『舞踏会の手帖』Un carnet de bal (1937)

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あのお屋敷は惑星ナブー

作品メモ

一つ前のエントリー『旅路の果て』と並ぶジュリアン・デュヴィヴィエ監督の代表作。公開は1937年で『旅路の果て』の2年前。同年には『望郷』、前年には『我等の仲間』と、名作が目白押しの時期となっています。

筋立ては、夫に先立たれたリッチな家の夫人が、舞踏会デビューした時のダンスカード(後述)が出てきたことから、踊った相手のもとをひとりずつ訪れていくというもの。
ヒロインはむしろ狂言まわしで、20年ぶりに対面する男性陣の、山あり谷あり紆余曲折の人生模様が見どころとなっています。
ロードムービーのような串団子ストーリーとも言えますし、これまでのエントリーで言えば『フランス式十戒』のようなオムニバス映画とも言えるかもしれません。
でもあえて<舞踏会の手帖形式>と呼びたくなるくらい、映画の物語形式に新たな定番を生み出したうまい構成となっています。

スタッフ

監督脚本ジュリアン・デュヴィヴィエ。撮影ミシェル・ケルベ、フィリペ・アゴスチニ、ピエール・レヴァン。
音楽モーリス・ジョーベール。

『舞踏会の手帖』言うたらモーリス・ジョーベールのこの音楽♪
壮麗かつ幻想的なこの場面は、今日の目線でも十分惹き寄せられます。

キャスト

ヒロインのクリスティーヌにマリー・ベル。代表作は他に『外人部隊』あたりになるのかもしれませんが、個人的には『熊座の淡き星影』の母親役がスゴくてコワくて強烈な印象に残っています。若かりし頃のイメージにこだわらず、年齢を重ねた上でああいう役を演じきれるというのは、やはり凄い女優魂ですよね。

一緒にいた男性ブレモン(Bremont)は、kinenoteの解説文に拠れば亡きご主人の秘書のようです。でも台詞を字幕で見る限り、もう少し気さくな友人のような感じでしょうか。

リストの面々

NHK BSでとてもきれいな画質のものを録画できたので、手帖を読み取りつつ、キャラ紹介をしてみます。
(なにせそれまで手持ちはVHSのぼそぼそ画像でしたので、手書き文字は到底読めず……)
ネタバレ含みますので、映画未見の方はぜひ本編を先にご覧ください。

1re Danse ジョルジュ・オディエ Georges Audié
パリの住所が書かれていますが、Chez Madame Audiéとあり、母親の所在地だけは判明したようですね。オーディエ夫人(フランソワーズ・ロゼー Françoise Rosay)は突撃訪問したクリスティーヌをニコニコと迎え入れますが、どうも会話がちぐはぐで、メイドもなにか言いたげ……というある種ホラー調の展開となります。
2e Danse Maurice Pierrat
décédé(死去)とありますので、場面はなく3番目へと飛びます。
3e Danse ピエール・ヴェルディエ Pierre Verdier / ルイ・ジューヴェ Louis Jouvet
リストにはパリのお店の名前と住所が書かれています。どうやらジョー(Jo)と名乗ってナイトクラブのオーナーとなっている模様。それだけでなく、裏で窃盗グループを仕切っている、ということでこのパートはちょっとセンチなノワール篇。
演じたルイ・ジューヴェは『旅路の果て』とは異なり、相手の名前をしっかり覚えていました。闇落ちした弁護士くずれという設定ですが、とにかく彼のキャラがよくできていて、全編の中でも特に印象に残るパートとなっています。「ピエールを覚えていたか? 俺は忘れた」なんて台詞が泣かせますね。

2人が暗誦したのはヴェルレーヌで、『艶なる宴』[1]Wikipediaでの表記。堀口大學氏訳では「艶かしきうたげ」Fêtes galantes (1861)に収録の「感傷的な会話」[2]堀口大學氏訳では「わびしい対話」Colloque sentimental。
原文は、例えばWikisourceではこちら↓
https://fr.wikisource.org/wiki/F%C3%AAtes_galantes_(1891)/Colloque_sentimental

Dans le vieux parc solitaire et glacé
Deux formes ont tout à l’heure passé.

