『旅路の果て』 La fin du jour (1939)

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70歳のジュリエットとこの歳のロミオじゃ喜劇だ

作品メモ

ひとつ前のエントリー『心の旅路』は、記憶喪失にまつわるちょっと不思議な人生の物語。原題”Random Harvest”はいまいち意味不明でしたが、それを「心の旅路」としたことで、物語全体のイメージがふっと焦点を結ぶというナイスな邦題でした。
こういう時「旅路」という言葉はとても便利。ひとこと唱えるだけで、なにやら人生の奥深いものが伝わってくるような気がしてしまいます。
映画邦題のパワーワードと言えましょうか。

ちなみにallcinemaで「旅路」を検索すると、完全一致タイトルは5本。
その中の一本、イタリア映画の『旅路』は拙サイトでも取り上げ済み。

また部分一致タイトルは68本もありました。うち「の旅路」は50本。
「男たちの旅路」はのべ13本ヒットしましたので、そちらをまとめて1本としても、38本あることになります。
今更「~の旅路」というタイトルをつけても、やや陳腐となってしまうかもしれません。

逆に「旅路の」とすると、ただ1本、この映画がヒットするのみ。
というわけで『旅路の果て』です。

原題”La fin du jour”は「日の終わり」でいいのでしょうか。
俳優専門の老人ホームに集うお年寄りたちを描いたこの映画。同じ人生の旅路でも、そこは『心の旅路』の思い出の家のようなメロウな要素は薄れ、もはや終着駅間近。それもあってか『心の旅路』と比べてだいぶ苦い味わいとなっています。

そういえばすでにチェック済みの『かくも長き不在』も記憶喪失の男が出てきますが、同じように戦争を背景にしていながら『心の旅路』よりだいぶ重苦しい雰囲気となっていました。
わずかなサンプルで決めつけてはいけませんが、なんとなくフランス映画とアメリカ映画の違いが見えるような……。

お年寄りばかりが登場するこの映画も、地味で渋い中身となっていますが、かといってペシミズムとも違っていて、なにか人生を遠くまで見据えた達観の境地のようなものを感じ、一度見るといつまでも記憶に残ります。
これはもうフランス映画を代表する名作と思われるのですが、日本語版Wikipediaに項目がないというのが、ちょっとびっくり。

監督ジュリアン・デュヴィヴィエ。脚本台詞シャルル・スパーク、ジュリアン・デュヴィヴィエ。
撮影クリスチャン・マトラ、セット ジャック・クロース。
作曲モーリス・ジョーベール。

キャラ

なにせそこは俳優専門の老人ホーム、ひとくせもふたくせもあるジジババおじいちゃんおばあちゃんがワンサカ登場して誰が誰だかわからなくなりますが、とりあえずトップにクレジットされる3人の男性を押さえていれば大丈夫。

サン=クレール Saint Clair / ルイ・ジューヴェ Louis Jouvet
流行っていない旅回り劇団に見切りをつけて、ホームへやってくる。土地土地の女性と当たり前のように浮き名を流してきたようだが、相手の名前はまともに覚えていない。SNSで言えば、インスタ映えに執着、フォロワーの反応に満足し、あげくの果てに別アカウントを作ってそこからも「いいね」を押すような自己中かつ自己陶酔タイプ。
演じたルイ・ジューヴェは、次にエントリー予定の『舞踏会の手帖』でもヒロインをめぐる男性のひとりとして登場、羽振りの良いところをみせていますが、実は……といった展開となります。
カブリサード Cabrissade / ミシェル・シモン Michel Simon
子供じみた行動を繰り返しては騒ぎを起こす。SNSで言えば、ツイッターやYouTubeで炎上しては、反省どころかむしろ注目されたことに嬉々とするかまってちゃん。
ところがボーイスカウトの若き友人の前では素直に心情を吐露。実は俳優としては代役ひとすじ。付いた役者が病気にならなかったため、一度も舞台には立ったことがなかったという経歴。
演じたミシェル・シモンは、セリフにもある通りルックスが特徴的で、これまでのエントリーで言えば『フランス式十戒』。他に個人的に印象に残っているのはやはり『素晴らしき放浪者』。
マルニィ Marny / ヴィクトル・フランサン Victor Francen
カブリサードにしょっちゅうからかわれる、おとなしめの紳士。サン=クレールに妻を寝取られた過去があり、彼が入居すると聞いてイライラがさらにつのっている状態。経緯は不明だが、妻はその後亡くなっていて、その一件以後ネガティブ思考となった模様。物事をマジメに受け止めて考えすぎるタイプなのか、俳優としては優れていても人気の面でいまひとつ突き抜けることがなかった。SNSで言えば、mixiかFacebookで密やかにグループを作って目立たずにコミュニケートするタイプ。

