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『シシリアン』 The Sicilian (1987)

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輪の中のホコリ

作品メモ

ひとつ前のエントリー『ゴッドファーザー』同様、マリオ・プーヅォ(プーゾ)原作もの。
こちらはシチリアを舞台に、実在した山賊サルヴァトーレ・ジュリアーノを描きます。

この人物、これまでのエントリーでは、『シチリア!シチリア!』(2009)で間接的に登場。
劇中のデモが、ジュリアーノ一味によって引き起こされたこちら↓の事件へ抗議するものとなっていました。

次にエントリー予定の『シシリーの黒い霧』(1961)もジュリアーノが主人公の映画。
比較すると、『シシリーの黒い霧』がネオレアリズモ的といいますかドキュメンタリー風であるのに対し、『シシリアン』はドラマ仕立ての作り物の世界となっていて、同じ人物を中心に据えても、対照的な味わいとなっています。

原作も映画も原題は”The Sicilian”。
翻訳本のタイトルも『ザ・シシリアン』ですが、映画は「ザ・」がとれて『シシリアン』。
アラン・ドロン&ジャン・ギャバンのフランス映画(1969)と同じになってしまっていますが、中身はまったく別です。

キャスト&スタッフ

主人公サルヴァトーレ・ジュリアーノにクリストファー・ランバート。一時は民衆に義賊として支持されるものの、結局は黒々とした勢力にいいように操られ嵌められていくという役柄を熱演……なのですが、どうも目力がありすぎといいますか、目に陰やら険がありすぎのような。結果、感情移入がしづらいキャラとなり、ちょっと残念。

そのいとこで片腕でもあるガスパレ・ピショッタ(Gaspare PisciottaW[1]あだ名はアスパニュ aspanuにジョン・タトゥーロ。ジュリアーノに一番近く信頼できる人物でありながら……というこれまたとても難しい役でしたが、すばらしい表現力で主役を食ってしまっているような印象も……

映画ではこの2人 ⇒ IMDbのPhoto

こちら↓は実際の2人。

他に……
大地主で大富豪ボルサ公にテレンス・スタンプ。
同じく有閑階級のカンニッラ公爵夫人にバーバラ・スコヴァ。
マの大親分ドン・マジーノ・クローチェにジョス・アクランド。
パレルモ大学のアドニス教授にリチャード・バウアー。  

監督マイケル・チミノ。
『天国の門』(80)でやらかしてしまいペナルティ・ボックス入り。『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(85)でようやく復帰して、その次の作品が『シシリアン』となります。

撮影アレックス・トムソン、音楽デイヴィッド・マンスフィールドで、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』と同じ。

原作と映画

原作は、『ザ・シシリアン』”The Sicilian” (1984)W

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映画化にあわせて文庫化↓

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『ゴッドファーザー』の大成功を受けてのマリオ・プーゾの作品とくれば、『ラスト・ドン』、『ザ・ファミリー』、『オメルタ―沈黙の掟』とか、そんなんばかりですが、『ザ・シシリアン』が特別なのは、『ゴッドファーザー』と密接なつながりがあること。
具体的には、ニューヨークでひと仕事した後シチリアへ高飛びしたマイケルがいきなり登場。サルヴァトーレ・ジュリアーノの両親に彼をアメリカへ逃がすことを約束するところから始まります。サルヴァトーレの父親がマイケルの父ヴィトーの旧知で、依頼が回ってきたという設定。

つまり『ゴッドファーザー』のマイケル外伝といいますか、スピンオフ的世界となっていて、その枠組みの中で当時実在したサルヴァトーレとシチリアの実情をこってり描くという趣向です。
ちなみに、原作では主人公の姓をGuiliano(グイリアーノ)とuとiを入れ替えています。フィクションとして描くにあたり、少しだけ配慮している感じでしょうか。

映画化に際し、マイケルのくだりはあっさり全面カットして『ゴッドファーザー』との関連性はなくなり、名前もGiuliano(ジュリアーノ)と実名に戻しています。
これなら普通に「サルヴァトーレ・ジュリアーノの生涯を描いた映画」となりますね。