凍てつく寂しい廃園を
二つの影が通った
(NHK BS放送版の字幕)

うら枯れて人気なき廃園のうち
かげ二つ現れてまた消え去りぬ。
(堀口大學氏訳)

そのまま全文が引用され、ラストでは深い余韻を残します。

Tels ils marchaient dans les avoines folles,
Et la nuit seule entendit leurs paroles.

そして彼らは麦の茂みをかき分け
風のみがその声を聞く
(NHK BS放送版の字幕)

かくて影、燕麦しげるが中を分けて消え
その言葉ききたるは唯に夜のみ。
(堀口大學氏訳)

4e Danse アラン・レニョー Alain Regnault / Harry Baur
手帖の記述は voir à l’évêché でしょうか? 地名が判別しづらいですが、パリではないみたい。かつてのピアニストは神父ドミニクとなっています。だいぶ歳が離れていたようですが、クリスティーヌに対して真剣だった模様。それがなぜ聖職者に? というあたりが見どころの人生遍路篇。
5e Danse エリック・イルヴァン Eric Irvin / Pierre Richard-Willm(Pierre-Richard Willm)
Val d’Isère(ヴァル・ディーゼル) と書かれています。エリックはパリでの生活に疲れて山岳ガイドとなり、自然に囲まれて充実した生活を送っている様子。クリスティーヌとちょっと良い雰囲気になりますが……というほろ苦いロマンス篇。
6e Danse フランソワ・パチュセ Francois Patusset / Raimu
a Saint Gandolphe (Var) とありますので、南仏ヴァールの町という設定でしょうか。ヒロインが訪れたのは、町長となっていた彼の結婚式が執り行われる日。貫禄が付き俗物化した彼に迎えられ、これはもうコメディ篇かと思いきや、彼には養子がいたようで、そこらへんでひとひねりありました。
7e Danse ティエリー・レナル Thierry Raynal / ピエール・ブランシャール Pierre Blanchar
マルセイユの港湾地区で闇医者をやっていました。その前はサイゴンにいた模様。
妻を演じたシルヴィー(Sylvie)はひとつ前のエントリー『旅路の果て』で「つば飛ばさないで」と言った女性。
このパートは斜めの構図が実験的で特徴的。終始斜めったままなので、カメラが揺れているわけではないのに三半規管をやられて酔いそうになります。全編にただならぬ緊張がみなぎる心理サスペンス篇。
8e Danse Gerard Dambreval
adresse inconnue(住所不明)と書かれてありますので8番目はスキップ。ジェラールはクリスティーヌにとっていちばん気になる相手だったのに……
9e Danse Michel Levenier 
décédé(死去)とありますので、場面はなくさらに10番目へと飛びますが、この10だけは手帖が表示されません。
10e Danse ファビアン Fabien Coutissol / フェルナンデル Fernandel
手帖にはボルドーの住所が書かれていますが[3]でも売店の絵ハガキはみなパリの物件のよう、売店の女性との会話からどうやらクリスティーヌの生まれ故郷のようです。ファビアンは手品を披露して客をなごませる人気の美容師。親しみやすいキャラは20年経っても変わりなく、家族とともに彼女を暖かく迎えてくれます。あの思い出の舞踏会場に誘われますが、そこは長年心に抱いてきたイメージとはかけ離れていて、彼女の記憶にバイアスがかかっていたことが明らかになるという、舞踏会の真実篇……。 
ファビアンを演じたフェルナンデルは、キャラ設定通りの持ち味を存分に発揮。ヒロインにパーマをかけながらこれまでのキャラをふりかえってくれるという、おさらい篇ともなっています。

結局期待はずれとなったリストめぐりでしたが、戻ってきたらとっておきの情報が待っていてプラス1名。
11人いる!

