目次
作品メモ
このところシチリアで撮影された映画を続けていますが、監督名を並べると、タヴィアーニ兄弟、トルナトーレ、アントニオーニ、ロッセリーニ、ヴィスコンティとなかなかのラインナップ。
ここから先は、しばらくパゾリーニと参ります。
久々の制限なしのゴールデンウィーク♪ 絶好の行楽日和なのに、何が楽しくてパゾリーニをチェックしているのか自分でもよくわかりませんが、まとめてエントリーを書くとロケ地チェック的には作業はだいぶ楽になるんですよね……
まず『奇跡の丘』ですが、劇場用長編映画としては監督第3作。
「マタイによる福音書」をもとに、イエス・キリストの生誕から死、復活までを描きます。
お話の構成やセリフなどはすべてかっちり「マタイ」からとられていて、奇をてらうものではなくむしろ忠実にしてどストレート。監督の他の作品からするとちょっと意外な感じもしますが、カメラや編集、音楽の入れ方など、監督独特のセンスはしっかりと見て取れるかと思います。
かといって、キリスト教文化圏とは生涯縁がない自分が、映画に込められた宗教的、文化的な深い部分まで感じ取れるかと言えばはなはだ疑問でして……。
つい先日、新国立美術館で開催中の「メトロポリタン美術館展」で、本邦初公開の目玉物件、フラ・アンジェリコの《キリストの磔刑》を見てきましたが、自分を含めて詰めかけた人たちが果たしてどこまで感じ取ることができるのか、もしや上っ面だけ見てふむふむと鑑賞した気になっただけではないか、とか、いささかネガティブに考えてしまいました。
映画に戻って……
出演者は皆さん監督の知り合い等の素人さんとのことで、そのあたりも作品の独特の雰囲気に寄与しているかもしれません。
特に老いたマリアを演じたスザンナ・パゾリーニ(IMDbのPhoto)は、素晴らしい表情で見る者の心を揺さぶります。
監督のお母様ですが、どんなふうに演技指導したのでしょうね。
数少ない例外が、主の使い役のロッサナ・ディ・ロッコ(Rossana Di Rocco)(IMDbのPhoto)。
この前に『波止場』(63)[1]マーロン・ブランドではなくジャン=ポール・ベルモンド&ジーナ・ロロブリジーダ主演のイタリア映画の方。姉妹の一人の役に出ていますし、この後も『国境は燃えている』(65)[2]女性たちの一人。冒頭出発間際トラックに飛び乗ろうとした娘の役、『天地創造』(66)等に出演してちゃんと演技していますので、素人俳優さんということはないと思います。
監督脚色ピエル・パオロ・パゾリーニ、撮影トニーノ・デリ・コリ、音楽ルイス・エンリケス・バカロフ。
イタリア語原題«Il vangelo secondo Matteo»は「マタイによる福音書」。
英題は”The Gospel According to St. Matthew”で同じことですが、「ゴスペル」とか言うとなんだか印象が違ってしまいますね。
ロケ地
IMDbでは、
Basilicata, Italy
Calabria, Italy
Apulia, Italy Canale Monterano, Rome, Lazio, Italy
Catania, Sicily, Italy
Crotone, Calabria, Italy
Fosso Castello Waterfalls, Soriano nel Cimino, Viterbo, Lazio, Italy (Christ baptism)
Incir De Paolis Studios, Rome, Lazio, Italy (studio) Lazio, Italy
Matera, Basilicata, Italy
Mount Etna, Catania, Sicily, Italy (temptations of Satan)
Ouarzazate, Morocco
Potenza, Basilicata, Italy
Rome, Lazio, Italy
Sicily, Italy
Viterbo, Lazio, Italy
Barile, Potenza, Basilicata, Italy
例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
自分にとってはなかなかなじみがない聖書のお話ですし、セリフが「マタイによる福音書」に従っているということもあり、今回はこういった↓テキストを広げながら、チェックしていきました。
そこでの記載場所は「章:節」で示しましたが、映画のタイムスタンプの「時:分」とまぎらわしいので、「(Matthew 12:47)」という表記にしてあります。
石造りの町
0:04
設定ではベツレヘム……というよりはエルサレムでしょうか。
撮影はこちら↓
Matera(マテーラ)W, Basilicata, Italy
