目の下のしわを見ろ
まるでキャベツだ
目次
作品メモ
ジャンヌ・モローものを続けて……
こちらは2つ前のエントリー『巴里の気まぐれ娘』(53)の翌年の作品。
監督ジャック・ベッケル、主演ジャン・ギャバンによるノワールものの古典で、「現金」は「げんなま」と読ませるようです。
ジャンヌ・モローは当時25,6歳。
キャバレーの踊り子という設定で、ステージも披露します。
『巴里の気まぐれ娘』同様ほっぺたが可愛らしいですが、それをぺしぺしぶたれていて、これはちょっと可哀相でした。
初老のギャング、マックスにジャン・ギャバン。「キャベツのような目の下」と自嘲しながら、結構あちこちでモテています。
その親友でともに金塊強盗をはたらいたリトンにルネ・ダリー。マックスと違って少々脇が甘いですが、憎めないキャラ。
同じく親友でキャバレーのオーナー、ピエロにポール・フランクール。
金塊の匂いをかぎつけた新興ギャング、アンジェロにリノ・ヴァンチュラ(リノ・ボリニ名義)。
踊り子ジョジイにジャンヌ・モロー。
踊り子仲間でマックスと同伴出勤するローラにドラ・ドル。
マックスを頼る若い衆マルコにMichel Jourdan。
故買商オスカルにPaul Oettly。マックスの叔父という設定のようですが、原作では他人です。
その色っぽい秘書にDelia Scala。イタリアの女優さん。
マックスを電話一本でフラフラと呼び寄せることができるリッチなお相手ベティに、Marilyn Buferd。アメリカの女優さん。
マックスたちが集うレストランの女主人ブーシュにJulien Bertheau。原作では「ブーシュ婆さん」と書かれちゃってます。
個人的には店に来たマルコに花を挿したロシア人女性が気になりますが、資料無し。
監督ジャック・ベッケル、撮影ピエール・モンタゼル、、音楽ジャン・ヴィエネル。
登場するクルマのことなら、例によって驚異のサイトIMCDbをどうぞ。
http://www.imcdb.org/movie_46451-Touchez-pas-au-grisbi.html
グリスビー
原作はアルベール・シモナンのほぼ同題小説。原作では« Touchez pas au grisbi ! »とびっくりマーク付きです。
これはラスト近くに出てくるセリフですが、映画には登場しません。
翻訳本が出たのは映画よりずっと後で、タイトル(およびそのセリフ)は映画の邦題をそのまま使っています。
これはフランス語版Wikipediaからの受け売りですが、原作はマックスを主人公とする3部作Wの最初の1作。
3部作は皆映画化されています(原作/映画)。
- Touchez pas au grisbi ! (1953)W / Touchez pas au grisbi (1954)W 本作
- Le cave se rebiffe (1954) / Le cave se rebiffe (1961)W
- Grisbi or not grisbi (1955) / Les Tontons flingueurs (1963)W
« grisbi »は3作目の原作タイトルにも登場していますね。
もともとフランス語に存在してそれをヤの世界で隠語に使っていたのか、ヤの人たちの考案なのか、原作者の創作なのか不明。
なんだかジャン=ピエール・メルヴィル監督の『いぬ』の« le dulos »みたいに謎ですが、フランス語はとんとわからないので詳しい人教えてください。
少なくともこの映画が本邦初公開されるとき、触ってはいけないらしい« grisbi »なるものをどうやって表現するか、配給会社の人は頭を悩ませたと思われます。
結果「現金(げんなま)に手を出すな」となったわけですが、(原作はともかく)映画では金塊の話なので少し違和感も??
日本語版Wikipediaでは、「”Grisbi”はフランスの俗語で「(せしめた)カネ、獲物、お宝」といったニュアンスを持つ」とありますが、仏和辞典を紐解くと、« grisbi » は判で押したように「(隠語)金(かね)、現なま」とあります。
案外この映画が先で、そこから辞書に採録されたのだったりして。
ハーモニカの奏でるテーマ曲は« le Grisbi »。
邦題が「グリスビーのブルース」で、そのままカタカナ読み。和訳しないのが無難な線かもしれませんね。
でもきっと曲が紹介されるたびに「グリスビーとはフランス語の隠語で……」といった蘊蓄が必要だったことでしょう。
私は今に至るまで「グリスビー」といったら飛ばして遊ぶ円盤か、でかい熊ぐらいしか思い浮かびません(違)。
金塊の価格
マックスたちが強奪したのは、12kg×8本= 96kg
当時は金本位制で、1トロイオンス(約31.1g)=35米ドル、つまり1g=約1.125米ドルで延べ棒全体では、約11万米ドル。
日本円で言えば、当時は1ドル360円固定なので、延べ棒全体で約4,000万円。
(計算あってます?)
