柳の木はどこに?
作品メモ
ひとつ前のエントリー『正午なり』で、主人公が帰郷したときの描写が『グリーンフィッシュ』を連想させるようなことを書きましたので、そちらもチェック。
韓国のイ・チャンドン監督の原点となっている映画です。
もともと作家でしたが監督デビュー作の『グリーンフィッシュ』で高い評価を得て、続く『ペパーミント・キャンディ』(2000)と『オアシス』(2002)で名声を不動のものにしました。
その後文化観光部長官に就任して一時監督業をお休みするも、退官後は『シークレット・サンシャイン』(2007)、『ポエトリー アグネスの詩』(2010)と、良質の作品を生み出し続けています。
思えばこの間日本では韓流の大波が押し寄せたりしたわけですが、そのあたりの流行り廃りとは別次元のところで活躍している感があり、韓流はちょっと……と敬遠気味の映画好きでも、イ・チャンドン監督は別枠といいますか別腹となっているかもしれませんね。
この作品、除隊して実家に戻ってきた若者が、バラバラになってしまった家族をまたひとつにしようと望みながらも、繁華街に巣くう暴力団の一員となり危うい道を進んでいく姿を描きます。
監督第一作とは思えないしっかりとした脚本と演出、そして俳優たちの好演もあって、本国では数々の映画賞を受賞。90年代の韓国映画を代表する1本となっています。
韓国語原題は「緑の魚」で、とあるセリフから。
초록(チョロク)が緑で、물고기(ムルコギ)が魚。
いつも思いますが、魚がムル(물 水)+コギ(고기 肉)って面白いですよね。
こちら↓は日本版の予告編。埋め込みができないので、クリックしてYouTubeのページを開いてください。
https://www.youtube.com/watch?v=cBGQMVPpikc
こちらの画像の上半分が、確か日本劇場公開時のチラシやポスターに使われていた画像かと思います。
下半分は名場面の切り抜きですが、結構手抜きのような……
張りつけといてなんですけど、どこのDVDでしょう??
キャスト&スタッフ
除隊してきた主人公マクトン(막동)にハン・ソッキュ(한석규)。日本でも大ヒットした『シュリ』の主役でしたね。
組織のボス、ペ・テゴン(배태곤)にムン・ソングン(문성근)。
その情婦ミエ(미애)にシム・ヘジン(심혜진)。個人的には『セサン・パクロ』あたりが記憶にある女優さんです。
その部下パンス(판수)にソン・ガンホ(송강호)。その後の大活躍はお見事。
ペ・テゴンの目の上のタンコブ、キム・ヤンギル(김양길)にミョン・ゲナム(명계남)。この映画の製作者でもあります。
マクトンの兄弟は男4人、女1人。
一番上の兄は、障碍を持っていて母親と一緒に暮らしています(イ・ホソン 이호성)。
2番目の兄が警察署勤務で酒癖が悪いキャラ。演じたのはハン・ソンギュ(한선규)で、リアルでハン・ソッキュの兄のようです。このキャスティング、とても大きな意味があるのですが、それは見てのお楽しみ。
3番目が団地で卵を売っている陽気なキャラ(チョン・ジニョン 정진영)。
妹はタバンのアガシとなっていました(オ・ジヘ 오지혜)。
監督イ・チャンドン(이창동)、脚本イ・チャンドンとオ・スンウク(오승욱)、撮影ユ・ヨンギル(유영길)。
音楽イ・ドンジュン(이동준)。
『シュリ』、『リベラ・メ』、『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』、『ロスト・メモリーズ』等々、タイトルを並べるだけでニヤニヤしてくるような映画で、いかにも「らしい」曲を付けています 😉
おそらくハリウッドはもちろん、日本の映画やドラマあたりの劇伴の影響も受けているように思えますが、この『グリーンフィッシュ』では、叙情的なテーマ曲を中心にしっとりしたアレンジで聴かせてくれます。
トランペットが奏でる情感たっぷりのテーマ曲を貼り付けたいところですが、YouTubeに良い動画がないので、かわりにこちら。
この曲、イ・ドンジュンのオリジナルでしょうか? それとも既存の歌? (ご存知の方教えてください)
ミエの歌唱力はともかく(汗)、メロウなこの曲、なかなか良い雰囲気です……
ロケ地
例によってウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
探索の前に
エンドクレジットの謝辞
エンドクレジットの謝辞(도움을 주신 분들 協力くださった人々)のリストがかなり役立ちそうですので、直訳付けて転記しておきます。
また韓国盤DVDに収録されている特典映像(メイキング)も参考になりました。
ロケ地訪問サイト