マリアの懐妊に心が乱れたヨセフが、主の使いから啓示を受けて立ち直るのは、こちら↓(Matthew 1:20)
- Google Maps(SV)
- Google Maps(SV)
- Google Maps
- 40.662838386898436, 16.6127826429859
1:04頃、イエスと弟子たちがやってきたのもこの場所。(Matthew 13:54-57)
この町は、これまでのエントリーで言えば『明日を夢見て』でたっぷり登場していました。
東方からの博士
0:07
一行が眺めの良い道を進んでいくのを後ろから捉えたショットは、マテーラのこの位置↓
- Google Maps(SV) ……カメラ南東向き
- Google Maps
- 40.66832837, 16.609471202
山岳
ヘロデ王によって、子どもたちが殺されるところ。 設定ではラマ Rama
洗礼
0:22
ヨハネによる洗礼(IMDbのPhoto、IMDbのPhoto)
Fosso Castello Waterfalls, Soriano nel Cimino, Viterbo, Lazio, Italy (Christ baptism)
悪魔の誘惑
山
0:30
Mount Etna, Catania, Sicily, Italy (temptations of Satan)
シチリア島のエトナ火山W。
ここはパゾリーニ監督のお気に入りのようで、この後取り上げる予定の『豚小屋』や『カンタベリー物語』にも登場します。
ピンポイントでの特定は難しいですが、おおよそこんな雰囲気↓
遺跡の前
0:31
「サタンよ、退け」の場面(Matthew 4:9-10)
Apulia, Italy Canale MonteranoW, Rome, Lazio, Italy
MonteranoW
Chiesa e Convento di San Bonaventura (rovine)
- Google Maps(SV)
- Google Maps
- 42.13357060897486, 12.075636849810985
- Tripadvisor
- Wikimedia Commons > Category:Monterano
漁師たち
0:34
漁師を弟子とするところ。(Matthew 4:18-)
設定ではガリラヤの海。
外階段のある壁
0:55
水上を歩くイエス(Matthew 14:25-31)と、獄中のヨハネの場面(Matthew 11:3)の間にインサートされる階段の付いた外壁。
調査中。
海辺の町
0:56
前段ヨハネのセリフを受けて、ヨハネの弟子たちがイエスに問いかける海辺(Matthew 11:2-)
背景に城塞のような建築物が見えます。(IMDbのPhoto)
IMDbのリストのこちら↓
Crotone, Calabria, Italy
Fortezza aragonese
- Google Maps(SV)
- 38.90721267373046, 17.021366731522278
- Wikimedia Commons > Category:Castello Aragonese (Le_Castella, Isola di Capo Rizzuto)
Crotoneはイタリア半島のかかとのあたり。
リッチな青年との会話
1:05
ラクダの針の穴のエピソード(Matthew 19:16-)
サロメ
1:11
祭司長
1:29
(Matthew 21:23-)
ゴルゴダの丘
2:06
マテーラの東側、谷を挟んだ台地。(Matthew 27:33-)
- Google Maps(SV)
- Google Maps(SV)
- Google Maps
- 40.66488428, 16.616384775
背景はこのぐらいのアングル↓ (IMDbのPhoto)
墓
2:13
イエスの亡骸を収めたところ。(Matthew 27:60)
映画の中の動きと同じで、前項目の北側へ移動したこのあたり↓ の山腹(IMDbのPhoto)
ロケ地マップ
資料
更新履歴
- 2022/05/06 新規アップ
コメント
はじめまして。
本日日本最終上映となる「奇跡の丘」見てきまして、ロケーションが何処なのか知りたくなりこちらに辿り着きました。
洗礼のシーンの滝や荒涼とした高知など知りたかった場所を細かく教えてくださって感謝感激。
当然、マテーラは世界遺産登録前の撮影でしょうが、あの崩落シーンはどうやったのか不思議です。
まだ綺麗に整備もされていなくて、古の雰囲気を残す感じがむしろ美しかったなぁ…と思いました。
いつかこちらのページ参考にしながらロケ地巡りしたいな…と夢馳せております。
楽しく拝見させていただきました。
ありがとう!
