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『笑う男』 Tu ridi (1998)

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作品メモ

『カオス・シチリア物語』(84)『父 パードレ・パドレーネ』(77)『サン★ロレンツォの夜』(82)『グッドモーニング・バビロン!』(87)とタヴィアーニ兄弟の監督作品をチェックしてきましたが、今回でいったん打ち止め。

『笑う男』は『カオス・シチリア物語』同様、ルイジ・ピランデッロ(ピランデルロ)の短編をピックアップして原作としています。
実際には原作者が共通なだけで、『カオス』とは原題も邦題も物語もすべて別物。[1]フランスでのタイトルは« Kaos II »と続編ぽいものになっているようですが、これは例外
構成も、『カオス』ではプロローグとエピローグがあり、間の各エピソードをカラスが結んでいくというかっちりしたものでしたが、『笑う男』は尺の異なる2つの話をざっくり並べただけの大雑把なオムニバスとなっています。

個人的には『カオス』で見られたように、ピランデッロとタヴィアーニ兄弟はとても相性が良いと感じていますが、この『笑う男』も期待違わずなかなかの出来栄え。それぞれの人生観といいますか死生観のようなものが、うまい具合に化学反応を起こして、独特の深みのある世界を作り上げています。
日本語版のソフトがないのが残念で、いつかきちんとした形で見たい、という願いを込めてのエントリー。
サン・ロレンツォの夜に願えば叶うかも 😇

監督脚本パオロ・タヴィアーニ、ヴィットリオ・タヴィアーニ。
撮影ジュゼッペ・ランチ、音楽ニコラ・ピオヴァーニ……とこのあたり不動。

エピソード&ロケ地

IMDbでは、

Agrigento, Sicily, Italy
Petralia Soprana, Palermo, Sicily, Italy
Petralie Forest, Sicily, Italy
Rome, Lazio, Italy
Sicily, Italy

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

最初のエピソードはローマとその周辺が舞台。
2番目はシチリア。

primo racconto “Felice”

「幸福」
1時間ある長めのエピソード。
主人公は寝ながらゲラゲラ笑うというおかしなクセ?のある中年男。目が覚めると夢の中身はすっかり忘れていますが、隣にいる妻はきっと女とご機嫌なことをしていると思い込み、夫婦仲はどんどん険悪になっていきます。
ある時男はとうとう夢の中身を思い出しますが、それは浮気よりさらに事態を悪化させるものでした……

ピランデッロの「笑う男」(Tu ridi = お前は笑う)Wが原作と思われますが、原作分の話は前半で終わってしまいます。
しかも夢の解釈が映画独自のものとなり、その後はオリジナルの物語が続きます。
もしかするとこちらの部分にも原作があるのかもしれませんが、不明。
ご存知の方、ぜひ教えてぺるふぁぼーれ。
結果、映画は原作と比べてかなり「死」を意識したトーンとなっています。

「笑う男」は、『月を見つけたチャウラ~ピランデッロ短篇集~』 (光文社古典新訳文庫 2012年)収録。

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町並み俯瞰

0:02
ローマ市街の俯瞰。
テベレ川を挟んで、西側ジャニコロ(Gianicolo)Wの丘からの眺め。

この↑SVは映画のアングルに近いですが、もう少し左寄り(北側)。
おそらくカメラ位置はこちら↓のあたり。

Villa Lante al GianicoloW

階段

0:06
夢で見る階段。
同僚が杖を突きながら登っていくのを、下から見ています。
場所は気になるので調査中。

劇場

0:13
内部。
主人公は劇場に勤務する会計士という設定。
場所不明。

雨のベンチ

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こちら↓の屋上

自転車

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夢の内容に呆然としていて自転車にぶつかってしまうところ。

ローマ市内のサン・テオドーロ通り(Via di S. Teodoro)↓

塀の向こう側は、豪邸跡が並ぶパラティーノの丘。
背景に頭をのぞかせているのは、丘の南側にあるこちら↓

Basilica di Santa Anastasia al Palatino W

タクシー移動

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サンタンジェロ城のこちらの角↓

アウレリアヌス城壁のこの↓あたり

La vita è bella!