韓国映画に関しては以前よりこちらのサイト様が非常に充実しており、それもあって拙サイトではあまりとりあげてきませんでした(今のところ『ディープ・ブルー・ナイト』だけですね)。
- ばつ丸の「ロケ地を旅する」
http://movie.geocities.jp/badtzmarulocation/
「ネットの時代だからこそ生の風景に出逢いたい」というスタンスは、ウェブマップと他人様の画像ですまそうとしている某サイトにとって非常に耳に痛いところです(滝汗)。
ただ『グリーンフィッシュ』については、メニューにタイトルがあるもののナイトクラブの訪問ルポ(これは素晴らしい内容です)を除いてリンク切れで拝見することができません。
というわけで、いつもと同じようにウェブマップを頼りに自力で探していくことにしました。
韓国のウェブマップ
ちょうど大陸ではGoogleよりテンセントやバイドゥといった固有の検索サイトの方が役立つのと同様に、韓国内ではNaverやDaumのマップの方がより使える感があります。
Googleのストリートビューに相当するのが、Daumでは로드뷰(ロードビュー)、Naverでは거리뷰(コリビュー、コリは通りや街)。
以下これらのマップ情報も随所にリンクをつけておきました。
表示は韓国語になります。ご利用は自己責任でお願い致します。
チンピラたちと争う駅
冒頭のエピソード。
設定上の駅名は不明。
撮影は、謝辞にもありますが、北との境界線に近いこちらです。
京元(キョンウォン)線、新炭里(신탄리、シンタンニ)駅W
北向きの画像。
マクトンが若者たちのあとをつけていくのがこの向きで、一撃くらわせた後手前に向って追いかけられてきます。
実家近くの駅
0:06頃。
ソウルの郊外、謝辞にもあるこちらの駅。
イルサン線の開業は1996年1月30日とのこと。
マクトンがもし休暇で帰郷しなかったとしたら、変貌にびっくりしたのもうなずけます。
踏切
駅の方からやってくたマクトンが渡るところ。
背景の駅は大谷(テゴク)駅。
そこから北東に500mほど行ったこちらと思われます。
実家
シンボルツリー柳の木があるマクトンの実家。
何度か登場しますが、ラストにも関わりますので、映画をご覧になった上で以下ご覧ください。
卵売り
兄がトラックを停めて卵を売っている間マクトンが電話をかけていた電話ボックスは、一山新都市(イルサン・シントシ)のズバリここ。
トラックはこのあたり↓に停車。
パトカー
停められたのは上記の近くのここ。
警官が歩いてくるときに写る向かいの建物の門は、今でも同じ。
0:17のパトカーに対するカーチェイス(笑)は、まずその先を右折。
そのまま南進。
正面から捉えたショットは、カメラを北向きにすると再現できます。
最後のカーブのショットはおそらくこちら(カメラ東向き)。
タバン
0:18
妹が働いていたところ。
謝辞に1軒タバン(다방)がありますが、そちらかどうかは確認できませんでした。
夜の街
夜の街を、ミエのお店を探して歩くマクトン(左から右への移動)。
この場所は、よく見ると映画の後半、とある行動に出る前にコンビニに立ち寄るショットと同じところです(そちらでは右から左への移動)。
コンビニはおそらくエンドクレジットの謝辞にあるこちら↓
- LG 24 편의점 노원점 /LG24コンビニエンスストア 蘆原(ノウォン)店
よ~~く見ると、背景に高架の橋桁や橋脚がシルエットとなり、向こう側のビルの灯りを部分的に遮っています。
蘆原(ノウォン)駅W近くの高架脇をチェックして見つけました。
おそらくこちら。
コンビニは現在GS25(以前はLG25のようですが、エンドクレジットでは«LG24»という表記)。
背後のビル(=コンビニの向かい)は今でも建っていますし、外壁も一部映画と同じ部分を確認できます。
高架側から見るとこういった感じ。
映画では奥に屋台が見えていましたが、もしかすると上のコリビューで見られる四角い設備を隠すための擬装かもしれません。
ナイトクラブ
0:20
«ニュース»という店。
謝辞では、
- 의정부 뉴스 관광 나이트 클럽 /議政府(ウィジョンブ)ニュース観光ナイトクラブ
ということで、ウィジョンブ(議政府)Wに実在した(する?)ナイトクラブのようです。
こういうお店は観光ナイトクラブというのですね。メモメモ……
メイキング動画には、店の近くから電話をかける場面の撮影現場も収録されていて、«1996年10月16日ウィジョンブ»とあります。なので地名はここで間違いなさそう。
映画に見られたように、«ニュース»が面しているのは、片側一車線ですが比較的ゆったりした通り。並木もあります。