ただ原作では詳細に描かれた戦後シチリアの複雑な情勢も、映画ではどうしても説明不足となってしまっています。
匪賊、大地主、貧農、教会、マフィア、左右の党派と、様々な人物が出てきますが、前提となる知識が薄いと、人物描写もなかなかこちらの胸に迫ってきません。

一方で原作にはなかった公爵夫人との関係やらなんやらが加えられていて、もしかするとそのあたりの男女の事柄が入らないとお客が入らないと思ったのかもしれませんが、かえって原作の雰囲気が損なわれてしまっているようなところも。 [2] … Continue reading

『ゴッドファーザー』とは無関係になったのだったら、ジュリアーノの生涯をもっときっちり描けばとも思いますが、それについては『シシリーの黒い霧』という優れた先達があるという…… スタート位置からして、なかなか難しいところがあった映画と言えるかもしれません。

ちなみに2015年には宝塚歌劇団でこういった↓ミュージカルが上演されたようですが……

登場人物に「ヴィトー・ルーミア(シチリア逃亡中のアメリカマフィア)」とありますので、これもマリオ・プーゾの『ザ・シシリアン』に拠っていると思われます。

ロケ地

IMDbではこれだけ。、

Cinecittà Studios, Cinecittà, Rome, Lazio, Italy (studio)
Sutera, Caltanissetta, Sicily, Italy
Italy

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

タイムスタンプは、ディレクターズカット版DVDのもの。

タイトルバック

交差点

仰瞰カメラがぐるっと回りながら建物を次々捉えていきます。
場所はパレルモ市内のこちらの交差点、といいますか広場↓

Quattro Canti (Palermo)W

最初のカットはこちら↓  カメラ南向き。

ちょうど一周回って左へのパンが終了、カメラが下がって祭壇を捉えますが、この位置↓

議事堂前広場

次のカットは↓

Piazza del ParlamentoW

大聖堂

天蓋のとなりにアーチが連なっているのは↓

Cattedrale di Palermo(パレルモ大聖堂)W

記念碑

天使がてっぺんにいる記念碑は、こちら↓のパレルモ解放50周年記念碑(1910年建立)。

Piazza Vittorio Veneto (Palermo)W
Statua della Libertà

遺影が貼られている通り

ポルタ・ディ・カストロ通り

ここは2:02でも登場。

刑務所

長く高い塀の刑務所は、実際には墓地↓

Cimitero di Santa Maria dei RotoliW

独房にいたのはピショッタ。

史実では、パレルモのウッチャルドーネ刑務所(Ucciardone Prison)W

伯爵夫人の屋敷

0:05
農民たちが厳しい農作業に汗する一方で、優雅に乗馬を楽しんだ富裕層2人が戻ってきます。
最初は夫婦かと思ってしまいますが、後の会食の場面(0:54)で女性の夫は海外で好きなように過ごしているようです。
テレンス・スタンプが演じる男性はボルサ公(Prince Borsa)。原作のオッロルト公に相当。
バーバラ・スコヴァが演じる女性はカンニッラ公爵夫人(Cannilla Duchess)。原作のアルカーノ公爵夫人に相当。映画ではアメリカ人という設定を加えています。

夫人のふるまいからして、この屋敷はボルサ公ではなく、夫人のものでしょうか。

この屋敷、ジュリアーノとピショッタが逃げる場面で、畑から見下ろすショットに写っていた館という想定なのかもしれませんが、どうも違う建物のように見ます。つながりがよくわかりません……

