目次
作品メモ
ひとつ前のエントリー『集金旅行』に続いて岡田茉莉子さん主演のロードムービー。 ……といっていいのかわかりませんが、欧州各地を転々とするオール海外ロケ映画です。
海外ロケをした日本映画といえば、当サイトでチェック済みの『世界を賭ける恋』(1959)がすぐに思い浮かびます。年代を考えると本当に先駆け的な映画でしたね。 60年代になるとクレージーや社長シリーズで香港やハワイが舞台になったりして、だんだん海外旅行が身近になっていくのがわかりますが、それでもヨーロッパロケを敢行した日本映画となると案外少ないのではないかと思います。 まして全編海外ロケというのは、他に思い当たりません。
こういった映画は航空会社の協力が不可欠で、『世界を賭ける恋』がスカンジナビア航空であったのに対し、今回の『さらば夏の光』は日本航空とのタイアップ。 クレジットでも現代映画社に続いて「協力 日本航空」と社名がど~んと表示されます。 Wikipediaで「日本航空の歴史」Wを見ると、 「1967年にはアジアの航空会社として初の世界一周路線を実現し、」とあります。そんな時代の映画です。
主なキャストはわずか2人。 旅する日本人川村信に横内正。原爆で失われた長崎の教会の原型となる教会を求めてヨーロッパを巡っているという設定です。 リスボンで出会ったバイヤー鳥羽直子に岡田茉莉子。 この2人が欧州各地に現れ、わかったようなわからないようなお話を展開します。 正直お話の方はまったく頭に残らず状態。この手の映画がダメな方は、最初の数分で船をこぎはじめ、大海原に出て行くことになるかも。
見どころはやはり各地の景観とそれを捉えるカメラでしょうか。 客寄せ観光映画ともイメージビデオとも違った絵作りはやっぱりちゃんと吉田喜重監督作品になっていて、ヨーロッパ旅行が珍しくなくなった今の目線でも映像は堪能できるのではないかと思われます。
撮影奥村祐治、佐藤敏彦。 音楽一柳慧。
しかしこのタイトル、『さらば夏の光』、『さらば青春の光』、『さらば夏の光よ』と並べると、どれがどれだかわかりませんがな。 😉
『女優 岡田茉莉子』(13/8/3追記)
岡田さんの自伝であるこちらの本が出演作についてかなり詳しく書かれているようでしたので、『さらば夏の光』の部分に目を通してみました(数ページとスチル2点掲載)。 ロケ地情報に関しては映像でわかる以上のことはあまり書かれていませんでしたが、撮影の様子はいろいろ触れられていて参考になりました。
事前にロケハンしているわけでもなく、初めて訪れた現地でシナリオ書きながら撮影を進めていき、帰国後ナレーションでつないでいったとのことで、こういう内容になったのもさもありなんという感じです。 スタッフはごく少人数。もちろんスタイリストさんやメイクさんが同行するわけでもなく、衣装は岡田さんの自前、自分でアイロン掛けをして、自分でメイクをして、と苦労されていたようです。
ロケ地
この映画、ストーリーはあってなきが如きものですので、キャラクター名ではなくなじみのある俳優さんのお名前でご紹介していくことにします。
ポルトガル
旅はポルトガル、リスボンからスタート。
教会
鐘が鳴り響く教会。リスボンにあるこちら。
ジェロニモス修道院(Mosteiro dos Jerónimos)W
なんとSVで中庭にも入れました。 横内さんが歩いていたのはこの周囲の回廊でしょう。
海辺の要塞
ここが旅の始まり。 「ポルトガル、リスボン」とナレーションでも説明。
※13/8/3追記 milouさんから画像を提供していただきました。 (いつもありがとうございます♪) 撮影は1976年3月とのことです。
トラムが走る坂道
0:03頃。
世界地図
0:05頃。 2人が出会ったところ。
発見のモニュメントWのすぐそば。
出会った2人はそれぞれモノローグで会話します。 まるでエスパー同士がテレパシーで話しているみたいで、凄いです。 (海外ロケした日本映画つながりで近いうち『エスパイ』をとりあげる予定……)
※13/8/3追記 こちらもmilouさんから画像を提供していただきました。
砂浜
0:07。 背景の山の形から、ここだと思われます。
カフェ
カフェと言いますか、道ばたのテーブルにつき、教会の絵を見せるところ。 調査中。
路地
