作品メモ
ひとつ前のエントリー『危険な関係』に続いてまたしばらくジャンヌ・モローものをとりあげていこうかと思いましたが、ジェラール・フィリップがいい男だったことや(笑)、最近モディリアーニの絵が高値で落札されたことがニュースとなったこともあり、今度はこちらをチェックしてみます。
原題は「モンパルナスの恋人たち」。
DVDで観る限り、タイトルの下にカッコ付きで(Montparnasse 19)と添えられています。
19は1919年のことでしょうか?
モディリアーニが亡くなったのは1920年。その最後の日々を描いています。
最初にことわり書きで示されるとおり、映画で描かれるのは必ずしも史実というわけではありませんが、認められず貧困にあえぐ画家の孤独や、それでも彼を信じる恋人の美しさ、さらに彼の死をハイエナのように待ち構える画商のえぐさなど、テレビで観たモノクロ映画の中でも記憶に残るものとなっています。
監督脚本ジャック・ベッケル。最近『現金に手を出すな』をチェックしたばかり。監督としては『怪盗ルパン』の翌年の作品。この映画のあとは『穴』(60)でそれが遺作。
『モンパルナスの灯』は最初マックス・オフュルス監督がメガホンを取っていましたが、病気で急死。冒頭のクレジットで、同監督の想い出に映画が捧げられています。
撮影クリスチャン・マトラ、音楽ポール・ミスラキ。
キャスト
実在の人物が多いこの映画。せっかくなので、画家自身による肖像画でご紹介。
実在の人物はWikipediaへのリンクを付けましたが、説明書きはあくまで映画での設定で史実とは異なる場合があります。
アメディオ・モディリアーニW
(ジェラール・フィリップ)
モディリアニは35歳、ジェラール・フィリップは36歳でこの世を去っています。
ジャンヌ・エビュテルヌW
(アヌーク・エーメ)
アヌーク・エーメは、拙サイトでとりあげ済みの『ローラ』(61)などより前の作品で、50年代の美しさはまた格別のものが 🙂
ベアトリス・ヘイスティングスW
(リリー・パルマー)
「モジ」を支える物書き。
リリー・パルマーは、クレジット上ではジェラール・フィリップに次ぐトップ。
いきなりばちこーんとはたかれて可哀相ですが、ジャック・ベッケル監督、こういうの好きですね。
レオポルド・ズボロフスキーW
(ジェラール・セティ)
同じアパルトマンに住む画商。
自身も豊かではありませんが、モディリアニの才能を信じ、何かと助けます。
……映画ではそういった設定ですが、Wikipediaによれば、モディリアニの死後作品が売れるようになり成功をおさめたものの、大恐慌により極貧の中で死んだとのことです。
映画の中の対照的な画商、ズボロフスキーとモレルは、どちらもズボロフスキーだったのかもしれませんね。
ウェイルW
(マリアンヌ・オズワルド)
最初で最後の個展を開いた画廊のオーナー。
……とこのあたりまでが実在の人々。
出演は他に、モディリアーニの作品を狙う死神のような画商モレルにリノ・ヴァンチュラ。
かつて恋人だったらしいレストランの女主人ロザリーにレア・パドヴァニ。
イタリアの女優さんですが、リリー・パルマーはドイツの女優さんですから、仏独伊合作映画となるとお国の俳優さんの登場枠があるのかもしれません。
それから、カフェ「Le Dome」のオヤジがどこかで見たことあると思ったら、『シャレード』の警部役のジャック・マランでした。
落札
このエントリーの最初で書いた、高額で落札されたという作品はこちら。
サザビーズ歴代最高額、1億5720万米ドル也。
どうせなら生きているうちにもっと買ってあげて、といいたくなります。
ちなみに、オークション史上最高の落札価格が、ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」。
クリスティーズで4億5030万ドル也。
ロケ地
IMDbでは、
Nice, Alpes-Maritimes, France
Paris, France
Studios de Boulogne-Billancourt/SFP – 2 Rue de Silly, Boulogne-Billancourt, Hauts-de-Seine, France (studio)
例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
多くがスタジオ撮影と思われますが、ロケ撮影も確認できます。
アパルトマン周辺
アパルトマンの前の通りやジャンヌの家の周囲などはスタジオでしょうか。
ロトンド
タイトルとは裏腹に、実際にモンパルナスで撮影されたショットは確認できませんでした。
たとえば、0:22 あたりのセリフで、「ロトンド」のような名前が出てくるぐらいでしょうか。
映画では登場しませんが、参考までに実際の場所↓
静養先
0:46
ここからしばらくは静養先という設定。
史実ではニースで、撮影場所もニース。
Nice, Alpes-Maritimes, France
0:47頃の最初のショットや、0:51頃ジャンヌが坂道を上ってくるショットで窓の外の景色が写りますが、この坂道は Rue Rossettiという通り。
ジャンヌがやってくるショットはこの場所↓で、カメラ西向き。
窓のある建物は↓
宿の近くのホテル&カフェは↓
といいますか、宿の1階という設定でしょうか? 実際には少しずれていますが……。
撮影用にホテルっぽく擬装したのだと思いますが、入口周辺の造作は今でも確認できます。
IMDbにジャンヌがやってくる場面の撮影現場がアップされていますが、
https://www.imdb.com/title/tt0050123/mediaviewer/rm1759031808
ちょうどこのあたり↓ですね。
通りの向こうに見える塔は、
海辺
0:58
ニース近辺でしょうか。
これは判明しませんでした。
夜の河畔
1:10
最初に写るのはノートルダム大聖堂の南側。
ジャンヌがいたのはこのあたり。
お金を投げ込んだのはこのあたりでしょうか?
