『東京暗黒街・竹の家』 House of Bamboo (1955)

東京暗黒街・竹の家 [DVD]

パチンコ王ジョセフ・コットン

作品メモ

ひとつ前のエントリー『嘆きのテレーズ』を見返した時、事件現場の場面から連想したのがこの映画。
『嘆きのテレーズ』の後にこれってちょっとアレかもしれませんが、製作年度も近いことですし、お許しを。

オープニングの事件現場、線路が長~く続いているところにぽつんと鉄橋があり、その脇に被害者が倒れているという様子が『嘆きのテレーズ』の現場に似ているように感じられたのですが、ただ絶対的に違うのが背景。
ご覧になった方はおわかりの通り、『東京暗黒街・竹の家』では見事と言うほかない富士山の威容が画面いっぱいに広がっています。
これぞまさしく松竹映画か銭湯の壁画。日本人として思わず胸キュンとなる構図でして、もちろん主な観客である外国の方にもシネマスコープの横長大画面を通して大いにアピールしたことでありましょう。

この冒頭の富士山ど~んは好調な滑り出しですが、その後はアメリカ人から見たステレオタイプな、あるいは誇張された、あるいは誤解に基づいた日本が登場することもあり、もしかすると「なんちゃって日本」部門の代表選手のような扱いとなっているかもしれません。
ウィリアム・アイリッシュの短編に「ヨシワラ殺人事件」というがありますが、似たようなテイストでしょうか。

ただ一方で国辱映画と言われるほどそんなに酷い内容かな~とも思ってしまいます。
勘違いやそりゃないでしょ的描写はあるものの、少なくとも悪意は感じられないような。
すぐご近所の国が作った悪意と敵意に満ちた映画に比べれば、太平洋を挟んだ遠い国の映画がこの程度で済んでいるのはむしろご愛敬。パラレルワールドを楽しむぐらいに余裕を持って見ていれば良いような気もします。

『007は二度死ぬ』(1967)も、『ザ・ヤクザ』(1974)も、『ブラック・レイン』(1989)も、どうせあまり進歩していないような気もしますし 😉

以前からアメリカ盤DVDは容易に入手でき、私もそれで親しんでいましたが、数年前に日本でもDVD化されました。
レンタルもされていますので、いつでも気軽に見ることができるのがうれしい(?)ところ。
室内などはいかにもアメリカのスタジオでの撮影と見受けられますが、日本ロケもしっかりと行われ、これから高度成長期に入ろうかという当時の日本を、海外のカメラを通して楽しむことができます。

▼20/5/17 動画差し替え

キャスト&スタッフ

友人ウェッバーを頼りに日本にやってきたという訳ありの男エディ・スパニアにロバート・スタック。
すでに友人は撃たれて死亡。どうやら数週間前に起きた軍用列車襲撃事件と関わっていたようで、その真相を求めて東京で行動を開始します。

ウェッバーが密かに結婚していた女性ナゴヤ・マリコに山口淑子。クレジットではShirley Yamaguchi(シャーリー・ヤマグチ)。
日本人から見るとちょっとエキゾチックが入っているかもしれませんが、とてもお美しく、スクリーンで映えるお顔です。

東京のパチンコ業界を影で牛耳るサンディ・ドーソンにロバート・ライアン。
どうやら裏でさらに危険な稼業に手を出しているようです。
組織を巧みに掌握する個性的なボスの姿は、当サイトでチェック済みの『狼は天使の匂い』に重なるものがあるかもしれません。

日本の捜査陣を代表するキト警部に早川雪舟。
やはり東京を舞台にした『東京ジョー』(1949)にも出演していますが、こちらはすぐ次のエントリーで取り上げる予定。
Inspector Kito’s Voice (voice) (uncredited)とIMDbのキャストの下の方にありますが、吹替えでしょうか。

監督サミュエル・フラー。
考証的なことはともかく、サスペンスやアクションはなかなか良く撮られていて、異国の地の犯罪スリラーとしてそれなりのレベルに作り上げられているように思います。
IMDbのリストを見ると、冒頭のナレーションも同監督。さらに日本人警官役で出演もしているようですが(クレジット無し)、どの場面でしょう?
ご存知の方、教えてください。

ロケ地

IMDbでは、

Tokyo, Japan
Yokohama, Kanagawa, Japan

OPのナレーションでは、

This film was photographed in Tokyo, Yokohama and the Japanese countryside.

