かむにぇ~ かむにぇ~
目次
作品メモ
ひとつ前のエントリー『コミッサール』同様、ウクライナで撮影された1967年のソ連映画。
似通っているのはそれだけで、こちらは革命50周年とは無縁の内容(汗)。
タイトルこそおどろおどろしいですが、手作り感がたっぷりの珍しいソ連製怪奇映画です(VHSタイトル『魔女伝説ヴィー』)。
原作(後述)にはなじんでいましたが、映画の方は昔テレビで何度か放送されたことがあり、それでようやく見ることができました。
おぼろな記憶しかありませんが、確か深夜と、あとは昼間の時間帯(テレ東??)で見たような。
前半の妖婆とのファンタスティック&ユーモラス&ちょっと怖い場面で、なぜかアイヴズの「答えのない質問」(”The Unanswered Question”)が流れていました。これは日本語吹き替え版でつけたものでしょう。
この映画、どうしても後半の妖女の美人さんぶりに注目しがちですが(私だけ??)、この妖婆とのからみをはじめとする特撮シーンは、素朴ながらも不思議な魅力に満ちていましたね。
ちょっとネタバレ気味ですが、動画も貼り付けておきます(音楽は本編のものではありません)。
キャスト&スタッフ
神学生ホマー・ブルート(Хома Брут)にレオニート・クラヴリョーフ(Леонид Куравлёв)。
棺に横たわる領主の娘(панночка パンノチカ [1]娘の名前ではなく、пан(パン=ウクライナ方面の地主)の令嬢のこと)にナターリヤ・ヴァルレイ(Наталья Варлей, Natalya Varley)W
ロシア語版Wikipediaによると、声は吹き替えとのことです(Клара Румянова)。
このお嬢様、
カムニェ・ウピリ! カムニェ・ヴルダラキ!
Ко мне, упыри! Ко мне, вурдалаки!
とクリーチャーを呼び寄せる時の目がイッちゃっている感じで凄かったですね。
(«Ко мне»は英語なら”To me”)
女優さんもこれ一作ではなく、その後も長らく活躍されているようで、何よりです 🙂
コサック村の領主(台詞やクレジットではсотник ソートニク=百人長、コサック中尉)にアレクセイ・グラズィーリン(Алексей Глазырин)。
妖婆(ведьма ヴェージマ)にニコライ・クトゥーゾフ(Николай Кутузов)。男性です。
ネーミング的には主役のはずのヴィーにНиколай Степанов(ニコライ・ステパノフ)。クレジット無し。他にも出演作がいくつかあるようですが、本当のルックスは不明。
監督ゲオルギー・クロパチョフ(Георгий Кропачёв)、コンスタンチン・エルショフ(Константин Ершов)。
撮影フョードル・プロヴォロフ(Фёдор Проворов)、ヴィクトール・ピシャリニコフ(Виктор Пищальников)。
音楽カレン・ハチャトリアン(Карен Хачатурян)。著名なアラム・ハチャトリアンの甥。
その下に指揮E・ハチャトリアン(Э.Хачатурян)とありますが、おそらくアラム・ハチャトリアンの甥(カレンのいとこ)のエミン・ハチャトリアン。
他にソ連・ロシアのファンタジー映画好きならおなじみの、アレクサンドル・プトゥシコ(Александр Лукич Птушко)の名前があります。
日本の映画サイトでは総監督となっているところがありますが、本編のクレジットを見る限り、脚本(監督2人との共同)、美術・特撮監督のようです。
原作
原作はゴーゴリの作品集『ミールゴロド』Миргород (1835)収録。
ミールゴロドWはウクライナの町の名。今日のマップでは、ゴーゴリが生まれた村(ヴェルィーキ・ソローチンツィ)Wから西へ20kmほどのところ。
ウクライナにちなんだ4つの中編が集められていますが、いちばん知られているのは映画にもなった「タラス・ブーリバ(隊長ブーリバ)」でしょうか。
現在入手できる日本語訳は……
原卓也氏訳が、創元推理文庫『怪奇小説傑作集5』(旧版1969、新版2006)に収録。
個人的にはこのアンソロジーでこのあたりの世界にハマりました。
小平武氏訳が、『怪奇小説精華―世界幻想文学大全』(ちくま文庫 2012)、『ロシア怪談集』(河出文庫 1990)に収録(おそらく元は『ゴーゴリ全集2』河出書房新社 1977)。
伊吹山次郎氏訳が、『昔気質の地主たち 附ヴィー(地妖) 』(岩波文庫 1934)に収録。
旧仮名遣いです。
他に平井肇氏訳がありますが(『ゴオゴリ全集第2』ナウカ社 1934、ゴオゴリ全集刊行会 1940、日本図書センター 1996)、こちらは未読。今となっては入手は難しいでしょうか。ぜひ青空文庫化お願いします。
ロシア語原文はもちろんパブリックドメイン化しています。
たとえばこちら↓
- https://ru.wikisource.org/wiki/Вий_(Гоголь)
- http://ilibrary.ru/text/1070/p.15/index.html
- http://ruslit.traumlibrary.net/book/gogol-pss14-02/gogol-pss14-02.html#work002002001
