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『ヘッドライト』 Des gens sans importance (1956)

ヘッドライト [DVD]

作品メモ

ひとつ前のエントリー『女猫』のフランソワーズ・アルヌールの代表作。
ジャン・ギャバンにとっても代表作の1本と思っていましたが、日本語版Wikipediaでは項目すら作られていないですね……

フランス語はわかりませんが、原題は直訳すれば「重要でない人々」でしょうか。
「名もなき人々」や「しがない人々」でも良さげな感じですが、原題から離れて「ヘッドライト」とした配給会社のセンスはなかなかのもの(昔出ていた原作本は、映画にならって『ヘッドライト』となっていました)。
1956年ということで、TBSラジオの「歌うヘッドライト」が始まる20年近く前の作品です。

フランソワーズ・アルヌールは長距離トラックの運転手たちの憩いの場、食堂兼簡易ホテルとなっている店のウェイトレス、クロチルド(クロ)役。
お相手……といいますか主人公の中高年ドライバー、ジャン・ヴィアールにジャン・ギャバン。
2人は前年の『フレンチ・カンカン』でも共演しています。
華やかだったあちらと違って、こちらは人生の悲哀に満ちた情緒たっぷりのメロドラマ。
男は家族のためにキツイ仕事を長年こなしてきたのに、いつのまにか家で浮きまくってしまい居所がなくなっている状態。
女もまた孤独で、唯一の家族である母親にもお相手ができて、たまに実家に戻っても疎んじられてしまっています。
そんな2人が逢瀬を重ねますが、男は上司と喧嘩して失業、彼女も妊娠してしまい……といったお話。

一歩間違えればただ暗いだけの陰鬱な話となりかねませんが、ヒロインの造形にフランソワーズ・アルヌールの持ち味がうまく発揮されていて救いがあったように思います。
これがBBやCC、MMあたりなら、全然違った映画となったことでしょう。
実際にはこんな娘がイブをひとりで過ごしたり、しがないオヤジに寄り添ったりすることなどあるわけないですけどね……

監督は『禁断の木の実』(52)でフランソワーズと組んでヒットを飛ばしたアンリ・ヴェルヌイユ。以後『過去をもつ愛情』(54)、『Le Mouton a cinq pattes』(54)、『ヘッドライト』(56)、『幸福への招待』(56)と数年のうちに彼女を撮りまくっています。
……といいますか、ヴェルヌイユ監督の日本公開作品は最初の頃は全部フランソワーズ・アルヌール出演作ですね 🙂
彼女とは『幸福への招待』までですが、当時彼女は他の監督作品にも出まくっていますから、人気の程が伺えます。
一方同監督はジャン・ギャバンとはこの『ヘッドライト』が初めてで、以後『地下室のメロディ』や『シシリアン』と続くことになります。

撮影ルイ・パージュ、音楽ジョゼフ・コスマ(コズマ)。
テーマ曲も哀愁たっぷり。

 
 
 

ロケ地

IMDbでは、

Paris Studios Cinéma, Billancourt, Hauts-de-Seine, France (studio)

主なロケ地はパリとボルドー。
ボルドーは当サイトでは初めてのチェック。
30kmほど川を下ると『雨のしのび逢い』の舞台となったブライ(Blaye)。

「ラ・キャラバン」

いちばん気になるのがあのドライバー相手のレストラン&ホテル&ガソリンスタンド。
見た目では判断できず確信はありませんが、内部はセットのようですし中から外を見た景色もセット。……ついでに外観もセットなのではという気もします。
ここの主人やお客など、すべてが”Des gens sans importance”なのでしょうね。

このお店、1階が食堂で上が宿、ということで『嘆きのテレーズ』に登場したところと同じ作りですね。
1階にサッカーのような遊戯台が置いてるところもそっくり。

運河

0:19。
トラックがやってきたところ。水際には倉庫が並んでいます。
これは設定通りパリですね。

奥に見える橋は、『ディーバ』WでチェックしたPont levant de la rue de CriméeW
橋に隣接する倉庫は『ディーバ』でゴロディッシュが住んでいたところ。
それらを東側から捉えています。

トラックが到着した倉庫のあたりは、今では集合住宅風の建物が並んでいます。
その後ろの2つの塔の教会は、今でもそのまま。

Église Saint-Jacques-Saint-Christophe de la VilletteW

高架下

ごみの収集車が走り出すと見える鉄道の高架下。
ジャンがゆっくりと自宅に向っていきます。
汽車が通るタイミングを見計らっての、見事な撮影でした。
0:50、1:10頃にも写ります。

