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『山猫』 Il gattopardo (1963)

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我々は山猫だった

作品メモ

ひとつ前のエントリー『熊座の淡き星影』(65)と同じく、ヒロインにクラウディア・カルディナーレを迎えたルキノ・ヴィスコンティ監督作品。
その前が『若者のすべて』(60)ですから、60年代前半の同監督作にはいずれもクラウディア・カルディナーレが出ていることになります。

まとめると、2人の組み合わせは以下の4本(年代逆順)。

  • 『家族の肖像』 Gruppo di famiglia in un interno (1974) ……クレジットなし
  • 『熊座の淡き星影』 Vaghe stelle dell’orsa (1965) 
  • 『山猫』 Il gattopardo (1963)
  • 『若者のすべて』 Rocco e i suoi fratelli (1960) 

時に1860年、イタリア統一という時代の大きな流れに揺れ動くシチリアの名門公爵家を描きます。
前作の『若者のすべて』とはだいぶトーンが異なってきていて、黄昏れゆく貴族というその後のヴィスコンティが好んで用いるモチーフが扱われているこの作品、「ヴィスコンティの世界」と言えばこれ的な映画と言えましょうか。

大邸宅に住まう貴族たちの姿や華麗なる大舞踏会がたっぷり描かれ、それだけですと激しい市街戦もなんのその、貴族たちの栄華は永遠不滅に思えてしまいますが、時代の変化は着実に押し寄せていて、何より公爵本人がそのことを一番良く悟っています。

私は不幸なことに 新旧2つの世界にまたがって生きている
そして何の幻想も持っていない

そのサリーナ家当主ドン・ファブリツィオにバート・ランカスター。圧倒的な存在感で貴族の誇りと苦悩を表現しています。

公爵のお気に入りの甥っ子タンクレディにアラン・ドロン。光り輝くようなルックスと振る舞いで新しい世代を象徴します。笑顔とともに馬車に飛び乗る場面など、もうまいったという感じで「アラン・ドロンしぐさ」と名付けたくなるほど。

タンクレディがひと目で気に入る美しき娘アンジェリカにクラウディア・カルディナーレ。
その父親は公爵家の夏の別荘がある村の村長で、公爵家の面々からすると無教養でマナーを知らない一般ピープルですが、時局に目ざとく乗っかりたっぷりと財産を築いた新興ブルジョワでもあります。2人の結婚は時代の流れにマッチしたものとはいえ、公爵の目には滅びへの第一歩に映っていたかもしれません。

タイトル「山猫」は公爵家の紋章ですが、後半公爵自身のつぶやきによって、さらに意味がくっきりと浮き彫りになります。

我々は山猫だった 獅子だった
山犬や羊どもが取って代わる
そして山猫も獅子もまた山犬や羊すらも
自らを地の塩と信じ続ける

監督脚本ルキーノ・ヴィスコンティ、脚本ルキーノ・ヴィスコンティ他、撮影ジュゼッペ・ロトゥンノ。
格調高い音楽はニーノ・ロータ。

原作

原作はジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサWの同題小説(1958)。
作者自身もシチリアの名門貴族の出で、原作は死後出版されています。

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原作では最後は50年先の1910年までの話となり、公爵の死やいよいよ黄昏れてきた家が描かれますが、映画ではその手前の大舞踏会と公爵の孤高の姿にすべてを集約してみせているわけで、この脚色は大正解で大成功。お見事でした。

ロケ地

IMDbでは、

Palazzo Valguarnera Gangi, Piazza Croce dei Vespri, Palermo, Sicily, Italy (grand ball)
Ciminna, Palermo, Sicily, Italy
Palermo Town Hall, Palermo, Sicily, Italy
Piazza Donnafugata, Ciminna, Palermo, Sicily, Italy (exteriors: Salina’s Palace set)
Villa Boscogrande, Via T Natale 91, Mondello, Palermo, Sicily, Italy
Ariccia, Rome, Lazio, Italy
Mondello, Palermo, Sicily, Italy
Odescalchi Castle, Bracciano, Rome, Lazio, Italy
Palazzo Chigi, Rome, Lazio, Italy
Via T Natale 91, Mondello, Palermo, Sicily, Italy
Palermo, Sicily, Italy
Piazza Croce dei Vespri, Palermo, Sicily, Italy (grand ball)
Rome, Lazio, Italy
Sicily, Italy
Villa Giustiniani-Odescalchi, Bassano Romano, Viterbo, Lazio, Italy

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

(タイムスタンプはイタリア語完全版に準拠)

