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『午後の遺言状』 (1995)

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作品メモ

『裸の島』『人間』『愛妻物語』と新藤兼人監督作品を見てきましたが、今度は『午後の遺言状』。
『愛妻物語』が乙羽信子さんとのスタート地点なら、こちらはしめくくりであり、集大成のような作品となっています。

公開当時、確かNHKニュースでも取上げられたりしてなかなかの評判だったので、のこのこ劇場まで見に行きましたが、地味そうな映画のわりに結構入りが良くてびっくりしました。
観客は、この映画の登場人物になっても不思議がないような妙齢の女性が多くて、自分などは全然別カテゴリー。
あれから四半世紀が過ぎ去り、久々の鑑賞となりましたが、こちらもだいぶあちら寄りの年齢となったせいでしょうか、身近な話として接することができたような気がします。

出演は……
毎年夏の間森の別荘にやってくるベテラン新劇女優森本蓉子に杉村春子さん。
別荘の管理をしている地元の柳川豊子に乙羽信子さん。
かつて蓉子の劇団仲間だった牛国登美江に朝霧鏡子さん。だいぶ認知症が進んでしまっているという設定です。すみませんが、お顔は見たことがあるのですが、お名前は存じ上げませんでした。フィルモグラフィーを見る限り、おそよ40年ぶりの映画出演のようです。
その夫牛国藤八郎に観世栄夫さん。今は能楽の仕事を止めて妻の介護に専念しているという設定。謡のお稽古で妻にだめ出しされているのが可哀相でした(汗)。

こうした高年齢出演者によって、老いや死や終活の問題が描かれます。
中でもやはり見どころは、大女優おふたりの競演。

杉村さんはこれが映画に関しては最後の出演作でしょうか。演技なのか素なのか、足下がだいぶおぼつかなくて、ちょっとした坂道や海岸の場面など、見ていてはらはらしてしまいます。それがひとたび口を開くと、その台詞回しの妙にうっとりさせられるのはさすが。
一方、乙羽信子さんは病身を押しての渾身の演技で、ひとことひとこと噛みしめるような台詞が、まるでご自身をふるいたたせるかのように力のこもったものに感じられます。公開時にはすでに亡くなられていてこれが遺作。[1]公開は2000年の『三文役者』の方が後ですが、収録は『午後の遺言状』の前なので、生前の姿としては『午後の遺言状』が遺作となるはず
『愛妻物語』から一足飛びでこの映画を見ると、人生の重みが確かにそこにあります。

出演は他に……

豊子のひとり娘、あけみに瀬尾智美さん。
その結婚相手となる両岡大五郎に松重豊さん。25歳のマムシ採りの名人、ということで、この頃はまだお若いですね。なにせ力持ちでないとお嫁さんをもらえないらしく、褌いっちょうでふんばって力石を持ち上げたりします。
この2人は体を張った場面がありますが、若さと生命力があふれるキャラを配することで、終着駅間近な高齢者組を際立たせよう……ということだけかと思いきや、杉村さん演じる女優などは今一度演劇への情熱を奮い立たせるきっかけとなるというのが、とても良い展開でした。

長野県警茅野警察署の警部補に永島敏行さん。
牛国夫妻の足取りを追うルポライターに倍賞美津子さん。
蓉子の亡くなった夫に津川雅彦さん。
蓉子を乗せてきた運転手に内野聖陽さん。この頃はまだまだ売り出し中でしょうか。
言われなければわからないと思いますが、脱獄囚を取り押さえる警官の一人に加地健太郎さん。
言われてもわからないと思いますが、足入れ式での天狗は麿赤児さんで、群舞は大駱駝艦。