0:12。 “ALCAIDE”というレストランとの看板が見える通り。 ここは ÓbidosW
お店はここ。
Restaurante Alcaide Rua Direita, N.º 60 – Óbidos http://www.restaurantealcaide.com/
2つの塔の教会
ここはナザレW。
Igreja Nossa Senhora da Nazaré(The Church Of Lady Of Nazare ノッサ・セニョーラ・ダ・ナザレ教会)
Author:Yusuke Kawasaki CC2.0 |
祠
横内さんが入っていった祠。 上記教会の向って左側(南側)にありました。 SVがなかったら到底見つけられなかったことでしょう。
町を見下ろす砦
0:14 ここもナザレ。
スペイン
郊外の教会
0:15 セゴヴィア郊外にあるこちらの教会。 ここからスペイン編ですね。
最初の城壁からの俯瞰は、南側のセゴビアのアルカサルから。 次に教会の出口近くから、右にパンして逆にアルカサルを見ています(上のSVを右に向ける)。
古代の水道
市内
テレパシーで話しながらいつのまにかマドリッドに入っていました。 テレパシーだけでなく、テレポーテーションも使えるみたいです。
闘牛場
フランス
ここから2人は別行動。 映画は市内のあちこちをここぞとばかりに撮りまくっています。 映画公開は1968年12月。撮影もおそらく同年で五月革命の後なのでしょうけど、画面からは争乱を連想するようなものは特に見あたりません。
(※13/8/3追記 上述岡田さんの自伝によると、68年5月にパリに行ったとのことですが、すでに沈静化した後とのことです)
細かく追っていくと切りがないので、一部をピックアップ。
空港
0:24。 オルリー空港
パリ市内に入る
車はアレクサンドル3世橋を南側からやってきます。 カメラは橋の北側にあり南向き。
※13/8/3追記 milouさんから画像を提供していただきました。 (いつもありがとうございます♪) 撮影は2006年1月とのことです。
モンマルトル
白い給水塔が見える坂道は、サクレ・クール北西側のRue CortotW。
その直後のY字路もすぐそば。
女性が注意を惹いたところ
0:29頃。 岡田さんを空港まで迎えにきた現地の女性がガラスを叩いて呼びかけてきたところ。 横内さんのそばに日本航空機の模型が置かれてあり、JAPAN AIR LINESと書かれた地球儀がゆっくり回っています。 日航のオフィスでしょうか?
その直前、横内さんが街を行くショットで、”← Musée de Cluny”という標識が見えますが、その近くでしょうか??
再会した回廊
岡田さんはダンナさん、ロバート・フィツジェラルドと一緒でした。 場所不明。
城館
0:35頃。
シュノンソー城(Château de Chenonceau)W
Wikimedia Commonsにパブリックドメインの画像がいろいろあったので使わせていただきます。
こちらの撮影は1851年とのこと。
同じく1851年撮影。
※13/8/3追記
milouさんから画像を提供していただきました。
(いつもありがとうございます♪)
撮影は2002年10月 2006年1月15日(18/12/30修正)とのことです。
内部は映画では登場していませんが、一緒にご紹介させていただきます。
モン・サン=ミシェル
0:42。 この映画のメインビジュアル。 夕景のモン・サン=ミシェル(Mont Saint-Michel)Wの前で抱擁する2人。
スウェーデン
モン・サン=ミシェルの印象的な場面のあと、明るい街角に切り替わります。 しばらく街角のショットを重ねたあと、岡田さんのナレーションが、今スウェーデンにいることを告げます。 どうりで街の中のものがみんなIKEAっぽく見えたわけです(嘘)。
横内さんは単身イタリアへ調査に飛んでいるという設定。 でもすぐにこちらで合流します。
カフェ
0:50頃。
再会
ガラス越しに再会を喜ぶ2人。 さすがにこの描写はしつこくてイケませんが、場所は気になります。
※13/8/4追記 背景に見える橋が次の項目のものとわかり、周囲の景色から橋の南東側にカメラ位置があることがわかりました。 アングルから逆算して、おそらくこちら↓のWikimaiaで”Отель Скандик Фореста”とあるところ、
