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『クロスボー作戦』 Operation Crossbow (1965)

クロスボー作戦 [VHS]

作品メモ

先々月(2015年8月)、ムービープラスでなつかしい戦争映画を何本か鑑賞。
既に取上げている『暁の7人』もラインナップに含まれていました。
画質はさほど良くありませんでしたが、こういった入手が難しい作品が放送されるのは有り難いことで、今回の放送で初めてご覧になった方も多いのではと思います。

他に同じくらいレアだったのがこの『クロスボー作戦』。
『暁の7人』のコメントでツタヤのDVDオンデマンドを教えていただきましたが、そのリストに入っているようです。

でも逆にそれ以外では今となってはとても入手が難しいのではないでしょうか。

『暁の7人』の原題は”Operation Rainbow”(リアルでは、”Operation Anthropoid”)。
『クロスボー作戦』の原題は”Operation Crossbow”でそのまま邦題となっています。

英語版WikipediaでOperation CrossbowWを見ると、ドイツの長距離ロケット兵器に対抗する一連の作戦のようですが、この映画で描かれるのは、ペーネミュンデ基地に対する大規模な爆撃(ハイドラ作戦W)の後、山中にあるロケット基地に技術者が集められているとの情報をキャッチ、そこへ工作員を潜入させて妨害しようという話。
実在の作戦名を使っているとはいえ、主人公たちの活躍はほぼフィクションで、サスペンスやアクションもだいぶ娯楽映画寄り。
その点『暁の7人』とは趣が異なりますが、長距離兵器にまつわる英独の動きが丁寧に描かれていることもあり、個人的には興味がつきない1本となっています。

キャスト&スタッフ

作戦を決行するのはジョージ・ペパード、トム・コートネイ、ジェレミー・ケンプの3人。
技術者として潜入するため高い専門知識と技術を備え、語学も堪能でなくてはなりません。
そんな優れた人材が生きて戻れる可能性などほぼない作戦に志願するわけですから、事の重要さがうかがえます。
パラシュートで降下後、それぞれが厳しい試練にさらされますが……

映画パンフレット 「クロスボー作戦(A4版)」 監督 マイケル・アンダーソン 出演 ソフィア・ローレン/ジョージ・ペパード/トレバー・ハワード/ジョン・ミルズ/リチャード・ジョンソン/トム・コーティネイ/ジェレミー・ケンプ/アンソニー・クウェイル/リリ・パルマー ところが3人の苦労をよそにトップにクレジットされているのはソフィア・ローレン。
ビジュアルでもこんなふうに前面に出ています。
ご覧になった方はおわかりの通り、実はほとんど出番はありません。
製作がカルロ・ポンティなので、夫婦共稼ぎ映画。
ネームバリューに期待しての起用と思われますが、ソフトフォーカスの彼方から妙に艶っぽい目線を送ってきたりして、見事期待に応えます 😀

女性の登場人物では、ホテルの女主人役リリー・パーマーが、表情を崩さずに淡々と仕事を進める姿で強く印象に残ります。サン・セバスティアン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞。
出演は他にトレヴァー・ハワード、ジョン・ミルズ、リチャード・ジョンソン、アンソニー・クェイル。イギリスの名優たちががっちりサポートしています。

監督マイケル・アンダーソン、撮影アーウィン・ヒリヤー、音楽ロン・グッドウィン。

ドイツ人はドイツ語をしゃべり、字幕がつきます。

 
 

実在の人物

冒頭ドイツ軍の実験風景。
犠牲を出しながら開発を進める様子が思いの外多くの時間を割いて描かれます。
このあたり、連合国一辺倒の内容ではありません。

ここで活躍する女性は字幕では「ハンナ・ライヒ大佐」となっていましたが、おそらくハンナ・ライチュ(Hanna Reitsch)W(ドイツ語の台詞では「チュ」より「ヒ」のようにも聞えます)。
フィーゼラーFi 103(V-1)の有人タイプの開発に携わったのは史実ですが、ただ彼女がペーネミュンデの海岸に設けられたカタパルトから直接射出される描写はフィクションかと思われます。

この後ロンドンに次々襲いかかるV1は(映画でも史実でも)もちろん無人のV-1です。
映画で有人飛行実験を描いたのは、おそらくそれにより「飛行爆弾」の問題点が解決されて実用に近づいたということなのかもしれませんが、やや無理があり、やはり彼女を登場させて映画的に絵になる場面を入れようとした、そんなところかもしれません。

