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『長距離ランナーの孤独』 The Loneliness of the Long Distance Runner (1962)

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作品メモ

ひとつ前のエントリー『サード』で、『長距離ランナーの孤独』のタイトルを挙げたので、今度はこちら。

原作は「怒れる作家」アラン・シリトーの代表作『長距離走者の孤独』W

4087600017 この集英社文庫版が出たときに買って読んだ記憶があります。
シリトー読んでると、なんだかカッコ良く見えそう……というもくろみでしたが、さほど効果はなかったような……

小説、映画の原題は同じ。映画の邦題は「走者」が「ランナー」となっています。
私が持っていたVHSでは『長距離走者(ランナー)の孤独』と、ルビ的扱いになっていました。

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原作は1959年、映画化は1962年。60年近く前のイギリスの社会・文化的状況を今の日本人が肌で理解するのは困難かもしれません。  

まあこの映画に関しては、難しいことは抜きにしてとてもわかりやすい筋立てとなっているのが良いところ。
感化院での描写に感化院に入るまでのいきさつが順に織り込まれ(『サード』もそうでしたね♪)、感化院対名門パブリックスクールのクロスカントリー競技走というクライマックスに向かって、だれることなく一気に見せてくれます。
モノクロフィルムに焼き付けられた若者たちの姿はとても印象的で、カメラの力も大きかったかと思います。

キャストは……
窃盗で感化院に送られた主人公コリン・スミスにトム・コートネイ。劇場用映画2本目となる本作で若手スターの仲間入り。
その母で、夫が死んだとたん保険金でガバガバ買い物に走るスミス夫人にエイビス・バナージ。
悪友マイクにジェームズ・ボラム。人気ドラマ『ニュー・トリックス〜退職デカの事件簿〜』ではすっかりおじいちゃんとなり、ほとんど面影がありません。
マイクと一緒に盗んだクルマでコリンがナンパしたオードリーにトプシー・ジェーン(Topsy Jane)。活躍の時期は短く、テレビドラマが主だった模様。
足の速いコリンに目を付け、名門校との競技会で名を上げようともくろむ感化院院長にマイケル・レッドグレーヴ。こういうエラい役を演じたらぴったりハマりますね。

原作アラン・シリトー。脚色も本人なので安心して?見ていられます。
製作・監督トニー・リチャードソン、撮影ウォルター・ラサリー、音楽ジョン・アディソン。

「エルサレム」

予告編でも使われていますが、「エルサレム(ジェルサレム)」Wがテーマ曲のように繰り返し流れます。

こちら↓は映画中程、盛り上がりに欠ける出し物が続いた演奏会で、少年たちによる斉唱が場内に響き渡るところ。
ただ歌っているだけなのに、ひとりひとりの表情がぐいぐい迫ってくる名場面です。
(インサートされるのは、脱走していてつかまった少年)

当サイト的には『炎のランナー』の冒頭と最後、エイブラムスの葬儀の場面で流れていたのが記憶に残りますが、そのエイブラムスを演じたベン・クロスは1週間ほど前訃報が伝えられました。合掌。  

他にこの曲と言えば、毎年この時期開かれるBBCプロムスの最終夜で、アルバートホールに詰めかけたイギリス人たちがウットリと合唱する姿が浮かびますが、それとは対照的な雰囲気ですね(汗)。
そういえば今年のプロムスはどうなってしまうのでしょう……

ロケ地

IMDbでは、

Camber Sands, Camber, East Sussex, England, UK (Skegness beach)
Riddlesdown Quarry, Whyteleafe, Surrey, England, UK (the view of the railway line and gas-holder)
Ruxley Towers, Common Road, Claygate, Surrey, England, UK (Ruxley Towers)
Nottingham, Nottinghamshire, England, UK
Claygate, Surrey, England, UK
Skegness, Lincolnshire, England, UK

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

感化院

車から降りて最初に見上げるのが、IMDbのリストのこちら↓

Ruxley Towers, Common Road, Claygate, Surrey, England, UK (Ruxley Towers)

Wikipediaによると

Locations were shot in and around Ruxley Towers, Claygate, Surrey – a Victorian mock castle built by Henry Foley, 5th Baron Foley. The building had been used by the Navy, Army and Air Force Institutes during the Second World War.