場所は調査中。難易度高し。
ここかもしれないと思った箇所をメモしておきますが、たぶん間違い。

※2014/07/18追記
コメント欄でmilouさんから情報を寄せていただきました。
こちらが正解。これでスッキリ♪ ありがとうございました。

SVで見る限り、アパルトマンを含めてこのあたりの建物はほとんど建て替えられているでしょうか。

0:32。
実家に戻るクロを乗せて渡る橋。
設定通りボルドーで、橋はピエール橋(Pont de pierre)W

行く手に見える高い塔は、サン・ミッシェル大聖堂Wのもの。

船着き場

0:33。
クロを降ろしたところ。
上記の塔が見える角度から考えてこのあたりかと思いますが、今ではまったく映画の面影がありません。

1920年代の絵ハガキ。
映画よりは大分昔ですが、今よりは映画の雰囲気に近いかも。

実家への道

背景にPlace de la Bourse(ブルス広場)Wの噴水が見えます。

なので、クロが歩いてくるのはおそらくこちらの通り。

野外音楽堂

母親がお相手の演奏を聴いていたところ。
場所不明。

階段

1:02。
クロが勤め始めたアヤしいホテルがあるところ。
モンマルトルのどこかの階段だとは思いますが、中でもこちらではないでしょうか?

60年近く前の映画なのに周囲の建物の形から推定できるという、毎度おなじみ安定感のあるロングライフぶり。

河畔

1:20。
弱っているクロがジャンのトラックに乗るところ。
セーヌ河畔と思われますが、場所不明。

※2014/07/20追記
コメント欄でmilouさんからヒントをいただき、ようやくわかりました。
背景でエッフェル塔の手前に見えていた特徴的な橋は、現在ガリリアーノ橋 (Pont du Garigliano)Wがある場所に架かっていたオートゥイユ高架橋 (Viaduc d’Auteuil)W。 66年に現在のものに架け替えられています。

こういった外観でした。
場所はこちら↓

もう一枚。
おそらく南側からの眺め。

おそらくトラックが停まっていたのは現在環状道路が架かっているあたりかと思われます。

ここから映画のアングルを再現してみますと、

3人が河畔で話すショットで対岸に煙突が並んでいますが、おそらくこの位置にあったもの。

……と現在のマップで示してもわからないので、座標値で示しますと、

48.83336,2.26845

これをそのままコピーしてGoogle EarthのSearchに貼り付けて検索、時間スライダーを1949年6月に遡らせると、並んだ煙突の空撮を見ることができます。

ロケ地マップ

※2014/07/20追加

最近チェックした4,50年代のフランス映画を何本かまとめてマップにしてみました。
リンク先でKMLファイルをダウンロードしてGoogle Earthで開きパリにズームアップ、時間スライダーを1949年にして、建物の3Dは切ると、それっぽい雰囲気を味わえると思います。


より大きな地図で パリが舞台の40-50年代フランス映画 を表示

資料

関連記事

フランソワーズ・アルヌール出演作

更新履歴

  • 2014/07/20 「河畔」追記、「ロケ地マップ」追加
  • 2014/07/18 「高架下」追記

コメント

  1. 赤松 幸吉 より:

    『ヘッドライト』は最近GAOで無料放映されたものを見たばかりです。映像、役者、音楽(後年のフランシス・レイのようなメロディ)ともによく、これほど情感豊かな作品は希有で、まさにフランス映画の醍醐味でしょう。映画を見て涙を流すことなど滅多になかったのに、最後には思わず涙が出ました。(無料で鑑賞し涙を流せて、とても得をした気分になりました)その日は一日センチメンタルな気分に浸っていました。
    「ラ・キャラバン」の場所がとても知りたかったのですが、ingara様の調査によれば、やはりセットのようですね。あのように一軒だけぽっんと建っているのは不自然だと感じたり、反対に長距離用の沿道なら一軒だけでも不思議はないと思っていました。とにかくアメリカのけばけばしいドライブインと違って、とても情緒のあるレストランでした。
    追記:「史上最大の作戦」のロケ地情報には圧倒されました。読者も本当に上陸作戦に参加しているような気分になります。あまりにも凄いので、読んでいて頭が痛くなりました。

  2. 居ながらシネマ より:

    赤松さん、コメントありがとうございます。
    GYAOで放映されたのですね。最近はhuluばかりで、GYAOはチェックしていませんでした。
    きっと画質もそこそこ良かったのでしょうね。手持ちはぼそぼそ画質のVHSしかなくて、細かく見ていて目が疲れました……。
    キャラバンについては当てずっぽうということでご了承を。
    「反対に長距離用の沿道なら一軒だけでも不思議はないと思っていました」というのも十分ありますね。
    きっとどこかに正解となる資料があるでしょうけど、あれこれ推理するだけで楽しいです。

