『お早よう』 (1959)

あの頃映画 松竹DVDコレクション 「お早よう」

作品メモ

たまには日本映画を続けて……。

少し前、小津監督映画で『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(1932)を取り上げましたが、こちらの作品も比較的近い場所で撮影されています。
ロケ地だけでなく、どちらも幼い兄弟の微笑ましい姿を通して大人の世界が描かれていて、時代こそ違えど2本の映画はそれこそ兄弟のようにシンクロしているように思えます。

物語やキャストなど資料的なことは文末に挙げた映画サイトなどをご覧ください。
今の送り仮名規則では「おはよよう」となりますが、もちろん「おはよう」です。

ロケ地

今回は昭和34年のカラー作品ということで、『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(1932)に比べれば時代はずっと後。
そこで、前回活躍したgooの古地図(昭和22年と39年)に加えて、国土交通省・国土情報ウェブマッピングシステムのカラー空中写真閲覧サービス 地理院地図(電子国土Web)も利用してみました。

一番古いデータが昭和49年なので、そこそこ使えるのではないかと思います。

  • http://w3land.mlit.go.jp/WebGIS/

まず、該当すると思われる地域の検索結果はこちら。

  • 国土画像情報検索結果

表示されたマップで、中央を蛇行しながら左右に走っている黒い線が、東京都大田区と神奈川県川崎市の境を流れる多摩川です。赤が鉄道で、緑が道路。
各マークは撮影年度別の空撮ポイントを示していて、♢マークが最古の昭和49年度(1974年)。
マークをクリックした後「400dpi」を選ぶと、かなり解像度の高い空撮写真をゲットできます。

以下具体的にチェックしていきますが、前回も書いた通り小津監督作品ならきっとロケ地は詳細に解明されていることと思います。
さりとてそういう資料を見てしまうとつまらないこと甚だしいので、例によってウェブマップを頼りに画面とのにらめっこでチャレンジしてみました。
答え合わせはしていませんので、間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

鉄塔と住宅

タイトル後の最初のショット。
舞台となる住宅地という設定でしょうか。
劇中俳優さんたちが演技しているのはセットだと思いますが、このロングショットは実際の街並みと思われます。
この鉄塔、2つが隣接していますし特徴的な場所に立っているので、粘れば場所が解明できるかもしれません。

次のショットは住宅地の中から見た別の角度。
ゴミ箱が懐かしいですね。
遠くに鉄塔が2つ見えますが、それぞれ別の高圧線が架かっているようです。
こちらも調査中。

住宅と土手

住宅が左右対称に並び、背景に土手が見える道。
ここからセットでしょうか。

この場所はこれに近いアングルで何度も写りますが、ショットによって影が左右それぞれから同じように伸びているようです。
つまりほぼ真北を向いたアングルで、土手が東西に延びている部分の南側で撮影されていることになります。
セットがあるのが堤防の内側なのか外側なのかまではわかりません(ついでに、「堤外」といったら河川敷側のことだってご存知でしたか?)。

土手の向こうに時々塔のようなものが見えますが、上の方がワイヤーで支えられているようです。
河川敷に立つ何かでしょうけど、たとえばこんな↓感じで、対岸の高い鉄塔が見えている可能性もあります。

土手の道

背後に高くて細いアンテナが見えるのが特徴的。
このアンテナだけで、土地勘のある人ならすぐにビビっとくるはず。
これは多摩川の川崎側の河川敷に立っている現アール・エフ・ラジオ日本の送信所Wで、近寄るとこんな感じ。

ラジオ日本Wの開局は1958年とのこと(当時はラジオ関東)。
goo地図でチェックすると、昭和22年では当然見えませんが、昭和38年には確認できます。

多摩川が多摩川大橋の東側でぐっとふくらんでいるところ(現在川崎競馬場の練習馬場があるところ)の南側にあります。
ということは、映画に登場した土手の道は川崎側? と思ってしまいますが、実は対岸のアンテナが圧縮効果で一緒に写っているのであって、撮影は東京都側。
具体的にはこのあたりです(珍しく自前の画像もどうぞ)。

©2013 inagara
©2013 inagara

アンテナとは逆向きのショットで背景に煙突が見えますが、これは川をはさんだ川崎の工場。
煙突の位置や建物の形などから、おそらくこのあたりではないかと思われます。

当時ここは明治製糖川崎工場。その後跡地の再開発絡みでリクルート事件として有名になる場所です。
今は名前が変わってしまいましたが、ここに建っている立派なビルの一棟に大きく「リクルート」と書かれていて、対岸からもよく見えました。