つまり”Hotel Scandic Foresta”のこのテラス部分ではないかと思われます。
40年以上経ってはいますが、外構の構成は映画とほぼ一致。ガラスに映っていた目の前の建物も、そのまま残っています。 こちらからの眺めはたとえばこんな↓感じで、橋が新しく出来たことを除けば映画と同じ。
橋(13/8/4追記)
0:50頃。 2人で歩く長い橋。左にカーブしたところで列車が前を横切ります。 これは再会シーンで背景に見えていた橋です。
LidingöbronWの北側の橋で、ストックホルム(西側)の反対側、Lidingö(東側)に近い部分。 南側の橋はWikipediaによると1971年に出来たとのことで、映画では影も形もありません。
左カーブの俯瞰ショットをSVで再現すると、
南側に橋が出来た後は、鉄道用の橋になっているようですね。 というわけで、この映画貴重な記録映像ともなっています。
街角
岡田様がスリップ一枚で街角を歩かれるところ。 この場面でようやく目を覚ました方もいらっしゃるかと……
デンマーク(13/8/4追記)
白夜の夜を二人きりで過ごした後、ひとり旅立つ岡田さん。 はっきり説明されていないようですが、岡田さんがひとりで行く街はコペンハーゲンのようです。 移動手段はわかりませんが、今なら“The Bridge”も利用可能。
集合住宅
1:00頃。 岡田さんが歩いているのはこちら。
1966年に完成したとのことで、まだほやほや。
街角
Strøget(ストロイエ)WのAmagertorv(アマー広場)Wのあたり。
噴水
続いて通り過ぎる噴水はGammeltorvW。
オランダ
運河沿いのカフェの場面から、アムステルダムでしょうか。
運河沿いのカフェ
跳ね橋
1:06頃、横内さんがひとりで渡るところ。 『パリのめぐり逢い』の跳ね橋はついぞわかりませんでしたが、こちらはすぐにわかりました。
電話ボックス
フランス
岡田さんが電話に出てくれないので、あっという間にパリに戻ってきた横内さん。
街角
エッフェル塔(13/8/4追記)
1:09。 エッフェル塔が背景のショット。 このあたりからとても長いレンズを使っています。
こちらは以前milouさんに提供していただいた画像。 カメラ位置はだいぶ違いますが、方向はまったく同じです。 ただしTour Monparnasseは映画の頃はまだ建設前。
駅の上
1:11。 標示から、Passy駅Wだとわかります。
例の女性は「ローマよ トリトーネ街のテベレホテルです」と岡田さんの滞在場所を教えてくれました。 でも実際にはそんな場所なさそうです orz
イタリア
駅
横内さん、あっという間にローマ・テルミニ駅に到着。
遺跡
中庭のカフェ
岡田さんがひとり待っていたところ。 映像からはまったくわかりませんが、上述『女優 岡田茉莉子』によると、ホテル・クィリナーレとのこと。
噴水
岡田さんが横内さんを探して回るところ。
岡田さんが駆けてくるのはこんなアングル。
ロケ地マップ
※13/8/8追記
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資料
関連記事
海外ロケを行った日本映画
- 『さらば夏の光』 (1968)
- 『ウィンディー』 (1984)
- 『エスパイ』 (1974)
- 『ブルークリスマス』 (1978)
- 『モスクワわが愛』 Москва, любовь моя (1974)
- 『世界を賭ける恋』 (1959)
- 『坂の上の雲』 (2009-2011)
- 『小さい逃亡者』 (1966)
- 『最後の恋、初めての恋』 (2003)
- 『東京⇔パリ 青春の条件』 (1970)
- 『熱砂の誓ひ』 (1940)
- 『白蘭の歌』 (1939)
- 『蘇州夜曲 (”支那の夜”より)』 (1940)
- 『闘牛に賭ける男』 (1960)
- 『雨のアムステルダム』 (1975)
更新履歴
- 2018/12/30 「城館」milouさんの画像の撮影日を修正 各画像のリンクを修正
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