  3. milou より:

    高架下、“難易度高し” とあるが簡単に分かりましたよ(嫌味?)
    確かにゴミ収集車の場面だけでは自宅が75番地以外のヒントはないが77分頃、娘が(美容院の隣の)自宅を出て父親を探す場面でRue des Orteaux とはっきり見えます(その前にジャンが歩くときガラスに高架の柵が見えている)。

    SVでは風景は大きく変わり電話のとき開いたドアから見える向かいの建物も当然変わっているが雰囲気は似ている(カフェの場所は空き地)75番地であろう場所も新しい大きな集合住宅になっているが高架の柵、柱上の半円形の出っ張りなどはそのままですね。

    ちなみに記載の候補地の高架もそっくり、よく見つけましたね。多分OGTのあるバッサン近くをうろうろしたんでしょうが、歩いて帰ったとすれば一時間近くかかるほど離れていますね…

  4. milou より:

    関係ないがカフェのポスターにPalais Avron という映画館のポスターが見える。上映中の作品はエディ・コンスタン・ティーヌ、マイ・ブリット主演の 「Ca va barder(55)」で日本のデータベースには載っていなかったが劇場はオルトー通りの(大通りで)1つ南の37 Rue d’avronにあった立派な映画館(現スーパーマーケット)で例によって自宅が実在の住所であるように映画館(つまりカフェ)も現実と矛盾しない。

  5. 居ながらシネマ より:

    milouさん、ありがとうございました!おかげさまでスッキリです。
    通りの標示は手持ちのVHS(をHDDに取り込んだもの)では読みとれなかったのでした……。
    候補としてあげた場所は、『ヘッドライト』のついでに『夜の門』も一緒にチェックしていて、このあたりの運河と高架部分をけっこうしつこくマップでたどっていて見つけたところでした。(『夜の門』はもうすぐアップできると思います)

  6. milou より:

    ビデオでは見えないかもしれないがクロがジャンのトラックに乗るところ。走り出した前方に特徴的な橋とエッフェル塔の(4つの)面が見える。セーヌの曲がり具合と塔の角度から下流ならアルマ橋、上流ならベルシー橋からの数個しかあり得ず橋の形からベルシー橋に違いないと思われる。ただ、そうすると手前の橋がトルビアック橋になるが画面に見える橋とはまったく印象が違い引っかかるのだが…
    いずれにしろベルシー地区は風景がまったく変わってしまっているので判断が難しい
    画面では周囲に何本もの煙突が見えるが、このあたりはかっての工場地帯なので矛盾はしない(今でも何本かの煙突が見える)

  7. 居ながらシネマ より:

    milouさん、またまた情報ありがとうございました。
    動画再生ソフトをあれこれ調整してなんとか背景を確認したところ、60年代に架け替えられた昔の橋であったことがわかりました。
    本文の方に追記しておきましたが、目が疲れました orz

  8. milou より:

    なるほど納得。現在のセーヌの橋の写真は全部ネットで集めデータベース化しているが昔のものまでは…
    ベルシー橋はともかく3人が立っているはずのトルビアック橋が(1882年完成なのに)わずか(!!)60年で違いすぎるので納得出来なかった。こちらこそスッキリです。

    なおアングルは違うが橋とエッフェル塔と煙突が揃い踏みした写真がありました
    http://www.historim.fr/2013/11/leon-paul-fargue-un-poete-sur-les-quais.html

  9. 居ながらシネマ より:

    milouさん、「セーヌの橋の写真は全部ネットで集めデータベース化しているが」って凄すぎです。
    でも作っておくと便利かもしれませんね。
    ロンドンの教会に関して画像データベースを作りかけたことがありましたが、多すぎてすぐにあきらめました……

  10. たかマックィーン より:

    居ながら様、
    ヘッドライト 発見しました(笑)
    嬉しいです、いい映画ですよね。DVDも随分以前に入手して、何度となく観ましたが。それにつけても、居ながら様や、ご投稿者様がたの、なんとも含蓄のあるお話しを読ませていただいて、自分の浅薄な見方を反省致しております。
    このロケルポも、勉強になりました、ありがとうございます。
    この映画、後年、東映で、
    道 というタイトルでリメイクされました。世間的にはまったく不評なんですが、私個人的には、仲代達矢さんが、結構頑張って、本家に対抗しているように思います。VHSです。
    しかしながら、ジャン・ギャバンが凄すぎる。
    まったく普通のおじさんでいるのが、凄すぎます。

    ドライブインの前、砂埃の一本道、これで画面が成り立つんですね。
    一級のロードムービーですね。

    ロケルポで、新たな発見できまして、改めて
    ありがとうございました。 

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