Great Caesar’s ghost!
A woman in the club!
作品メモ
ひとつ前のエントリー『トム・ジョーンズの華麗な冒険』の半ば、屋敷を追われ軍隊に合流したトムが行軍するロングショットで、兵士たちが歌っていたのがこちら。
いわゆるイギリスの愛国歌のひとつで、4つ前のエントリー『長距離ランナーの孤独』の「エルサレム」同様、BBCプロムスの最終夜、アルバート・ホールに詰めかけたイギリス人たちが、旗をふりふり大いに盛り上がって歌い上げる曲となっています。
そのBBCプロムス、新型コロナ禍の今年はどうなるのかと気になっていましたが、さすがにアルバート・ホールで人を集めての大合唱は無理。
でも演奏会そのものは開催して、放送やネットで楽しめるようになっているようです。
https://www.bbc.co.uk/events/e3pd2m
9月12日の夜8:00ということで、日本時間ではまさに今夜……といいますか、明日日曜の4:00から。
「ルール・ブリタニア」も当然のように演目に入っています。
例年のこういった↓光景は見られませんが、きっとかの国の人たちは、それぞれの場所でそれぞれの思いを込めて歌い上げることでしょう。
頑張れイギリス、頑張れ世界♪
2011年↓
2016年↓
前置きが長くなりましたが、この「ルール・ブリタニア」でまっさきに連想する映画は、個人的には『八十日間世界一周』となっています。
劇中何カ所かで流れますが、なによりラスト近くのあの名場面、お船ちゃんが大変なことになり万策尽きたかと思われる状況で、とうとう見えたイギリス本土へまっしぐらに向って行くという血湧き肉躍る瞬間を、オーケストラが高らかに奏でて、否が応にも盛り上がります。
あの終始冷静なフォッグ氏まで顔を崩しているのですから、どれほどの喜びなのか伝わってくるというものですね。
映画の中身は、今となってはいろいろ問題ありの描写も含まれているかもしれませんが、ヴィクター・ヤングの名曲とともに、ゆったりとこの世界にひたれれば、それで十分。クラシックな名画は永遠不滅だと改めて実感できる1本となっています。
スタッフ&キャスト
製作マイケル(マイク)・トッド。『オクラホマ!』に続く2本目の70mm(トッドAO)作品で、アカデミー賞受賞。「トッド」はマイク・トッドの名前から、AOはAmerican Optical Companyの社名から。
日本語版Wikipediaにマイケル・トッドの項目が無いのは、ちょっと意外でした。→ Mike ToddW
監督マイケル・アンダーソン。『1984』(未 ビデオスルー)を撮ったばかり。
音楽ヴィクター・ヤング。アカデミー賞受賞(没後)。
撮影ライオネル・リンドン。アカデミー賞受賞。
これだけでも楽しいエンドクレジットは、ソウル・バス。
出演は……
80日間で世界を一周することに2万ポンド賭けたイギリス紳士フィリアス・フォッグにデヴィッド・ニーヴン。
当日仕えはじめたばかりでいきなり世界旅行へ同行するハメになる従者パスパルトゥーにカンティンフラス(マリオ・モレノ)。
フォッグを強盗犯とにらんで世界の果てまで追い続けるフィックス刑事にロバート・ニュートン。
寡婦殉死させられるところをフォッグ一行に救われたアウダ姫にシャーリー・マクレーン。
いろいろな場面に著名人が出ていて、いわゆる「カメオ」はここから始まったとか。
大物はエンドクレジットで紹介されますが、それ以外も大勢いるので探してみるのも一興かも。
ちなみに、IMDbのfull castは、1303名並んでいました 😆
最長の部類に入るのでは? (エディタに流し込んで行数で確認)。
原作と翻訳
原作はもちろんジュール・ヴェルヌの傑作。今読み返しても古びていません。
設定は1872年で出版は1873年。
日本の描写が気になりますが、日本特有のしっぽのない猫についても触れられていて、ヴェルヌの調査力おそるべし。
邦訳も川島忠之助氏によるフランス語からの訳『新説八十日間世界一周』が、早くも1878-80に出ています。
本邦初の、フランス語原本からの翻訳本とのこと。
国会図書館のサイトでデジタル公開されていて、読むことができます。
たとえば、横浜に着くのはコマ番号119。
ただ猫のしっぽの件ははしょられています。
Kindleではこちら↓ Unlimitedで読むことができます。
ロケ地
IMDbでは、
例によって、IMDbのリストとウェブマップを頼りに画面とにらめっこでチェックしています。
間違えていたらごめんなさい。誤りのご指摘大歓迎です。
OP
オープニングクレジットがないのが特徴。
いきなり知らないおじさんが解説を始めます。
この人は、ジャーナリストのエドワード・ロスコー・マロー(Edward Roscoe Murrow)W。
ロケットはホントに打ち上げています。
いかにも興行師のトッドどん、きっと大画面でこれを見せて観客の度肝を抜いてみせたかったのでしょうね。
White Sands Missile Range, New Mexico, USA (prologue rocket launch)
時代は1872年
0:06
Rotten RowW, Hyde Park, London, England, UK (opening sequence)
行進
Wellington Barracks, Westminster, London, England, UK (parade: Scots guards)
- Google Maps(SV)
- 51.500153,-0.137689
ここが最初の「ルール・ブリタニア」ですね♪
改革クラブ前
0:07
The Reform Club, Pall Mall, St. James’s, London, England, UK
- Google Maps(SV)
- 51.506648,-0.133538
実在するクラブですが、映画に登場したのは同じPall Mall通り、一ブロック東側のこちら。
- Google Maps(SV)
- 51.507277,-0.131974
このショットはとても気になることが。
フォッグ氏に向かってカメラがぐ~~っと迫っていきますが、正面(カメラの背後)から強いライトかレフを当てていて、ドリーで撮っているカメラマンとカメラの影が建物の壁にす~~っと右から入ってきてしまっています。
ふつうならNGでしょうけど、結構大ざっぱ?
