とされる表現が多々あります。和らげたつもりですが、それでもご不快に感じる部分が残っているかもしれません。ご了承ください。)
テキストだけではわかりづらいため、Googleスライドで相関図を作りました。
先にこちらを拡げるか印刷してから(笑)以下をお読みいただいた方が、把握しやすいかもしれません。
この図は、0:39頃寸兵が書いた関係図にできるだけ配置を近づけて、ふくらませています。
- 歌川家
- 歌川一馬/瑳川哲朗
- 資産家歌川多門の正嫡。詩人。矢代夫妻と巨勢博士を屋敷に招待する。
- 歌川あやか/夏純子
- その妻。かつて土居光一の妻だったが、一馬が金で別れさせた(映画の冒頭モノクロパート)。映画では20万で譲ったことになっているが、原作では仲裁した矢代が15万に値切っている。結婚後、一馬は振り回されている模様。
- 歌川珠緒/水原明泉
- 多門と後妻梶子(故人)との子供。一馬の異母妹。原作では、しょっちゅう東京へ出かけては、作家や演劇関係者と交流している模様で、最近堕胎したとのことだが、相手は不明。
知りませんでしたが、演じた水原明泉(めいせん)Wさんは、水原ゆう紀さんの妹さんとのこと。似てますね 🙂 - 歌川加代子/福原ひとみ
- 多門と女中(故人)との間の子。一馬の異母妹。病弱で一馬を慕っているが、思い込みが過ぎてやや危険なレベル? 一馬は一線は越えていないといっているが、あやしいもの。
- 歌川多門/金田龍之介
- 一馬の父親。大きな屋敷を構えた資産家の当主で、愛人を数年で乗り換えてきた(木曽乃、テルヨ、京子、加代子の母。原作では下枝も)。今もなお盛んで、諸井看護婦と関係を持っている模様。
- 南雲一松/殿山泰司
- 由良(お由良さん)の夫
- 南雲由良(初井言栄)
- 多門の妹
- 南雲千草/伊佐山ひろ子
- 一松と由良の娘。ルックスはいまいち……という設定。
- 招待客
- 矢代寸兵(田村高廣)
- 物語の語り手。原作では「私」。作家。
- 矢代京子/桜井浩子
- 寸兵の妻。かつて多門の愛人だったのを、寸兵と駆け落ちして東京へ。加代子の友人。
- 土居光一/内田裕也
- 通称ピカイチ。歌川あやかの元夫。画家。本来なら招待されないはずですが……。
先頃亡くなられた内田裕也さんが熱演しています。昔見たときは演技が~セリフ回しが~とか思ってしまいましたが、今となっては存在感といい、これはこれで良かったと思えるようになりました。 - 望月王仁(ワニ)/内田良平
- 作家。粗暴で傲慢。歌川珠緒が丹後弓彦、内海明とともに招いたが、3人とも仲が悪い。この3人の喧嘩が絶えないので、うんざりした一馬が、いっそ昔の疎開仲間を皆集めようとしたのが原作上での今回の発端。映画では明確ではないが、珠緒がこの3人と何かありそうなのは、寸兵が描いた関係図に示されている。
- 丹後弓彦/木村元
- 作家。原作では珠緒が招いた(王仁の項参照)。丸眼鏡で口ひげ、スーツをびっしり着ている。
- 内海明/内海賢二
- 詩人。脊椎に障害。長髪でひげ面、白い開襟シャツ。原作では珠緒が招いた(王仁の項参照)。
- 三宅木兵衛/石浜朗
- 木ベエ(モクベエ)。フランス文学者。原作では一馬が招待した。一見おとなしい男だが、妻のふるまいに内心たまらない様子。最初は白いシャツにサスペンダー姿。その後はベージュのジャケット。
- 宇津木秋子/楠侑子
- 木ベエの妻。作家。冒頭、矢代たちをあやかとともにアフロヘアーの着物姿で迎えたのがこの人。一馬の元妻。当時は歌川珠緒と犬猿の仲だった。原作では男性関係がかなり奔放なキャラ。かつて王仁とも関係があり、まだ続いているかも?