Sputnikさん、コメントありがとうございます。
『奇跡の丘』上映されていたのですね。拙記事がお役に立てたのでしたら、とても嬉しいですし、コメントいただけてまた励みになりました。
崩落シーン、おっしゃる通りどうやって撮ったのか気になりますね。最初はカメラを揺らしているだけかと思ったら、本当にボコボコ崩れていきますので、どこぞやの再開発エリアか廃村を利用したのかもしれません。資料を調べれば書いてあるとは思いますので、何かわかりましたら追記しておきますね。
マテーラは映画の撮影地としては絶好の場所のようで、最近も『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でも登場していました。きれいな夜景は良いのですが、アストン・マーティンがドリフトで走り回ったり、●●が○○するド派手なアクションシーンはちとやりすぎのような……。でもよく撮影できたものだと思います。
「東方からの博士」でチェックした小径もしっかり登場していて、歳月を経て全然異なるジャンルの映画なのに、撮影ポイントは意外と限られているのかな、と思ったりしました。
はじめまして。パゾリーニを愛すること40ウン年のギロと申します。約30年前のネット草創期にパゾリーニのファンサイトを立ち上げたり、約20年前には彼の日本語版DVDの解説や監修をしたりと細々とやってきました。当時はネット上に情報も乏しくストリートビューもなかったのでロケ地紹介はあきらめたことがありまして、貴サイトの充実した内容に大変敬服しました。
「奇跡の丘」は一番好きな作品です。お書きのように老いたマリア役でパゾリーニの実母スザンナが出演している点にも感動しています。演技指導についてお書きですが、スザンナは次男グイド(パゾリーニの弟)を第二次大戦中のパルチザン活動(内部セクト同士の対立)で殺されており、パゾリーニは息子イエスの死を嘆くマリアつまり母スザンナに「グイドのことを思い出して!」と言ってあの慟哭のシーンを撮ったそうです。まったくもって涙なしには見られないシーンと思います。その約10年後には長男ピエル・パオロまで殺されたわけですから、スザンナは大変に不幸な母親でしたね。
天使役で登場するロッサナ・ディ・ロッコも神秘的な顔立ちで気に入っています。彼女はパゾリーニの短編「ラ・リコッタ」(ゴダールやロッセリーニも作品を寄せた長編オムニバス映画「ロゴパグ」の一挿話)の端役でデビューしました。お書きのようにその後いくつかの映画に出演してますね。YOUTUBEでRossana Di Rocco, l’angelo di Pasolini in “Uccellacci e uccellini”で検索するとオバサンになった近年の動画を見ることが出来ます。
ちなみにサロメ役も美少女ですが、これはパオラ・テデスコ。後にジャッロ映画ほか多様なジャンルの映画、テレビドラマ、舞台で活躍し歌手としてレコードまで出しています。彼女が清楚な感じで「サロメの踊り」を踊るシーンやヘロデ王が登場するシーンはプーリア州ジョイア・デル・コッレのノルマン・スヴェヴォ城で撮影されています。
なお、来春にはマテーラを訪問する予定です。「奇跡の丘」に限らず何か面白い情報が手に入ったら、また報告に来ますね。
末筆ですが貴サイトのますますのご発展を祈念しております。時間をかけてじっくりと拝見させていただこうと思います。
guillo kaligaliさん、コメントありがとうございます。
そのようなファン歴の方にお読みいただき恐縮の極みです。
お書きいただいた情報、どれも貴重な内容でありがたく読ませていただきました。
母親の演技指導は深い話ですね。母親にとってはけっこうきつい演技の追い込み方ではないかとも思いますが、監督にとってもきつかったかもしれませんね。でもその結果万感あふれる、一度見たら忘れられないショットとなったのかと思います。
女優さん(たち)情報もありがとうございます。
天使役の方は、どんなもんかとちょっとどきどきしながらご紹介のYouTubeを見てみましたが、ちゃんと?面影ありますし、良い感じでお年を重ねているようで何よりです。
『大きな鳥と小さな鳥』は未見でしたが、これはチェックしないとなりませんね。
サロメのロケ地は全然判明していませんでしたので、これはぜひ記事に追記させていただこうと思います(現在多忙につき、来月になってしまうと思いますが)。
来年マテーラ訪問とのことで、うらやましいです。
どうぞお気をつけて、ぜひたっぷり楽しんできてください。