こちら↓の0:55頃からですので、ぜひご確認を。
パスパルトゥーの自転車
0:09
Upper Cheyne Row, Chelsea, London, England, UK (Cantinflas rides pennyfarthing bicycle)
Victoria Square, Westminster, London, England, UK (Cantinflas rides pennyfarthing bicycle)
- Google Maps(SV) 1カット目
- Google Maps(SV) 2カット目
- Google Maps(SV) 3カット目
その後乳母車の女性の周りをぐるぐる回ったのは、次の職業紹介所の近く。
職業紹介所
5 Lower Grosvenor Place, Westminster, London, England, UK (exteriors: Hesketh-Baggott’s office of employment)
- Google Maps(SV)
- 51.498119,-0.144571
パリ
いきなりパリへワープ。
高台
サクレクール
駅
北駅
Gare du Nord, Paris 10, Paris, France (arrival in Paris)
このアングル↓から入り、右へパンします。
こちら↓は以前milouさんにご提供いただいた画像です。
右へパンしたカメラはこちら↓を捉えます。
駅前
その後馬車はこちら↓を通過。
Rue de Rivoli, Paris 1, Paris, France (taxi-cab ride in Paris to Thomas Cook’s offices)
Rue de Castiglione, Paris 1, Paris, France (taxi-cab ride in Paris to Thomas Cook’s offices)
Place Vendôme, Paris 1, Paris, France (taxi-cab ride in Paris to Thomas Cook’s offices)
止めたところ。
トマス・クック旅行社という設定。
気球
気球での移動は、映画オリジナル。
原作では列車移動です。
出発
0:28
旅立ったのは、スタジオセット。
ここでパスパルトゥーはガス燈を消し忘れたことを告白。
原作では、「24時間で2シリング 日当より6ペンス多い」とあります。
眼下の景色
ピレネー越え
Alabama Hills, Lone Pine, California, USA (Balloon shot doubling as the Pyrenees)
スペイン
南仏マルセイユを目指していましたが、到着したのはなぜかスペイン。
闘牛
Chinchón, Madrid, Spain (bullfight)
- Google Maps(SV)
- 40.1401743,-3.4225975
パスパルトゥーの活躍で、タンジールの豪族アクメッドから快速艇を調達することに成功。
描写はありませんが、マルセイユまで快速艇、その後スエズへ移動。
スペインでの撮影は、マイケル・アンダーソンではなくジョン・ファローが担当(クレジットなし)。
スエズ
船着き場は明らかにセット。
ここで憎まれ役のフィックス刑事が登場します。
インド → 香港
船が到着したのは、ボンベイ(ムンバイ)という設定。
寺院
パスパルトゥーがやらかしてしまったところ。
原作での設定はピラジ寺院。
これはセットでしょうね。
ここでの事件はほぼ原作通り。
原作では後ほどこの事件が再度問題となりますが、映画では割愛。
駅
1:11
パスパルトゥーが追われて飛び乗るところ。
場所不明。
この先の列車移動は、IMDbのリストで該当するのはこのあたり↓ですが、詳細不明。
Sylhet, Bangladesh (train trip)
鉄橋
1:12
とても印象的な鉄道橋。
ゆったりと見せていますが、これも70mmを意識した撮り方と思われます。
パキスタンのこちら↓
1962年、西側に別の橋が架けられて鉄道はそちらを通ることになり、映画では鉄路だった橋は道路用になったとのこと。
奥に架かるのが、映画に登場した橋。
タイ
1:26
アウダ姫の一件の後、船(ラングーン号)で通過する街。
Bangkok, Thailand
ワット・プラ・ケオ(エメラルド寺院)のあたりでしょうか。
- Google Maps(SV)
- 13.748897,100.487290
香港
香港もセット撮影ですね。
意外と撮影隊は世界一周していません 🙄
日本
お楽しみの日本編。
大仏
1:44
フィックス刑事の陰謀でフォッグたちとはぐれてしまったパスパルトゥーがひとりでやってきます。