- 人見小六/江角英明
- 劇作家。原作では一馬が招待したという設定。ルパシカ着てパイプをくゆらせている。
- 明石胡蝶/根岸とし江
- 小六の妻。女優。粗暴な男が苦手で王仁を嫌っている。原作では一馬に好意を抱いている模様。
この頃は、まだ「季衣」ではなく「とし江」さんでした。 - 神山東洋/神田隆
- 弁護士で、歌川家の元秘書。冒頭駅で声をかけてきた男。招待状を受け取ってやってきたが、一馬は出した覚えがない。歌川家についていろいろ詳しいようだが……。
- 神山木曽乃/絵沢萠子
- 東洋の妻。
- 巨勢博士/小坂一也
- 本作で探偵役をつとめる。矢代夫妻とともになぜか一馬に招待された。後手後手に回るのは、金田一耕助と同じ??
- 諸井琴路/宮下順子
- 看護婦。多門と関係を持っている模様。
- 下枝/泉じゅん
- 女中。原作では多門のお手つき。
- 坪田平吉/粟津號
- ツボ平(ヘイ)。料理人。テルヨの夫。映画では屋敷に勤めているが、原作では冒頭「私」が一馬と会った東京の小料理屋の主人。テルヨと一緒になった際多門に出店の資金を出してもらっている。
- 坪田テルヨ/岡本麗
- 平吉の妻。かつて多門の愛人。映画では屋敷に女中として勤めているが、原作では東京で平吉と小料理店を持っている。
- 八重/梓ようこ
- 女中
- 女中A/南美由紀
- 配役にこの役がありました。映画オリジナルでしょうか
- 喜作/西沢武夫
- 年配の使用人。原作ではその娘が女中となり、多門と関係して加代子を産んだという設定。映画では描かれない。
- 海老塚医師/松橋登
- 招待されたわけではなく、ふだんから出入りしている。多門家の遠縁にあたり、援助を受けて医者となった。足が不自由。時折エキセントリックな反応を示す。到着した翌朝、裏門の前で体操していたのがこの人。
- 奥田利根五郎/谷本一
- 元使用人で、復員してきた。王仁のことを嫌っている。
- 片倉清次郎/浜村純
- 映画の後半で登場。元使用人で、体調を崩して休んでいる。加代子の母親の死について、何か知っている模様。
- 南川巡査/長弘
- 平野警部(カングリ警部)/桑山正一
- 荒部長刑事(八丁鼻)/武藤章生
- 長畑刑事(ミスギ)/清川正廣
- 飯塚文子(アタピン)
- 原作のみ。映画では登場しない。
ロケ地
例によって、ウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
屋敷
何より気になるお屋敷の正体。
クレジットの「協力」に、こちら↓の名前がありました。
財団法人北方文化博物館
〒950-0205 新潟県新潟市江南区沢海2丁目15-25
http://hoppou-bunka.com/
越後随一の大地主伊東家の屋敷とのことです。
幸いストリートビュー(インドアビュー)が利用でき、屋敷の多くの場面がこちらで撮影されていることを確認できました。
- 地理院地図・電子国土Web(1974-78)
- 37.829535,139.152247
洋館部分についてはここではないと思いますが、不明。
タイトルバック
- Google Maps(SV) ……1カット目
- Google Maps(SV) ……2カット目中庭を捉えながら移動
- Google Maps(SV) ……4カット目 床の間
5カット目の多門の部屋は後ほど矢代夫妻が招かれたときにも登場しますが、具体的な部屋は不明。ふすまの柄からは同じ建物内と思われます。
6カット目、あやかが走り去る長い塀は、おそらく裏口(次項目)のある屋敷の西側。
裏門
0:23、散歩から戻ってくると、海老塚が体操していたところ。
1:32では、あやかが寸兵を呼び止めます。
屋敷の北西端。タイトルバックの長い塀の側。
一馬の部屋
0:28頃、刑事に部屋の見取り図を見せるところ。
窓の外は母屋の屋根を北側から南向きに捉えていると思いますが、このカメラ位置に相当する高い建物がありません。
窓の外の景色は写真では無く動画なので、実際にその場で撮影されたように見えますが、このためにわざわざ高い位置のセットを組んだのでしょうか?
