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『揺れる大地』 La terra trema (1948)

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一部の人々が他の人々を搾取する世界で
よくある話がここでも語られる

作品メモ

ひとつ前のエントリー『ストロンボリ』は、ネオレアリズモの巨匠ロベルト・ロッセリーニ監督がイングリッド・バーグマンを迎えて新境地を見せた映画でしたが、こちらも巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督がやはりシチリアを舞台に漁師たちの厳しい現実を描いたいかにもネオレアリズモな映画。
フィルモグラフィ的には戦後最初の作品で、この後『ベリッシマ』、『夏の嵐』とネオレアリズモ路線が続くことになります。

少し前に取り上げた『明日を夢見て』で、同乗させた男が共産党員だと知った詐欺師の主人公が、
「わが社は『揺れる大地』であなた方と仕事をした」
と口からでまかせを言うと、共産党員はたちまち嬉しそうに
「ヴェルガが原案? 同志トリアッティが協力の?」
と反応してくる場面がありました。
ここでヴェルガとは、シチリアの作家ジョヴァンニ・ヴェルガ(Giovanni Verga)Wのことで、その代表作(らしい)“I Malavoglia”(『マラヴォリア家の人々』1881年)Wが原案となっています。
また「同志トリアッティ」は、イタリア共産党のパルミーロ・トリアッティWのこと。
もともと共産党出資でドキュメンタリー映画を作るという企画からスタートしたようで(1948年の総選挙に向けた宣伝用)、そのことかと思われます。

内容は、とある一家を中心に、働けど働けど搾取され続ける貧しい漁師たちをひたすら描いていて、社会の矛盾をどストレートに伝えています。
独立を目指しいっときは成功しかけるものの、挫折しすべてを失っていく主人公たちの姿は見ていて絶望的な気持ちになりますが、一方でそれでも前に向かって進んでいく誇りや尊厳も描かれていて、ヴィスコンティ監督の後年のテーマに通じるものがあるようにも思えました。

監督ルキノ・ヴィスコンティ。IMDbではナレーターとしてもリストに挙がっています。
撮影G・R・アルド。

出演者は全員地元の皆さん。
最初にこういった↓テロップが出ます。

映画は貧しい一漁村にロケして製作され
出演者も すべて住民の
中から選ばれた
反抗という言葉も知らない
純朴な人々だった
  (VHS字幕)

VHSの字幕では訳されていませんでしたが、この後に

イタリア語はシチリア島民の言葉ではない

と続きます。
『ニュー・シネマ・パラダイス』の映画館では、この部分が映し出されていました。
文字が読めない観客にはテロップの意味がわからない、というオチが続くのですが、オチはともかく『揺れる大地』は当然全編シチリア語で、しかも訛りがきついらしいですね。
このあたりのニュアンスを味わえないのが少々残念。

トルナトーレ監督としては、『ニュー・シネマ・パラダイス』と『明日を夢見て』で『揺れる大地』に言及しているわけで、シチリア出身の映画監督にとってはこの映画は取り上げなくてはならないマストな作品なのかもしれません。


ロケ地

IMDbでは、

Aci Trezza, Aci Castello, Catania, Sicily, Italy

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

この舞台はシシリー島の東岸
イオニア海に面した
カタニア市付近である
   (VHS字幕)

漁村

港のすぐ外側に特徴的な岩山が並んでいるところ。

冒頭のテロップでは「シシリー島の東岸、イオニア海に面したカタニア市付近」。
具体的にはIMDbのリストの通り、こちら↓

Aci Trezza(アーチ・トレッツァ), Aci Castello(アーチ・カステッロ)W, Catania, Sicily, Italy

この映画の大半がこちらで撮影されています。

画像集↓

この俯瞰写真がわかりやすいですね。

↓1890年代の画像とのこと

浜に面した建物

現存する建物をもう少し細かくチェックしていきますと……

教会↓

Chiesa Parrocchiale di San Giovanni Battista

また、網を片付ける漁師たちの背景に2階部分に丸い窓がついた特徴的な建物があります。こちらも現存。

こちら↓の画像で、船の船尾のあたりに教会、舳先のあたりに丸い窓が付いた特徴的な建物が写っています。

0:33
騒ぎになった時、浜の南側に現存する建物を確認できます。

人々が次々海に飛び込むのは、北側、現在赤い建物の前。

警官たちが駆け下りる階段は、教会前のこちら。噴水も現存。

警察署

0:18

これは確認できませんでした。

警察署長ドン・サルバトーレ
給料は国から出ている
この村で暇なのは彼だけだ

バス乗り場

0:50
バラストロ一家が家を抵当にすべくカタニア市へでかけるところ。

左折して上っていく階段は、教会右脇の小道でしょうか?

バスに乗ったのはこのあたり↓に見えます。

0:57
保存用の塩を運ぶ場面。

ニコラが手伝った坂道はこちら↓ マップで「カッペッロ通り」とあります。

坂道の上からのアングルで坂の下に見える建物は現存。

ネッダとアントーニ

1:01
海を見下ろせる高台。
アントーニ[1]VHS字幕による。«’Ntoni»が答えを迫るところ。

1:04
その後2人の関係がいよいよ進展する海岸。
こちらの方は絞りきれませんでした。
途中のルートが気になるので調査中。

上述の通り、『揺れる大地』は『ニュー・シネマ・パラダイス』の映画館で上映されていました。
この2人の場面も村人が固唾を呑んで見守っていましたが、残念ながらキスシーンが寸止めとなり、「もう20年もキスシーンを見てない」とブーイングが飛び交います 😇

もちろんその分ラスト、ジャック・ペラン演じる大人トトが見た特製コンピレーション?にはしっかり含まれています。
手っ取り早くは、こちら↓の動画でご確認ください。
1分45秒あたり、ジャック・ペランが前のめりになった直後です(このYouTube動画、埋め込めませんので、大人な方だけリンク先をご覧ください)。

https://www.youtube.com/watch?v=oQHkTCq5e8c 

つい先日(2022年4月21日)亡くなったジャック・ペランを偲びつつ……

ロケ地マップ

資料

更新履歴

  • 2022/04/25 新規アップ

References

References
1 VHS字幕による。«’Ntoni»

コメント

  1. アサイ より:

    シチリア漁民たちが魚の大群を捕獲していく場面が印象に残っています。
    また、住民は靴を履かずに裸足で歩いているのです。主人公にあたるのか、野心を抱く兄も、長靴か裸足でした。
    貧困を裸足でシンプルに表現しています。しかし、戦後のシシリアは、そんなに貧しかったのか。いろいろ、考えさせせられた。
    ただ、兄が野心を抱き、失敗し、破滅のような物語に、『ヴェニスに死す』に通ずるものを感じた。
    素晴らしい映画です。

  2. 居ながらシネマ より:

    アサイさん、コメントありがとうございます。
    今日でもいわゆるイタリアの南北問題は根深く残っていると思いますが、特に昔の映画となると、とにかく仕事がなく、貧しく、男たちは遠い地に出稼ぎに出かけるのが当たり前みたいな世界となっていて、シチリアでの生活の厳しさが伝わってきます。
    『揺れる大地』もいやというほどそのあたりを描いていますね。
    監督お得意の「ハイソな世界の滅びの美学」みたいな作品と比べると意外な印象もありますが、おっしゃる通り相通じるものはしっかりあると思いました。

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