ブラウ……アウゲン
目次
作品メモ
ひとつ前のエントリー『ククーシュカ ラップランドの妖精』は第2次大戦中の敵兵同士のお話でしたが、そういうお話となると思い出すのはやはりこの映画。
自分にとっては、まだ(たぶん)十代の頃テレビで見て深い感銘を受け、以来永遠不滅の一本となっています。
敵と味方だけでなく、貴族階級と一般ピープル、富める者と貧しき者、ピンダロスを愛読する者と知らぬ者……と様々な相対するキャラクターが登場する一方で、差異を乗り越えた深い絆や平和への希求もしっかりと描かれ、見る者の心を揺さぶります。
吹き替えはなく、フランス人、ドイツ人、みなそれぞれの言語を話します。英語とロシア語もちょっぴり登場。
貴族同士はフランス語ですが、「ボワルデュ!」と繰り返し呼びかけるあの名場面は、なぜか英語でやりとりします。
Have you really gone insane ?
I am perfectly sane!
スタッフ&キャスト
監督ジャン・ルノワール、脚本ジャン・ルノワールとシャルル・スパーク、撮影クリスチャン・マトラ、音楽ジョゼフ・コズマ。
タイトルはノーマン・エンジェルの”The Great Illusion”から。
フランス軍マレシャル中尉にジャン・ギャバン。IMDbのTriviaによると、衣装はルノワール監督が実際に第1次大戦で着ていた軍服とのこと。
白い手袋を手放さないフランスの貴族ド・ボアルデュ大尉にピエール・フレネー。
ドイツ軍フォン・ラウフェンシュタイン大尉にエリッヒ・フォン・シュトロハイム。
リッチなユダヤ人であるフランス軍ローゼンタール中尉にマルセル・ダリオ。
演芸会で芸達者なところを披露していた役者カルティエにジュリアン・カレット。当サイト的には『夜の門 ~枯葉~』の大家族の親父。
夫や兄弟を戦争で亡くしたエルザにディタ・パルロ。
「青い目」のロッテを演じた少女は、残念ながら映画の公開を待たずにインフルエンザで亡くなっているとのことです(IMDbのTrivia)。
「青い目」
ロッテは青い目をしている
青い目
青い目……
翌日の別れの場面でも繰り返されますが、カタコトのドイツ語に万感の思いがこめられていて、涙腺が刺激されます。
このやりとり、マレシャルのドイツ語の発音がおかしいのでエルザが繰り返しているのかと単純に思っていました。
でも、別れの場面では「ブル」ではなくちゃんと「ブラウ」と言っているのに、やっぱりエルザは繰り返します。
これは、複数形につながる形容詞の強変化で„blau“に„e“を付けなくてならないのに[1]この場合hatを受けて4格。まあ1格でも同じですが、マレシャルがただ「ブラウ」と言ってしまっているからでしょうか(ホントなら„Lotte hat blaue Augen“ 「ロッテ・ハット・ブラウエ・アウゲン」)。
つまり発音だけではなく文法ミスもあり?
これを字幕で表現するのは難しそう……
収容所のドイツ語は分らんが 彼女のは分る
お役に立つ
↓ 談笑するオビ=ワン・ケノービとダース・ベイダー(違)
↓『カサブランカ』(違)
↓ 『大脱走』(違)
3 – LA GRANDE ILLUSION – Jean Renoir (1937) Jean Gabin, Erich von Stroheim, Pierre Fresnay, Marcel Dalio from Mon Cinéma à Moi on Vimeo.
↓『隠し砦の三悪人』(違)
8 – LA GRANDE ILLUSION – Jean Renoir (1937) Jean Gabin, Erich von Stroheim, Pierre Fresnay, Marcel Dalio from Mon Cinéma à Moi on Vimeo.
