目次
作品メモ
『ドニー・ダーコ』、『バタフライ・エフェクト』、『ダブリン悪意の森』と、失われた記憶にまつわる映画をチェックしてきましたが、こちらは記憶を消せる特殊能力を持った男の話。
消したい記憶というのは程度の差こそあれ誰しも持っていることと思いますが、主人公の場合は他人のそうした記憶をピンポイントで消してしまえるというのがすごいところ。その能力をききつけて、彼の部屋を次々と人が訪れてきます。
施術後は、人々はハッと街のどこかで目覚め、「あれ?何してたの自分」的状態でそのまま日常へと戻っていきます。
男は作家で、消してあげた人様の記憶を自作の小説のネタにしています。それはちと道義的にどうよという感じもしないでもありませんが、ともかくそれが施術料金といいますか、ギャラとなっているわけですね。
ある時一緒に暮らしている愛娘についての記憶が欠けていることに気づき、男はとても焦ります。そこで知り合ったのが、男とは逆に記憶を取り戻すという特殊能力を有している女性。彼女は一度見たものは忘れられない超記憶症候群に悩んでいました。男は彼女の記憶を消す代わりに娘の記憶を取り戻させてほしいと持ちかけるのですが……
……といったSF風味の幻想的なお話です。
この映画がなにより特徴的なのは、日本映画なのに登場人物がロシア人でセリフもみんなロシア語。撮影もロシアで行われ、まるきりロシア映画のたたずまいとなっていること。
タイトルも当然ロシア語で«РЕМИНИСЦЕНЦИЯ»と表示され[1]Wikipediaでは執筆現在«реминисценци»と書かれていますが、«реминисценция»が正解、「レミニセンティア」と字幕が付きます。
手元の研究社の『露和辞典』では、「おぼろげな追憶、それを呼び起こす現象」とあります。
英語なら”reminiscence”(レミニセンス)で、回想や追憶、想起ですね。
語り口もこれまたタルコフスキー監督作やソクーロフ監督作のように、アートに傾いたソ連・ロシア映画の雰囲気。娯楽性がごっそり欠如したまま実に淡々と進んでいくので、良く言えば詩的であり哲学的。無難に言えば(汗)集中力を切らさないようにじーっと見続けなくてはならない映画。
幸い?ストーリーは上記のようにちゃんとありますが、途中で「もしや」とあることに気づき、さらに「ええっ?」となり「えええっ??」となり、最後は「はぁ……」となります(笑)。
まあぶっちゃけ好き嫌いがくっきり分かれる映画でしょうか。
特にSF映画として見るには、最初の設定は良くても、ストーリーの展開部分やラストの弱さが少々残念。
とはいえ個人的には、「それっぽい」語り口が決して嫌いではないのと、舞台となったロシアの街が、日本人から見ると夢とも現実ともつかない物語とフィットしていて、結構楽しめました。
ロシアでロケした監督さんの意図も、そのあたりにあったのかもしれません。
スタッフ&キャスト
監督脚本撮影編集と肩書がいくつもついているのが井上雅貴さんという方。ソクーロフ監督作などでメイキング映像を作られた方のようです。
製作の井上イリーナさんはおそらく奥様。
主人公の娘ミラーニャ役は井上美麗奈さんで、おそらくご夫婦のお嬢さん。
つまり、ご家族でアートなSF映画をロシアで撮ってしまっているわけで、自主制作映画と呼ぶにはスケール感がなかなかのものとなっています。
さらに驚くのは、この作品が日本の劇場の何箇所かでちゃんと上映されたこと。しかもいくつかの動画サイトでネット配信も行われています。
執筆現在で見られるのは、例えば……
個人でロシアで映画を撮って配給するなんて、35mmフィルム時代には考えられない展開。
今の時代、個人でまかなえる程度の機材でも撮影・加工・編集とそれなりのクオリティが得られますので、アイデアや企画力次第では、こうした映画作りも十分可能になったということですね。
ロシア人キャストはみなさん現地の劇場の劇団員、あるいは本職の方のようです。
こちら↓の動画は、本作がLos Angeles Cinema Festival of Hollywoodで各賞を受賞したことを受けて、地元ヤロスラヴリの放送局が出演者にインタビューしたものと思われます。[2]YouTube 2015/10/07
登場順に、
- 主人公ミハエル Михаил 役のアレクサンダー・ツィルコフ Александр Цирков さん
- 超記憶症候群のマリア Мария役ユリア・アサードバ Юлия Асадоваさん
- 教会の場面で登場した(本職の)ヴァチェスラフ司教 Протоиерей Вячеслав(エンドクレジットでは Иерей Вячеслав Сметанин)
となっています。
本編撮影時の映像もインサートされていますが、スタッフは他に音声さんがいるだけですね 😮