電話ボックスは斜め向かいにあり、その周りにレールを設置して、カメラをぐるりと動かして撮影しています。
続いてメイキング動画ではマクトンが店に入る場面の撮影風景が紹介されますが、呼び込みの演技がうまくいかず、とうとうキム・ヤンギル役のミョン・ゲナムが出てきて演技指導してしまいます。
ブルスナイトクラブの親分が、ニュースナイトクラブの従業員を指導するという、とてもレアなショット 😉
そばにいる監督、やりづらかったろうな~と思ったりしたのでした。
そのメイキングのシーンでニュースナイトクラブの入口周辺も写りますが、左隣は은행とあり銀行のようです。
以上の条件に合いそうなところを片端からチェックしていきましたが、ウリ銀行の右隣に映画と同じような入口を見つけました。
パンスの蹴りが決まりマクトンが吹っ飛んだのは、銀行のさらに左側、こちら↓の«영신종묘 농약사»のシャッター。
2009年12月にすると全く同じシャッターを見られます。
ペ・テゴンの車に乗るところ
乗った場所、降りた場所ともに不明。調査中。
以下ヒントのメモ。
乗った場所の背後に、トンネルといいますか、長いガード下が見えます。
車が出てきた路地の後ろの黄色い看板は、«김밥우동(キンパプ・うどん)»。
左側の建物は、«화랑부동산(ファラン不動産)»。
カラオケバー
男をハメるためにマクトンが一芝居うつところ。
謝辞で該当するのがおそらくこちら。確かめようがありませんが……
- 상계동 무랑루즈 단란주점 /上溪洞(サンゲドン)ムーランルージュ団欒酒店
ハメられた男がご機嫌で歌っていたのは、«불효자는 웁니다(不幸者は泣きます)»(1938)。
パジュ警察
0:47
2番目の兄に会いに行ったところ。
俳優さん同士がホントの兄弟なので、なごむツーショットです。
背景のいかにも警察っぽい建物に、「市民とともにパジュ警察」とありますが、擬装でしょうか。
場所不明。
食堂
0:48
注文しようとしてアジュンマにdisられるところ。
場所不明。
警察署近くの食堂ということで、『ペパーミント・キャンディ』を連想しますね。
再開発を待つビル
ペ・テゴンが新ビル建設を企てる因縁の場所。
0:50にマクトンの運転でやってきます。
屋上で密談する場面(1:28)とラスト近くにも登場。
メイキング動画を見ると、«1996.12.1 가리봉동(カリボンドン 加里峰洞)»と大いなるヒントがありました。
韓国検索サイトのマップで同地を細い路地中心に探したところ、なんとか発見。
今回ここの解明は無理だと思っていたので、かなり嬉しいです。
車が右折して路地に入ってくるショットで背後に見えている鉄の門はこちら。
ギリギリに右折した角は映画ではフトン屋さんでしたが、今は洋品店の模様。
路地の奥、ボロボロのビルがあったところは↓
ペ・テゴンの野望は叶わなかったか、新ビルは建っていないようです……
屋上の場面、眼下に間口の広い동일가구(トンイル家具)という家具屋さんが見えていましたが、現在はこういった姿。
ラスト近く、とある出来事があった後、ペ・テゴンの車が猛スピードでバックしていったのは、0:50の路地の一本隣。
- Daum(ロードビュー) ……背景
- Daum(ロードビュー) ……路地
この時背景に見えるシャッターは、上記동일가구(トンイル家具)だったビルの左下の部分。
なお偶然でしょうか、次作『ペパーミント・キャンディ』で主人公が加わる集まりが、加里峰洞(カリボンドン)にちなんだ名前となっていました。
2人が待ち合わせた駅
1:00
パンスたちとカツアゲの業務を遂行していたマクトンが息を切らせて駆けつけます。
場所不明。
謝辞の駅で未確認のものが청량리(清凉里 チョンニャンニ)駅ですので引き算するとそちらかと思われますが、駅と周辺が近年劇的に変化していて、映画と照合するのは難しそう。
2人が途中下車する駅
1:05
マクトンとミエが降りていた駅。
はっきり駅名が写ります。
映画ではワビサビ的な駅舎ですが、現在この駅はトンデモない変化を遂げ宇宙船みたいな外観となっています。
おそらく西側にイルサン新都市のような大きな集合住宅群ができたためと思われます。
Google Earthの時間スライダーを見てみると、2008年頃まではまだ映画のようなワビサビの世界だったでしょうか。
抗争
1:14
キム・ヤンギル一派の挑発に乗ってしまうパンスたち。
手掛かり少なく、探索は難しそう。
食料品店は、エンドクレジットの謝辞の«기산마트(キサンマート)»かもしれませんね。
偶然でしょうけど、後ろのネオンが«오아시스(オアシス)»となっています。
ホテル
1:17
ミエを利用したところ。接待のお相手は検事(검사 コムサ)のようです。