「日本の地方」とは、OPの場面を示すものと思われます。

OP事件現場

鉄橋の下をよく見ると、道路ではなく渇いた河床のようです。 ふだんはいわゆるロケ地サイトはあまり参考にせず、IMDbのリストだけを頼りにビデオとにらめっこでロケ地を探していますが、これはギブアップ。
Wikipediaに詳しい解説がありましたので、それを参考にしました。

山梨県の富士山麓電鉄(現・富士急行線)の富士吉田駅と河口湖駅の区間約5kmを20世紀フォックス社が借り切って撮影したものである。

とのことですので、これを手掛かりに探してみました。
おそらくこちらではないかと思われるのですが、いかがでしょうか?


大きな地図で見る

天気さえ良ければSVで富士山を拝めたはずなのですが……。

横浜港

0:09
実際の横浜港と思われますが、未確認。

WELCOME TO TOKYO

“WELCOME TO TOKYO”と標示されている陸橋。
『幕末太陽傳』でもチェック済み、東京は品川駅南側の八ツ山陸橋。

両側のアーチは現在はありません。
こちら↓は昔の様子。

あと数年撮影が後であれば、背景に東京タワーが姿を現していたはず。

国際劇場

スパニアがマリコを探してやってきたところ。

浅草にあった国際劇場W
現在は浅草ビューホテルが建っています。

国際劇場

Photo from Wikipedia (public domain).

 

劇場の屋上(14/3/29追記)

設定は浅草の国際劇場ですが、背景に地球儀(不二越ビル)や時計塔(和光)が見えますのでそこは銀座。
2つの物件の重なり方からみて、おそらく松屋の屋上と思われます。
獅子の背後からスパニアが近づいてくるところで背後に見える階段は、『東京物語』に登場したものではないでしょうか?

不二越ビルも銀座松屋も建て替えられていますが、ロケ地マップに屋上から地球儀へのカメラ目線を加えておきました。

川縁

0:11

小舟がひしめく川。
調査中。

▼21/5/17 追記

コメント欄(2021年5月17日 00:22)で菊千代さんから情報を寄せていただきました。
スパニアが小舟を渡り歩きながら聞き込みを行う川は、埋め立てられる前の箱崎川、現在の箱崎ジャンクションの西側でした。
これでスッキリです♪ ありがとうございました。

クルマを停めたのはこのあたり↓ カメラ位置はおそらくすぐ傍にあった橋の上で、西向きに撮影。

空撮画像で、背後の建物(ほぼ正方形の寄棟造や、その左側の白い建物など)の屋根を確認できます。

五重塔

0:13。
上野の寛永寺の五重塔。
手前は石灯籠が並んでいるので、上野東照宮の参道とわかります。

上野東照宮参道と寛永寺五重塔 たまには自前でということで、先月国立博物館へ円空展を見にいったついでに撮ったものをどうぞ。

左右のアングルはほぼこのあたりですが、子供たちが遊んでいたのは参道の南側、現在ぼたん苑があるあたりで、カメラ位置はさらにその南。今ですとぼたん苑の塀が邪魔になり、映画のようなアングルでは撮ることが出来ません。
ちなみに、この画像の位置からこんな風に五重塔が見えるのは葉が落ちる冬の間だけ。

※2014/01/17追記

1年ぶりに同じ場所で撮ってみました。

By inagara (CC BY 3.0)

昨年の画像より映画に近いアングルで撮ってみました。
こんな感じで、今ではぼたん苑の塀が前を遮っています。

By inagara (CC BY 3.0)

一番手前の灯籠が映画でアップになるもの。

  • 35.715025,139.772519  ……灯籠の位置 ◀21/5/17 追記

マリコが渡る川

▼21/5/17 項目追加

0:14
五重塔の後、スパニアに追われたマリコが小走りで渡る川。
0:11の「川縁」と同じように小船がひしめいていますが、別の場所。
調査中。

パチンコ店前

0:21。
横断するところ。 調査中。

警察署前

0:29。
釈放されたスパニアが出てくるところ。1:20頃でも再登場。
位置から見て、旧警視庁本部庁舎のようです。
今では撮影は難しいのではないでしょうか?

