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『私はモスクワを歩く』 Я шагаю по Москве (1963)

作品メモ

ひとつ前のエントリー『不思議惑星キン・ザ・ザ』のゲオルギー・ダネリヤ(Георгий Данелия)監督がその20年以上前に撮った作品。
「みずみずしい」という表現がぴったりの、若さにあふれた青春映画です。

この頃のソ連映画と言えば、タルコフスキー監督の『僕の村は戦場だった』が1962年。
次のエントリー予定、マルレン・フツィエフ監督の『私は20歳』も同時期。
世代は上になりますが、少し前にとりあげた『鶴は翔んでゆく』のミハイル・カラトーゾフ監督の『怒りのキューバ』が64年。
ソ連映画というとなんとなく国策にのっとったイデオロギー臭の強いウドの大作……あるいはマジメ過ぎて退屈な芸術映画……てなイメージがあるかもしれませんが、この時期そうとばかりは限らない個性的な作品が次々生まれ、国際映画祭でも評価を得ていたように感じられます。
おそらくフルシチョフ時代初期の雪解けの中でいろいろな才能が芽吹き、その後の制約の中でも育ってきていたこと。さらに60年代前半は世界中で若い世代による新しい映画が生み出されていて、それとシンクロしていたのかとも思いますが、私はテキトーな知見しかありませんので、ここらへんはぜひきちんとした資料を参考にしてください。
ともかくこの時期のソビエト映画、もう少しDVDが出るなりして接しやすい環境になってくれれば……という願いをこめてのエントリーであります。

主演のコーリャに、監督として著名なニキータ・ミハルコフ(Никита Михалков)。中高年になってからの姿しか脳裏に浮かんできませんが、若手俳優時代の美しさはなかなかのもの。特にこの映画ではなぜか脱ぎまくっている印象が……
モスクワにやってきた青年ワロージャ(Володя、ヴァロージャ)にアレクセイ・ロクテフ(Алексей Локтев)。
結婚を控えたコーリャの友人サーシャ(Саша)にエフゲニー・ステブロフ(Евгений Стеблов)。
レコード店の店員アリョーナ(Алёна)にガリーナ・ポリスキーフ(Галина Польских)。
物語は、こうしたごく普通の若者たちの一日をつづっていきます。

監督ゲオルギー・ダネリヤ(Георгий Данелия)、撮影ワジーム・ユーソフ(Вадим Юсов)。脚本ゲンナージ・シュパリコフ(Геннадий Шпаликов)、音楽アンドレイ・ペトロフ(Андрей Петров)。

日本ではおそらくソフトは出ていないと思いますし、字幕付きで見られる機会もあまりなさそう。
YouTubeのモスフィルムのチャンネルには登録されていますので、字幕にこだわらなければそちらで由緒正しく見ることができます。

その他YouTubeで見られるモスフィルムとレンフィルムの主だった作品については、『戦争と平和』のエントリー内にまとめていますのでよろしかったらご利用ください。

ロケ地

IMDbでは、

Moscow, Russia
Mosfilm Studios, Moscow, Russia (studio)

とほとんど参考にならず。
今回は気になったところだけ例によって画面とにらめっこでチェックしていきました。
今やモスクワ市内はかなりの部分でストリートビューが使え、主人公と一緒になって、まさに60年代の「モスクワを歩く」気分♪
自力で探した後にpastvu.comでその位置をチェック、キャプチャー画像が登録されていたら正解としています。
あわせて、字幕なしで見たときの参考になれば、と物語や設定も少しメモしておきました。

空港

ドモジェドヴォ空港は開業前。
シェレメーチエヴォ空港はガラスに映った建物がちょっと違うような……というわけで、場所は不明です。

女性に声をかけたのは、これからバスでモスクワ市内へ向うワロージャ。
この女性はここだけの登場。 撮り方や音楽のかぶせ方からも、新しさを感じます。

モスクワ俯瞰

1ショット目はこちら。

カメラ位置は、このビルWで、『モスクワは涙を信じない』でも俯瞰のカメラ位置として使われたところ。

2ショット目と3ショット目は、外務省のビルの上から撮られています(向きは南側と西側)。

地下鉄車内

オヤジにからかわれているおのぼりさんワロージャを助けたのが、もうひとりの主人公コーリャ。
彼はタイトルバックで写る地下鉄工事現場で働いているという設定。
夜の勤めを終え、シャワーを浴びて帰宅途中。