話は戻って、この撮影ポイントですが駅から離れているため行きづらい場所となっています。
JR(京浜東北線か東海道線)で多摩川を渡る際にも西の方を見ると似たようなアングルを体験できますので、機会がありましたら子供のようにドアや窓にへばりついてご覧になって見てください。

©2013 inagara

肉眼ではこんな感じ。
アンテナもはっきり見えます。
参考までに一番下に掲載したロケ地マップで、この画像のカメラ位置と向きを示しておきました(青い矢印)。

©2013 inagara

ズームアップするとこんな感じ。
多摩川が向って右に大きく蛇行しているため、対岸のアンテナがこちら側の土手に乗っかって見えます。

団地

中井貴一さんにそっくりな(逆か)佐田啓二さんが住んでいるところ。
懐かしい、いかにも「団地」といったたたずまいです。
このタイプの団地は今でも川崎側で何ヶ所か残っていますが、映画と完全に一致するものはないので、おそらくすでに取り壊されたものと思われます。

特徴としては、4階建て。メインに写る2号棟は階段が3箇所以上、右隣の棟は階段が4箇所以上で、2号棟とは「ハ」のように少し角度が開いているようです。
昔の航空写真で粘れば見つけることができるかもしれません。
近そうな雰囲気ではたとえばこちら↓

でもここはちょっと違うような気もします。

ごはんを食べていた土手の下

 
   
この場面も『生れてはみたけれど』を連想しますね。
土手に作られた水門のような施設のすぐ前。
土手の曲がり方、川沿いの緑地の見え方、橋の架かり方、日差しの方向などから見て、多摩川の北側(東京都側)のこのあたりではないかと推測されます(上述アンテナの見える土手から数km上流)。

映画では水門のような施設に見えますし、上の空撮でも立派な水門がありますので、これで一件落着のようですが、もう少し調べてみたところ事はそう簡単ではありませんでした。

ごはんを頬張る弟を横から捉えたショットの背景にこれまた古風な水門が見えます(上記動画35秒~)。
こちらの方は構造からして明らかにホンモノの水門で(いわゆる樋門)、こちらを先に解明しますと、このあたりを流れていた用水が多摩川に出るところ。

こちらの↑空撮で、北から流れてきた用水がこの位置で多摩川に出ているのがよくわかります(昭和22年の方が暗渠化していないのでわかりやすいですね)。
この水門は、つい最近すぐ右隣(映画の中で兄弟が座っていた謎の施設のあたり)に新しく水門が作られるまで存在していました。
Google Earthのタイムスライダーでこの場所を2005年頃まで遡ってから順番に見ていくと、右側に新しい水門ができていく様子がよくわかります。
Google Mapsの方の空撮ではすでに姿を消していますが、Bing Mapsの空撮ではまだ新旧両方の水門を確認できます。

いずれ新しい状態に更新されてしまうでしょうから、キャプチャーするなら今のうち?

気になるのは兄弟がいた方の施設。
水門が2つ並ぶのも変なので、水門以外となると??
この施設、昭和22年では影で確認できますが、昭和38年にはもう見えないようです。

弟が土手を上るショットで、二人の頭上になにやら紋章が写りますが、ペンのぶっちがい……つまり慶応義塾の校章。
慶応がらみの施設なのでしょうか?
さらに、お兄ちゃんがお茶を飲むショットでは、下の方にレールのようなものが見えます。
昭和22年の画像では、土手と直交し多摩川縁までまっすぐ伸びている道を確認できますが、これがレールの部分でしょうか。

もう少し調べてみたくなったので、上掲写真を撮るついでに多摩川近くの図書館に行ってみました。
(全然「居ながら」じゃないし…… 😉 )
郷土資料のコーナーで今年出たばかりの『六郷用水聞き書き』(六郷用水の会編、2013年)という本を見てみたところ、そのp.101、地元の年配の方への聞き取り調査の中でこんなくだりが。

下丸子流れと光明寺流れの悪水が合流し矢口水門(現・矢口ポンプ場付近)から多摩川に流れ落ちた。この近くに慶応のボートクラブの合宿所があり、土手までトロッコにカッター(ボート)を載せ、レールで運んでいて、トンネルの上には慶応のマークがあった。

ビンゴ♪  スッキリ♪♪
「答え合わせはしていません」と書きましたが、ここに関しては自分でしたも同然。
あとは当時の写真があれば完璧なのですが、まだ見つかっていません。

©2013 inagara

この場所も撮ってみました。
これはおまわりさんがやってくる方角。
川や土手は左にゆったりカーブしていきます。
遠くに見えるのは国道1号線の多摩川大橋。

©2013 inagara

その反対側。
川や土手はゆったり右にカーブしていきます。
遠くに見えるのはガス橋。
本当は小津監督ばりにローアングルにしたかったのですが、土手の草がボーボーで諦めました。