サリナ邸

タイトルバックで門からの眺めが捉えられる大邸宅。
IMDbのリストのこちら↓ですが、意外やこれは裏側(東側)からの眺めでした。

Villa BoscograndeW, Via T Natale 91, Mondello, Palermo, Sicily, Italy
https://www.villaboscogrande.it/

こちら側は普通にお隣と接していますので、今ではこちら側から見ることはできなさそう。
門はセットかもしれませんが、0:19頃タンクレディが去っていくショットで、お隣に建物は全然見えませんので、撮影当時は裏庭と裏門がちゃんとあったのかもしれません。

オフィシャルサイトを見る限り、現在は結婚式場あるいはイベント会場となっているようです。 沿革を見ると、当然のように『山猫』で撮影に使われたことが書かれてあります。

https://villaboscogrande.it/la-villa/

邸宅内、一同でお祈りを捧げていた部屋は、こちら↓

こちらがお祈りの部屋ですが、この↑扉を閉じて祭壇にしています。
室内に掛けられている絵画も、今でも同じものを確認できますね。

その後、マルヴィカ公からの手紙と新聞記事を読みながら隣の部屋へ移動して窓際の席に座りますが、このあたり↓

こちらは掛けられた絵画は映画と違っていますね。
公爵夫人が嘆いて座り込んだのは、さらに隣の部屋のこのあたり↓

鏡台も調度品も絵画も、みな映画とは違っています。

ミミを呼びながら通り過ぎるホール↓

で、こちら側↓に出てきます。

0:18頃タンクレディが皆に別れの挨拶をしていくバルコニーは↓

教会

0:13
ピローネ神父が馬車から降りて入っていく教会。
リアルの教会に見えますが、詳細不明。

市街戦

0:24

赤シャツ隊(ガリバルディの部隊)+義勇兵と政府軍が市民を巻き添えにしながら攻防を繰り広げる壮絶な戦闘場面。
設定はパレルモでほぼセットと思われますが、もしかすると実際の市街も利用しているかもしれません。
資料がないとこれ以上は不明。

検問

0:33
ガリバルディ軍が封鎖していた道路。
お国がこんな事態でも何日もかけて移動するというのが凄いですが、通行証をたてに強硬に突破するというのもなかなか我儘っぷりが凄いです。この場面は確か原作には無く映画オリジナルかと。

撮影場所はIMDbのリストには見当たりませんが、背景の湖と山はこちら↓を東岸から見た眺め。

Lago di Piana degli Albanesi(ピアーナ・デッリ・アルバネージ湖)W

マップでもう少し詳しく見ると、道路構成や対岸の地形などからこちら↓と思われます。

映画ではこの場所に石造りの建物がありますが、現在のマップでも遺構を確認できます。
映画とは反対側からとなりますが、SVでチェックするとこういった↓感じで、映画の建物と構成はほぼ同一。

なのでおそらくこちらで正解。
映画ではこの先ずっと登っていくように見えますが、実際には行き止まりですね。 🙂

別荘の村

0:46
馬車が到着した村。
設定はドンナフガータ(Donnafugata)ですが、撮影はこちら↓のコムーネ。

Ciminna(チミンナ)W, Palermo, Sicily, Italy

こちら↓の通りといいますか広場が主な撮影地となっています。

教会と隣の建物は今でも健在。

Chiesa di Santa Maria Maddalena (Ciminna)W

続く内部の場面もこの教会。

通りに面している堂々としたファサードの建物が別荘という設定のようですが、現在のSVで見ると普通の建物で映画の面影はまったくありません。
これはその後建て替えられたのではなく、撮影用に正面全体にセットをかぶせてしまったため。
なので映画では道を狭めるように不自然に出っ張っています。

セットを被せられてしまった家は映画には映らないわけですが、きっと住人のみなさんは一生自慢できますね。

別荘内部

0:59

内部はIMDbのリストのこちら↓

Ariccia, Rome, Lazio, Italy
Palazzo Chigi, Palazzo Chigi, Rome, Lazio, Italy

Palazzo Chigi(キージ宮殿)W
https://www.palazzochigiariccia.it/

ローマ市内の中心にあるPalazzo ChigiWとは別。

いくつかの部屋はオフィシャルサイトで画像を確認できます。SV的な360°画像もありますので、ぐりぐり動かしてみてください。

0:58
カロージェロがアンジェリカを連れてきた大きな居間は↓

Sala Maestra

2:00頃シュヴァレとトランプをするのもここですが、「分割払い」の話をして彼をビビらせるのは、原作では息子ではなくタンクレディ。
ここでシュヴァレは「もうすぐ我々の警察が到着します(から安心)」と言っていますが、「警察」はセリフでは「カラビニエーリ」と言っているようです。イタリアのドラマや映画でおなじみ、制服がかっこいい国家憲兵のことですね。
またこの場面で、シュヴァレはミラノ出身の人物を見つけてホッとしますが、このあたりシチリアとミラノの対比が見えて面白いです。
『モンタルバーノ ~シチリアの人情刑事~』でも恋人リヴィアはふだんジェノヴァに住んでいるという設定で、やはりシチリアとイタリア北部の対比を狙っていたように思います。