水辺

2人が双子を抱えた男とすれ違ったところ。
男はコーリャのいとこヴィクトールで、話に出てくるアーニャはその妻。後ほどグムの場面で登場します。

撮影場所はおそらくこちら(未確認)。

Чистые пруды (きれいな池)W

続くワンちゃんがらみのシーンで、背景に写るアパートが今でも対岸に確認できます。
ベンチも今でも同じような形に見えますが、ここはぜひ座ってみたいですね 🙂

カフェ

0:10頃他。
コーリャの住まいの前にあるカフェ(КАФЕ)。
通りの奥に特徴的なスターリン様式の建物が見えますが、これは『ひまわり』に登場した外務省。日差しから見てカメラ位置は東側でしょうか。
カフェの建物はなくなっていますが、左側の建物と道の曲がり具合からこのあたりにあったと思われます。


大きな地図で見る

コーリャのアパートもなくなっていますが、左隣の建物はそのまま残っています。
ワロージャはここで別れて目的地へ向いますが、誰もいなかったようですぐに戻ってきます。
そこへコーリャの友人サーシャがやってきて、寝たばかりのコーリャを起こして頼み事。
結婚を控えているサーシャが召集を延期してもらえるように2人して当局へ出向くのでした。

歩道

0:19。
交差点を見下ろすペデストリアンデッキ風の場所。
調査中。

工事現場

工事現場の人をからかうところ。
同じ場所が何度もほじくり返されるのは、日本でもあるような……。
調査中。

道案内

お客がロシア語が話せなくて困っている運転手を助ける場面。
客は英語で、モスクワの中央美術館(=トレチャコフ美術館W)へ行きたいと言っています。
アジア系の顔だな~と思って見ていると、後ほど日本人であることがわかってちょっとびっくり。

買物

0:22。
グム(ГУМ)Wでワロージャと合流。
レコード店の販売員アリョーナにときめく一方で、コーリャはアーニャを目撃し激しく落ち込むこととなります。

ガイド

サーシャと別れたあと、聖ワシリイ大聖堂Wの南側で団体さんと遭遇。

この後2人はワロージャの作品をとりあげてくれた作家の住まいへ向いますが、家にいたのは……

夕立ち

0:40。
突然の驟雨。
ハンパない豪雨にふと岩井監督の『四月物語』など連想します。
雨の中を結婚式場へ駆け込む人たちと、ヒールを脱いでふら~りと歩く女性の姿。
オリジナルのポスターはこの場面ですね。

http://ru.wikipedia.org/wiki/Файл:Я_шагаю_по_Москве.jpg

柱が並んだ建物

0:53。
追いかけっこの最後。

ゴーリキー公園Wの門。

野外ステージやこの後の遊園地も同公園内と思われますが、確証はありません。

夜の川縁

0:58。
道路の下に鉄道が通っている特徴的な橋は、『ひまわり』『モスクワわが愛』などで登場したこちら。

Воробьёвы горы(ヴァラビヨーヴィ・ゴールィ、雀が丘)駅W

撮影位置はおそらく東側のこのあたり。柵のデザインは今でも同じ。


大きな地図で見る

夜の銅像

1:07。
水をかけられていたのは«ГОГОЛИ»(ゴーゴリ)。
ロシア語版Wikipediaにはこんな項目までありました。

Памятники Гоголю в Москве(モスクワのゴーゴリの記念碑)W

映画に登場したのはこちら。

ゴーゴリが最後の4年間を過ごした家だそうで、今は博物館となっている模様。

http://www.domgogolya.ru/

続く道路を背景にした銅像のアップは、『モスクワは涙を信じない』でもちらりと登場したウラジーミル・マヤコフスキー(Владимир Владимирович Маяковский)W

地下鉄駅

1:09。
ラストのとても印象的な地下鉄駅。
駅名がかろうじて読み取れます。モスクワ大学間近のこちら。

Университет(ウニヴェルシチェート=大学)駅W

画像はたとえばこちら。

ラストでコーリャは「私はモスクワを歩く」と歌っています。
エスカレーター頭上の標示は«ВЫХОД»(ヴィーハト、出口)ですが、これが単なる標識に見えない映画の魔法。
これからどんな未来が待っているのか……いやその前にほどんど眠っていないはずだけど、大丈夫?
ちょっと危なっかしくも憎めないこの若者を、ヴァロージャを見ていた地下鉄の老夫婦のようにニコニコしながら見守ってしまう自分がいたりします。

もっと歌いなさい!