監督が手にしている機材が気になりますが、ペンタ部分に「LUMIX」と見えますので、年代を考えるとPanasonicのGH4でしょうか? これの4K動画で制作したのかもしれません。
映像のクオリティに関しては、このクラスのカメラで十分戦えそうですね。
ロケ地
映画に登場する街はモスクワの北東2~300kmにあるこちら↓
例によって、ウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
高層アパート
0:05
噴水
0:08, 0:15
ヤロスラブリ州政府庁舎前の噴水。北西の端。カメラ東向き。
- Google Maps(SV)
- Google Maps(SV)
- Google Maps(SV) ……雪景色
- 57.625739,39.891226
彼女が座っていたのは、この画像で下の方、中央やや左で腰掛けている人がいますが、ちょうどそのあたり。
背景の教会は写っていません。
スタジアムの観客席
0:14
Стадион «Спартаковец»
- Google Maps(SV)
- Google Maps(SV)
- 57.623478,39.898451
なんだか面白い形ですね。
遊園地
0:25
宇宙人男が目覚めたところ。
宇宙開発ミュージアム
0:27
テレシコワさんの大きなステンドグラスといいますかモザイク画があるところ。
世界中のロケットや宇宙船の模型が展示されていて、これだけで個人的に萌えてしまいます。
V・テレシコワ文化教育センター
Культурно-просветительский центр имени Валентины Терешковой
(Cultural and Educational Centre named after Valentina Tereshkova)
Чайковского улица, д. 3, Ярославль 150000 Россия
- Google Maps(SV)
- Google Maps(SV) ……入り口前
- 57.621233,39.869906
確かにテレシコワさんフィーチャリング。
トラム駅
0:38
つらい過去を持った女性の依頼人が施術後に乗るところ。
駅名は見えませんでしたが、背景に見える«Лори» の建物が特徴的で、判明しました。
駅名はマップでは、
14-й Микрорайон
14 ミクロライオン(地区)
- Google Maps(SV)
- Google Maps(SV) ……来る方向
- Google Maps(SV) ……行く先
- 57.700955,39.770720
トラムがどこか素朴で可愛らしいですね。
教会
0:47
娘と訪れたところ。
上掲俳優さんのインタビュー動画でも、1分25秒あたりから写っています。
Церковь иконы Божией Матери «Нечаянная Радость»
(Церковь Нечаянная радость иконы Божией Матери)
Ленинградский пр., 97А, Ярославль, Ярославская обл., 150045
- Google Maps(SV)
- 57.689373,39.776056
- https://www.flickr.com/photos/59614118@N06/21707444912/
- https://sobory.ru/article/?object=01918
トラムの駅から南へ1.5kmほど。
1:14もここ。
川縁のベンチ
0:52
マリアに話しかけられたところ。川はヴォルガ川。
- 57.628557,39.898320
同じようなベンチがSVでも確認できます。
建設中の教会
1:14
ミハエルとマリアが会話する場面に、娘が足場がかけられた聖堂に入っていくカットがインサートされますが、上記「教会」のすぐとなりで建設中だった教会。
Свято-Тихоновский храм в Ярославле
http://svtihon.ru/
- Google Maps(SV) ……2012年7月
- Google Maps(SV) ……2017年8月
- 57.689558,39.775823
- http://www.svtihon.ru/fotoalbom-stroitelstva-2013 ……2013年の画像
- http://www.svtihon.ru/fotoalbom-stroitelstva-2016 ……2016年の画像
- https://yarreg.ru/articles/zolotye-kupola/
まだ建設中みたいです。
ロケ地マップ
資料
更新履歴
- 2021/03/07 新規アップ
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