有人タイプのFi-103R ライヒェンベルク(Reichenberg)

こういったカタパルトから射出されるのは、無人タイプ(V-1)。

もうひとりは、四つ足の拡大鏡のような道具を使い偵察写真を解析してV-1を発見するイギリス軍の女性。
こちらも実在のConstance Babington SmithWという方。

最近『刑事フォイル』でも描かれましたが、四つ足の道具はいわば3Dメガネ。
ずらして撮影した空中写真を並べ、この装置で立体視して解析していくという、気が短い人ならとてもつとまらないお仕事です。

彼女がこの道具をのぞき込んで作業をしている写真が残っていますが、初めてこの様子を知ったのは、むか~し読んだ講談社ブルーバックスの『そこに宇宙があるからだ』。
著者は佐貫亦男さんで、第2次大戦中ベルリンに滞在したこともある飛行機の技術者の方です。
使用権の関係でしょうか、本で使われていたのは写真から起こしたイラストでしたが……。

この本は中学校に入りたてだった自分にとって、宇宙開発やらなんやらそちらの方面に興味を抱かせてくれたかけがえのない本ですが、Wikipediaで佐貫さんの項目Wを見ると著作リストに入っていませんね 🙁
ん十年間持ち続けましたが、近年変色はおろか匂いまで放つようになり泣く泣く自炊しました。
Amazonで見たらプレミアム価格になっています。類書はいろいろあるかと思いますが、宇宙開発の先駆者たちが思い描いた夢は今の若い方たちにもきっと心に響くはず。ぜひKindleあたりで復刻してもらいたいものです。

報復兵器

周知のことでしょうけど、いちおうメモ書き。
V-1やV-2のVは„Vergeltungswaffe“から。
„Vergeltungs“(フェアゲルトゥングス)が「報復」で、„waffe“(ヴァッフェ)が「兵器」。

V-1はパルスジェットエンジン搭載で、巡航ミサイルの元祖。
「フィーゼラー Fi 103」が正式名称です。

V-2は液体燃料ロケット搭載で、弾道ミサイルの元祖。
もともとA4というコードネームで開発されたもの。
„A“は„Aggregat“(アグレガート = 集合体、ユニット、セット)の略で、A1から(構想としては)A12まであるようです。
日本語版Wikipediaでは英語読みが項目名になっています(しかも「ドイツ語でアグリガットは強調する機械群を意味する。」ってなんじゃらほい……)

こうした長距離兵器は、1943年、ドイツにとってはスターリングラードの敗戦後(2月2日)、戦況がどんどん思わしくなくなった状況下で、ようやく最優先計画となります。(Wikipedia > V1飛行爆弾Wでは執筆現在ペーネミュンデの会議が「1942年5月26日」とありますが、43年の誤り)
実戦配備は44年で、V-1が6月、V-2が9月と、もはやドイツにとって遅きに失した状態。
効果も映画で描かれた通りV-1は迎撃可能で精度も低く、期待されたほどではなかったと思われます。

なお映画の最後の方でさらなる長距離ロケット兵器「ニューヨーク・ロケット」も開発中との情報が出てきますが、実際A9、A10というネーミングでアメリカをも射程に収めるロケット開発計画はありましたので、このあたりはあながち映画のハッタリとは言い切れません。

ロケ地

IMDbでは、

Holkham Beach and Estate, Norfolk, England, UK (Peenemünde flying bomb site)
RAF Abingdon Parachute School, Abingdon, Oxfordshire, England, UK (Parachute training scenes)
St. Pancras Power Station, St. Pancras, London, England, UK (Underground rocket factory)
MGM British Studios, Borehamwood, Hertfordshire, England, UK (studio)

例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。

実はロケ地ネタはあまりないので、上のほうで作品メモをあれこれ書いてしまったのでした 😉

OP

ダウニング街10番地。
ホンモノのようです。

やってきたのはダンカン・サンディス(Duncan Sandys)。
妻はチャーチル首相の娘ですので、この場面は義理の親子の会話となります。
演じたリチャード・ジョンソンは今年(2015年)亡くなっています。

テスト場

ドイツ軍が犠牲を払いながらテストを続けていた海岸。
IMDbのリストにあるこちらと思われますが、ここは『恋におちたシェイクスピア』『わたしを離さないで』で登場しています。

Holkham Beach and Estate, Norfolk, England, UK (Peenemünde flying bomb site)