こちら↓のジャケットの、左がマルニィ、右がサン=クレール。

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三人三様問題を抱え、見る者はイライラしたりウンザリしたり呆れたりするわけですが、やがてそれぞれの人生からずんとくる重みを受け取ることになり、巧みな人物配置だったことに気付かされます。

その他、1ページ目にクレジットされるのは順に……

ジャネット Jeanette / マドレーヌ・オーズレー Madeleine Ozeray
近くのビストロで働く娘。マルニィの良き話し相手だったが、サン=クレールに言葉巧みに操られて……
ムシュー・ルシアン Monsieur Lucien / Alexandre Arquillière
施設の職員。
理事長 / Arthur Devère
経営難で、運営はもう崖っぷちの様子。そうでなくても、このメンバーでは苦労が絶えません……
マダム・トゥジニ Mme. Tusini / シルヴィー Sylvie
最初の方の食事の場面で、隣のオヤジにつばを飛ばさないでとあしらった女性。でも相手がサン=クレールならうっとりする女性陣のひとり。

その他濃い目のキャラが続々登場。
そういえば現在放送中のめっぽう面白いクドカンのドラマ『俺の家の話』で、施設に入った西田敏行さんが「孫と薬の話しかしないんだもの」とゲンナリしていましたが、その点フランスのお年寄りはがぜんパワフルかも。

まあ自分もいずれお仲間入りとなるわけで、せめて嫌われたりウンザリされたりしないよう気をつけねば。

まずは、この映画で嫌なキャラをよく観察し、他山の石とすべし。
そして、目指せピンピンころり♪

俳優専門の老人ホーム

むか~し最初にこの映画を見たときから疑問に思うのが、この俳優専門の施設、入居者たちはさほどリッチに見えませんし、実際代役で終わってしまった人物もいるわけで、あまり成功しなかった俳優さんも含まれているようです。
ここは私立の施設で、公共のものより待遇がずっと良さげ。それだけ維持費も大変そうです。
となると入居一時金みたいなのはとても高そうで、月々もあれこれ必要になりそうですが、みなさん払えたとはとても思えず。
やはり、理事長が常に悩んでいたように、スポンサーがどーんとお金を出してくれることでようやく成り立っていたということでしょうか。

それからお金もそうですが、入居資格も気になります。(組合加入何年とか、理事長のさじ加減ひとつとか?)

そもそも俳優専門のホーム自体がホントにあるのか、この映画の創作なのか、などあれこれ気になってしまいます。
フランスのそこらへんの事情にお詳しい方、ぜひ教えてしるぶぷれ。

名台詞

特に昔のフランス映画では、クレジットを見ると脚本scénario とは別に台詞dialogueのスタッフがいて、それだけ台詞を大事にしているのかとも思います。
この映画でも、思わずニヤリとする台詞が出てきますので、少しメモ。
(訳はすべてVHS版の字幕より)

  • コキュが間男を殺してたらフランス中が墓地の山だ (0:10)
  • 子を持てば心配 持たねば後悔 (0:12)
  • 言うことを聞くのは諦めること 諦めることは老いること (0:15)
  • 演劇とは何て人生だ 人生とは演劇だ (0:23)
  • 君は純情だ 口紅を塗る恋をしてない (0:27)
  • 昔の栄光を夢見て眠りにつく 何も知らずに…… (0:32)
  • 私は鳥 自由を愛す (0:45)
  • 70歳のジュリエットとこの歳のロミオじゃ喜劇だ (0:50)
  • ワインが減るのは歯が抜けるのと同じ (0:54)
  • ジュリエットでデビューし乳母で終わった (0:57)
  • 今日は恩知らずな反逆者 明日はフランス中に散りゆく老人だ (1:02)
  • 俳優の人生は他の人の人生と違う。毎晩照明を浴び拍手を聞けば、世界中が自分に注目してると思う。だだっこの成れの果てだ (1:03)
  • 若さを保つため君の命で遊んでる (1:34)
  • 才能はまるでない。だが我々は君の死を悼む 君は演劇を愛した 失望と失敗の連続でも 演劇に忠実だった

コキュ

記憶が定かではありませんが、おそらくこの映画で覚えたフランス語がこれ。
だいたい、よろしくない言葉ほど映画で覚えて使ってみたくなるものです 😅

cocu
妻(彼女)を寝取られた男
cocue
夫(彼氏)を寝取られた女 

で合ってますか??

