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『唇からナイフ』 Modesty Blaise (1966)

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Yes, we should’ve,
and we could’ve
Perhaps we can

作品メモ

このところずっとシチリアで撮影された映画を取り上げていますが、こちらも同様。

ひとつ前のエントリー『スタークラッシュ』は、銀河帝国に雇われたお尋ね者の女性が宇宙の平和を守るために大活躍するお話でしたが、こちらは大英帝国が凄腕の女性泥棒を雇うといった筋書き。
なんでも石油採掘権と引き換えに某産油国の族長に5000万ポンドの宝石を贈ることになったそうで、それを何者かが狙っているとのこと。蛇の道は蛇(”Use a thief to catch a thief.”)というわけで、同じ業界?の彼女なら、きっと相手の正体と手口を見破り、任務を完遂してくれるだろうという狙いです。

まあ設定からして荒唐無稽。あとはヒロインの活躍をぼーっと見ていれば良いので、無責任に楽しめる一本。
おそらく007シリーズの成功を受けて通ったような企画かと思いますが、ヒロイン本人はアクション担当ではないので、演出的に盛り上がることがあまりなく、またスパイものとしてのサスペンスも微妙な感じで、むしろ途中でデュエットで歌いだしたりするゆるゆるでポップなノリが見どころかと思います。

キャスト&スタッフ

  • モデスティ・ブレイズ / モニカ・ヴィッティ ……ヒロインの名前がそのまま原題となっています。邦題は勝手に付けたものでしょうけど、別に唇からナイフを飛び出させる特技があるわけではありません。
    モニカ・ヴィッティは、少し前にアントニオーニ監督の『情事』をチェックしたばかりですが、アントニオーニ監督作に出ている時の濃密な映画空間とはがらりと変わり、衣装をとっかえひっかえして軽やかに演じています。 ⇒ IMDb Photo
  • ウィリー / テレンス・スタンプ ……息の合った長年の相棒。2人は恋人づきあいではないみたい。 ⇒ IMDb Photo
  • 大臣 / アレクサンダー・ノックス ……ちょっとずつ情報がずれているが本人はマジメ ⇒ IMDb Photo
  • ジェラルド・タラント卿 / ハリー・アンドリュース ……イギリス秘密情報部長
  • ポール・ヘイゲン / マイケル・クレイグ ……その部下。ヒロインとはいろいろあった模様。
  • シーク / クライヴ・レヴィル ……マサラ国の族長。クライヴ・レヴィルは付け鼻メイクで誰だか全然わかりません。マクワーターとの二役。 ⇒ IMDb Photo
  • ガブリエル / ダーク・ボガード ……宝石を狙う悪党。 ⇒ IMDb Photo
  • マクワーター / クライヴ・レヴィル ……一味の参謀的会計士。とても金にうるさい。クライヴ・レヴィルはシークと二役。こちらはほぼ素顔。『刑事コロンボ/ロンドンの傘』『お熱い夜をあなたに』の6年前で若いですね。
  • フォザギル夫人 / ロッセーラ・フォーク ……一味の警護担当。ガブリエルも恐れる冷酷なサイコパス。部下をぎゅーぎゅー締め付け裏切り者はあっさり始末。ミセスと言っていますが、夫がどうなったのかは誰も知ろうとしません。 ⇒ IMDb Photo
  • ニコル / ティナ・オーモン ……ウィリーの恋人。マジックショーのアシスタント。イタリアの女優さんが多いこの映画で珍しいフランスの女優さん。 ⇒ IMDb Photo
  • メリナ/ シーラ・ガベル

元はコミックで原作者はピーター・オドンネル。 → Modesty BlaseW
本編でも小道具としてイラストが映し出されます。 ⇒ IMDb Photo

監督はなんとジョセフ・ロージー。
拙サイト的には、これまで『エヴァの匂い』『呪われた者たち』『夕なぎ』『暗殺者のメロディ』と結構取り上げてきましたが、こんなんも監督していたという、意外な一面を見せています。

脚色エヴァン・ジョーンズ、撮影ジャック・ヒルドヤード、音楽ジョン・ダンクワース。

なぜかWikimedia Commonsに当時の写真がうじゃうじゃアップされていて、Public Domainとなっていましたので、ワケわかりませんが、とにかく今回ありがたく使わせていただこうと思います。

まずは、主演2人と監督↓

お役に立つ

『スターウォーズ』の後のSF映画のように、007以後雨後の筍のごとく娯楽に傾いたスパイ映画が作られる中で、女性を主人公にしたスパイものもあれこれ作られていったことと思います。
イギリス映画なら人数をひとり増やした『キッスは殺しのサイン』とか。
同じようにイギリス紳士たちが閣僚会議を開き、南国リゾートが出てきて、悪役が豪華ボートに乗ったりしています。

