If people love poetry, they love poets.
And nobody loves poetry like a Russian.
目次
作品メモ
『引き裂かれたカーテン』、『寒い国から帰ったスパイ』、『鏡の国の戦争』、『ロシア・ハウス』 、『ホワイトナイツ/白夜』 と、このところ旧東側を舞台にした西側の映画を取上げてきましたが、これはある意味極めつきの一本。
名匠デヴィッド・リーン監督がロシア革命を背景に描くロマン大作で、監督にとっては『アラビアのロレンス』(62)と『ライアンの娘』(70)の間に位置する作品です。
3時間以上もある映画なので、「ラーラのテーマ」は聴いたことあるけど映画は見たことないよという方も多いかと思います。
そんな忙しいあなたのために物語をかいつまんでご紹介しますと、医師であり作家である主人公が、激動の時代にありながら革命そっちのけで妻以外の女性とメロに走るお話です……って省略しすぎ?
同監督の『アラビアのロレンス』や『逢びき』などは容易に連想できるでしょうし、映画の立ち位置や主人公のキャラ設定などは、『存在の耐えられない軽さ』などとも結構シンクロするところがあるかもしれませんね。
この映画ちょっと意外かもしれませんが、『アラビアのロレンス』を抜いて、同監督ぶっちぎりの興行収入をあげています。
チケット価格によるインフレ調整済みランキングで、歴代8位(『アラビアのロレンス』は72位。いずれもこの記事執筆時点)。
やはり映画がヒットするためにはロマンスは大事な要素なのでしょうか。
予算は当初の500万ドルから1500万ドルにふくれあがったそうですが(IMDbのトリビア)、調整無しで100ミリオン以上興行収入をあげたようですので、MGMはさぞウハウハだったことでしょう。
キャスト&スタッフ
主役の医師であり詩人であるユーリー・ジバゴ(Dr. Yuri Zhivago, Юрий Живаго)にオマー・シャリフ。エジプト出身の俳優が英語でロシア人を演じるという無茶ぶりに、プレッシャーも相当なものだったでしょう。
バラライカが奏でるテーマ曲でおなじみ、美しい仕立屋の娘ラーラ(Lara Antipova, Лара Антипова)にジュリー・クリスティ。デビューしてまだ数年、20代半ばの初々しさ。
ジバゴの幼なじみで妻となるトーニャ(Tonya Gromeko, Тоня Громеко)にジェラルディン・チャップリン。こちらも『ライムライト』を別にして実質デビューしたばかりのほやほや状態。
ラーラのお相手、メガネがトレードマークの憂国の青年パーシャ(Pasha Antipov / “Strelnikov”, Паша Антипов / Стрельников)にトム・コートネイ。
ラーラの母親と関係を持ち、ラーラにも関心を寄せている弁護士ヴィクトル・コマロフスキー(Victor Komarovsky, Виктор Комаровский)にロッド・スタイガー。主なキャストで唯一のアメリカ人。前年に『質屋』、2年後に『夜の大捜査線』。
親をなくした幼いジバゴを引き取り、実の娘ターニャと一緒に育てた学者の先生アレクサンダー(Alexander)にラルフ・リチャードソン。
ジバゴの異母兄弟、エブグラフ・ジバゴ将軍(General Yevgraf Zhivago, Генерал Евграф Живаго)にアレック・ギネス。
エブグラフが冒頭会いに来た娘トーニャ・コマロフスカヤ(Tonya KomarovaThe / The Girl)にリタ・トゥシンハム。同年の『ナック』もそうですが、ぱっちりしたお目々がどこか薄幸そうな雰囲気をかもしだしていてこの役にぴったり。
他に、疎開列車で護送され強制労働に向う男(Костоед-Амурский)にクラウス・キンスキー。出番は短いですが、他を圧倒するような迫力がありました。
製作カルロ・ポンティ、監督デヴィッド・リーン、原作ボリス・パステルナーク、脚本ロバート・ボルト、撮影フレデリック・A・ヤング、音楽モーリス・ジャール。