ダンス・カード

自分含めて舞踏会なんぞ行ったことがない人が大半でしょうから、そもそもこの<舞踏会の手帖>とははなんぞや? となったりします。
手帖というよりは、ダンス・カードというものらしいですね。

ただWikipeidaを読んでもいまいちシステム?がわかりません。
指名制ではなく、あくまで自分用の予定表とか備忘録として使うのでしょうか。
来場の際に曲目だけ書いてある白紙のカードをもらえて、始まる前に全曲の予定を書き込むのか、他人とバッティングしたらどうなるのか、お気に入りがただひとりなら全部その人の名前を書いてしまって良いのか、名前がわからないけどイケてるあの方の場合どうするのか等々疑問は尽きません。

こちらの画像↓などは、映画に登場した<手帖>に近い形式に見えますが……

No. ダンス形式 (曲名)
<相手の名前を書き入れるところ>

となっています。
映画のはさらにシンプルで、曲名も入っていませんね。
でもってお相手の名前だけでその消息をたぐってしまったのですから、ブレモンさんはなかなか優秀。
今ならネット検索を利用できますが、昔ですと紳士名鑑があったでしょうから、そういうのを頼ったのかも。

日付

1919年6月18日ということですので、第一次世界大戦が終結して半年あまり。ようやく舞踏会を楽しめるようになった頃でしょうか。
この時ヒロインは16歳という設定。
映画ではそれから20年後のように描かれていますが、それですと1939年。映画公開は1937年なので、微妙に未来です。
細かい年代設定はともかく、『心の旅路』のように、ちょうど2つの大戦にまたがるお話となっていますね。

<舞踏会の手帖形式>

この映画で使われた物語形式は、あれこれヴァリエーションが加えられて他の作品のお役に立っていることと思います。
最近ではNetflixのドラマシリーズ『恋愛後遺症』Lovesick(2014-18)が、男性を主人公にすえ、かつての恋愛のお相手をアルファベット順に巡るという筋立てとなっていました。
ただその理由が、クラミジアに感染したため😅これまでのパートナーに告知して回らなくてはならなくなったというのが今日的。でもお話自体はとても良くできていて、登場人物も魅力的。繰り返し見ては楽しんでいます。

こういうドラマ、日本でも作れないかなあと思うのですが、クラミジアでは無理か……

それ以前に、久々に元知り合いから「今度会わない?」とかメッセージが届いたら、宗教か保険かマルチの勧誘を疑ってしまいますので、わびしいご時世となったものです。

ロケ地

IMDbには記載がありません。
例によって、ウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

OP

湖を俯瞰する左から右へのゆったりしたパンショット。

湖はイタリアのコモ湖W
パンが終わる頃教会の塔がフレームインしますが、SVで再現するとおおよそこんな↓感じ。

教会は次のカットではっきり写されますが、マップではこのように↓示されています。

Parrocchia S. Giovanni
Vicolo Pretorio, 1, 22021 Bellagio CO

このあたりはベッラージョ(Bellagio)というコムーネ。

アーチ橋

その次のカットは、おもちゃの舟で遊ぶ子供からティルトアップしていき、アーチ橋が捉えられます。
この橋はおそらく画像としてはこちら↓

マップではこちら↓

  • 45.909477,9.153324

すぐ北側にPonte della Civeraとマップされている橋は画像が大量に見つかりますが、それとは別で北側に向かって登るように架けられているのが特徴的。
こちら↓の男性が飛び込んでいるところですね(笑)。

農地

猫車を押してきた農夫と妻?との会話。
ちょっとした斜面ですが、よく見るとすぐ下は湖のようです。
背後の山の形から、およそこのあたり↓とわかります。

小舟

奥様がお墓参りから戻ってくるという想定の舟。

屋敷までの道

船着き場

0:03

船着き場からがお屋敷の敷地、あるいは領地という設定でしょうか?

