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『太陽に灼かれて』 Утомлённые солнцем (1994)

太陽に灼かれて [DVD]

作品メモ

ひとつ前のエントリー『猫が行方不明』に続けて猫路線で行きたいところですが、下書き状態で放ってあったものが何本かあるので、ロシア映画をもう少し。

いくつか前のエントリー『私はモスクワを歩く』で新人俳優時代のニキータ・ミハルコフが登場していましたが、それから約30年後の作品で、今度は製作監督脚本主演を兼ねています。
1994年といえばソ連邦崩壊直後のことで、2つ前のエントリー『こねこ』同様ロシアの映画人にとって映画作りには困難な状況であったかと思いますが、フランスとの合作という形で製作。

映画は1936年スターリンの大粛清が猛威を振っていた時代、モスクワ郊外の避暑地で起きた半日の出来事を描いています。
主人公一家や村人たちにとっていつも通りの日常が賑やかに、時にはユーモアを交えて美しい映像で綴られていきますが、観客は次第にそこで恐ろしい事態が進んでいることに気づかされます。
家族愛を描いたホームドラマでもあり、独裁政治の不条理を描いたサスペンスでもあり、心の闇を描いた心理劇でもあるこの映画、とても見応えがあり監督にとっても代表作となっているように思えます。

カンヌ国際映画祭審査員グランプリと米国アカデミー賞外国語映画賞を受賞。
アカデミー賞外国語映画賞を受賞したロシア(ソ連)映画は本作の他、『戦争と平和』、『デルス・ウザーラ』、『モスクワは涙を信じない』の4本。

キャスト&スタッフ

村人から頼りにされ、初対面の若い兵士にも敬われる革命の英雄セルゲイ・コトフ(Сергей Котов)大佐にニキータ・ミハルコフ。
その妻マルーシャ(Маруся)にインゲボルガ・ダプコウナイテ(Ингеборга Дапкунайте)。
ある目的を持って村へやってきたミーチャ(Митя)ドミトリにオレグ・メンシコフ(Олег Меньшиков)。どうやらマーシャとはかつて恋仲で、コトフとは因縁の間柄のようです。

もうひとり大事な登場人物であるコトフの娘……というよりおじいちゃんと孫みたいな感じのナージャにナージャ・ミハルコワ。……つまり監督の実の娘。  
続編『戦火のナージャ』(2010)ですっかり成長した姿を披露しています。

メインビジュアルと言いますかDVDのジャケットになっているのが、映画の中ほど、一緒にボートに乗る場面でほっぺたにすりすりするショット。
この時娘の柔らかい足に触れながら言うセリフが泣かせます。
今回久々に見返してみましたが、スターリンのあの厳しい時代を描こうとする一方で、映画製作当時の、政治経済が混迷し困難な状況にある祖国に対しての熱い思いが感じられ、じんと来るものがありました。

撮影ヴィレン・カルタ(Вілен Калюта)、音楽エドゥアルド・アルテミエフ(Эдуард Артемьев)。

タイトルとタンゴ

ロシア語原題は劇中幾度か流れるタンゴに由来。
歌詞の冒頭が«Утомлённое солнце»(ウタムリョ~ンナエ・ソ~ンツェ~~)となっていて、そのまま曲名になっています。
「疲れた太陽」の意ですが、映画のタイトルはсолнцеを造格にするなどしてもじり「太陽に(よって)疲れた(者たち)」。

 
 
 

ロシア語の歌詞は以下のWikipediaにあります(ロシア語版Wikipediaの表の左端)。

原題には「太陽に灼かれて」という直接の意味はないと思いますが、英題は”Burnt by the Sun”なので邦題はこれらから採られたのかもしれません。
製作国でもあるフランス語タイトルは”Soleil Trompeur”。これは「偽りの太陽」でしょうか。DVDの字幕では歌詞の訳にこちらを使っていましたね。
各国のタイトルはIMDbにリストアップされています。