撮影三宅義行、美術重田重盛、音楽林光。

新藤監督は原作脚本監督を兼ねています。
出演俳優もそうですが、監督自身も十分ご高齢で(当時80代半ばでしょうか)、さすがに脱獄囚のエピソードや、後半倍賞美津子さんが延々説明する場面など、いささかこちらの感覚とズレを感じてしまったところもありました。
それでも長きにわたり苦楽をともにしてきたパートナーである乙羽さんを、おそらくはこれが最後という覚悟をもって主役に立てて撮影を行い、乙羽さんもそれに応えてカメラの前で演じ切ったこの映画、その強い絆や信頼関係は画面から十二分に伝わってきて、しめくくりに相応しい「愛妻物語・完結編」となっているかと思います。

 

乙羽さんとドブ君たち

この映画での乙羽さん、あるいは乙羽さんとの最後の日々については、おそらく監督はいろいろなところでお書きになっていることと思います。
自分が読んだことがあるのは、こちらの本です。

『ノラネコ日記―乙羽さんとドブ君たち』(1995年 彌生書房)
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「乙羽さんとドブ君たち」というサブタイトルからもわかるとおり、自宅にやってくるノラネコたちと乙羽信子さんのことを書き綴ったエッセイ。
映画公開後に私はネコ本として読みましたが、最後の方はまるきり乙羽さんについて割かれています。

同本によれば、海岸の場面が最後の収録(1994年)。
とある出来事があった海を、杉村春子さんと乙羽信子さんが見つめる場面です。
9月はじめのまだ暑い日、乙羽さんは39度の熱で意識が朦朧とする中見事に演じきり、10月のゼロ号試写もご覧になることができたとのこと。そのまま体調が戻らず、12月に亡くなられています。

乙羽さんがいなくなってしまった部屋に、ノラたちはいつも通りごはんをもらいにやって来ます。その姿に、監督は少なからず慰められていたのだろうと、勝手に想像してしまいました。

ドブ君、乙羽さんがいなくては、君はおもしろくないらしいけど、ぼくもおもしろくはないよ

ロケ地

例によって特に資料は用意せず、ウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

別荘

舞台となる長野県蓼科高原の別荘。
確か監督の私邸か何かで、それまでの作品でも何度か使われていると聞いたことがあります。
場所が判明しても書けないと思いますので、ここではパス。

軽トラが行く道

0:18
ビーナスライン、蓼科湖のすぐ傍。

0:46頃パトカーが行くのも同じところ。

警察署前

0:43
茅野警察署とありますが、ホンモノではないですね。
エンドクレジットの撮影協力に「茅野市商工会議所」がありますが、そちらの建物でした。

ホテルのレストラン

0:47

表彰のあとで寄ったレストラン。

ホテル蓼科

「ヴェニスの舟唄」作詞・後藤紫雲、作曲・高木青葉

駅の待合室

1:00
背後の路線図を見る限り、小淵沢駅のように見えます。旧駅舎。

牛国夫妻が宿泊した旅館

はっきり看板が写るので、探すのは楽。
この映画全体に、2時間サスペンス的タイアップの香りが濃いめに漂っています。

豊子の家

1:15
蓉子がやってくるところ。
立派な茅葺き農家ですが、場所はさすがに不明。

神社

夜、松重豊さんが力石を持ち上げるところ。
いまいち場所不明。

二本木駅

1:30

牛国夫妻の故郷

1:30
いかにも山間の村でよさげな景色のところ。
探索は資料がないと難しいかも。

直江津駅

1:30
ライターの倍賞さんが取材したところ。
以前の駅舎。

海沿いの道

ライターを乗せてタクシーがトンネルから出てくるところ。
新潟での撮影が続きます。

民宿

1:31

牛国夫妻が直江津タクシーでやってきた海沿いの宿。
こちらもはっきり名称と電話番号が写ります。
現在は介護施設のようですね。

民宿のオヤジが妙にたどたどしいですが、脚本家の馬場当(まさる)さん。

浜辺

エンドクレジットの撮影協力にある寺泊町(当時)と思われます。
おそらくこのあたりの浜と思いますが、詳細不明。

資料

更新履歴

  • 2020/11/09 新規アップ

References

References
1 公開は2000年の『三文役者』の方が後ですが、収録は『午後の遺言状』の前なので、生前の姿としては『午後の遺言状』が遺作となるはず

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