©2013 inagara

現在の水門。
映画で2人がいたのもほぼこのあたりと思われます。

八丁畷(はっちょうなわて)駅W

高架なので、京急本線ではなく南武線の方のホームですね。
現在はこんな感じ。

関係ありませんが、南武線はこのあたり難読駅名がひしめいています。
「八丁畷」もそうですが、「矢向」「尻手」は知らないとまず読めません。

正解はこちらをクリック

矢向と尻手は川崎と立川を結ぶいわゆる南武線の駅。
それに対し八丁畷は尻手駅に始まり浜川崎駅まで伸びている南部支線の駅です。

尻手→八丁畷→川崎新町→浜川崎

たったこれだけ。
首都圏のJRとは思えない2両編成のワンマン列車が1時間数本走っていて、気軽に乗り鉄気分を味わうことができます。
難点はあっというまに終点に到着してしまうところですが、そこで鶴見線に乗り換えることができます。
個人的にはラゾーナができてすっかりハイカラになってしまった川崎駅より、南部支線や鶴見線周辺に郷愁のようなものを覚えてしまうのですが、地元の方にとっては大きなお世話でしょう……

ロケ地マップ


より大きな地図で 小津安二郎監督作品 を表示

資料

関連記事

小津安二郎

更新履歴

  • 2017/06/22 画像のリンク先をPicasaからGoogleアルバムアーカイブへ変更
  • 2015/05/24 地理院地図(電子国土Web)のマップ情報追記
  • 2014/08/16 国土変遷アーカイブ空中写真閲覧サービスの統廃合に伴い、国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスへリンクを切替
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『お早よう』 (1959)” への4件のコメント

  1. よくもこれだけ詳細にロケ地を調べることができるなと、いつもながら感心します。膨大な手間・暇がかかっているのでは?
    「ごはんを食べていた土手の上」を特に興味を持って読ませてもらいました。推理ゲームのようにこのロケ地を特定しているのは、ポアロ探偵並みです。ちなみに、この場面での弟役の島津雅彦は天才子役で、後年「名もなく貧しく美しく」「天国と地獄」などで名演技を見せました。
    記述に2カ所のミスを見つけました。 冒頭のロケ地 「今回は昭和39年のカラー」、これは34年ですね。
    団地 中田喜一は中井喜一ですね。
    「お早よう」を読むだけで頭が痛くなった。「早春」のコメントは次回にします。

  2. 赤松幸吉さん、間違いご指摘ありがとうございます。さっそく直しておきました。
    単純記載ミスなので、読みやすさ優先で打ち消し線は使わずに上書きしてしまいました。
    アップ前には結構何度か見返しているのですが(次の『早春』で淡島千景を淡路千景と書いていてアップ直前に気づいて直しました)、まだまだですね~
    こういうチェックは本当に助かりますので、突っ込み大歓迎です。
    ただパソコンの画面を長時間見ていると疲れますので、ほどほどにご覧になってくださいね。

    調べるのは案外簡単なんですよ。
    特に今回と次の『早春』はみな土地勘のある場所なので、スイスイと進みました。
    一番面倒なのがそれをいかに伝えるかの部分で、そちらの方はあれこれ工夫していると時間がかかってしまいます。
    たぶん映画のスクリーンショットと、マップに矢印や説明を書き込んだものを並べて見せれば簡単なのだと思いますが、いちおういろいろな権利を尊重するという建前でやってますので、その手が使えません。

  3. はじめまして。自分が生まれた前後の映画を観るのにはまっています。両親が若い頃の「幸せ」や「あこがれ」、「娯楽」というものが、今と全然違い、なんて今は恵まれているんだろう、これから景色はどう変わるんだろうと、いろいろ考えることができるからです。今は風化して視覚に入らないような建物でも、当時は「ここは最高の風景だ」と決めてスタッフと撮影したわけですから、映像の中では生き生きしています。できればもっと映画に日本の古きよき風景をいっぱい入れてほしかったなあと思います。
     ロケ地の風景の移り変わりも参考になります。「今はどうなってるのかなあ」と探していたらここで見ることができました。自分もいつか、風景の今昔の比較をしてみたいと思います。ありがとうございました。

  4. 通りすがりさん、コメントありがとうございます。
    映画は俳優たちが動き回る空間だけでなく、撮影した時間までもパッケージになっていますから、特に歳月を経て見返すといろいろな発見があって面白いですよね。
    今はウェブマップのような小道具がいろいろあり、普通に鑑賞して楽しむ他に、ちょっと変わった(?)楽しみ方もできて、良い時代になったものだと思っています。

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