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『人間』 (1962)

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作品メモ

ひとつ前のエントリー『裸の島』で、殿山泰司さんの数少ない主演作としてこちらのタイトルも挙げましたので、続けてアップ。

もともと『裸の島』は、新藤兼人監督たちの独立プロ近代映画協会が10年目にして経営難に陥り、解散覚悟で放った企画。幸いこれがモスクワ映画祭でのグランプリ受賞をきっかけに各国に売れて、土壇場から復活。ゆとりができたところで次に製作されたのがこの『人間』となります。[1]新藤兼人『三文役者の死』(1991年 岩波書店同時代ライブラリー) p.127-128
「人間」だけではワケわかりませんが、内容は何日も漂流して食料も尽き、極限状態となった船の乗員たちを描くという、なかなかディープでハードなもの。

扱っているテーマはとても重くしんどいもので、でもその分国内外を問わず映画や文学でけっこう扱われていたりします。
『人間』ではその行為にまでは至りませんが、とはいえ映画全編に及ぶ飢餓状態の描写は、見ていて胃がシクシクしてきてたまりません。
最近見た『TENET/テネット』で、主人公が悪役に「何で死にたい?」と脅されて「老衰で」と答える場面があり、思わずうなずいてしまいましたが、毎日腹八分目いただけて平穏無事に過ごせることをありがたいと思わなくてはなりませんね……

キャスト&スタッフ

船長亀五郎(かめごろう)に殿山泰司さん。今度はセリフもたっぷりあり、演技力や表現力を堪能できます。これで見事に毎日映画コンクール男優主演賞受賞。
乗員のひとり八蔵(はちぞう)に佐藤慶さん。小遣い稼ぎで渋々乗船したという設定。
乗り合わせた海女の五郎助(ごろすけ)に乙羽信子さん。採れたアワビを売りに行くため便乗したという設定。原作と同じ名前ですが原作では男性ですので、映画ではこれはもう新藤監督作における「乙羽さん枠」のために変更になったのではないかと推察。
船長の甥で一番若い三吉(さんきち)に山本圭さん。

……とほとんどこの4人の密室劇。

途中、回想シーンや幻想シーンで、観世栄夫さん(こんぴらさん)、渡辺美佐子さん(亀五郎の女房)、佐々木すみ江さん(港の女)、浜村純さん(兵隊役)、などがちらりと登場。

最後に救出してくれた船の甲板長に加地健太郎さん。遭難者を怒鳴りつけて逆に気持ちをしっかり持たせるのは、他でも見たことありますが、実際もやっぱりそうなんでしょうかね。そういう目にはあいたくないですが。

製作近代映画協会、配給ATG。
撮影黒田清巳、脚色美術新藤兼人、音楽林光。

原作

話はタイトルに戻りますが、「人間」というのはどうも意味がブレすぎて、「裸の島」に比べるとややインパクト不足。配給がATGなので、それっぽいと言えば「ぽい」ですが。
どうせ原作の「海神丸」も(実際の事件に取材しているとはいえ)仮名なのですから、そのまま『海神丸』とかではダメだったでしょうか??

というわけで、原作は野上弥生子氏の『海神丸(かいじんまる)』。
映画ではお盆前のようですが(セリフから)、原作では出航は正月前。
他に映画との違いは、原作では大正時代の話で、船は帆船。Wikipediaでは「漁船」とありますが、原作でも映画でも設定は荷役船なのでこれは誤り。撮影に使った船も、25トンの荷役船を2ヶ月間借りたとのことです。[2]新藤兼人『三文役者の死』(1991年 岩波書店同時代ライブラリー) p.129
またラストでは、五郎助の運命は同じですが、八蔵については映画がより劇的なものにアレンジされています。

ちなみに史実では、通りがかった汽船に救出されたのは約2ヶ月後で、横浜から1080海里(ハワイ間の3分の1)という本土からは遙か遠く離れたところ。よくもまあ助かったものだと思います。

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『三文役者の死』

ここから数本、新藤兼人作品をチェックしようと思いますので、珍しく資料本を用意しました。
監督が殿山泰司さんについて書き綴った『三文役者の死 正伝殿山泰司』(1991年 岩波書店・同時代ライブラリー62)です。

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監督でしか知り得ないようなエピソードや、映画製作上の資料が満載。文体もキレキレでとても読みやすく、さすがと言える内容となっています。
竹中直人さんが「タイちゃん」を演じた監督の映画『三文役者』(2000)の原作となっていて、「タイちゃん」が『人間』撮影中に宿泊先でしでかしたムチャクチャなエピソードもきっちり映像化されていました 😆

こちら↓は後から出た版ですが(2000年 岩波現代文庫)、こちらももう絶版でしょうか。

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殿山泰司さんもエッセイをよくお書きでしたが、『三文役者あなあきい伝』とか抜群に面白かった記憶があります。

ロケ地

今回は上述の『三文役者の死』を参考にしつつ、ウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

設定では大分(のはず)。
実際の撮影は、『三文役者の死』によると伊豆の松崎港W

確かに背景の山々は映画と同じ様子を確認できます。
また出航した『海神丸』の船尾に「松崎港」とはっきり書かれていますね(0:04頃)。

回想シーン

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バイクを飛ばす若き日の山本圭さん。カッコ良すぎですね~。
後ろに乗っている彼女は誰でしょう?

走っているのは港と同じく松崎町と思われます。
最初のカット(海辺が少し見えてからゆるやかに左カーブ)は特定しづらいですが、現在海沿いに大きなホテルが建っているあたりでしょうか。

2番目の、今度は右へカーブするカットはおそらくこのあたり↓ バイクは南向き。カメラ北向き。

ほぼ60年前の映画ですから、今では面影は全くありません。

船のセット

前述の通り実際の船を借り受けて撮影していますが、その他に夜間や嵐の場面などは海岸で甲板や船室の実物大のセットを組んで撮影したとのことです。
揺らすために、ローリング台の上に作ったとか。[3]新藤兼人『三文役者の死』(1991年 岩波書店同時代ライブラリー) p.130

資料

更新履歴

  • 2020/10/21 新規アップ

References

References
1 新藤兼人『三文役者の死』(1991年 岩波書店同時代ライブラリー) p.127-128
2 新藤兼人『三文役者の死』(1991年 岩波書店同時代ライブラリー) p.129
3 新藤兼人『三文役者の死』(1991年 岩波書店同時代ライブラリー) p.130

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