具体的には、このあたりの地形が映画に似て見えます。

ペーネミュンデ基地(参考)

実際のペーネミュンデ陸軍兵器実験場Wはこちら。

当時の発射台の空撮画像は、よくこちらのものが挙げられますが、具体的には……

……こちらの画像の右上、A1とマークされた地点と思われます。

秘密工場

「このあたりにロケットの秘密工場があると思われる」と地図を指さす場面がありますが(0:26)、指の先はこのあたりですね。

階段

0:32

面接会場から降りてくる階段ホール。
ねじれた絵が重なっていて、だまし絵のようになっています。
気になるので調査中。

降下訓練

0:32

RAF Abingdon Parachute School, Abingdon, Oxfordshire, England, UK (Parachute training scenes)

ホテルのある街

0:42

教会の塔が特徴的ですが、セットかもしれません。

※19/12/14追記
コメント欄(2019年11月30日 01:20)でPulkovnikさんから情報を寄せていただきました。
撮影に使われたのはノーフォーク州のこちら↓の町で、教会の塔と書いてしまいましたが実際は税関の建物とのことです。
情報ありがとうございました♪

キングズ・リン (King’s Lynn)W

税関の建物。
映画と同じく、東側からの眺め。

ロケット工場

基地の内部は英語版Wikipediaによれば、MGMイギリスのサウンドステージ6と7をくっつけた3万平方フィートに及ぶ大きなものであったとのこと。
確かに壮大なセットですが、皮肉なことにかえって007シリーズのお約束、悪の組織の巨大秘密基地にも見えてしまい、ラストのアクションなどはジェームズ・ボンドが暴れまくっているようにも見えてしまいます。
あ、ジョージ・ペパードはアメリカ人ですから、電撃フリントかマット・へルム……いやまさに特攻野郎Aチームでしょうか(汗)。

一部は実際の施設を利用しているようです。

St. Pancras Power Station, St. Pancras, London, England, UK (Underground rocket factory)

V-1を迎撃する海岸線

1:56

白亜の断崖絶壁は、セブンシスターズではなくWhite Cliffs of DoverW

映画に写っていたのは、ちょうどこの部分。

参考までに、フランス側にあった発射基地のひとつ。

La CoupoleW

ロケ地マップ

 

資料

更新履歴

  • 2019/12/14 「ホテルのある街」追記  各項目にタイムスタンプ追加  各画像のリンク先をPicasaからGoogle Photosに変更
  • 2015/10/04 新規アップ

コメント

  1. たかマックィーン より:

    クロスボー作戦、
    広大な浜辺に降りてくるVロケット、
    突然エンジンの噴射が切れて、音もなく街に落下していくVロケット、
    地下要塞の大爆破、
    印象的なシーンの多い作品です。
    入手したレーザーディスクの解説では、当時無理やりはやりの70ミリで公開したとのこと。
    ロン・グッドウィンのテーマ曲とともに、
    大好きな作品です。
    ロケルポ、楽しく、とても参考になりました。
    ありがとうございます。
    そういえば、主演ジョージ・ペパードはこのあとでしたか、
    ブルー・マックス、トブルク戦線 と、
    戦争大作に3本も主演したのに、結局スターになりきれませんでした。
    後年の特攻野郎などよりはるかに魅力的でしたが。
    トブルク戦線には、確か空爆シーンが出てくるのですが、それはクロスボー作戦の夜間、要塞空爆シーンの使い回しだったと思います。
    余談でした。

  2. 居ながらシネマ より:

    たかマックィーンさん、ジョージ・ペパードはとらえどころのない2枚目でしたね。
    特攻野郎はいきなりかぶりもので登場して、開き直っていたのが良かったような。その前に『宇宙の7人』あたりで、だいぶゆるゆるにやってましたが。

    70mmで公開というのは知りませんでした。IMDb見たら、ブローアップとありますね。
    流行り物だからと、後加工で3D映画にしてしまうのと似ているような……。

  3. Pulkovnik より:

    私が「クロスボー作戦」を初めて見たのは、水野晴郎が登場する前の水曜ロードショーでした。イギリス映画らしく、ドイツにロケせず、イギリスの地方都市をドイツに見立ててロケをしています。「ホテルのある街」は、イングランドのノーフォーク州のキングズ・リン(King’s Lynn)という小さな町の、旧税関の建物の周辺です。その裏には、当地出身で、カナダ西海岸の大都市ヴァンクーヴァーを発見した、18世紀のイギリス海軍大佐ヴァンクーヴァーの銅像があります。