セリフでは、叔父から提示された故買価格は3500万、マックスが想定した時価は5,000万(デノミ前のフランス・フラン)。
当時のフランス・フランのレートは知りませんが、これらの計算が合っているのなら、おそらくだいたい1旧フランスフラン=1円となるのでしょうか。
もし金塊のまま現在まで持ち続けていたとしたら、大ざっぱに現在のレートを1g=5,000円として、5億円弱。
ここで初めて換金したとすると、映画のように故買商で3割とられたとしても手取り3億5千万。これは老後の資金には十分かと。
(計算あってます? 再)
逆に言えば、最初に現金にしてもそれなりに大金ですが、投資したり複利でうまく運用しない限りその後のインフレでかなり実質目減りしてしまうことになります。
デフレ状態の日本ではピンときませんが、現金で持ち続けることの目減りリスクを考えると「現金には手を出すな」でしょうかね~(嘘)。
ロケ地
IMDbでは、
Avenue Frochot, Paris 9, Paris, France
Bar Le Week-End – 91 Avenue de Wagram, Paris 17, Paris, France
Devant le Cabaret Le Mystific – 28 rue Victor Massé, Paris 9, Paris, France
Paris, France
Place Blanche, Paris 18, Paris, France
Région d’Orgeval, Yvelines, France
Studios de Billancourt – 50 Quai du Point du Jour, Boulogne-Billancourt, Hauts-de-Seine, France
60年以上前の映画ですが、店の名前など固有名詞がはっきり写っていますので、案外たどりやすい作品かもしれません。
例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
OP
左へのゆったりとしたパンで、夜のパリが捉えられます。
最後に写るのはムーラン・ルージュ。
なのでカメラ位置はここ。
ブーシュの店
RESTAURANT BOUCHE
店内はセットかもしれませんが、何度か写る表の通りは実際の街のように見えます。
特にラスト近く、ベティがクルマを停めたショットははっきり写るのでチェックしやすそう。
IMCDbのキャプチャー画像ではこちら↓
http://www.imcdb.org/vehicle_11419-Chrysler-Imperial-C-54-1951.html
日差しから見る限り通りは東西に延びていて、クルマは西(あるいは南西)からやって来ています。
すぐ後ろは床屋さん。入口周りの意匠が特徴的なので、粘ればわかるかもしれません。
引き続き調査中。
キャバレー
Mystific(ミスティフィク)と店名が写っていますが、原作にも登場します。
IMDbのリストにも名前がありますが、実在したお店でしょうか?
Devant le Cabaret Le Mystific – 28 rue Victor Massé, Paris 9, Paris, France
最初に同伴出勤のクルマがやってくるのはこちら↓通り(Rue Victor Massé)から。
周りの建物は60年以上経った今でもすべて確認できます。
ただ、現在の基準では一方通行の逆走ですね 🙂
現在の姿。
正面の意匠が映画と同じですね。
電話をかけるバー
0:26
Bar Le Week-End – 91 Avenue de Wagram, Paris 17, Paris, France
隠れ家
密かに借りていた部屋。
オヤジ二人の場面がなごみます。
電話のセリフでは「デトロア街40番 テルヌ門の右」ですが、架空の地名でしょうか。
夜はともかく、翌朝のショットは確認しやすいので、粘ればわかるかも。調査中。
故買商
0:42
道路構成などから絞っていき、見つけることができました。
こういうのを画面とマップのにらめっこだけで見つけられると、ちょっと嬉しくなったりします。
8区のこちら。
ホテル
0:49 1:00など。 リトンがさらわれ、ジョジイが逃げていくところ。
HOTEL MODERNAと標示されていますが、架空の名称。
表は実際の通りのようにも見えます。
調査中。
キャバレー前
1:05頃 マックスのクルマが門の中へ入っていきますが、この道がIMDbのリストのこちら。
Avenue Frochot, Paris 9, Paris, France
クルマで見張っていた男が駆け込んだ向かいの店は、今でもたばこ屋さん。
ロケ地マップ
パリが舞台となるサスペンス映画
資料
関連記事
ジャンヌ・モロー関連作
- 『エヴァの匂い』 Eva (1962)
- 『デュラス 愛の最終章』 Cet amour-là (2001)
- 『ニキータ』 Nikita (1990)
- 『マドモアゼル』 Mademoiselle (1966)
- 『危険な関係』 Les liaisons dangereuses 1960 (1959)
- 『地獄の高速道路』Gas-Oil (1955)
- 『大列車作戦』 The Train (1964)
- 『天使の入江』 La Baie des Anges (1963)
- 『巴里の気まぐれ娘』 Julietta (1953)
- 『恋人たち』 Les amants (1958)
- 『愛人 ラマン』 L’amant (1992)
- 『撤退』 Disengagement (2007)
- 『死刑台のエレベーター』 Ascenseur pour l’échafaud (1958)
- 『現金に手を出すな』 Touchez pas au grisbi (1954)
- 『突然炎のごとく』 Jules et Jim (1962)
- 『雨のしのび逢い』 Moderato cantabile (1960)
- 『鬼火』 Le feu follet (1963)
更新履歴
- 2018/04/15 新規アップ
コメント