アメリカ映画で比べるなら、ラクウェル・ウェルチ姐さんの『空から赤いバラ』(67)で決まり。
翌年なので、『唇からナイフ』が直接お役に立ったというよりは、女性版なんちゃって007の企画が同時発生的に進んでいて、『唇からナイフ』がちょっと先に出た、ぐらいの感じかもしれませんが。
原題(Fathom)がヒロインの名前であること、邦題が「○○から△△」も似てます。
どちらも音楽がジョン・ダンクワース。
そして、どちらにもクライヴ・レヴィルが登場。
さらにどちらも20世紀フォックスのタイトルで始まります。

こうなると区別がつかなくなりそうなものですが、明らかに英米の気質の違いが出ているような。
ジェームズ・ボンドに対するマット・ヘルムやフリント、ビートルズに対するモンキーズみたいなものでしょうか(違)

ロケ地

IMDbでは、


Castello di Sant’Alessio Siculo, Sicily, Italy (Gabriel’s fortress)
Amsterdam, Noord-Holland, Netherlands
Naples, Campania, Italy (Seaside)
London, England, UK
De Ruijterkade 7, 1013 AA Amsterdam, Netherlands (red columns building; opening credits, “tallest building in Amsterdam” scene at 00: 24: 42)
Prinsengracht 509, Amsterdam, North Holland, Netherlands (alley where ‘our very best man’ British agent meets white face painted man at 03: 50)
Shepperton Studios, Shepperton, Surrey, England, UK
The Ritz, Piccadilly, London, England, UK
Zeedijk 16, Amsterdam, Netherlands (Willie saves Modesty’s canal cruise boat from being bown up at 00: 28: 52)
Prinsengracht 172. Amsterdam, North Holland, Netherlands (‘our very best man’ British agent lights pipe)
Prinsengracht 507, Amsterdam, North Holland, Neartherlands (‘our very best man’ British agent walks past girl sitting on steps outside ‘BOEKBINDERS’ at 03: 36)
Nightclub Blue Note, Korte Leidsedwarsstraat 71-73, Amsterdam, Netherlands (promo-poster at 24’08″/29;05 with Blue Note, interior 32’05-35’50”)
Italy
UK
Netherlands

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

このfilming locationsにはタイムスタンプが入っていますね。至れり尽くせり。

OPクレジット

カメラが上向きで、赤い柱が並ぶところをぐるりと回っていきます。そこはアムステルダム。

De Ruijterkade 7, 1013 AA Amsterdam, Netherlands (red columns building; opening credits, “tallest building in Amsterdam” scene at 00: 24: 42)

ビル名は↓

Havengebouw (Amsterdam)W

0:24では、上階のカフェが登場。
ここで、OPの映像がカフェのフロアのバルコニー部分で撮られたことがわかります。

こちら↓も同じバルコニー。0:24頃様子をうかがっていた男がタバコを消した角。当たり前ですが、手すりの傷まで映画と同じです。[1]そのあと男が何語で話しかけたか不明。おわかりになる方ぜひ教えてください m(_ _)m
この2人がここにいる場面はありませんので、取材撮影ですね。

なおこのビルのお隣(西側)は、『警視ファン・デル・ファルク アムステルダムの事件簿』 のシーズン2で警察署として登場しています。

教会

OPクレジットで見えていた教会

Westerkerk(西教会)W

紳士がパイプに火をつけたのは、その向かいのこちら↓

Prinsengracht 172. Amsterdam, North Holland, Netherlands (‘our very best man’ British agent lights pipe)

白塗りの男

0:03

赤ちゃんを抱いた女性が座っている階段↓

Prinsengracht 507, Amsterdam, North Holland, Neartherlands (‘our very best man’ British agent walks past girl sitting on steps outside ‘BOEKBINDERS’ at 03: 36)

紳士が白塗りの男(クレビエ)と会う鉄格子の門↓

Prinsengracht 509, Amsterdam, North Holland, Netherlands (alley where ‘our very best man’ British agent meets white face painted man at 03: 50)

ホテル

0:10

リッツ・ロンドン

The Ritz, Piccadilly, London, England, UK

これまでのエントリーで言えば、『ノッティングヒルの恋人』で登場。

ガブリエルの居城

0:15

シチリア島のこちら↓

Castello di Sant’Alessio SiculoW, Sicily, Italy (Gabriel’s fortress)

観光船

0:28
ウィリーが運河に仕掛けられた爆弾トラップを間一髪で排除したところ。

Zeedijk 16, Amsterdam, Netherlands (Willie saves Modesty’s canal cruise boat from being bown up at 00: 28: 52)

最初に狭い水路に入りますが、そこは『雨のアムステルダム』で、ショーケンの住まいだったところの目の前。通過したあと、ウィリーの背後に住まいの建物が見えています。

船を降りて、絵葉書を受け取ったのは、爆弾処理から100mほど先。

「爆発は毎日じゃないのよ」
「毎日はこないわ」

ところでこちら↓の撮影現場、衣装からして遊覧船の場面とその前後となるはずですが、こういった場面は本編にはないようですね。
野次馬がすごくて、撮影にならなかったとか 😅

モニカ姐さん、「ちょっとどーなってんのー?」とか言ってそう(想像です)

場所はこちら↓  名物花市場。

ハーレム通りのアパート

なぜか危険を察して呼び鈴を押さなかったところ。
調査中。

ナイトクラブ

Nightclub Blue Note, Korte Leidsedwarsstraat 71-73, Amsterdam, Netherlands (promo-poster at 24’08″/29;05 with Blue Note, interior 32’05-35’50”)

住所的にはこちら↓のRANCHOとあるお店ですが、今いち確認できません……

1:09

ベスピオ火山

クルマを停めてなぜか突然ミュージカルシーンになるのは(笑)このあたりでしょうか?