スタッフのリストの中には撮影にクレジットなしでニコラス・ローグの名前もあります。
米国アカデミー賞で10部門にノミネートされ、脚色賞、撮影賞、作曲賞、美術監督・装置賞(カラー)、衣装デザイン賞(カラー)受賞。
ロケ地
IMDbでは、
Alberta, Canada (stock railroad footage)
Barajas, Madrid, Spain
CEA, Madrid, Spain (interiors)
Canillas, Madrid, Spain (Moskva)
Durango, Mexico
Granada, Andalucía, Spain
Guadix, Granada, Andalucía, Spain
Heinävaara, Kiihtelysvaara, Finland
Helsinki, Finland
Joensuu, Finland
Koli, Lieksa, Finland
Morley Flats, Alberta, Canada (Frozen house longshots)
Punkaharju, Finland
Punkasalmi, Finland
Pyhäselkä, Joensuu, Finland
Pyhäselkä, Saimaa, Finland
Soria, Castilla y León, Spain
エンドクレジットの謝辞は、
IBERDUERO S.A.ALDEADAVILA DAM
SPANISH RAILWAYS NATIONAL SYSTEM
FINNISH STATE RAILWAYS
CANADIAN PACIFIC RAILWAY COMPANY
C.E.A. STUDIOS, MADRID
東西冷戦時代のアメリカ映画が東側の街並みを描くとなると、たいていは北欧などの「それ」っぽい町でロケしたり、既存の映像を編集で組み合わせたり、合成を使う等といった方法がとられるかと思いますが、こちらはさすが巨匠の大作。モスクワの街並みをど~んとセットで再現するという力業を見せています。
『アラビアのロレンス』のカスバ攻略場面もそうですが、規模の効果と言いますか、あまりの大きさにセットだとはなかなか気づません。
この巨大な「モスクワ」のセットを含めて、主にスペインで撮影。
夏のスペインで冬のコートを着ての演技は、なかなか大変だったようです。
今ならVFXで白い吐息を追加するところですね。
今回も上記リストをもとに、画面とにらめっこでチェックしていきました。
WikipediaやDVD収録のオーディオ・コメンタリーも参考しましたが、大ざっぱな地名はわかってもマップ上での具体的な場所は、残念ながらほとんど解明できませんでした。
OP
アレック・ギネス演じる将軍がひとりの娘に会いにやってきたところ。
労働者たちがぞろぞろとトンネルから出てきますが、OPでは夜なので何が何だかよくわかりません。
ラストでようやくそこがダムだと明らかになります。
撮影はエンドクレジットに示されているこちら。場所はスペインとポルトガルの国境です。
モスクワ
トラムが走り、遠くに赤の広場に似た聖堂まで見えますが、ホンモノの町ではなくマドリード郊外に作られた巨大なセット。
Canillas, Madrid, Spain (Moskva)
通りの長さは実際には160mとのこと(IMDbのトリビア)。
おそらくパース的に長~い通りに見えるように、奥の方の建物など大きさを調整していることでしょうね。
※17/2/11追記
このエントリーを読んでくださったぶぶちんさんから、メールで情報いただきました。
場所はこちら↓で、現書店のあたりから南西方向、墓地の前あたりまでの上り坂に組まれたとのことです。
セットの様子はたとえばこういった↓サイトで確認できます。
- http://www.elcinedehollywood.com/2015/10/el-rodaje-espanol-de-un-gran-clasico.html
情報どうもありがとうございました!