  4. ほりやん より:

    テレビの洋画劇場でこの作品を見て以来ペパードの大ファンになり、デパートの古書市でこの映画ポスターを見つけたときは大喜びしました。ビデオデッキが故障してからは買ったVHSビデオも見れない状態ですが、今でも♪タンタカ、タカタカ、タンタカ、タンタン♪と、メロディーが時々よみがえります。封切時は小学生だったので、リアルタイムで観られた方たちがうらやましいです。「ブルーマックス」や「大いなる野望」の野心満々の役もいいですが、「野良犬の罠」の探偵役もペパードに似合っていたのでDVDで見たいものです。テレビ映画の「探偵バナチェック」も結構気に入っていたのですが、さすがにもう再放送はされませんね。ペパードが監督・主演した「天国への逃走」はレアな作品ですが心温まる作品なのでDVD化してほしいと思っています。双葉十三郎さんが「肉体の遺産」での演技をほめていたので海外版のDVDを数年前に買いましたが、買っただけで安心してしまってまだ見ていません。字幕がないのでなかなか見る気が起こらず、これではファンとは言えないかもしれませんね。

  5. 居ながらシネマ より:

    Pulkovnikさん、コメントありがとうございます。
    返信が遅れまして、大変申し訳ありませんでした。(都合により、2週間ほどサイトの保守ができませんでした)

    「ホテルのある街」の撮影地情報ありがとうございました。
    これはよくおわかりになりましたね。さきほど本文の方へ追記させていただきました。おかげさまで、モヤモヤがひとつスッキリしました。
    映画のショットと反対側に、ヴァンクーヴァーさんの銅像があるようですね。
    税関の建物で画像検索すると、ほとんどが銅像側からのアングルとなっていました。

    ほりやんさん、ジョージ・ペパードお気に入りなんですね。挙げていただいたタイトル、すみませんが私などほとんど見ていません。凄いです。
    DVD買っただけで満足して見ないというのは、「あるある」ですね。むしろファンとしての面目躍如では 🙂

  6. ほりやん より:

    テレビを録画したVHSをDVDへとダビングしていますが、この映画のVHSはワイドスクリーン版として販売されていたもので、テレビの洋画劇場で見たものとは迫力が違います。今回久々に見て、ペパードもかっこいいですが、トム・コートネイやリリー・パルマーにしびれました。

    (階段)

    IMDb(https://www.imdb.com/title/tt0059549/locations)に、

    St. Pancras Renaissance Hotel London, Euston Road, London, Greater London, England, UK
    (interview) (Curtis and Bradley leave the recruitment interviews) (Grand staircase)

    とあり、SVで同ホテルを見ると、投稿写真の中に何枚か、あの階段が写っています。

    他にもたくさんVHS作品を購入しましたが、「雨の訪問者」でファンになったマルレーヌ・ジョベールがカーク・ダグラスと組んだ「雨のパスポート」も復活できたので喜んでおります。
    この作品には、トレヴァー・ハワードやトム・コートネイも出ています。

  7. 居ながらシネマ より:

    ほりやんさん、コメントありがとうございます。
    着々とダビング作業進んでいるようですね。きっとダビングされながらなつかしさのあまり全編鑑賞されているのでは?と思います。

    IMDbのロケ地情報更新されていたのですね。
    おかげさまでスッキリしました。拙記事は後ほど更新させていただきます。

    『雨のパスポート』ですが、これは昔テレビで見たような記憶が……
    これまたYouなんとかにありましたので、昨夜ついつい見てしまいました。
    邦題からしてなんちゃって『雨の訪問者』ですけど、ヒロインが同じで、アメリカの俳優を迎え、夫があやしい……ぐらいが似ているだけで、全然テイストが違いますね。
    これはこれで十分楽しめましたが(特にトム・コートネイ)、それにしても鑑賞後、「雨のパスポート」ってなんじゃらほい、と疑問符がぐるぐる巡りました。

  8. ほりやん より:

    それが着々と進んでいないのです。いつでもできると思ったら安心してしまいまして。アマプラも見たいですし。

    雨パス見られたのですね。今回はパスされると思いましたが… コートネイ最高でしたね。バナナの皮を蹴るところなんか、財津一郎が入ってましたよ。

    当時流行っていた欧陽菲菲の「雨の御堂筋」、次の「雨のエアポート」を真似てタイトルを付けたのでは?

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