この船着き場と、0:14頃の眺めの良いバルコニー、と言いますか見晴台は、一目瞭然。
『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』で、アナキン・スカイウォーカーとパドメ・アミダラがラブラブな時を過ごした宮殿ですね。

やはりコモ湖W湖畔にあるこちら↓

Villa del Balbianello(バルビアネッロ邸)W
Via Guido Monzino, 1, 22016 Tremezzina CO, イタリア


こちらはベッラージョから見れば湖の西側の対岸にあるトレメッツィーナ(Tremezzina)というコムーネ。

船着き場のショットは、『スター・ウォーズ エピソード2』でもほぼ同じアングルとなっています(後述)。

坂道の教会

屋敷に向かう途中の急な坂道で教会の前を通り過ぎますが、これは上記バルビアネッロ邸ではなく、対岸のベッラージョにワープしてこちら↓

Chiesa Santa Maria di Loppia church
Via Melzi d’Eril, 31, 22021 Bellagio CO, イタリア

OPの教会から500mほど北東。

斜面の階段

続いて左へパンしながら、斜面に設けられた長い階段だか坂道を登ってくるヒロインと連れをとらえるショット。
これは上記教会から1.5kmほど東へ行った山腹で、たぶんこの↓あたり。

  • 45.974851,9.263812

Google Earthで2008年5月4日の画像を表示すると、ルートとなる階段を確認できます。

パンの最後で眼下に大きな2階建ての建物が見えますが、こちら↓の学校のもの。

この後ようやくお屋敷となりますが、これは書き割りで、館内はスタジオセット。

細かいことですが、船着き場から屋敷まで結構な運動量で、亡くなったはるか年上のご主人もここを上り下りしていたのか、あるいはお金持ちならやりようがいろいろあったのか、気になります。

夜のバルコニー

0:12
ブレモンが帰っていく場面のバルコニーは、眺めとしては前述ベッラージョ(Bellagio)の北端といいますか、湖に突き出ているこのあたり↓からのもの。

SVで振り返ると、少し高いところにこちらの↓バルコニーがありますが、手すりの形状や柱の数など映画と同じです。
なのでもしかするとこちらから撮影されたのかもしれません。

日中のバルコニー

0:14
ブレモンと話しながら歩く眺めの良い見晴らし台は、前述バルビアネッロ邸のもの。
船着き場から階段を登ってきたところとなります。


船着き場からこの場所への移動は、『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』でバッチリ確認できます。
そこは地球ではなく、惑星ナブー 😄

アルプスの教会

1:02
No5のエリックのパートで、最初に映る教会。 粘ればわかるかも?

南仏の港町

1:14

No9のフランソワ・パチュセに会いに行ったところ。
日差しがたっぷりの南仏の港町ですが、背景の山並みで判明しました。

Bandol(バンドール)W

ジェラールの住まい

移動

2:07
そそり立った岩のそばを舟が通ります。

船着き場

湖側からのショットはこのあたり↓からのもの(次の「噴水」参照)

噴水

ジェラールの息子ジャック(Jacques Dambreval / Robert Lynen)がうなだれて座っていたところ。
屋敷の庭という設定でしょうけど、実際には湖畔にあるこちら↓の公園。

チヴィコ・テレシオ・オリヴェッリ公園
Parco Civico Teresio Olivelli
Via Statale, 47, 22019 Tremezzo CO, Italy

ジャックを演じたRobert Lynen(ロベール・リネン)は、舞踏会デビューする様子が初々しくて微笑ましかったですが、リアルの世界では第2次大戦中レジスタンスとして戦い、1944年に処刑されています。享年23。

ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『にんじん』(1932)でデビュー。

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1920年生まれですから、『舞踏会の手帖』の時はまだ17歳ぐらいでしょうか。

こうした↓伝記本も出ています。

2716505225

ロケ地マップ

資料

更新履歴

  • 2021/03/28 新規アップ

References

References
1 Wikipediaでの表記。堀口大學氏訳では「艶かしきうたげ」
2 堀口大學氏訳では「わびしい対話」
3 でも売店の絵ハガキはみなパリの物件のよう

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