戦争も終る 明日は美しい
目次
作品メモ
ひとつ前のエントリー『パリジェンヌ』でフランソワーズ・アルヌール出演作に戻ってきたつもりでしたが、ダニー・ロバンを見たのと、少し前のエントリー『ヘッドライト』でジョセフ・コズマの音楽が良かったので、またしても寄り道。
マルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』に続く作品。
解放から半年後の冬のパリを舞台に、運命の糸に操られるかのごとく出会った男女のメロを描きます。
内容よりも何よりもテーマ曲「枯葉」が知られていて、「音楽だけ有名な映画」の横綱クラスでしょうか。 → タグ「音楽だけ有名」
曲は有名なのに、映画の方は日本では未公開(IMDbによると、フランスでの公開は1946年12月3日)。
ソフト化はされていますが、現在プレミアム価格状態となっています。
タイトルは手持ちのVHSでは原題直訳の「夜の門」となっていますが、AmazonなどでDVDの案内を見ると「夜の門 ~枯葉~」。今回は大は小を兼ねるで後者をエントリーのタイトルとしています。
キャスト&スタッフ
出演は……
主役ジャン・ディエゴにイヴ・モンタン。『光なき星』に続いて映画2作目。クレジットでは3番目ですが、どう見ても主役です。
元々マレーネ・ディートリッヒとジャン・ギャバンがキャスティングされていたのに、最後になってディートリッヒが降りてしまい、ジャン・ギャバンもそれに続いてしまったため、急遽イヴ・モンタンが登板したとのこと。 → IMDb Trivia
レジスタンスの盟友レイモン・レキュイエにレイモン・ビュセール(Raymond Bussières)。
英雄とされているもののレジスタンス仲間からは評判が悪いギイにセルジュ・レジアニ。『冒険者たち』あたりでどうしても小悪党的イメージがありますが、この映画でもそんな役。
その父親でアパルトマンの家主セネシャルにサテュルナン・ファーブル(Saturnin Fabre)。
同じアパルトマンに住む大家族の親父ムッシュー・キンキーナにジュリアン・カレット。
駅でクロワッサンを売っているその娘エチエネットにダニー・ロバン。『アンリエットの巴里祭』よりさらに若くて、まだ十代。
高級車に乗る紳士ジョルジュにピエール・ブラッスール。
不仲が続いているその妻マルーにナタリー・ナティエ(Nathalie Nattier)。ディエゴとはどうやら不思議な縁で結ばれているようで、2人のメロがこの映画の軸となっています。
自ら「運命」と名乗る謎の浮浪者にジャン・ヴィラール(Jean Vilar)。
この他IMDbの出演者リストを見ると、Un des gosses Quinquina(キンキーナ家の子供のひとり)で ジャック・ペランが出ているようです。単純計算で当時5歳。
「大家族賞」をとった15人家族という設定なので子供がわらわら出てきますが、どの子だかわかった方教えてください 😉
監督マルセル・カルネ、脚本ジャック・プレヴェール、音楽ジョセフ・コズマは『天井桟敷の人々』に続いて。
撮影フィリップ・アゴスティーニ。
枯葉 Les Feuilles mortes
ジョセフ・コズマ(コスマ)作曲、ジャック・プレヴェール作詞によるこの歌についてはたとえばWikipediaをどうぞ。 → 枯葉 (歌曲)W
歌がヒットしたから作られたいわゆる歌謡映画ではなく、あくまで映画が先のようです。
上の方でテーマ曲とか書いちゃいましたが、実際には今でいう「ラブテーマ」みたいな位置でしょうか。「挿入歌」と言い切れるほどちゃんと歌われるわけではなく、おなじみのあのメロディーがアレンジされて随所で流れます。
たとえばこういった場面。
一緒に口ずさむのが、若き日のイヴ・モンタン。当時24,5歳でしょうか。
こちらはいつの映像でしょう。
やたら導入部分が長い歌ですね。例のメロディは1分25秒あたりから。
単純な反復進行のメロディーなのに、ぐっとハートをわしづかみにされます。
フランス語はわからなくても、何だか人生そのものをしっとり語られたような気がしてしまうと言う不思議な歌の力。
貧しい子供時代から身を起こし、芸能界のトップに上り詰め、スタンダールの墓碑銘のごとく「生きて、歌って、愛した」男が超満員の観衆を前に歌うとき、その胸に去来するものはいかなるものか、そんなことまで思いを馳せてしまうのでした。
少し詳しい物語
未公開かつソフトも入手しづらい状況ということで、物語をもう少し詳しくご紹介。
……といったお話。
長らくのご清聴ありがとうございました。
ロケ地
IMDbには記載がありません。
映画の設定は45年2月。公開は46年12月。
スタジオ撮影以外にも、冒頭の俯瞰撮影等実際の戦後まもないパリの様子が登場します。
記録映像としても貴重かもしれませんね。
これが東京なら、焼け跡しか写らなかったことでしょう……