その後のお堀端はもちろん桜田門前。

背景の煉瓦造りの建物は、法務省旧本館W
現在とは微妙に形が違っています。

お屋敷

0:30。
パチンコで儲けたお金で買った旧男爵邸という設定。
高台にあり、富士山を臨むこともできます。
内部はスタジオで富士山は書き割りでしょうけど、外観に使われた建物は調査中。

大仏

0:34。
翌年の『八十日間世界一周』(1956)でも登場。

今や当たり前のようにストリートビューで見ることができますね。
でもさすがに中には入れないようでして。

この後、鶴岡八幡宮と、鎌倉ランドマークをそつなくこなします。
鶴岡八幡宮は『東京ファイル212』でも登場する人気物件。

マリコの住まい(14/3/29追記)

川縁にある住まい。
外観が写るのは40分頃や49分頃。

この場面のスチルで、背景に野村證券本社ビルが写っていたことから場所が判明しました。
川は日本橋川で、住まいは江戸橋のすぐ西側の位置です。
今ではもちろん木造の家々はなくなり、頭上を首都高速環状線が覆ってしまっていて、映画とはかけはなれた状態となっています。

By inagara (CC BY 2.0)

※14/5/20 画像追加。

セメント工場

0:54。
「孔雀セメント工場」は”Kojaku Gravel and Cement Works on Honji Island in Tokyo Bay.”と説明されています。
看板がだいぶ「なんちゃって」しているので、日本では無さそうです。

帝国ホテル

1:14。
この映画で登場するのは、フランク・ロイド・ライト設計による旧館。
生で見た記憶がありませんので、自分的にも貴重なカット。

鉄道ガード下

1:19。
「冨士ビール」で擬装した赤いボンネットバスが通るところ。
有楽町駅近く、晴海通り。ガードの向こうに日劇が見えます。

歌舞伎座前交差点

とある人物が擬装バスに乗り込んでくるところ。
東銀座の三原橋交差点。

この時代の都内、どこにも信号が見当たりません……。

左折したところ

そのまま晴海通りを進み、和光向かいの銀座すずらん通りへ入っていきます。

擬装工事現場

最初のカットではどこだかわかりませんが、1:22頃の撤退する場面で画面奥に日劇や泰明小学校が写りますので、外堀通り、銀座西五丁目交差点ではないかと思われます。

商店街

1:22
とある人物がバスから降りたところ。
須田町食堂と見えますので、現在の神田須田町あたりと思われますが、不明。

銀座四丁目交差点

1:29
昭和30年の貴重な映像。

和光はそのまま。
三越は昔の建物ですね。
三愛は画面中央下やや右側に、雪印の広告(の裏側)だけ見えています。
http://www.san-ai.com/dc/history/

真珠を狙う計画。
浅草ビル916号室という設定のようです。  

パトカーが右折する角

1:34。
川沿いの道。
角の建物は三井銀行新橋支店、その奥に銀座全線座の特徴的な建物が見えます。

今では川(汐留川)はなくなり上に首都高がかぶさっていますので、だいぶ景色が違いますね。

屋上

1:35。
昭和の薫りたっぷりの子供たちの姿に、また胸キュンとなること必至のクライマックスシーン。
設定としては真珠店がある「浅草ビル」の上ということでしょうか?
撮影は浅草の松屋。

地球儀の乗り物をとらえた映像は、当時の浅草周辺を俯瞰する貴重な記録となっていると思います。
この乗り物、背の高い大人がちょっと身を乗り出せば簡単に落ちてしまいそうなのがちと怖いです。

見上げる野次馬

1:38。
松屋の西側、このあたりでしょうか。

ロケ地マップ(13/4/4追記)


より大きな地図で (ちょっと昔の)日本が舞台の外国映画 を表示

資料

関連記事

昔の日本が舞台の外国映画

山口淑子(李香蘭)関連作

更新履歴

  • 2021/05/17 予告編動画差し替え。地理院地図・電子国土Webのマップ情報を各項目に追加。IMDbの画像URLを追加。「マリコが渡る川」項目追加。
  • 2015/03/21 「山口淑子(李香蘭)関連作」項目追加
  • 2014/05/20 「マリコの住まい」に画像追加。
  • 2014/03/29 「劇場の屋上」、「マリコの住まい」追加。
  • 2014/01/17 「五重塔」画像追加。

コメント

  1. 菊千代 より:

    川縁とマリコの住まいのあるロケ地は、中央区日本橋箱崎町永久橋あたりかと思います。
    昭和22年の航空写真を見ると、かなりの規模の船溜まりが見られます。
    今は箱崎川は埋め立てられ高速道路が走っていて、映画撮影時の面影は全くありません。

    https://map.goo.ne.jp/map/latlon/E139.47.16.312N35.40.39.016/zoom/12/?data=showa-22

  2. 居ながらシネマ より:

    菊千代さん、コメントありがとうございます。
    主人公がクルマでやってきて、小舟を次々移動しながら聞き込みやる場面ですよね。
    電子国土Webで昔の空撮を見たところ背景の建物の屋根の形が映画と一致していますので、ご指摘の場所でバッチリ正解だと思います。おかげさまでひとつスッキリしました♪
    後ほど本文の方に追記させていただきます。

    自分で記事を読み返して気づきましたが、この頃(2013年前半)は昔の空撮マップ情報を記載していませんでしたね。まだ空中写真閲覧サービスや電子国土WEBが使えなかった頃かと思いますが、リンクつけておくと便利なので、そちらもひととおり追記するようにします。

    川の場面であと残るのは、14分頃、主人公に追われたマリコが小走りに川を渡っていく場面でしょうか。こちらも小舟がいっぱいですが、竹竿のようなものがにょきにょき立っているのが特徴的。
    こちらもついでに昔の空撮マップで見つけようとしましたが、まだ判明しません。
    もしおわかりになったらぜひお知らせください(他力本願 😛 )

  3. 菊千代 より:

    コウジャクまたはコジャクセメント工場は、幸若(kojyaku)の姓に由来しています。
    同じくサミュエル・フラー監督「クリムゾン・キモノ」(1959)にもロス市警日系人のコウジャク刑事が出て来ます。
    若き日のサミュエル・フラーは、ヨーロッパ線線で日系人部隊と行動を共にしており、戦死した幸若と友だちだったそうです。
    「クリムゾン・キモノ」にも日系人部隊の慰霊シーンが登場し、再びボブ岡崎が遺族役として出演しています。
    「クリムゾン・キモノ」は「ブレードランナー」の元ネタのひとつで、その縁で映画冒頭の珍妙な日本語を話すボブ岡崎の屋台シーンが撮られたのでしょう。

  4. 居ながらシネマ より:

    菊千代さん、孔雀ではなくて幸若なのですね。もとは戦友だった幸若さんで、それを工場や刑事の名前に使ったということでしょうか。ということは、日本語字幕はそのあたりの事情を知らない誤訳ということですね。
    これは全然知りませんでした。情報ありがとうございます♪

    『クリムゾン・キモノ』が『ブレードランナー』の元ネタとのことですが、リトル・トーキョーの雰囲気とかダンサーや怪力男とかでしょうか? 出演俳優はフィルモグラフィ見ないと重なっていることに気づかないことがありますが、怪力男シュトさんは、『東京暗黒街』のパチンコ店の支配人なのですね。

  5. 菊千代 より:

    サミュエル・フラーとお爺ちゃんが親友だったという孫娘とちょっと知り合いになりまして、その子が言うには「Crimson Kimono」の主人公コジャク刑事は私の「幸若」姓から名付けられたとのことでした。
    サミュエル・フラー自伝を読んでいるのですが、戦友かどうかについてはまだ裏付けが取れていません。

    「Crimson Kimono」は冒頭のロサンゼルス夜景の空撮シーン、背後から射殺されるストリッパー、芸者のパレードなど「ブレードランナー」そっくりのシーンが多いですね。
    怪力男シュトは「ブレードランナー」のデッカードを投げ飛ばすレオンと同じです。
    もしかすると宇宙奴隷レプリカントは、勤勉な日系移民のイメージなのかもしれません。

    YuTubeに「Crimson Kimono」ありました。
    https://youtu.be/CvMXgMw6mFg

  6. 居ながらシネマ より:

    貴重なお話ありがとうございます。幸若というお名前は結構珍しいと思いますので逆にこれで間違いなしのような気がします。少なくとも孔雀はないですよね……
    映画のその部分を見返してみましたが、なんちゃってセットでは
    「場工トンメセクザコ」
    「場工トンメセクヤジコ」
    とカタカナ表記でしかも統一されていませんね……

    『ブレードランナー』との共通点もありがとうございます。夜景の空撮も確かに似ていますね。全然気づいていませんでした。
    日本で撮影されたなんちゃって日本ものは拙サイトでだいぶ取り上げてきたつもりでしたが、海外でのみ撮影されたものはキリがないのでスルーしてきました。でも『東京暗黒街』同様、監督のマジさ加減といいますか、リスペクトの度合いがしっかり感じられましたので、いつか記事でとりあげてみたいと思います。
    ちょっと見返してみて、墓地の殉国碑のあたりでしんみりしてしまいました……。

    つまらないところで気になっているのは、その墓地の後、シュトさんがボディスラムかまして逃げようとした時、月桂冠のハッピを着た男性とぶつかって、おにぎりのようなものがバラバラと散らばるのですが、これ何でしょうね。

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