最後のリンク先にはepub形式も置いてありますので、iBook(iOS)や天下一読(Android)などできれいに開くことができます。
ヴィイ
原卓也氏訳のタイトルが「妖女(ヴィイ)」なので、妖女の名前がヴィイみたいですが、もちろんクライマックスシーンでど~んど~んと真打ち的に登場する妖怪のこと。
後年『スターシップ・トゥルーパーズ』を見たとき、バグズの大ボスが出てくる場面でこの映画を思い出しました。
ロシア語では«Вий» 英字なら”Viy”。
翻訳は原卓也氏訳が「土精」にルビで「ヴィイ」、小平武氏訳はそのまま「ヴィイ」、伊吹山次郎氏訳ではタイトルだけ「ヴィー(地妖) 」で、本文は「ヴィー」。
原作にはゴーゴリによる原注が「ヴィイとは一般民衆の想像力による所産である。小ロシア人の間でその名で呼ばれるのは小人の親玉のことで、その両眼の瞼は地面にまで垂れている。この物語はそっくりそのまま民間の伝説である……」(小平武氏訳)とつけられていて[2]小平武氏訳や伊吹山次郎氏訳には付いていますが、原卓也氏訳にはありません。、同じような内容が映画でも冒頭ナレーションとして流れます。
これだけ読むと、「ヴィイ」なる妖怪が民間伝承として伝えられてきたようですが、実際にはゴーゴリの創作のようです。
辞書でチェック
辞書にあたってみたところ、こんなマニアックな単語でも、さすが研究社や岩波の分厚いロシア語辞書には収録されていました。博友社は収録無し。
コンパクトなわりには語彙が多い三省堂の『コンサイス露和辞典』にも載ってましたが、なぜか研究社版と文章がほとんど同じです(汗)。
- 『研究社 露和辞典』
- ウクライナ伝説中の地中に住むおそろしい老人
- 『岩波 ロシア語辞典』
- その視線が死をもたらすと考えられた妖怪
- 『コンサイス露和辞典』(三省堂)
- (ウクライナ伝説の)地中に住む恐ろしい老人
映像化作品
Wikipediaのロシア語版と英語版でそれぞれ映像化作品のリストがあります。
67年版より前にも3回映画化されていたようですが、帝政時代のサイレント映画でしょうか。今から見るのは難しそうですが。
以下、2つのリストを合わせてみました(2002年版はポルノなので略)。
ロケ地
『Dagon』のエントリーで「ロケ地が全く不明なので保留中」と書いちゃいましたが、IMDbのリストが更新されていました(確か昨年見たときにはモスフィルムしかありませんでしたが……)。
Saint George’s Church, Sedniv, Chernihiv, Ukraine
Elets Monastery Chernihiv, Ukraine (scenes inside and outside the monastery)
Assumption Church, Goholin Forest, Borochany, Ivano-Frankivsk, Ukraine (funeral procession)
Mosfilm Studios, Moscow, Russia (studio)
ロシア語版Wikipediaにも記載がありましたので、そちらも参考にしています。
どちらも最近更新されているところを見ると、ここにきて世界的に調査が進んだのでしょうか(笑)。
あとは例によって、画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
設定も撮影もウクライナのようです。
地名はできるだけ各国語で記しておきました。日本語表記はWikipediaに従っています。
神学校
設定ではキエフ。
撮影は、ウクライナ北部チェルニーヒウ(Чернигов, Чернігів, Chernihiv)Wにあるこちらの教会。
Елецкий монастырь(Єлецький Успенський монастир, Elets Monastery Chernihiv, イェレーツィシク生神女就寝修道院)W
オープニングはこちらの前。
- https://pastvu.com/p/228228 ……1962-64の画像
その後学生たちが飛び出していくのは、東側のこちらの門。
逃げ帰ってきた場面と馬車で出ていく場面は、北西側のこちら↓の門。
村の教会
木造の趣ある姿。
0:32頃柩を運び入れる場面や、0:36頃の斜め横からのショットで外観が写ります。
IMDbのリストではこちら↓
Assumption Church, Goholin Forest, Borochany, Ivano-Frankivsk, Ukraine (funeral procession)
ロシア語版Wikipediaではこちら↓
Ряд сцен снимался в деревянной церкви Пресвятой Богородицы села Горохолин Лес Богородчанского района. 20 февраля 2006 года церковь сгорела дотла; по официальной версии, пожар возник в результате нарушения правил монтажа и эксплуатации электросети.