いつものように画面とにらめっこでチェックしていきました。
何も資料がないので、答え合わせのやりようもありません。間違いのご指摘大歓迎です。
OP
遠くにモンマルトルの丘を捉えるアングルから、ゆっくり右へパン、最後に鉄道の高架線を捉えるまで、180度以上まわしています。
あとから振り返ると、運河や鉄道、ガスタンク(後述)など、映画の主な舞台がこの中に収められていることがわかりますね。
参考までに、最後に掲載した「ロケ地マップ」でカメラの向きを矢印で示してみました。
途中運河の手前に写る円筒形の建物は、
カメラ位置は、西側にあるビルの屋上。
右の画像はちょうど映画とは逆向きのアングル。
左後方に見えるビルの上にカメラがあったものと思われます。
最後に写る高架線(パリメトロ2号線)を右側から見たところ。
消印が1911年の絵はがきとのことですが、高架線の向こう側にある建物は映画でも同じように建っているように見えます。
パリは燃えなかった。
ガスタンク
(※14/7/25 他項目から移動して項目を独立させました)
パンの途中に見えるガスタンクはすでにありませんが、google Earthの時間スライダーで1949年6月までさかのぼることができ、マップ上の場所を知ることができます。
48.89608,2.36822
こちら↑の座標値をコピーし、Google EarthのSearch窓に貼り付け、時間スライダーで1949/6までさかのぼってみてください。
大きなタンクと、直径は小さいですが背の高いタンク、さらに同じような大きさのタンクがずらりとならんでいる様子を確認できると思います。
(説明のためキャプチャー画像を添えておきます。お許しを)
このガスタンク群は、冒頭のパンの他、アパルトマンの背景、ラスト近くの重要な場面(2箇所)、ラストのパンで登場します。
駅の下
最後にも登場する高架駅。
Barbès – Rochechouart(バルベス・ロシュシュアール)駅W
この駅はOPの高架部分からメトロ2号線をシャペル通り(Boulevard de la Chapelle)に沿って西へ行き、少し前のエントリー『過去をもつ愛情』で主人公が弁護士と話しをした橋(パリ北駅の北側)を経た先の駅。
©1977 milou アルバム「パリ」から |
※2014/07/20追記
milouさんから以前『シャレード』用に提供していただいたメトロの画像が、こちらの駅のものでした(撮影は1977年)。
確かに駅名が写っていますね。
ホームは映画では登場していませんが、貴重な参考画像としてこちらで掲載させていただきました。
※2014/07/22追記
駅の場面、手持ちのものよりもう少し良い画質の映像でチェックしてみましたが、どうもセットっぽい気がしてきました。
設定としてはバルベス・ロシュシュアール駅なのだと思いますが、これ以上は資料にあたる必要がありそうです。
※2014/07/25追記
コメント欄でmilouさんから情報寄せていただきました。
これはやはりスタジオセットのようです。
アパルトマン
0:08。
レイモン一家や子だくさん一家が住んでいる5階建てのアパルトマン。
遠くにガスタンクの凸凹コンビが見えますが、おそらく冒頭のパンの途中で写るものと同じ。
後半重要な場面にも出てきます。
凸凹タンクの位置関係からアパルトマンの場所はおそらく操車場西側のこのあたりと思われます。
現在はまったく面影がなくなっていて、これ以上は確認できません。
運河の橋
0:24。
娘が気がかりな父親に、例の謎の男が声をかけてくるところ。
この歩行者用の橋はおそらくこちら。
娘が「今夜は幸せだ」ったのは、橋の南側のこの場所。
運河
1:20。
レストランに居た女が謎の男の告知通り水死していたところ。
煉瓦塀に«BASSIN ELARGI. CANAL DE L’OURCQ»と書かれた掲示板のようなものが写りますが、この標示が現存しているかは不明。
その後ジョルジュの車がやってくるのはこういったアングル。
なのでおそらくこの運河が交差しているあたりで撮影されたものと思われます。
ディエゴとマルーがいた店
1:24。
カフェだか酒場だか休憩所か、とにかく線路際のお店で、父親と弟の正体を知って嘆くマルーをディエゴがなぐさめているところ。
鉄道員でしょうか、お客が入ってくるショットで高架線が見え、手前にも線路があるようです。
場所は調査中。
ディエゴとマルーがいた街角
ジョルジュたちに見つかったところ。
左手の道は両側に高い塀が長く伸び、片側は昔のガスタンクのようなものが並んでいます。
これは上述のガスタンク群。
通りはRue de l’EvangileWで、その北側のエリアとなります。
マップではこういった感じ。
現在はガスタンクの場所は何かの工場となっていて、そちら側の塀はなくなっていますが、反対側の塀はそのまま残っていて、デザインは映画と同じ。