豪奢なディナーはこちら↓

Sala da pranzo d’estate

1:09
書斎(窓から見下ろす)に似た部屋  

Realtà virtuale della Sala del Trucco

1:41
タンクレディがやってくるという知らせで皆が飛び出していく部屋は不明。

オフィシャルサイトにこちらで撮影された映画のフィルモグラフィーがありました。

村長の家

1:10
……という設定だと思いますが、タンクレディが花をたずさえて訪れるところ。斜向かいから公爵が見ていてニンマリします。

階段

1:57
息子と政府の役人シュヴァレが登っていく階段。
これは教会前の道路に通じる階段でしょうか。

村の俯瞰

2:16
シュヴァレを見送った直後のショット。
朱に染まる村が印象的。

カメラ位置は村の西側のこちら↓

舞踏会

2:16
設定ではポンテレオーネ公爵家の屋敷。
この映画のクライマックスで、実に40分以上にわたり描かれます。

Palazzo Valguarnera Gangi, Piazza Croce dei Vespri, Palermo, Sicily, Italy (grand ball)
Villa Giustiniani-Odescalchi, Bassano Romano, Viterbo, Lazio, Italy

大きなホールは、

Palazzo Valguarnera Gangi, Piazza Croce dei Vespri, Palermo, Sicily, Italy (grand ball)

上記「村の俯瞰」から舞踏シーンへOLしますが、こちら↓のボールルーム。

大舞踏会にふさわしく、大勢が部屋を移動しつつ入り乱れて描かれていて混乱しますが、判明した範囲で追っていきますと……

それ以後、以下のように部屋が続きますが……

  • サリナ伯爵一家が登ってくる階段
  • 当主夫妻が出迎える部屋
  • タンクレディが迎えるカラフルな縦縞の壁紙の部屋
  • 年配の貴婦人たちが中央に腰掛け、軍人たちがぞろぞろ入ってくる赤い壁紙の部屋
  • 客が飲み物を手に談笑する部屋。壁には小ぶりの肖像画が並んでいる。
  • 最初に写った大舞踏室

これらはすべてリアルな配置で、たとえばこうした↓動画(Facebookから)でも確認できます。


2:21
「アンジェリカを見てきます」と言って離れて行くショットの次で、観葉植物が置かれている広い場所が写され多くの人が談笑していますが、これは西側のバルコニー。

外を写すショットでは、斜向かいのこちら↓の教会が見えています。

Chiesa di Sant’Anna la MisericordiaW

2:45あたりの、お食事タイムもこの場所。

2:26
若いレディたちがキャピキャピ大はしゃぎしている金ピカの部屋。ボールルームに隣接しています。
彼女らを見て、近頃の若いものはと考え込む公爵がちょっと可愛かったりして。

でも、アンジェリカと見事なワルツを披露してご満悦。

曲はヴェルディの「ワルツ ヘ長調」。
もとはピアノ曲で、ニーノ・ロータがアレンジ。この場面だけでなく、「舞踏会」の最初でも流れています。

<舞踏会の手帖>実践編

タンクレディがアンジェリカを友人たちに紹介すると、皆いっせいにダンスの申込みをしますが、アンジェリカは手にした単語帳タイプの小さい手帖を見せ、すでに予約済みであることを示します。
2つ前のエントリー『舞踏会の手帖』で<舞踏会の手帖>なるものをお勉強しましたが、これが実践編ですね。これでうまく断ることもできますし、逆にダブルブッキングも避けられそう。
よく見ると、来場した時に扇子を持った手の手首に鎖でぶら下げられていました。今まで気にしなかったから見なかっただけで、もしかすると舞踏会の場面がある映画では、しっかり小道具として登場していたのかも。
今度『戦争と平和』でも見返してみましょう♪

それにしてもアンジェリカ、立ち居振る舞いも落ち着いていて、堂々たる舞踏会デビューですね 😊

ロケ地マップ

資料

更新履歴

  • 2021/04/18 新規アップ

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