マップではこちら↓
Wikimapiaの説明書きでも、この映画の撮影に使われたことが書かれてあります。
0:32の場面はカメラ南向き。背景の地形も映画と矛盾ありません。
残念ながら映画に登場した教会は2006年2月20日に焼失。
再建されましたが、外観は同一には復元されなかったようです。
こちら↓でも同様の説明書きと、画像をいくつか見ることができます。
- http://www.doroga.ua/poi/Ivano-Frankovskaya/Gorokholin_Les/Uspenskaya_cerkovj/2723
IMDbでもロシア語版Wikipediaでも、もう一つ教会が示されていますが、どの場面かは不明。
Saint George’s Church, Sedniv, Chernihiv, Ukraine
マップではこちら↓
もしかすると内部などがこちらで撮影されたのかもしれませんが、クライマックスシーンはいくらなんでもモスフィルムのスタジオだと思います。
木造教会というと北欧をイメージしてしまいますが、このあたりも多く建てられているようですね。
村
連れてこられた村は、川を見下ろせる高台にあるようです。
地形的には上記項目の2つめの教会があるこちらの村が近いように思えます。
ラスト
二人(ハリャーワとゴロベーツィ)が話している背景に、特徴的な建物が見えます。
調査中。
ロケ地マップ
ウクライナが舞台の映画
資料
更新履歴
- 2021/10/16 「映像化作品」に『レジェンド・オブ・ドラゴン 鉄仮面と龍の秘宝』公開情報追記
- 2020/03/25 「映画化作品」更新
- 2020/03/19 「映画化作品」追記
- 2016/06/01 新規アップ
コメント
「妖婆 死棺の呪い」ですが、50年近く前に見た覚えがあります。
当時わたくしは小学生の低学年で、特撮の怖さと、女優さんの美しさが強烈に心に残りました。特に、化け物が壁から出たり、棺が宙を舞う場面は強烈でした。
ずっと心に残っていて、もう一度見たいと思っていましたが、やっと出会えたといったところです。
どうもありがとうございました。
MUDGPさん、コメントありがとうございます。
50年前ですか。小学生が見たら、半世紀経とうが記憶にずっと焼き付けられたままになりそうな映像ですよね。
私は最初は原作小説から入りましたが(おそらく70年代初め頃)、文章だけでもかなりのインパクトがありました。その後テレビで映画を見たときは(おそらく70年代半ば頃)、ほぼ原作のイメージ通りに映像化されていて、満足した記憶があります。
怖い場面はもちろん、女優さんの美しさもしっかり記憶に残りますよね 🙂
もし、同じものを50年くらい前にみているとすると、1970年か1971年の8月の終わりだと思います。「⚪︎⚪︎博士の・・・」 という映画と2本立てでテレビで放送されたと思います。
2本立てでしたがこちらの方が強く印象に残り、長いことビデオを探して10数年前にDVDを手に入れました。魔女が棺桶に乗って飛び回るシーンは、最後に出てくるビィーより恐ろしい感じです。ロシアの映画が好きなのと、見た時のシチュエーションが忘れられなとというもこともありますが、ずっと好きな映画です。
ぴょんままさん、コメントありがとうございます。
70年か71年とのことですが、そうなりますと私が最初に見た時より前かもしれませんね。
「○○博士」も気になりますが、どんな内容だったにせよ、美魔女が棺桶に乗ってブンブン飛び回るインパクトにはかなわないでしょうね 🙂
手作り感もたっぷりで、私もとても好きな映画です。
コメントされている方々と同じく50年ほど前にテレビで見て妖怪や飛ぶ棺桶など強烈な印象を
受けました。忘れがたく数年前にDVDを購入しました。最近、ゴーゴリの「ディカーニカ近郷
夜話」を読み始め、彼の生誕地に興味を覚えてこちらに辿り着きました。色々な詳しい情報を
有難うございます。最近は魔界探偵のロシアドラマが放映されて、若い世代ではメジャーになっているのでしょう。ロシア好きの一員としては嬉しい限りです。
アビスさん、コメントありがとうございます。
やはりテレビでご覧になったのですね。
このコメント欄は同じような年齢層が集結している疑惑 😉
魔界探偵面白かったですよね。そちらはCS放送で見てとても気に入り、すぐにエントリー書きました。VFX一辺倒ではなく、ゴーゴリの原作をうまく素材に組み込んで、お話の方もちゃんと楽しませてくれたと思います。
『妖婆』と比べると素朴な味わいは失われてしまっていますが、『妖婆』同様お国柄はちゃんと出ていて、そのあたりも魅力になっていますね。