撮影場所不明。気になるので調査中。

修道院

重傷を負ったジュリアーノをピショッタが連れてきたところ。
場所不明。

0:27頃、療養中のジュリアーノは、修道士相手に地面に輪を4つ描いてみせます。

「マフィア、大地主、教会…… 第4の輪になってやる」

すると修道士曰く、

「シチリアには3つの輪しかない」
「人民は?」
「その輪の中のホコリに過ぎん」

床屋

0:14
アドニス教授が散髪に来たところ。
最初にいた客は町長。
戸口から外が少し見えますが、場所は「村の広場」参照。

ボルサ公の城

0:16
ボルサ公が窓から望遠鏡で集会の様子を見ていますが、この塔はこちら↓の北東の角。

ドンナフガータ城(Castello di Donnafugata)W

これまでのエントリーで言えば、『カオス・シチリア物語』で登場していました。

集会が行われていた門や城の塔は、最初の屋敷とは無関係で、ボルサ公爵の城の一部ということでしょうか。
望遠鏡で覗くのは、原作のオッロルト公も同じ。農地の大半を所有する大地主です。
その後ジュリアーノ一味に誘拐されることになりますが、悠々と身代金を払い、ジュリアーノと親交を深めて?解放されるという、いわゆる誘拐ビジネスのエピソードが展開。このあたりも原作をなぞっています。

望遠鏡で覗いていた門のあたりは、1:33の公爵が解放された場面でも登場。
遠景も写っていますので、粘れば場所がわかるかも。
ただこの門自体は場所が少し不自然なのでセットのような気もします。

村の遠景

0:21
ピショッタがアドニス教授と密かに会った後、村を出て行く場面。
背景に夜明けの村が美しく捉えられていますが、こちら↓

カルタベッロッタ(Caltabellotta)W

このあたり↓からの眺め。カメラ東向き。

このあたりがこの村の絶景ポイントのようですね。
1:12頃教授が村にやってくる場面などでも似たようなアングルで映し出されます。

ホテル

0:28
GRANDE HOTEL
Via Roma, 398, 90139 Palermo PA

列車強盗

0:45

行列

0:47
これは復活祭でしょうか?
白い頭巾にまぎれて、ジュリアーノたちが街へ潜入します。

場所は、パレルモの市庁舎の裏手。

Piazza Bellini (Palermo)W

教会は↓

Chiesa di Santa Caterina (Palermo)W

法務大臣

0:50
設定ではローマの法相執務室。
ドン・クローチェを迎えたのはフランコ・トレッツア司法大臣で、シチリア出身という設定(原作18章)。

撮影は、ローマではなくパレルモ市庁舎。

Palazzo Pretorio(プレトリオ宮)W

奥に部屋が続いているのではなく、大きな鏡があつらえてあり、手前の景色が写り込んでいます。
映画でもこの鏡は確認できます。

法務省

0:52
設定ではローマ。
撮影はおそらくパレルモ市内と思われますが、調査中。

村の広場

0:13 1:13 1:20

床屋が面したところ。
最初は店内しか写りませんが、1:20で広場に引きずり出される場面ではっきり写ります。
IMDbのリストのこちら↓ 遠景で写される村とは異なります。

Sutera(ステーラ)W, Caltanissetta, Sicily, Italy

床屋が入っていた物件は、実際には警察署のようですね 😅

1:13で結婚式を挙げた教会は、広場に面したこちら↓

Chiesa di Sant’Agata (Sutera)

内部もこちらでの撮影。

デモ隊への襲撃

1:45

これが上述のこちら↓の事件

枢機卿の教会

1:54
内部はこちら↓

モンレアーレ大聖堂(Duomo di Monreale)W

枢機卿がいたのは聖堂の左手奥。

振り返ると、ジュリアーノが登場したところ(左手列柱の横)が見えます↓

車が停まっていて(笑)出て行くのは聖堂のど真ん中。

ここに車を乗り入れるというのが、全編通していちばんビックリした場面でした。

教会の外は別の場所。

教授を連れてきて詰問したところ。

聖母像はセットでしょうか。

ロケ地マップ

資料

更新履歴

  • 2022/08/22 新規アップ

References

References
1 あだ名はアスパニュ aspanu
2 原作では公爵夫人(名前はアルカーノ公爵夫人)はジュリアーノに単に宝石を奪われるだけの役目で、登場はそれだけ。映画では彼女自身が、「ふだん高いみかじめ料を払っているのにどーゆーことよ」とドン・クローチェに苦情を言いますが、原作ではこれは夫のセリフ。

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