駅
0:39。
トーニャの列車が到着したターミナル駅。
オーディオコメンタリーによると、マドリッドで8月に撮影したとのこと。
これは英語版Wikipedia等に名前があるこちらと思われます。
※17/2/12追記
Photo Sphereで内部が見られる画像がアップされていました。
この駅は設定では「モスクワ」駅。
1:44頃の夜の場面もこちらで撮影されています。
兵士の叛乱
1:16頃。
敗残兵と補充兵が遭遇するところ。
開巻1時間以上たって、ようやく主役2人がそれっぽいモードに入っていきます。
撮影場所の詳細不明。
列車での移動
アレクサンダーの別荘があるバリキノに向けて避難する旅。
列車が行く雪原はフィンランドのようです。
パーシャ(ストレルニコフ)と対面するあたりはやはりスペインの模様。
その他鉄道の場面はカナダでも撮影されているようです。
一家が降りた駅
これはセットではなく実在する駅のように見えますが、場所はSoriaであること以外は不明。
一家が向っていたのは、バリキノ(Varikino, Варыкино)という設定。
屋敷に向う途中黒煙があがっているのが見えた町は、ユリアティン(Yuriatin, Юрятин)。
パーシャ(ストレルニコフ)が言っていたようにラーラがいるところで、後にジバゴはそこで再会をはたします。
架空の町ですが、ロシア語版Wikipediaには項目がありました。
モデルとなったのは、ペルミ(Пермь)Wとのこと。
確かに内戦中、赤軍と白軍とで激しい争奪戦が繰り広げられたところですね。
※20/5/10追記
コメント欄(2020年5月6日 10:17)でBill McCrearyさんから情報を寄せていただきました。
IMDbのロケ地リストが以下のように追加されていました。
Matamala de Almazán, Soria, Castilla y León, Spain (Varikino train station)
具体的にはこちら↓と思われます。
- Google Maps(SV)
- 41.526704,-2.635281
線路の走り方や周囲の地形など映画と矛盾ありませんし、Bill McCrearyさんご紹介のこちらの駅の画像でもほぼ映画と同じものを確認できます。
http://estffccesp.blogspot.com/2014/12/matamala-de-almazan.html
屋敷
場所はやはりSoriaで、建物はセット。
後ほど雪に埋もれ凍りついた状態でも登場しますが、蜜蝋を使っているとのこと。
パルチザンの攻撃
凍った川を突撃するパルチザン。
これも雪景色は全部偽装。
パルチザンからの離脱
コメンタリーによると、撮影はフィンランドのソ連国境近くの湖とのことで、おそらくIMDbのリストにあるPyhäselkä湖W。
Pyhäselkä, Joensuu, Finland
Pyhäselkä, Saimaa, Finland
たどりついた駅
«ЮРЯИТНЬ»と標示されています。
セリフでも言っていますからユリアティン(ЮРЯТИН)と思われますが、そうなると駅名は誤表記ではないでしょうか? あるいはわざと??
※17/2/12追記
すみません、語尾は«Ъ»でした。
この場面のスチル写真を見ると[1]たとえば http://diariocinefiloclasico.blogspot.jp/2015/12/doctor-zhivago-50-anos-de-su-estreno-50.html、フレームには入っていない上の方にSORIAと書かれています。
残念ながら駅舎はリノベートされていますが、Wikipediaには『ドクトル・ジバゴ』の名前が書かれています。
ロケ地マップ
※17/2/12項目追加
スペインで撮影された映画のロケ地マップ
資料
更新履歴
- 2020/05/10 「作品メモ」Boxoffice MojoのURL更新 「ロケ地」のIMDbのリストに差分追加 「一家が降りた駅」追記
- 2017/02/15 画像のリンクをPicasaからGoogleアルバムアーカイブへ切替
- 2017/02/12 「駅」「たどりついた駅」追記 「ロケ地マップ」項目追加
- 2017/02/10 「モスクワ」追記
References
↑1 | たとえば http://diariocinefiloclasico.blogspot.jp/2015/12/doctor-zhivago-50-anos-de-su-estreno-50.html |
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コメント
どうも、本日この映画がNHKのBSで放送されていたので録画しまして、『レッズ』と『外人部隊フォスター少佐の栄光』と一緒に、駅のシーンを確認しちゃいました。どれもまさにばっちりマドリードの施設ですね。それにしてもいつもながらに感心しますが、ロシアと全然関係ないスペインの駅を、うまく擬装するものですね。
>エジプト出身の俳優が英語でロシア人を演じるという無茶ぶりに、プレッシャーも相当なものだったでしょう。
アレック・ギネスなんかは、まるっきりソ連の軍人にしか見えませんね。『アラビアのロレンス』ではアラブ人だし、本当に凄い人だと思います。