このタンゴ、他の映画でも聴いたことがありますが、曲のオリジナルはポーランドのようです。ポーランド語は全然わかりませんが、「最後の日曜日」という意味のようで、歌詞は全然違うみたいですね。

 
 
 

スターリン気球

0:22頃、「今日はスターリン気球の記念日でしょ」というセリフがあります。
映画はその記念日に起きた出来事を綴っているわけですが、「スターリン気球」はこの映画で初めて聞きましたし、その記念日も同様。有名なものなのでしょうか??
少しウェブで探してみたのですが、「スターリン気球の記念日」となるとみんなこの映画がらみの記事となっていて、しかも記念日については説明がありません。劇場プログラムは買いませんでしたが、そこには載っていたのでしょうかね……

その後の気球のための櫓を組んでいる場面で(0:24頃)、スローガンに「スターリン気球の建造に栄光あれ」と字幕がついていましたが、«Слава Сталинскому дирижаблестроению»と書かれてありました。
確かに«Сталинское дирижаблестроение»で「スターリンの飛行船建造」ですよね……う~む、これで検索してもよくわかりません。

もうギブアップなので、どなたかこの記念日についてズバリ書かれてあるサイト等ご存知でしたら、教えてください。

続編

2010年に続編«Утомлённые солнцем 2»が作られています。
ロシア映画史上最高額というふれこみの制作費をつぎ込んだものの、結果は果たしてどうだったでしょう??

続編は2つのパートに分れ、別々の作品扱いとなっています。

『戦火のナージャ』(2010)

戦火のナージャ [DVD]

続編パート1は、原語サブタイトルが「目前」(かな?)で、邦題『戦場のナージャ』。
例のほっぺたすりすり場面をビジュアルに使ったりして続編であることは間違いないのですが、前作からのお話上のつながりは「え?」という意外すぎる展開に。
さらに予算を潤沢に使った戦争スペクタクルのようなたたずまいとなっていて、特に前作のファンの方は微妙な気持ちになってしまうかもしれません。
なおコトフの妻、マルーシャ役は別の女優さんになっています。

日本盤DVDは2時間半。オリジナルは3時間の長尺だったようですが、カンヌ映画祭の出品基準にあわせて2時間半に編集したバージョンがあるそうで、おそらくそちらでしょう。(→ IMDbのTrivia

『遙かなる勝利へ』(2011)

遥かなる勝利へ [DVD]

続編パート2は、原題サブタイトルが「要塞」で、邦題は『遙かなる勝利へ』。
『戦火のナージャ』は世評だけでなく興行的にも失敗してしまいましたが、最終章のこちらは日本では無事劇場公開、この(2014年)5月14日にはDVDが発売されたばかりです。
私は未見。

ロケ地

IMDbでは、

Moscow province, Russia
Moscow, Russia
Mosfilm Studios, Moscow, Russia (studio)
Russia

……とほぼ役に立たない状態です。
自力で見つけたところもほとんどありませんので、正直ネタはありません。

OP

ホースで水をかけていたのはモスクワ市内のここ。

車が停まったのはこの建物の前。

タイトルバック

バンドが上述タンゴを演奏している小さな野外ステージが気になりますが、不明。

舞台となる村。撮影場所不明。
コトフ一家はここに住んでいるというよりは、別荘(ダーチャ、дача)Wがここにあるという設定でしょうか。

0:20頃、「ザゴリアンカ」に行きたいトラックの運転手が道を尋ねたとき、「小説家や画家や音楽家がいる別荘地、通称”芸術村”(フラーム)よ」と答えが返ってきます。
「フラーム」が気になりますが、

художник(フドージニク=芸術家)
литератор(リタラートル=作家)
артист(アルチースト=画家)
музыкант(ムジカーント=音楽家)

の略だとすると、«ХЛАМ»となり、普通は「がらくた、ゴミ」の意。

資料

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