海岸

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ジャケットを脱ぎ、いよいよというとき、ノーラと名乗る女性が話しかけてきます。
このあたりからだいぶ非現実的で夢のような展開に。

場所は2人が歩き出した時のショットで、背景に特徴的な山が見えるので判明しました。
ローマの南東6,70km、マップで「カプロラチェ湖(Lago di Caprolace)」とあるあたりの海岸。

海辺の店はさすがに不明。

客も猫様もミャウミャウと参加するのは、「猫の二重唱(Duetto buffo di due gatti)」W
ロッシーニ作曲……かと思ったら、Wikipediaを見る限りそうではなかったようです。

促されて歌うのは、こちらは間違いなくロッシーニの「アルジェのイタリア女(Italiana in Algeri)」W

劇場外

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secondo racconto “Due sequestri”

「2つの誘拐」
こちらは40分程度。
ピランデッロの「誘拐」が原作。正確に言えば、途中で100年前の話として挿入されるエピソードが原作の「誘拐」で、メインの誘拐事件は原作とは無関係。

「誘拐」は『ピランデッロ短編集 カオス・シチリア物語』 (白水社 2012年)収録。

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外側の、ピランデッロ原作部分ではないエピソードは、実際にシチリアで起きた少年の誘拐殺害事件がベースになっているという、とてもとてもしんどい内容となっています。

要人暗殺容疑でマフィアのメンバーが逮捕されますが、司法取引で情報提供されるのを恐れた他のメンバーが口封じのため当時12歳の息子を誘拐、ところが父親がこれに応じなかったため、2年以上に渡る監禁と虐待の末、少年は無残に殺されてしまったというまことに痛ましい事件です。

少年の父親はこちら↓[2]劇中では架空の名前に変えています
Santino Di MatteoW

映画で言えば、最近の『シシリアン・ゴースト・ストーリー』(2017)がこの事件を扱っています。

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事件について日本語で読める記事としては、この映画の公式サイトでの解説がわかりやすいです。

http://sicilian-movie.com/kaisetsu.html

少年の父親は1992年のファルコーネ判事暗殺に関与していたようで、少年が誘拐されたのは翌1993年、殺害されたのは1996年、『笑う男』の公開は1998年という時系列となります。
タヴィアーニ兄弟はおそらく事件に衝撃を受けてすぐさまこの映画を構想したのかと思われますが、事件をそのまま描くのではなく、誘拐をあつかったピランデッロの短編を種のように中心に置くという作劇上の工夫を施しています。
それにより、2つの物語を互いに響かせ合い、対比させ、事件を浮き彫りにし、犠牲者を悼みつつ、誘拐犯にもしっかりと焦点を当て、映画作家として少しでも事件の本質を露わにしようとしたのではないでしょうか。
このあたりは、戦時下で同胞の身に起きた出来事を描くにあたり、事実を直接描くだけでなく幻想や寓意をも加えてみせた『サン★ロレンツォの夜』(82)と相通じるものがあるかもしれません。

神殿

1:01
OPの情景描写。
アグリジェントにある神殿の谷Wで、舞台がシチリアであることが示されます。

コンコルディア神殿W

パンの最後で捉えるのは、北側のアグリジェントの街。

ホテル

1:06

Hotel Pomieri
Località Piano Pomieri, 90027 Petralia Sottana PA

続く挿話で舞台となる山がここのテラスから見えるという設定なので、ホテルの場所をマップや画像で粘って探索しましたが、さすがにSVでの眺めと挿話の舞台は一致しませんでした。

誘拐(挿話)

1:11

山の名前にちなんで描かれる100年前の話。
こちらがピランデッロ原作の短編「誘拐」。
山道を行く老学者が身代金目当てに誘拐されてしまいますが、誘拐犯たちは覆面をしていても誰だかすぐにバレてしまい、老人を解放できなくなります。そのまま監禁場所で、誘拐犯や地元の人々と不思議な交流が生まれる……といった展開で、ほぼ原作通りの内容。

撮影場所は『父 パードレ・パドレーネ』のようなシチリアの山間と思われますが、不明。

フレスコ画(参考)

少年が画像処理していたジョットのフレスコ画。
裏切り者のユダに幼児虐待と、タイトルがストレートに状況を示しています。

ジョット・ディ・ボンドーネ《ユダの接吻(Bacio di Giuda)》W

ジョット・ディ・ボンドーネ《幼児虐殺(Strage degli innocenti)》W

いずれもこちら↓にあります。

スクロヴェーニ礼拝堂(Cappella degli Scrovegni)W

フレスコ画ですから現地に行かないと見られないわけで、まだ自由に行き来できないこのご時世、SVが利用できるのは大変ありがたいこと。

ロケ地マップ

資料

更新履歴

  • 2021/10/26 新規アップ

References

References
1 フランスでのタイトルは« Kaos II »と続編ぽいものになっているようですが、これは例外
2 劇中では架空の名前に変えています

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