歌
格調高いオーケストラはジョセフ・コズマですが、既存の歌も効果的に使われています。
Wikipediaにリストがありますので、場面を補足しながらピックアップしますと……
- “Frou-Frou”W
- オープニング(レコード)
YouTube検索結果 - „Die Wacht am Rhein“(ラインの守り)W
- Wikipediaのリストにはありませんが、前半の収容所でドゥオーモン陥落の知らせにドイツ兵が盛り上がって歌います。『カサブランカ』の歌合戦で、はじめにドイツ軍が歌っていた歌ですね。
YouTube検索結果 - Harry FragsonW “Si Tu Veux…Marguerite”
- 演芸会1曲目
YouTube検索結果 - “It’s A Long Way To Tipperary”(遥かなティペラリー)W
- 演芸会2曲目
YouTube検索結果 - “La Marseillaise”(ラ・マルセイエーズ)W
- 演芸会のさなか、ドゥオーモン奪回の知らせにフランス人が斉唱します。先の「ラインの守り」を受けているわけで、『カサブランカ』(1942)はこのあたり全体がお役に立っていたのかもしれませんね。
YouTube検索結果 - “Il était un petit navire”(小さい舟があった) W
- 脱走(笛合奏、歌、大尉のソロ)
YouTube検索結果
ロケ地
IMDbでは、
Château du Haut Koenigsbourg, Orschwiller, Bas-Rhin, France (Winterborn)
Caserne de Colmar, Colmar, Haut-Rhin, France
Chamonix, Haute-Savoie, France (last scene)
Ribeauvillé, Haut-Rhin, Alsace, France
Fréland, Haut-Rhin, Alsace, France
Colmar, Haut-Rhin, France
Neuf-Brisach, Haut-Rhin, France
Orschwiller, Bas-Rhin, France
Studios Eclair, Epinay-sur-Seine, Seine-Saint-Denis, France (studio)
Studios de Boulogne-Billancourt/SFP – 2 Rue de Silly, Boulogne-Billancourt, Hauts-de-Seine, France (studio)
80年前の映画のロケ地を探るのは難しいかと思われましたが、このリストがとても役に立ちました。
例によって、ウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
ハルバッハ将校捕虜収容所第17号
捕虜となった士官が集合した広場。
IMDbのリストにあるこちら↓で、実際の兵舎のようです。
Caserne de Colmar, Colmar, Haut-Rhin, France
背景の建物は、おそらく現存しているこちら↓ではないでしょうか?
昔の画像としてはこちら↓の左上、上から2番目の画像。
説明文に”Kaserne des Jäger Rgmts zu Pferde Nr.3″とあります。
画像の当時はドイツ帝国領でしたが、映画撮影時はフランス領、そして数年後の第二次大戦勃発でナチスドイツ領となり、戦後はフランス領となる地域。
移動
通過した駅や収容所は、地名が実際の撮影地とは異なるでしょうから、つきとめるのが難しそう。
1ヶ所だけ判明しました。
„SENTE“(ゼンテ将校捕虜収容所)という標識の直後、右手へ移動しながら収容所の入り口のような部分をとらえるショットがありますが、これはIMDbのリストにあるこちら↓
Neuf-Brisach(ヌフ=ブリザック)W, Haut-Rhin, France
この俯瞰画像では一番奥。
北東側の堀に架かる橋のあたりで、ちょうど線路が接している部分。実際に列車から撮影されていると思われます。
映画では収容所を外から見ているイメージですが、実際には要塞都市の内側から外側に向かって撮影していたことになります。
この要塞は初めて知りましたが、ルイ14世の時代のものとのこと。
函館の五稜郭はきっとこうしたヨーロッパの要塞をモデルにしているのでしょうね。
ウィンタースボルン将校捕虜収容所
Château du Haut KoenigsbourgW, Orschwiller, Bas-Rhin, France (Winterborn)
エルザの家
IMDbのリストの中で、風景や地形などから可能性を感じられたのはこちら↓
FrélandW, Haut-Rhin, Alsace, France
このあたり↓から東向きで、かなり映画に近い雰囲気となります。
振り向けよ
振り向くと心残りがする
ラスト
Chamonix, Haute-Savoie, France (last scene)
最初の雪山を遠くに眺める右へのパンは、地形などから、おそらくこちら(カメラ南向き)。
- Google Maps(3D)
- WikiMapia ……カメラ位置
国境なんて人間の作ったものさ 自然は関係ない
オーラス、雪原を行く2人の超ロングショットは、カメラ位置はほぼ同じで、向きを北向きに変えているように見えます(未確認)。
戦争はもうやめてほしいぜ これを最後にな
君の幻影さ
ロケ地マップ
資料
更新履歴
- 2016/06/06 新規アップ
References
↑1 | この場合hatを受けて4格。まあ1格でも同じですが |
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