車がやってきたとき、マルーとディエゴが立っていた角に何かの像が見えますが、それも現存。
フランス版Wikipediaに項目があり、この映画で登場していることも記されています。
画像は1924年撮影とされていますが、背景に映画で写っていたようなガスタンクが見えます。
マルーを後部座席に寝かせたショットでは、この鉄橋が見えます。
まさか70年前の映画のこの場所がわかるとは思わなかったので、かなり嬉しいです。
このあと車が猛然と走り抜けるのは、こちらの交差点。
操車場
ギイが呆然と歩く背景右側に、例のガスタンクが見えます。
おそらくこのあたり。
FIN
OP同様、モンマルトルの丘を遠くに望むアングルからはじまる右方向のパン。
今度のカメラ位置は、OPのカメラ位置からメトロ2号線の高架とシャペル通り(Boulevard de la Chapelle)に沿って西へ数ブロック行ったところ、パリ北駅の北側をまたぐ橋のあたり。
こちらも参考までに、最後に掲載した「ロケ地マップ」でカメラの向きを矢印で示してみました。
カメラ位置を橋の中央南側、現在線路があるあたりにしていますが、当時はその位置は線路ではなく建物が建っていたのが、Google Earthの時間スライダーでも確認できます。
ロケ地マップ
最近チェックした4,50年代のフランス映画を何本かまとめてマップにしてみました。
リンク先でKMLファイルをダウンロードしてGoogle Earthで開きパリにズームアップ、時間スライダーを1949年にして、建物の3Dは切ると、それっぽい雰囲気を味わえると思います。
より大きな地図で パリが舞台の40-50年代フランス映画 を表示
資料
関連記事
音楽だけ有名な映画
- 『いそしぎ』 The Sandpiper (1965)
- 『アリ/ザ・グレーテスト』 The Greatest (1977)
- 『ジョージー・ガール』 Georgy Girl (1966)
- 『ダイヤモンド作戦』 A Man Could Get Killed (1966)
- 『ピアニスト』 The Pianist (1991)
- 『ファイナル・カウントダウン』 The Final Countdown (1980)
- 『マホガニー物語』 Mahogany (1975)
- 『ミスター・アーサー』 Arthur (1981)
- 『ミラクル・マイル』 Miracle Mile (1988)
- 『ラ・カリファ』 La califfa (1970)
- 『夜の門 ~枯葉~』 Les portes de la nuit (1946)
- 『蘇州夜曲 (”支那の夜”より)』 (1940)
更新履歴
- 2014/07/25 「駅の下」追記。「アパルトマン」からガスタンク部分の内容を移動して新たに「ガスタンク」作成。
- 2014/07/22 「駅の下」追記
- 2014/07/20 「駅の下」でmilouさんの画像を追加
コメント
ご名答!?
バルベス・ロシュシュアール駅
> どうもセットっぽい気がしてきました。
検索すると、やはりセットでした。
「映画で歩くパリ」は (多分ロケ地だけで一冊の本を仕上げる力量がなくて?)全118ページ中、最後に“ポスターで見るフランス映画”で15ページ、“アレクサンドル・トローネルが描いたパリ”で10ページ、その他の資料で11ページなどなど半分近くがロケ地以外の文章だがトローネルの描いた『北ホテル』『夜の門』『昼下りの情事』『サブウェイ』などのデッサンが載っている。
ちなみにトリュフォーの『家庭』の例のジャック・タチ(のソックリさん)が登場するのも同じ駅で、これは確認しました。
milouさん、わざわざ調べていただいてありがとうございます。
やはりセットでしたか。
昼間のシーンが多ければもう少しわかりやすかったかもしれませんね。セットにしては良く出来ていて、地下にもぐる階段まで作ってあるように見えます。
こうなるとあちこちセットのような気もしてきましたが(笑)、ロケとうまく組み合わせているのでしょうね。
ジャック・ペランが亡くなったので検索していましてこちらにたどり着きました。この記事は、どうも読み落としていたようです。ぺランが、こんな時期に芸能活動をしていたなんて知りませんでしたので驚きました。この作品だけの出演のようですね。のちにモンタンらと「あの時は」なんて会話もあったかもしれませんね。
映画は未見ですので言及できませんが、
>この他IMDbの出演者リストを見ると、Un des gosses Quinquina(キンキーナ家の子供のひとり)で ジャック・ペランが出ているようです。単純計算で当時5歳。
「大家族賞」をとった15人家族という設定なので子供がわらわら出てきますが、どの子だかわかった方教えてください
は、どうもこちらのようですね。