ところで先日『エスパイ』の記事で日本人が白人やインド人を演じる話をコメントさせていただきましたが、たとえば今はまた違うのかもですが、昔はアラブ人を演じたのはスパニッシュの俳優が担当したりしましたね。『アラビアのロレンス』のアンソニー・クインはメキシコ系で、ホセ・フェラーもㇷ゚プエルトリコ出身ですね。
すみません、それでそのコメントで書いた英国人俳優の件ですが、決着がつきました(苦笑)。私も暇な人間です。
https://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/08aeac2cae0ddf72bd2468bebe41f5c6
>ジバゴの異母兄弟、エブグラフ・ジバゴ将軍(General Yevgraf Zhivago, Генерал Евграф Живаго)にアレック・ギネス。
本日のNHKBSでの『ドクトル・ジバゴ』では、主人公が兄で軍人が弟という翻訳でした。原作や映画での設定がどうなのかは知りませんが、常識的に考えて、ギネスとシャリフの年齢を考えれば、軍人が兄で主人公が弟だと思いますし、私が今まで観た字幕ではそう翻訳されていたと思いますが、このあたり難しい側面はありますよね。
前にたしか『サイコ』が地上波で字幕で放送された際、ジャネット・リーが妹で、ヴェラ・マイルズが姉という翻訳のものがありました。これも、年齢を考えればリーのほうが姉ですが、欧州系の言語では「兄弟」「姉妹」としか約仕様のないことも多々であり、日本語ではなかなか面倒です。
Bill McCrearyさん、『ドクトル・ジバゴ』BSで放送されたのですね。HD画質で手元に置いておきたかったかも……
> アレック・ギネスなんかは、まるっきりソ連の軍人にしか見えませんね
おっかなくて迫力ありましたよね。ジェダイ・マスターにも通じるような……
NHK BSシネマは最近ノーマークでしたので、予定を見てみたら、なんと今月『新幹線大爆破』を放送するようですね。これもHDでは持っていなかったのでぜひ録画したいと思います。
ブログ記事拝見しました。
英国俳優調査もこれで堂々完結編ですね。本当に凄い調査力でした。
もう両手を腰にあてて、わははと大笑いしてもよろしいかと思います 😉
「異母兄弟」の件はもともとの設定が気になりますね。ちょっと調べてみたくなりました。原作読めばわかるかもしれません。
『サイコ』の姉妹問題も悩ましいですが、実年齢はジャネット・リーが上なのですね。
自分の記事では「彼女の妹ライラにヴェラ・マイルズ」って書いちゃってましたが、特に根拠はなかったような……
こんにちは。昨日(5月6日)この映画のIMDbのロケ地をチェックしましたところ、気づいたところがあったので。
>一家が降りた駅
これはセットではなく実在する駅のように見えますが、場所はSoriaであること以外は不明。
一家が向っていたのは、バリキノ(Varikino, Варыкино)という設定。
ロケ地情報が追加されていまして、
>Matamala de Almazán, Soria, Castilla y León, Spain
(Varikino train station)
とあります。Matamala de Almazánのスペイン語版Wikipediaに
>Aquí se grabaron algunas escenas de la película de Doctor Zhivago de David Lean.
とありますので、撮影をしたのは確かなようです。さらに確認をしますと、
https://www.dcine.org/localizaciones/localizacion-de-doctor-zhivago
というサイトがあり、さらに
http://estffccesp.blogspot.com/2014/12/matamala-de-almazan.html
にある写真では、上から3枚目の駅舎の写真が、映画ではちょっぴり写っている左側のところと同じですし、5枚目の写真も、映画のショットと酷似しているので、これは間違いないのではないかです。
ところで映画でのスペインの駅というと、やはり『ミツバチのささやき』にとどめが刺されると思うのですが、これどこかさっぱりわかりませんね。私も調べましたが、良い情報がありません。あれはさすがにセットではないと思いますが、あれだけ有名で人気のある映画なのに本当に不思議です。『ライアンの娘』の南アフリカロケが長きにわたって公けにはされなかったように、日本映画だけでなく70年代くらいでも世界的にまだまだロケ地の詳細は明らかにされなかった時代なのだなと思います。今なら、世界中の観光客があの駅におしよせるでしょう。
Bill McCrearyさん、情報ありがとうございます。
駅はこれでバッチリですね。後ほど記事に反映させていただきます。
他にもIMDbのリストはかなり増えているので、何か見つけられるかもしれませんね。
『ミツバチのささやき』の駅も気になりますよね。観光客が押し寄せるかどうかはわかりませんが、まあ公共の建物だとしたらしかたないところでしょうか。
『エル・スール』の家は自分で見つけたものの、マップで明示するのはさすがに控えました。その後Contactフォームから個別にお問い合わせいただいたりしていますので、関心ある人にとっては大事なことかもしれません……
全然関係ありませんが、『ドクトル・ジバゴ』はつい「ジバコ」と打ってしまいます。おそらく北杜夫かクレージーのせい……