ロケ地マップ

『私はモスクワを歩く』(63)『私は20歳』(65)『夕立ち(七月の雨)』(66)をまとめて。


より大きな地図で 60年代「新しい」ソ連映画 を表示

※16/5/27追記
その他の映画もまとめて。

 
 

資料

更新履歴

  • 2022/05/30 動画リンク更新
  • 2016/05/27 「ロケ地マップ」追記

関連記事

コメント

  1. ケードル より:

    先日見た「私はモスクワを歩く」を検索していて、こちらにやって参りました。詳細なロケ地の情報など、知りたかった情報を網羅してくださっていて感激です。あの頃のモスクワの景色は見つからないかもしれないけれど、若きニキータ・ミハルコフ演ずるコーリャに案内してもらう想像しながらモスクワを訪ねてみたくなりました。他の記事もゆっくり拝見させていただきます。

  2. 居ながらシネマ より:

    ケードルさん、いらっしゃいませ、コメントありがとうございます。
    もしかすると、シネマヴェーラ渋谷でご覧になったのでしょうか。
    昨年の特集で行けなかったので今年は……と思っていたら、昨今の情勢でつい出かけるのを控えてしまっていたところでした。
    ご覧になった方が検索して来てくださって、とても嬉しいです 🙂

    拙サイトは、マップをこねくり回して映画を楽しむという、ちょっとマニアックで変てこりんなことを続けていますが、他の記事でも気に入っていただけるものがありましたら、幸いです。
    ご参考までに、ソヴィエト・ロシア映画ですとこういったところを今まで取上げています……

    https://inagara.octsky.net/category/production/ロシア映画

  3. ケードル より:

    居ながらシネマさん

    わぁ、お返事くださっていてありがとうございます!
    そうです、シネマヴェーラで見て参りました。こんなご時世ですが客入りはなかなかで、2回見ましたが半分くらい埋まっていたように思います。何でもない、でもちょっと特別な1日譚が瑞々しく描かれていて、さすがダネリヤ監督だなぁ…と、この作品が大好きになりました!
    私も映画のロケ地を探して訪ねるのが大好きなので、こちらのブログにたどり着けてとても嬉しい。これからも楽しく拝読させて頂きますね。

  4. ミハルコフ より:

    Youtubeの公式モスフィルムのチャンネルで『私はモスクワを歩く』を見て、映画の周辺情報はないかと思って検索していたら、このブログに辿り着きました。
    しかしまさか日本にこんなすごいブログがあるなんて思いもよりませんでした。
    60年代のしかもソ連映画のロケ地をここまで詳細に分析するとはもう常軌を逸しています(^_^)
    このブログで示された地図情報をもとに再度同作品を見て二度違う楽しみを味わうことができて、大変贅沢な時間を過ごせました。(コロナによる巣篭もりで鬱屈していたので)
    ありがとうございます。
    追伸
    このあと『夕立』も続けて見ました。

  5. 居ながらシネマ より:

    ミハルコフさん、コメントありがとうございます。
    拙サイト、楽しんでいただけたようで嬉しいです。
    モスクワ市内は、ストリートビューが使えるようになってから、かなりしつこく見て回りました。まさに「私はモスクワを歩く」てな感じです。
    この頃のソ連映画をチェックしながら、SVでカメラ位置を確認し、GoogleEarthにピンを立てていく作業がとても楽しかったですね。

    ……とはいえ、家にこもってパソコンいじってばかりでは、いくら「居ながら」を自称していも鬱屈してしまいますから、早くコロナの件が片付いて、元の生活に戻れるといいなと思っています。

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