http://php88.free.fr/bdff/image_film.php?ID=4595
https://www.youtube.com/watch?v=wiF0-2GF1xs
言われてみると、たしかに彼の雰囲気がありますね。この人であればですが。すでにご存じでしたら大変失礼しました。
以下、野暮な余談です。
ぺランというと、どうしても日本、たぶん世界でも本国のフランスと本国同様に活躍したイタリア以外は、『ニュー・シネマ・パラダイス』で、主人公の現在を演じた人として知られていると思いますが(訃報も、それを強調していると思います)、でも幼少期の彼って、どうみても少年時代の主人公と雰囲気が違いますよね。そして現在のサルヴァトーレ・カシオは、ぺランとぜんぜん似ていない(苦笑)。ぺランは、哀愁を帯びた顔ですが、カシオはそうではない。
https://www.google.com/search?q=Salvatore+Cascio&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=2ahUKEwjhp_P3uar3AhV0p1YBHV-MA3cQ_AUoAXoECAIQAw&biw=1920&bih=937&dpr=1
前に映画『砂の器』で、加藤剛さんの少年時代を演じた子役が大人になった姿を見て、どう見ても加藤さんに似ていないよなあとつまらんことを考えましたが、『砂の器』の場合、成人してからの作曲家の姿を見て、緒形拳の元警官が作曲家の子ども時代を思い出したという設定ですから、仕方ないとはいえ「なかなか難しいよな」と思ってしまいました。駄文失礼しました。
https://www.google.com/search?q=%E6%98%A5%E7%94%B0%E5%92%8C%E7%A7%80&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=2ahUKEwiB9JjAu6r3AhXmw4sBHSarA00Q_AUoAXoECAIQAw&biw=1920&bih=937&dpr=1
あともう1つ。昨日例のラピュタ阿佐ヶ谷で、大島渚監督の『愛と希望の街』と山田洋次監督の『二階の他人』をカップリングで鑑賞しまして、これは『愛と希望の街』ですでにコメントしていることですので詳細はさけますが、「ガスタンク」とか「煙突」「発電所」というのは、昔の映画ではわりと頻出しますよね。ちょうどいま何かと話題の『ひまわり』も、例の発電所が非常に印象的でして、再開発や送電やガス管、運送状況の充実などで、そういった社会インフラ系の施設や工場がどんどん郊外へ移転する過程というのも都市の姿をとらえるうえで非常に興味深いと思います。関西などでも東京でいえば新宿駅の真ん前に野球場があるに等しい大阪球場が再開発で廃止となり、大阪ガスの工場跡地に大阪ドームが建設されるなんてのも、まさにそういった例だと思います。
Bill McCrearyさん、コメントありがとうございます。
ジャック・ペランについて触れた文章であまり『夜の門』について書かれているのが見当たりませんので、こちらでメモしておいて良かったです。
記事や動画のご紹介ありがとうございます。
記事の方の顔写真サムネイルで Jacques Perrin とされている子供ですよね。
動画では、5秒目、一番最後にフレームインしてくる子供で、すぐにみんなの後ろに隠れてしまいます。(VHSでは16分目ぐらいですが、完全に潰れていて見えません)
それから、1分すぎ、大家がえばっている場面で、パパの左手前にいる子供。(VHSでは19分目ぐらい)
こちらの場面からサムネイルを切り出していると思われますが、なるほど~確かにこの子っぽいですね。
このサムネイルの顔、口元がWikipediaにあるこちらとそっくりです。
https://fr.wikipedia.org/wiki/Jacques_Perrin#/media/Fichier:Cronacafamiliare-Perrin&Mastroianni.png
おかげさまでスッキリしました。ありがとうございます 🙂
子供バージョンと大人バージョンで似ていない件は、もうこれは約束事として「本人なのだ」と脳内補完して見るしかないですよね。フランスの俳優がシチリア人を演じているわけですし。
そういえば、『ニューシネマ』では途中経過の青年バージョンもあまり似てないような気もします(笑)。
町中のガスタンクといえば、『ウエスト・サイド物語』がそうですよね。画面の端にちらちら写っていましたが、もはや跡形もないです。
スピルバーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』はお金かけて再開発前の町を作り上げていましたが、ガスタンクまでは再現していなかったようです。