横浜という設定のはずですが、鎌倉の大仏さま(高徳院阿弥陀如来像)が銅鑼とともに登場。
まあこのくらいは仕方ないですかね……
- Google Maps(SV)
- 35.3166922,139.5357
その次のカットで、着物姿の女性から果物をもらいますが、これは大仏様に向かって右隣にある、高徳院の建物でしょうか。
神社
続く朱色の神社は、これはもう京都へワープしてこちら↓ですね。
平安神宮
大勢のエキストラを使った大々的なロケですが、着付けや髷などおかしくないので、京都の撮影所がしっかりと協力したものと思われます。
境内の中、「江夢渡土」とある謎の売店?から怪しくなってきますが(笑)、そこから先はセット撮影のサーカス小屋へうまく切替えていきます。
日本編終了とともに、INTERMISSION。
アメリカ編はあまり書くことがないので、以下ちゃちゃっと。
アメリカ
カーニー砦
ここで列車に乗り損ねますが、禍転じて福となす、実にご機嫌な移動方法がとられます。
同じ帆を使うのでも、原作では固い氷原をそりのように走らせますが、映画ではトロッコ改造型。
甲乙つけがたいですが、映画の方が結構実用性あるかもしれませんね。
ラスト
フォッグ氏は毎日欠かさず日数をつけていて今日は81日目であることは確か……いや、日付変更線を越えたから1日得して今日は80日目だと言っていますが、このあたりは原作、映画を通じて最大のツッコミどころでしょうか。
東へ進んだから1日得するということはなく、移動し続けたフォッグ氏たちもイギリスにとどまったクラブのメンバーも80日は80日……とまあこれは当然で、たとえば南中の回数をカウントしたということかもしれませんが、そもそも旅行日程を「何日目」で組んだら、少なくともアメリカに着いた時点で、「何日何時」発の列車の日付がおかしいことに気づくはず……
いや、それより几帳面なフォッグス氏が、最初に日程を組む時点で日付変更線に気づかないわけはなく……
……とか言うのは、野暮の極みですね。
今回久々に見返しましたが、ホントに楽しい映画でした。
ラストはちゃんと女性に関するポリコレにも意識を払っているのがまた良いですね(原作にはもちろんない描写)。
No woman has ever set foot in the club.
Why not?
Because that could spell the end of the British Empire.
ルール・ブリタニア!
資料
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なんちゃって日本
- 『OSS117/東京の切り札』 Atout coeur à Tokyo pour O.S.S. 117 (1966)
- 『カリフォルニア・ドールズ』 …All the Marbles (1981)
- 『ゴースト・イン・京都』 The House Where Evil Dwells (1982)
- 『サヨナラ』 Sayonara (1957)
- 『ザ・ヤクザ』 The Yakuza (1974)
- 『ジャパニーズ・ストーリー』 Japanese Story (2003)
- 『ティファニーで朝食を』 Breakfast at Tiffany’s (1961)
- 『トゥルーマン・ショー』 The Truman Show (1998)
- 『トコリの橋』 The Bridges at Toko-Ri (1954)
- 『ファイナル・カウントダウン』 The Final Countdown (1980)
- 『ファール・プレイ』 Foul Play (1978)
- 『ブラック・レイン』 Black Rain (1989)
- 『モリツリ/ 南太平洋爆破作戦』 Morituri (1965)
- 『人類SOS!』 The Day of the Triffids (1962)
- 『八十日間世界一周』 Around the World in 80 Days (1956)
- 『双頭の殺人鬼』 The Manster (1959)
- 『地球に落ちて来た男』 The Man Who Fell to Earth (1976)
- 『夕なぎ』 Boom (1968)
- 『昼下りの情事』 Love in the Afternoon (1957)
- 『東京ジョー』 Tokyo Joe (1949)
- 『東京ファイル212』 Tokyo File 212 (1951)
- 『東京暗黒街・竹の家』 House of Bamboo (1955)
- 『歩け走るな!』Walk Don’t Run (1966)
- 『追撃機』 The Hunters (1958)
更新履歴
- 2020/09/12 新規アップ
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