入口に«UNION»と見えます。謝辞にある«유니온 호텔(ユニオン・ホテル)»でしょうか。
画像検索の結果、南楊州(ナミャンジュ)市にある同名のホテルであることがわかりました。
観光で泊まりに行くような場所ではなさそうですが、ご参考までに……
- Daum(ロードビュー)
- Naver(コリビュー)
- Google Maps
- WikiMapia
- http://market.nyj.go.kr/shops/detail/120
- http://m.moga.co.kr/motel_view.html?mpurl=union
보스 빠지이 시또 사무노이 보제
ポス・パジイ・シト・サムノイ・ボジェ
コンビニ
1:30
ビルの屋上でペ・テゴンになにやら吹き込まれた後、夜の街で立ち寄るところ。
これは上述の通り、ミエの店を探して歩いていた夜の街と同じところで、こちらの場面では右から左へ歩いて行きます。
そちらでも書きましたが、コンビニはエンドクレジットの謝辞のこちら
- LG 24 편의점 노원점 /LG24コンビニエンスストア 蘆原(ノウォン)店
現在GS25となっていて、場所は蘆原(ノウォン)駅W近くのこちら。
Night Club BULLS
1:30
キム・ヤンギルの店。
マクトンが乗り込む場面で、1ショットだけ外観が写ります。
2つめのLが消えているのは単にネオン管の故障でしょうか?
謝辞では店名がそのまま挙げられています。やはり実在したお店。
- 인천 불스 관광 나이트 클럽 (インチョン・ブルス観光ナイトクラブ)
韓国の検索サイトにかけてみたところ、こちらの名前と住所が出てきました。
국일관나이트클럽(クギル館ナイトクラブ)
인천-중-항동6-6(불스)
- Daum(ロードビュー) ……映画のカメラアングル
- Naver(コリビュー) ……映画のカメラアングル
- Daum(ロードビュー)
- Naver(コリビュー)
ロードビュー等で見ると、ゲートもそのまま、映画で右端に少しだけ写っていた隣のビルもそのままです。
ところが、昨年(2014年)10月のこちらの記事によると、ナイトクラブの建物はアパレルショップビルに建て替えられるとのことで、記事の時点ですでに解体済み、新しいビルが建築中のようです。
- http://www.kyeonggi.com/news/articleView.html?idxno=853805
このショップ、記事ではU社とありますが、ユニクロのことですね。
というわけで、インチョンに行った時にはせめてこちらに立ち寄って、キム・ヤンギルが着ていたような白いポロシャツをお土産に買うのが良いかもしれません。
実際のカメラアングルでマクトンの左側に階段が見えますが、そこには斜めに、«магазин»(マガジン=店)とロシア語が書かれてありました。
今でも«Москва»(マスクヴァー=モスクワ)というお店のようです。
こちらの建物は残っていてほしいのですが。
その後の電話ボックスの場面はさすがに場所は不明。
전화 끊지마 (ちょなくんちま)
ロケ地マップ
資料
- IMDb
- allcinema Movie & DVD Database
- キネマ旬報データベース
- CINEMA TOPICS ONLINE
- Wikipedia(英語)
- シネマコリア
- 輝国山人の韓国映画
- Daum映画(韓国語)
- Naver映画(韓国語)
更新履歴
- 2015/05/08 ロケ地マップ追加
- 2015/05/03 新規アップ
コメント
ペ・テゴンの都合のいい女ミエが、何かの時に、ポスパジー・シットサムノイ・ポジェットという呪文を唱えるので、韓国人に聞いてもわかりませんでした。
見てなかった模様。
どうでもいいことかもしれませんが、このDVDを五十回は再生してますが、いつも、頭から離れません。知ってたら教えてください。
田口健治様
コメントありがとうございます。
ミエの「ポスパジ」ですが、意味は全く無いのでは?と思います。
以前製作会社のサイトがあったときこの件をメールで問い合わせたことがありますが、「特に意味は無い(ミエ自身が考えた)祈り」といった回答をいただきました。もちろんそれが絶対的正解とはいえないでしょうけど……韓国語として切り出しても、意味はなさそうですね。
(このエントリーでハングル表記を挙げていますが、韓国盤DVDの韓国語字幕を写したものです)
これまで何百とエントリー書いてきましたが、この映画でレスいただけて嬉しいです。
自分にとってこの頃の韓国映画は結構ツボです。
でも再生50回は凄いですね 😮