表門
0:42頃などの表門は、屋敷の東側。全体が蔵になっています。
台所
0:43等で写る台所は、窓の外に母屋の北東の角が見えていますので、カメラ位置としては、敷地内の北の隅、上記門をくぐったあたり。
こういう内装の建物が当時あったのか、あるいはセットかは不明。
- 地理院地図・電子国土Web(1974-78)
- 37.830036, 139.152302
駅
よ~く見ると、駅前のバス停に「赤谷」と書かれているように見えます。
同名の鉄道駅が日本国有鉄道(当時)の赤谷線にあったようです。
廃線となり、線路の部分は道路となってホームもなくなっていますが、駅舎はかろうじて残っています。
赤谷駅W
国土地理院の地図・空中写真閲覧サービスでは、こういった↓あたり
- 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス MCB731X-C6-25(1973/08/12)
- 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス CTO7624-C1A-9(1976/11/02) ……比較的クリア
- 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス CTO7713-C7-5(1977/09/23)
- 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス CTO7713-C7-6(1977/09/23)
また、以下のブログ記事で昔の様子を見ることができました。ありがとうございます。
緑の谷・赤い谷 新潟県にかつてあった鉱山と周辺の昭和の記録…と散歩。 > 赤谷線赤谷駅
https://blogs.yahoo.co.jp/yabukarasu/39102672.html
安良町交通博物館 > ●赤谷線廃止最終日の風景(2003年2月10日掲載)
http://toikide.net/train/jr_jnr/1984/akatani.html
※19/4/25追記
上掲予告編の冒頭ホームが写っていますが、これは本編にはないカットです(カメラ南向き)。
ストリートビューで再現すると↓
こちら↓は参考までに国土地理院の空中写真のトリミング。
CTO7624-C1A-9(1976/11/02)
https://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do?specificationId=1141687
資料
更新履歴
- 2019/04/25 「駅」追記
- 2019/04/21 新規アップ
コメント
『不連続殺人事件』はストーリーが複雑な上に、登場人物が多すぎ、まるで万華鏡を覗いているようで、何が何やら分かりませんでした。
苦心の貴労作「相関図」や「人物紹介」を見直しても、まったく思い出せません。
天才・市川崑監督の演出と比較するのは少し酷ですが、同じような『犬神家の一族』『悪魔の手鞠唄』などは、人物関係がスッキリと頭に入りました。
大好きな女優・夏純子さんだけはよく覚えています。
ATG映画は上映館が大都市に限られていたので、地方在住者でこれらの作品をリアルタイムで見た人は非常に少ないのではないでしょうか。
ATG作品は名作、傑作、奇作の宝庫で、幸いなことに大部分DVD化されていますので、今でもこれらの映画を楽しむことができます。
あの惨劇が起こった「屋敷」「表門」「駅」などがまだ残っているのですね。
赤松幸吉さん、コメントありがとうございます。
このエントリーをアップして4日経ちますが、すでに人間関係すっかり忘れています(笑)。
ただGoogleスライドで人物相関図を作成するのは、作業がけっこう楽しかったですので、他の映画でも試してみようかと思います。
家系図ソフトなどいろいろなツールが出ていますが、webで公開するとなるとGoogleスライドがいちばん適しているようでした。
人物名をクリックすると詳しい説明がポップアップするようになれば便利この上ないので、Google先生機能アップお願いします。
それはさておき、
> ATG映画は上映館が大都市に限られていたので、地方在住者でこれらの作品をリアルタイムで見た人は非常に少ないのではないでしょうか。
今でこそ「居ながら」ですが、当時は新宿、池袋、高田馬場あたりの名画座へ行けばATG作品を結構見ることができましたから、やはり幸運な環境であったと思わなくてはなりませんね。拙サイトでとりあげているATG作品は、みなその頃名画座で見たものです。
> あの惨劇が起こった「屋敷」「表門」「駅」などがまだ残っているのですね
これは私もビックリでした。
お屋敷はプライベートな物件ではないので記事にすることができましたし、駅は最初は探索が無理だと思い込んでいましたが見つかって逆に驚きました。HD放送の解像度でバス停を読み取れたのが幸いしました。