全編通して、個人的にはこのシーンがいちばんのお気に入りかも 🙂
 

We’ve bombed and mined
but never intertwined
We were crazy
You know
I was lazy
I know
Yes, we should’ve,
and we could’ve
Perhaps we can

追跡

緩めのカーチェイス。

1:11
尾行に気づくU字カーブ。

次のS字は山の北側にワープしてこちら↓

次のU字カーブを下っていくところを俯瞰するショットは、最初のU字カーブから見下ろしています。

追い詰められたのはこちら↓

ロケ地マップ

アムステルダム

資料

更新履歴

  • 2024/01/30 「キャスト&スタッフ」修正
  • 2022/05/16 新規アップ

References

References
1 そのあと男が何語で話しかけたか不明。おわかりになる方ぜひ教えてください m(_ _)m

コメント

  1. ほりやん より:

    むかしテレビでこの映画を観た時は、さっぱりわかりませんでしたが、「今回もですって、ほりやん分からないそうですよ。」「今回もわからない」と、ぶれずに言い続けます。

    ロージー監督もモニカ・ヴィッティも、いちびってますねぇ。モニカが見張り番に矢を射るとき、その矢は違う方向に飛んでいるのに見張り番には矢が刺さっています。これはわざわざスローにして見なくても気づきますね。あえてこういうふざけたシーンを入れているのですから、「なんでやねん」と突っ込みながら観る作品なのでしょう。

    あの男が何語をしゃべっているのかわからないのも監督のお遊びですかね。ブルーレイでも英語字幕が表示されませんから、字幕制作者もお手上げだったのでしょう。最後の単語は「ヒューチャ」と聞こえます。火を借りるシーンでしたから、「ヒューチャ」にあたる単語はオランダ語の「vuurtje(ライターの)火」かもしれません。文頭の単語は「イフ」に聞こえますが、もしオランダ語を話していたとするなら「私」を表す「ik(イク)」かもしれません。ただ二語目からはオランダ語にない表現みたいで、むしろイタリア語やフランス語ぽく聞こえます。結論としては各国語の単語を無茶苦茶ひっつけてしゃべったんじゃないかと思われます。ただ場所がアムステルダムでしたから、オランダ語の「ヒューチャ」だけは聞き取れたのでしょうね。もっともタバコをくわえて近づいてきたので、何語であってもわかったでしょうが、まさに、相手の言葉ではなく腹を読めということで、唇から内腑。

    (ハーレム通りのアパート)

    絵葉書の裏に「HAARLEMMSTRAAT,74 APARTMENT.C」と書いてあったので、これでSVを見ましたが建物の前にあるはずの運河がありません。こりゃ、ロージーさんにだまされました。新年早々、運がない。

    ジョセフ・ロージーの作品では、ダーク・ボガード主演の「召使」が気に入ってまして、U-NEXTに入ったのも「おっ、召使あるやん」が動機でした。

    クライヴ・レヴィルのコロンボ出演作は「策謀の結末」ですね。

    以上、ほりやん-0.1(←視力)でした。

  2. 居ながらシネマ より:

    ほりやんさん、ばたんきゅーの生活が続いていたもので、返信遅れてすみません。
    「もですって」から「ぶれずに」のつながりが、まるで古文の係り結びのように風雅で美しく、感銘を受けました 🙂
    前後でパッケージにするところはドイツ語やオランダ語の分離動詞にも思えましたが、なんとほりやんさん実際にオランダ語がお得意でしたか。
    でもあのセリフはわかりませんよねー。
    最初はきっとExcuse me的な表現で始まっているのかと思いますが、おっしゃるとおりシメの響きでなんちゃってオランダ語にしているのかもしれませんし。

    それにしても、昭和の映画には普通にタバコを吸うシーンが登場しますね。
    さきほどようやくクドカンの『不適切にもほどがある!』初回を見ることができましたが、阿部サダオ演じる昭和のおっさんがいたるところでバカスカ吸いまくっていました。
    86年でハイライト170円でしたか……。路線バスに灰皿ついていかだどうかも記憶なしですが。

    あっとそれからコロンボご指摘ありがとうございます。
    たぶん既存記事に機械的にリンクをつけてしまったのかと思いますが、あとでわからないようにこっそり直しておきます。

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