日本語では寝取った側については「間男」となりますがその逆なわけで、日本語ではズバリの単語は思い浮かびません。
誰が決めたというより、長い間の文化習慣とかあるのでしょうね。

間男で思い出しましたが、日本語ではwitchは「魔女」なのに、wizardは「魔法使い」とジェンダーレス。「魔男」とは言いません。
“The Wizard of Oz”が「オズの魔男」では児童文学として語感がよろしくなかったところでした。

ロケ地

IMDbでは、

Château de Lourmarin, Lourmarin; Vaucluse, France (exterior, retirement home)
Château des Baux, Les Baux-de-Provence, Bouches-du-Rhône, France (exterior, scout camp)
Studios Filmsonor, Epinay-sur-Seine, Seine-Saint-Denis, France (studio)
Hotel de Paris, Place du Casino, Monte Carlo, Monaco (on location)

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

老人ホーム

0:07

設定では、「サン・ジャン・ラ・リビエール」(SAINT JEAN LA RIVIERE)という引退した俳優たちの施設。

看板には↓

MAISON DE RETRAITE
DES COMEDIENS 
俳優の老人ホーム

外観はIMDbのリストのこちら↓

Château de Lourmarin(ルールマラン城)W, Lourmarin; Vaucluse, France (exterior, retirement home)

ルシアンが敷地に入った後(渡り廊下以降)はスタジオセットですね。
ただ、ダイニングに付帯するらせん階段(0:32頃、皆が寝静まった頃ダイニングを左へゆっくりパンしていくショットで左手に見える。また0:34頃間違った死亡記事を嬉しそうに読み上げる様子を入居者が見ている踊り場)の意匠は、ホンモノを模しているように見えます。

1:07の眺めの良い池。

ボーイスカウト

0:36

背景に見える山上の城址が、IMDbのリストのこちら↓

Château des BauxW, Les Baux-de-Provence, Bouches-du-Rhône, France (exterior, scout camp)

これまでのエントリーで言えば、『詩城の旅びと』のタイトルバックで見事な空撮で捉えられたところ。
それを西側の山から見ています。

モンテカルロ

1:08

車を停めたのは、(写ってはいませんが)IMDbのリストのこちら↓の前。

Hotel de Paris, Place du Casino, Monte Carlo, Monaco (on location)

背景に写っているのは、Casino de Monte-CarloW
『天使の入り江』で登場しています。

ルーレットのカラカラっという一回しで、スッテンテンで戻ってくる描写が面白いですね 😇

資料

更新履歴

  • 2021/03/21 新規アップ

コメント

  1. miloumilou より:

    俳優(?)専門の老人ホームですが実在するようです。
    その前にダニエル・シュミットの『トスカの接吻(84)』は
    ミラノに実在するオペラ歌手や音楽家のホーム
    Casa di Riposa のドキュメンタリーで
    ヴェルディが 1896年につくリました。
    フランスでは
    Maison de retraite des artistes de Pont-aux-Dames
    というのが 1903年にできています。
    Maison de retraite des artistes で検索すると
    公私立複数のホームが見つかります。
    例えば国立の La Maison nationale des artistes の場合
    La Maison de Retraite n’est pas reserve qu’aux artistes.
    … ouverte a des personnes des deux sexes,seules ou en couple,
    agees d’au moins 60 ans (sauf derogation).
    とあり必ずしも芸術家専用ではないが優先されるようです

  2. 居ながらシネマ より:

    miloumilouさん、コメントありがとうございます。
    (毎度お世話になっているmilouさんですよね?)

    詳しい情報ありがとうございます。
    確かにmaison de retraite des artistesで検索するといろいろ物件が出てきますね。条件や運営方法はいろいろあるみたいですが。
    探したらイギリスでも見つかりましたし、アメリカでもMPTFが施設も運営しているみたいですから、普通にあるものかもしれませんね。

  3. えめえめ より:

    居ながら様こんばんわ。
    アーティスト専門の老人ホームが、2008年制作のBSドキュメンタリー”残照フランス芸術家の家”で紹介されていました。
    私は、再放送で今年1月に観たのですが、良質な映画並みに興味深い内容でした。
    ご老人の中に、元ピアニストの毒舌マダムがいました。2015年公開のフランス映画Les souvenir愛しき人生の作り方に、その方がエキストラで出演しているのを見つけた時は、びっくりしました。
    車椅子で通りすぎるだけなのですが、相変わらずの毒舌キャラ全開の表情がなかなか良かったです。

  4. 居ながらシネマ より:

    えめえめさん、コメントありがとうございます。
    (このところコメントいただいている、えめさんですよね? 大喜利の気配……汗)

    そのドキュメンタリー見たかったですね。そういう芸術家向けのホームは、記事でも書きましたが、運営の母体とか財務とか、気になります。

    それにしても、エキストラで気づくとは、よほどそのマダム、印象が強かったのでしょうね 😉

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