自宅

表通りに出るあたりがヒントになりそうですが、なにせ手持ちがVHSのぼそぼそ画像なので、いまいち確認できず。

クルマを盗んだところ

0:21

背景に(おそらく)発電所の冷却塔と高い煙突が2基ずつ見え、左手には墓地が見えます。
冷却塔が大いなる手がかりとなりました。

Acton Lane Power StationW

Google Earthの時間スライダーで1978/6までさかのぼると、冷却塔の画像を確認できます(1基は解体済み)。

  • 51.532277,-0.256982

墓地は、Acton Cemetery。
従ってクルマを盗んだのは、墓地の東側に延びるChase Rd(チェイス・ロード)のこのあたり↓ (カメラ北向き)

4人で過ごした山腹

盗んだクルマでナンパしたあと、街や線路を見下ろす小山を登っていきます。
線路の向こう側に大きなガスタンクが見えるのが特徴的。
これはIMDbのリストのこちら↓

Riddlesdown Quarry, Whyteleafe, Surrey, England, UK (the view of the railway line and gas-holder)

こちら↓の画像は映画とちょうど反対向き。4人がいたのは背景の山で、画像には入っていませんがもう少し左側の中腹。
右手のガスタンクが、眼下の線路の向こう側に見えていたもの。

画像は2010年のものでガスタンクはまだ見られますが、現在は基礎だけとなっているようです。

海岸

1:02

Camber Sands, Camber, East Sussex, England, UK (Skegness beach)

長距離走

1:34

クロスカントリー競技が行われたのは、感化院の南側の野原。

資料

更新履歴

  • 2020/08/30 新規アップ

コメント

  1. milou より:

    おお、まさに『長距離ランナーの孤独』と『土曜の夜と日曜の朝』の
    2本立てを(1966年)8月30日!!に名画座で見ている(いかにもの組み合わせ?)
    次はリチャードソンの『蜜の味』??(これも同年 8月23日に見ている)
    久しぶりにロケ地チェックをしようと思ったら、2本とも録画してないようで
    (あるいは録画したが記録漏れか)、またレンタルしたらチェックします。

    全くの余談だが『蜜の味』は大学の劇団で演出したことがある。
    ただ映画のシナリオはあったが芝居の台本はなく、調べると
    劇団NLTが尾藤イサオ主演で上演したことがあり、
    代表の賀原夏子さんに連絡を取り、ちょうど別の芝居をやっていた
    楽屋を訪ね借りて上演した (もちろんビートルズの 「蜜の味」 も使った)

  2. 居ながらシネマ より:

    milouさん、コメントありがとうございます。
    おお、いかにものこの2本立て、当時名画座でご覧でしたか。さすがです 🙂
    私はだいぶあと、VHS時代に近所のレンタル屋で「いかにも」なのが並んでいたのでせっせと借りて見てました。手持ちはあまり保存していませんが、もう一回ぐらい2本立てできるかもしれませんので(笑)、少々お待ちください。
    それにしても、きちんと鑑賞記録付けていらっしゃるのですね。自分は記録もなく記憶もどんどん薄れ、人生のうちで映画館やビデオ鑑賞で費やした膨大な時間は、結局なんだったのだろう状態です……

    『蜜の味』を演出とはまた凄いですし、上演までのいきさつもまた凄いですね。
    そしてビートルズバージョンを使うというのが粋です。今ちょっと調べたら、シングルデビューが62年なので、ちょうどこのあたりの映画と重なっていたのですね。

  3. Bill McCreary より:

    どうも、私の好きな映画を取り上げていただきましてありがとうございます。

    この映画と原作、どちらを先に鑑賞したかは記憶にありませんが、原作を読んだ後おもわず原書を買ってしまいました。

    ところで

    >原作は1959年、映画化は1962年。60年近く前のイギリスの社会・文化的状況を今の日本人が肌で理解するのは困難かもしれません。  

    であり、原作は、貴サイトでも取り上げられている『愛と希望の街』と同じ年の発表ですね。この映画と大島監督とでは、非行のありかたはまったく異なりますが、ノッティンガムと川崎という工業都市を舞台にしているところは共通していますね。仰せの通り、当時とは英国も日本もあまりに違いすぎて一概には言えませんが、貧しくて将来の見通しの立たない少年たちの姿というのは、いろいろ重いものがあると感じます。

  4. 居ながらシネマ より:

    Bill McCrearyさん、コメントありがとうございます。
    おお、この映画お好きでしたか。原書にまで手を伸ばすとは、凄いです。

    なるほど『愛と希望の街』も同じ年でしたね。そこから先、日本は高度成長と人口ボーナスのビッグウェーブで乗りに乗り、だいぶイギリスとは違ったコースをたどってきましたが、ピークアウトした今となってみれば、ここから先「愛も希望もない街」になってしまうんでしょうか……

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