これまでのエントリーで言えば、『チャイコフスキー』でチャイコフスキーがツルゲーネフと歩いていたところ。
有名人御用達?
こちらはmilouさんから提供していただいた画像です。
(撮影2000年2月)
映画とほぼ同じアングルですね。
なんとなくうつむいて川面を見ていたくなる場所なのでしょうか(汗)?
資料
更新履歴
- 2018/05/31 新規アップ
コメント
本日は情報でなく感想ということで(笑)。
>最初にことわり書きで示されるとおり、映画で描かれるのは必ずしも史実というわけではありませんが
これは常に問題になりますよね。『レッズ』なんかでも、ジーン・ハックマンの演じたピート・ヴァン・ホエリーなんて実在の人物じゃないじゃんとか、『マイケル・コリンズ』も、史実と違う部分が多いじゃんとか、やはりいろいろ言われてしまうのは仕方ないところでしょうね。ましてやこれは、伝記映画じゃなくて娯楽映画ですから。
また史実でなくても原作ものでもそういうことはありますよね。他記事で取り上げられていた『ベルサイユのばら』なんて、あれ、「ベルばら』ってこういうラストだったっけ、ていう感がひしひしと(苦笑)。つまりは別個の作品としてとらえなければということでしょう。
>イタリアの女優さんですが、リリー・パルマーはドイツの女優さんですから、仏独伊合作映画となるとお国の俳優さんの登場枠があるのかもしれません。
『シェルブールの雨傘』の記事でも同様のご指摘をされていましたが、金の支出条件として、その国の俳優なりなんなりを使うというのはちょいちょい聞きますね。『戦場のメリークリスマス』も、ニュージーランドから金を引っ張ってきたので、ニュージーランド人俳優やロケ地でニュージーランド(領)を使っているし、またこれはマイナーな映画ですが、南京事件時にジーメンスの現地法人のトップを務めていたジョン・ラーベを描いた映画である『ジョン・ラーベ 〜南京のシンドラー〜』に、米国人のミニー・ヴォートリンをモデルにしたフランス人女性が出てきて、フランス人女優のアンヌ・コンシニが演じていますが、この映画もフランス資本が入っているので、たぶんその関係で彼女が出演したのだと(勝手に)考えています。
ニースは行ったことがありますが、デジカメに移行する前に行ったので、写真をデジタルデータに変換していなくてご協力ができません。しかし変換して使えそうな写真がありましたらまたご連絡します。
そうか、これアヌーク・エーメの出た映画だったんですね。ジェラール・フィリップとリノ・ヴァンチュラ、リリー・パルマーという経歴も個性もだいぶ異なる役者が大集合しているのがすごいですよね。
Bill McCrearyさん、この映画もちょっと見ただけで伝え聞く史実とは違うところがあれこれありましたが、まあ事実を元にしたフィクションぐらいに捉えればよいのでしょうね(どっちやねん)
自分にとってはこの映画のおかげでジェラール・フィリップはモディリアーニそのもの、アヌーク・エーメはジャンヌそのものになってしまっています。
写真を見るとルックスからしてだいぶ違うみたいですけど……